アーボソニック3Dの風荷重解析 強風で幹は折れないか、安全率の出し方と読み方を樹木医が解説

アーボソニック3D 風荷重 樹冠 写真 撮り方 樹高 離れて撮る 樹木医

アーボソニック3Dの風荷重解析は、幹の断面画像と樹冠の大きさ、風速から、強風のときに幹が折れないかを安全率で見積もる機能です。現地で集めるもの、ソフトでの入力、安全率と Layer Map の読み方、数字を読む前に確かめること、得られることを、この機器を使う樹木医が解説します。

アーボソニック3Dの診断というと、色の付いた断面画像を思い浮かべる方が多いと思います。けれども、断面のどこがどれだけ傷んでいるかが分かっても、それだけでは「次の台風で折れるのか」という問いには答えきれません。同じ大きさの空洞でも、樹高15mで枝を大きく広げた木と、樹冠を小さく整えた木とでは、幹にかかる力がまるで違うからです。

この記事では、アーボソニック3Dのソフトにある「Biomechanics」(バイオメカニクス)のページで行う風荷重の解析について、やり方と読み方、そしてこの解析で何が分かり、何が分からないのかを、メーカーの取扱説明書(2026年9月版。以下「説明書」)をもとに書きます。機器の測り方そのものはアーボソニック3Dの使い方と断面画像の見方に書きました。

先に答え

  • 安全率は、樹種の材の強さ(降伏強度)を、風によって幹に生じる最大の応力で割った値です。測った高さごとに出し、いちばん低い値がその木の安全率になります。
  • 入れるのは、樹種、樹冠の大きさ、樹高と傾き、風速(風のモデル)です。大きく効くものの一つが風速で、抗力の式では、風が樹冠を押す力は風速の2乗に比例します。
  • 150%を超えれば幹は安全とみなしうる、100%未満は安全でないとみなす、というのが説明書の区分です。
  • 前提は、外側の壁が健全な筒の形の幹であることです。割れた幹や口の開いた空洞、根返り(根元からの倒伏)には、この安全率は当てはまりません。
  • 空洞の割合を「強風で折れるか」に置き換えられること、弱い風向きが分かること、樹冠を軽くした場合と比べられることが、この解析で得られることです。

 

風荷重解析とは 断面画像から「強風で幹が折れないか」を見積もる

アーボソニック3D(多点式応力波速度測定器)は、幹に打ったセンサーの間を音が伝わる時間から、幹の断面画像(トモグラム)を作るファコップ社(ハンガリー)の機器で、当社も現場で使っています。パソコンのソフトの「Biomechanics」のページは、説明書によると、計算した断面画像から推定した曲げの応力で、強風のときの幹の破断の安全性を推定するものです(p.32)。

アーボソニック3D 風荷重 安全率 計算の流れ 樹冠 風速 樹種 曲げモーメント 最大応力 降伏強度

入れるものから安全率までの流れ(ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.32〜40 をもとに当社作成)

計算の流れは次のとおりです。

  1. 樹冠の大きさと高さ、風速、樹種の抗力係数から、風が樹冠を押す力(風荷重)と、その力がかかる高さを見積もる
  2. その力と高さから、測った高さ(レイヤー)の幹に生じる曲げモーメントを求める
  3. 断面画像で「荷重を支えられる」とされた材の形から、その断面に生じる最大応力を、5°ごとの全風向で計算する
  4. 樹種のデータベースにある降伏強度を最大応力で割り、安全率とする

幹の傾きと、測った高さより上の木の重さも入力や結果の欄にありますが、計算のどの段で使われるかは、説明書には書かれていません。

アーボソニック3D バイオメカニクス 安全率 風の力 樹冠 作用点の高さ 測った断面 曲げモーメント 降伏強度 最大応力 図解

風が樹冠を押す力と、その力がかかる高さから、測った断面に生じる曲げの力を求める。安全率は「材の強さ ÷ 断面に生じる最大の応力」(当社作成の図)

説明書には、応力の計算式は載っていません。考え方を一般的な力学で補うと、曲げの応力は「曲げモーメント ÷ 断面係数」で、断面係数は断面の形で決まります。中心から遠い材ほど曲げに強く効くので、同じ面積の腐朽でも、中心にあるか外側に寄っているかで応力は変わります。断面画像の形をそのまま計算に使うのが、この解析の特徴です。

説明書は、樹木への風荷重の見積もり方に業界共通の基準は今のところ無いこと、ソフトの2つの風のモデルはどちらも、木を「風を受ける、すき間のある平らな板」として扱っていることも書いています(p.32)。抗力係数(風の受けやすさ)と降伏強度は、3,000種を超える樹種のデータベースから自動で入ります(p.13・38)。樹種を選び間違えると、安全率がそのまま変わってしまうので、学名で確かめてから選ぶ必要があります。

 

現地で集めるもの

風荷重の解析は、いつもの断面の測定に、木全体の情報を足して行います。現地で集めるものは次のとおりです。

集めるもの 内容と注意 説明書
測る高さ(レイヤー) 安全率は測った高さでしか出ない、外観で最も弱そうな高さ(キノコ・傷・見える腐朽)を必ず測る p.5・32
断面の測定 いつもどおり、センサーは健全な材に、同じ平面に一周、繊維に直角に打つ(傾いた木では平面も傾ける) p.5
樹種 抗力係数と降伏強度がここから決まる p.13
樹高・樹冠の幅と高さ・枝下高 寸法で樹冠を入れるときに使う、写真で描くときも、基準の長さに樹高を勧めている p.34・36
木全体の写真 樹高以上離れて、木の全体が入るように撮る p.35
傾きの角度と方位 90°が完全に垂直、方位は北を0°とし、時計回り(東が90°) p.37
周りの状況 孤立しているか、建物や並木に守られているか、ビルの間の風の通り道か p.33・39
アーボソニック3D 風荷重 樹冠 写真 撮り方 樹高 離れて撮る 樹木医

樹冠を写真で入れるときは、樹高以上離れて、木の全体が入るように撮る(イラストは当社作成)

写真の撮り方には注意があります。遠近のゆがみを避けるため、樹高以上離れて撮ること、木の全体を入れること、樹冠の面積が最も大きく見える方向から撮ること、できれば傾きがよく分かる方向から撮ることです。樹冠の広がりと傾きが同じ方向から見えないときは、面積が最大に見える写真を優先し、傾きは数字で入れます。落葉している季節は、葉のある樹冠の形を推定して描くよう、説明書は書いています(p.35)。

 

ソフトでの入力 風のモデル、樹冠、傾き

風のモデルを選ぶ Uniform と EN1991

風のモデルは2つあります(p.32〜33・39)。

項目 Uniform EN1991
考え方 木のどの高さでも風荷重が同じ、抗力の式に基づく 欧州規格 EN 1991-1-4(ユーロコード1)の構造物の風荷重の計算を樹木に当てはめたもの
入れる値 Wind velocity(その地域で予想される最も強い風速) Terrain(地表面の区分)、Base wind velocity(基本風速)、Dry air temp.(乾いた空気の温度)
周りの環境 考えない(孤立して風を全部受ける木として計算) 地表面の区分で考える
樹冠の入れ方 Manual・Calculator・Drawn Calculator・Drawn

Uniform の風速には、過去50年の気象データでその地域の最も強い風を入れるよう求めています。最悪の場合の見積もりに使う値で、典型的な値は33m/s(時速75マイル)、海岸や山地では45m/sのように、さらに高いこともある、としています。

EN1991 の基本風速は、木が受ける最大瞬間風速ではない、と説明書は赤字で注意しています。規格の国ごとの附属書(National Annex)で決まる地域の値です。乾いた空気の温度はふつう9℃で、風荷重への影響はごく小さいとされています(p.32)。

EN1991 地表面の区分 0 I II III IV 海岸 湖 草地 郊外 都市 風荷重 アーボソニック3D

EN1991 の地表面の区分。区分の文は ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.33 の表を当社が訳した(イラストは当社作成)

区分 地表面(説明書 p.33 の要約)
0 外海に面した海・海岸
I 湖、または植生がわずかで障害物の無い平らな土地
II 草地など低い植生と、高さの20倍以上離れて点在する障害物(木・建物)
III 植生や建物が一様に覆う、または障害物の間隔が高さの20倍以下(村・郊外・森林)
IV 地表の15%以上が建物で、建物の平均の高さが15mを超える

樹冠を入れる3つの方法

計算には、風を受ける樹冠の大きさが要ります。説明書は、樹冠の本当の大きさを測る簡単な道具は無いとしたうえで、3つの入れ方を用意しています(p.34〜36)。

方法 入れるもの 向き・不向き
Manual(手入力) 風を受ける樹冠の面積、頂部の高さ、樹冠の重心の高さ、樹冠の下端の高さ Uniform だけで使える
Calculator(寸法から計算) 樹冠の幅と高さ、形(楕円・三角形・長方形・任意の係数) 手軽、不規則な樹冠には向かない
Drawn(写真に描く) 写真の上に樹冠の輪郭、基準の長さ、傾きの線を描く 不規則な樹冠に強い
アーボソニック3D Calculator 樹冠 面積 形の係数 楕円 三角形 長方形 風荷重

Calculator では、樹冠の幅×高さに形の係数を掛けて、風を受ける面積を出す(ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.34 をもとに当社作成)

Drawn では、写真の上に3種類の線を描きます。赤い線で樹冠だけを囲み(細かく描いても評価は良くならない、と説明書は書いています)、青い線で基準の長さを示し(樹高を勧めています)、黄色の線で傾きを示します。黄色の線は、1点目を幹の根元、2点目を樹冠の重心の方向、3点目を根元から水平の方向に置きます。線をすべて描かないと、安全率は出ません(p.35〜36)。

アーボソニック3D バイオメカニクス 安全率 樹冠 風荷重 写真 輪郭 傾き

樹木全体の写真に、樹冠の範囲・基準の高さ・幹の傾きを書き込み、風の力を見積もる(イラストは当社作成)

傾きと方位

幹の傾きは、Drawn では黄色の線から自動で入り、チェックを外せば数字で入れられます。90°が完全に垂直で、傾く方位は北から時計回りの角度(北が0°、東が90°)で入れます(p.37)。

 

結果の読み方 安全率と Layer Map

安全率の区分

アーボソニック3D 安全率 区分 150% 100% 50% リスク評価 Extreme High Moderate Low

安全率の区分と、ソフトが数字を表示する色(ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.39 をもとに当社作成)

安全率 リスク評価(ソフトの表示) 説明書の読み方
150%超 Low Risk(低い) 過大評価の分として50%の余裕を見込んでも、幹は安全とみなしうる(緑の文字)
100〜150% Moderate Risk(中程度) 幹の健全さがはっきりしない(黄の文字)
50〜100% High Risk(高い) 幹は安全でないとみなす(赤の文字)
50%未満 Extreme Risk(極めて高い) 同上

画面の左下に出る安全率は、測った高さの中でいちばん低い値です。100%は、推定した応力が材の耐えられる限界とちょうど同じになる、という意味です(p.39)。2026年9月版では、判定の文の主語が「木」(旧版 p.31)から「幹」に変わりました。根元から倒れる根返りの危険は、この数字には入っていません。

結果に並ぶ数字

欄 意味
Wind load(風荷重) 樹冠に働く風の力
Weighted center height 風の力がかかる点の推定の高さ、Uniform では樹冠の重心の高さと同じ、EN1991 では樹冠の形から推定
Drag factor・Yield strength 抗力係数と降伏強度、どちらも樹種のデータベースから
Decayed area その高さの断面で、腐朽と推定した範囲が占める割合
Avg. T/R 健全な壁の厚さと幹の半径の比の平均、安全率の計算には使っていない参考値
Tree weight above layer その高さより上の木の推定の重さ
M その高さで風によって生じる曲げモーメント
Max stress その高さで風によって幹に生じる最大の応力

表は説明書 p.37〜39 をもとにまとめました。Avg. T/R は「1 − √(腐朽の面積 ÷ 断面の面積)」で計算され、0.3 を超えれば安全とする研究者もいる、と説明書は紹介していますが、安全率の計算には使われていません(p.38)。

Layer Map で弱い方向を見る

アーボソニック3D Layer Map 応力 風向 弱い方向 空洞 位置 安全率 模式図

同じ大きさの空洞でも、外側に寄ると弱い方向がはっきり出る(単純化した当社の計算の模式図。見方は ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.40 による)

Layer Map は、測った高さの断面の上に、荷重を支えられる材と、風向ごとの応力を重ねて見せる画面です。音の速さが速度範囲の中間点より遅い所は透明で、荷重を支える力を失った材とみなされます。青い所が、荷重を支えられる材です。応力は5°ごとの全風向で計算され、赤い輪郭で示されます。輪郭が中心に近い向きほど、その向きの風で生じる応力は小さく、中心から縁へ引かれた赤い線が、応力が最も大きい、つまり最も弱い方向です。安全率はこの方向で見積もられています(p.40)。

上の図は、同じ大きさの空洞を中心に置いた断面と、外側に寄せた断面で、当社が単純化して計算した模式図です。空洞が中心にあると、どの向きの風にもほぼ同じように耐えますが、外側に寄ると、薄くなった壁の側から曲げられる向きで応力が大きくなります。断面画像の空洞の割合が同じでも、安全率が違ってくる理由のひとつです。

 

分析の仕方 数字を読む前に確かめる5つのこと

ソフトは、入力がそろえば安全率を出します。けれども、その数字が現場の木に当てはまるかどうかは、ソフトには分かりません。数字を読む前に確かめたいことを、5つにまとめました。

1. 幹が筒の形を保っているか

アーボソニック3D 安全率 前提 筒形の幹 開口空洞 亀裂 割れた幹 当てはまらない

安全率の計算は、外側の壁が健全な筒の形の幹を前提にしている。口の開いた空洞や割れた幹には当てはまらない(ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.39 をもとにしたイラスト。当社作成)

説明書は、モデルが外側の壁が健全な筒の形の幹を前提にしていて、割れた幹や開口した幹には、得られた安全率は当てはまらない、と書いています(p.39)。旧版(v6.5)では、筒の形の幹が割れていると安全率が過大に出て、極めて危険な場合や伐採が必要な場合もある、とさらに強く書かれていました(旧版 p.31)。

断面画像そのものの癖も確かめます。断面画像は音の速さの地図で、亀裂は腐朽と区別できず、実際より大きな「音の影」になることがあります(Wang ほか 2007、Allison ほか 2020)。輪状の割れ(目回り)や入り皮でも速さは下がります(説明書 p.25)。空洞の形によって腐朽の割合が大きく出たり小さく出たりすることも、ケヤキ材の人工空洞の実験で確かめられています(二階堂ほか 2020)。外観診断で口の開いた空洞や縦の亀裂が見つかった木では、安全率の数字を判断の根拠にはできません。

2. 風の条件が、その木の立つ場所に合っているか

アーボソニック3D 安全率 Uniform 孤立木 建物 並木 ビル風 風の通り道 風荷重

Uniform は孤立木として計算するので、守られた木では安全率が低めに、風の通り道では高めに出ることがある(ArborSonic 3D Manual 2026年9月版 p.39 をもとにしたイラスト。当社作成)

Uniform のモデルは、木が孤立して立ち、風を全部受けるとして計算します。並木の中の木や建物の近くの木、公園の中の木のように風から守られている木では、実際の安全性より低い安全率が出ます。反対に、ビルの間の風の通り道のような場所に立つ木では、モデルがそれを考えないので、安全率が高めに出ることがあります。EN1991 のモデルは、地表面の区分で周りの環境を計算に入れます(p.39)。

旧版には、Uniform は樹高20m未満の木で風荷重を高め、安全率を低めに出しやすいこと、経験上、Uniform の安全率は地表面「Village」(集落)で計算した値に近いことも書かれていました(旧版 p.25・30。2026年9月版では削られています)。2026年9月版では削られた記述なので、今のソフトにも当てはまるかは、メーカーに確かめる必要があります。

3. 風速を変えると、数字はどれだけ動くか

アーボソニック3D 風速 安全率 33m/s 45m/s 風荷重 風速の2乗 グラフ

33m/s で安全率200% の幹を仮に置いた説明のための例。抗力の式では、風荷重は風速の2乗に比例する(当社の計算)

説明書に式は載っていませんが、Uniform のもとになる一般的な抗力の式では、風が樹冠を押す力は風速の2乗に比例します。この式で計算すると、風速を33m/sから45m/sにすると、力は約1.86倍になります。風による応力だけを考えれば、安全率は元の約54%に下がります。33m/sで200%と出た幹が、45m/sでは約108%になる計算です。入れる風速しだいで、安全率は大きく動きます。

安全率をひとつの数字だけで受け取らず、2つの風のモデル、あるいはいくつかの風速で計算して幅で見ると、読み違えにくくなります。報告書には、使ったモデル、風速、地表面の区分、樹冠の入れ方を書き残す必要があります。入力の条件が書かれていない安全率は、あとから誰も確かめられないからです。

4. 腐朽の割合や Avg. T/R と突き合わせる

腐朽 面積割合 t/R 0.3 曲げ 断面の強さ 空洞 計算 グラフ

腐朽の面積割合と、曲げに対する断面の強さ。t/R=0.3 で面積は約49%、強さは計算上約4分の3が残る(単純化した模型。当社の計算)

腐朽の割合(Decayed area)やソフトの Avg. T/R は、断面だけを見た数字で、木の大きさや風は入っていません。なお、ソフトの Avg. T/R は腐朽の面積から換算した値で、レジで方向ごとの健全な材の厚さから出す t/R とは求め方が違います。安全率は、そこに樹冠の大きさ、高さ、傾き、樹種の強さ、腐朽の位置を足した数字です。そのため、腐朽の割合は小さいのに安全率が低い木(樹冠が大きく高い、傾いている、腐朽が外側に寄っている)や、腐朽の割合は大きいのに安全率が高い木(樹冠が小さい)が出てきます。この食い違いは誤りではなく、解析から得られる情報です。その理由を、樹冠の入力と Layer Map で説明できるかを確かめておきたいところです。

断面画像で空洞の割合が大きい木や、判断が分かれる木では、レジ(Resi PD)(貫入抵抗測定器)で異常な部分の材を確かめると、残っている材の厚さを数字で示せます。二階堂ほか(2020)も、非破壊の機器で空洞の割合が25%以上と出たら、異常な部分をレジで確かめる使い方を提案しています。

5. 弱い方向を、現場の向きに重ねる

Layer Map の最も弱い方向を、幹の傾きの方位、台風のときに強い風が来る方向、そして倒れた先にあるもの(車道、歩道、建物、駐車場)と重ねてみます。弱い方向が車道を向いているのか、植え込みを向いているのかで、同じ安全率でも急ぐ度合いは変わります。

そのうえで、最終的な判断は、外観診断、根元と根の様子、ほかの機器の結果、立っている場所と合わせて出すものです。説明書も、ソフトはリスクを大きめに見積もろうとしているが、安全率のモデルには単純化と誤差の幅があること、この機器は評価のただ一つの根拠にはできず、経験と訓練に基づく判断と合わせて使う道具であることを、冒頭と同じ章の警告で念を押しています(p.1・39〜40)。

 

日本で使うときの、風の値の考え方

説明書の風の基準はヨーロッパのもので、日本向けの値は示されていません。日本で入れる値は、使う側が根拠を持って決める必要があります。確かめる先と注意を表にまとめました。

入れる値 説明書の書き方 日本で確かめる先と注意
Uniform の風速 過去50年の気象データで、その地域の最も強い風(典型は33m/s) 気象庁「過去の気象データ検索」で、最寄りの観測所の最大瞬間風速の記録を確かめる(記録の期間は観測所によって違うので、期間も合わせて確かめる)
EN1991 の基本風速 国の附属書で決まる地域の値、最大瞬間風速ではない 日本に EN1991 の附属書は無い、建物の設計では、建築基準法施行令 第87条の基準風速 V0(30〜46m/s の範囲で地方ごとに定める)が使われる、当てるなら、平均をとる時間や高さなどの定義を突き合わせてから
EN1991 の地表面の区分 0〜IV(上の表) 建築基準法の地表面粗度区分(I〜IV)とは区分の決め方が違う、説明書の定義(建物の割合と高さ、障害物の間隔)で現場ごとに選ぶ

基準風速 V0 は、建築基準法施行令の第87条で「その地方における過去の台風の記録に基づく風害の程度その他の風の性状に応じて」30m/sから46m/sの範囲で国が定める風速とされています。たとえば東京都町田市は、市の資料で34m/sと示しています。どの値を入れたかで安全率が大きく変わることは、上の図のとおりです。

 

風荷重解析で得られること

  1. 腐朽の量を「折れやすさ」に置き換えられる: 空洞の割合や T/R は断面だけの数字ですが、安全率は樹高、樹冠の大きさ、傾き、樹種の強さ、腐朽の位置まで含めて、強風でその幹がもつかを一つの数字にします。同じ空洞の割合でも木によって危なさが違うことを、数字で説明できます。
  2. 弱い方向が分かる: 5°ごとの全風向で応力を出すので、どちらからの風に弱いかが図で分かります。剪定する枝の方向、ケーブリングや支柱の向き、倒れた先の確認に使えます。
  3. 樹冠を軽くした場合と比べられる: 樹冠の面積や高さを、剪定したあとの想定に入れ替えて計算し直すと、樹冠を小さくすることで安全率がどこまで上がるかを見積もれます。伐るか、樹冠を軽くして残すかを考える材料になります。
  4. 年ごとの変化を追える: 同じ高さを、同じ入力の条件で数年ごとに測り直せば、安全率の変化を比べられます。ソフトの版によって初期の設定が変わることがあるので、版と入力の条件を記録しておきます。
  5. 管理する方に説明しやすい: 区分と Layer Map の図で、管理組合の理事会や自治体の担当の方とも、判断の理由を共有しやすくなります。
アーボソニック3D 安全率 樹冠縮小 剪定 計算し直す 風荷重 同じ幹 比較

同じ幹でも、樹冠を小さくすると風荷重とその高さが下がり、安全率は上がる。ソフトでは樹冠の入力を入れ替えて計算し直せる(イラストは当社作成)

研究でも、この安全率は使われています。スロバキアの13地点で木材腐朽菌に侵された74本を調べた研究では、アーボソニック3Dで測り、そのソフトで安全率を計算しています。その結論は、キノコ(子実体)が出ているかどうかだけでなく、一本ごとに安全率を計算することが安定性の評価に大事だ、というものでした(Kobza ほか 2022)。

限界も一緒に伝える

根返り 幹折れ 倒木 風 樹木 壊れ方 図解

木の壊れ方は、根元から倒れる「根返り」と、幹が折れる「幹折れ」に分かれる。アーボソニック3Dの安全率が扱うのは幹折れ(イラストは当社作成)

  • 扱うのは幹折れだけです。根元から倒れる根返りの危険は評価しません。根の支えを調べるには、静的負荷試験(引張り試験)のような別の方法があります。
  • 測った高さの断面しか使いません。測っていない高さに弱点があれば、数字には出ません。
  • 割れた幹、口の開いた空洞には当てはまりません。
  • 入れた風速、樹冠、樹種、そして断面画像の確かさに、結果が大きく左右されます。

 

当社の考え方

断面画像は音の速さの地図で、安全率は前提つきの計算です。どちらも判断の材料であって、答えそのものではありません。私たちは安全率を、外観診断と、必要ならレジの結果と並べて読む参考値として扱っています。

そのうえで、風荷重の解析には、断面画像だけでは言えないことを言える強みがあります。空洞が見つかったとき、「危ないから伐る」に直行せず、樹冠をどこまで軽くすれば幹にかかる力をどれだけ減らせるかを、数字を添えて考えられることです。安全を確保することと、木を残す努力をすることの両方を、根拠を示しながら検討できる道具だと考えています。

当社の樹木診断では、診断の結果を、剪定や支柱などの処置、その後の経過観察まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。台風の前に大きな木の状態を確かめておきたい管理者の方は、お問い合わせページからご相談ください。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. アーボソニック3Dの安全率とは何ですか?

A. 樹種の材の強さ(降伏強度)を、強風のときに測った高さの幹に生じる最大の応力で割った値です。風が樹冠を押す力と、その力がかかる高さ、断面画像で荷重を支えられるとされた材の形から計算します。測った高さごとに出し、いちばん低い値がその木の安全率になります。

Q2. 安全率は何%なら安全ですか?

A. 取扱説明書は、150%を超えれば過大評価の分として50%の余裕を見込んでも幹は安全とみなしうる、100〜150%は幹の健全さがはっきりしない、100%未満は安全でないとみなす、としています。判定の対象は幹で、根返りの危険は含まれません。

Q3. 風速はいくつを入れればよいですか?

A. Uniform のモデルでは、過去50年の気象データでその地域の最も強い風を入れるよう取扱説明書は求めており、典型的な値を33m/s、海岸や山地では45m/sのようにさらに高いこともある、としています。風が樹冠を押す力は風速の2乗に比例するので、入れた風速と根拠を報告書に書き残す必要があります。

Q4. Uniform と EN1991 は、どう違いますか?

A. Uniform は、木のどの高さでも風荷重を同じとして、孤立して風を全部受ける木として計算します。EN1991 は、欧州の構造物の風荷重の規格を樹木に当てはめたもので、地表面の区分で周りの環境を計算に入れます。Uniform では、建物や並木に守られた木の安全率は低めに、風の通り道の木では高めに出ることがあります。

Q5. 空洞の割合が小さいのに、安全率が低く出るのはなぜですか?

A. 安全率には、断面の傷みに加えて、樹冠の大きさと高さ、傾き、樹種の強さ、腐朽の位置が入っているからです。樹冠が大きく高い木や、腐朽が外側に寄って壁が薄くなった木では、空洞の割合が小さくても安全率が低くなることがあります。

Q6. 割れた幹や口の開いた空洞でも、安全率は使えますか?

A. 使えません。取扱説明書は、モデルが外側の壁が健全な筒の形の幹を前提にしていて、割れた幹や開口した幹には得られた安全率は当てはまらない、としています。こうした木は、外観診断とほかの方法で判断します。

Q7. 根返りの危険も分かりますか?

A. 分かりません。アーボソニック3Dの安全率は、測った高さの幹が折れるかどうかの見積もりで、根系は計算に入っていません。根元から倒れる危険を調べるには、静的負荷試験(引張り試験)のような別の方法を使います。

 

出典・参考情報

Fakopp Kft.「ArborSonic 3D Manual」2026年9月7日版(p.1・5・13・25・32〜40)。旧版の記述は Fakopp Enterprise「ArborSonic 3D User’s Manual」v6.5(2020年)p.25・30・31。

Kobza, M., Ostrovský, R., Adamčíková, K., Pastirčáková, K. (2022) Stability of trees infected by wood decay fungi estimated by acoustic tomography: a field survey. Trees 36:103–112. https://doi.org/10.1007/s00468-021-02185-w

二階堂由紀・樋口裕仁・秋元信二・細野哲央(2020)ケヤキ材人工空洞に対する4種の腐朽診断機器の検出誤差. 樹木医学研究 24(4):195–203. https://doi.org/10.18938/treeforesthealth.24.4_195

Wang, X., Allison, R.B., Wang, L., Ross, R.J. (2007) Acoustic tomography for decay detection in red oak trees. USDA Forest Service, FPL-RP-642. https://doi.org/10.2737/fpl-rp-642 / Allison, R.B., Wang, X., Senalik, C.A. (2020) Methods for Nondestructive Testing of Urban Trees. Forests 11(12):1341. https://doi.org/10.3390/f11121341

建築基準法施行令 第87条(風圧力)。e-Gov 法令検索(2026年10月16日閲覧)。町田市「建築基準法の取扱い基準」のうち「地表面粗度区分・基準風速について」(2026年10月16日閲覧)。気象庁「過去の気象データ検索」。

記事中のイラストと図は、株式会社トシ・ランドスケープが作成しました。絵と模式図は説明のための簡略化で、図の数値の例は計算の考え方を示すためのものです。

関連記事

アーボソニック3Dとは 音で幹の断面を診る樹木診断機器

アーボソニック3Dの使い方と断面画像の見方

アーボソニックの腐朽診断カルテの読み方

ツリーキネティック 静的負荷試験の仕組みと考え方

都市樹木のリスク評価の研修から考える、樹木診断のこれから

※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

人気の記事
最新の記事
おすすめ記事
  1. 登録されている記事はございません。
  1. アーボソニック3D 風荷重 樹冠 写真 撮り方 樹高 離れて撮る 樹木医

    アーボソニック3Dの風荷重解析 強風で幹は折れないか、安全率の出し方と読み方を樹木医が解説

  2. クレーン 伐採 ブーム 建物 高木 特殊伐採 樹木医

    クレーンと高所作業車を使う伐採──ロープワークとの分担、運転と玉掛けの資格、建物越しの作業を樹木医が解説|高木・特殊伐採とケーブリング 第4回

  3. ファコップ Fakopp アーボソニック3D 樹木診断機器 メーカー ハンガリー ショプロン 樹木医

    ファコップ社とは──アーボソニック3Dをつくるハンガリー・ショプロンの樹木診断機器メーカーと、製品の全体像を樹木医が解説

  4. マンション 植栽 コンサルティング 流れ 管理組合 理事会 樹木医 中庭 ケヤキ

    マンションの植栽コンサルティングは、どう進むのか──管理組合と樹木医が歩く8つの段階と、3つの入口

  5. 巨木 御神木 大径木 樹木診断 樹木医

    日本人は子どものころから御神木に特別な思いを持っているのか 御神木・霊木と日本人の関係、歴史、文化を樹木医がたどる

  6. ハーネス 各部の名前 ウエストベルト レッグループ アタッチメントブリッジ リング サイドD環 ギアループ アーボリスト イラスト

    ハーネス ― 各部の名前と役割|アーボリストの基礎 第4回

  7. 3級造園技能士 実技試験 竹垣 縁石 敷石 植栽 模式図

    3級造園技能士の試験 竹垣・縁石・敷石の実技と樹種判定60種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  8. 2級造園技能士 実技試験 四つ目垣 縁石 飛石 敷石 築山 模式図

    2級造園技能士の試験 四つ目垣・縁石・築山の実技と樹種判定115種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  9. 1級造園技能士 実技試験 竹垣 蹲踞 延段 施工図 模式図

    1級造園技能士の試験 竹垣・蹲踞・延段の実技と樹種判定161種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  10. 造園施工管理技士 1級 2級 試験 造園工事 施工管理 樹木医

    造園施工管理技士とは 1級・2級の試験と合格率、取得のメリットを造園会社の樹木医が解説

  1. 登録されている記事はございません。

関連記事