ナラ枯れで枯れた木は、紅葉が始まると周りの木と見分けにくくなります。北海道は10月30日までを重点調査期間として情報提供を呼びかけ、国は令和9年度の森林病害虫等防除費を約2.3倍で要求しました。最新の動きと、来年に向けた予防の段取りを樹木医が整理します。
月に1回お届けしているナラ枯れのニュース、今回は第3回です。第1回では令和7年度の被害量(21.2万m3)を、第2回ではくん蒸剤NCSの登録失効と、秋から冬の被害木の処理を取り上げました。今回は、被害木を「いつ、どうやって見つけるか」と、春からの予防を冬のうちにどう組み立てるかを中心にまとめます。
今月の要点
- 北海道は、令和8年10月1日から30日までを「ナラ枯れ被害重点調査期間」とし、疑わしい木の情報提供を呼びかけています。
- 農林水産省の令和9年度概算要求で、森林病害虫等防除費は約5.75億円から約13.03億円(約2.3倍)に増えました。ナラ枯れの分の額は示されていません。
- 森林総研の予測モデルと千葉県の研究で、カシノナガキクイムシが出てくる日と、予防の適期を前もって見積もれるようになっています。
- 殺菌剤の樹幹注入でナラ類に登録があるのは2剤で、使用時期は「着葉期、但し紅葉始期まで」です。
- ドローンでの調査は、緑の葉の時期なら被害木を捉えられ、紅葉期には見分けられなかったという報告があります。
最新情報──北海道の重点調査と、国の概算要求
北海道は10月30日まで重点調査期間
北海道では、令和5年に初めてナラ枯れの被害が確認されました。函館市が10月7日に載せたお知らせによると、北海道は令和8年10月1日から30日までを「ナラ枯れ被害重点調査期間」とし、ナラ枯れが疑われる木の情報を求めています。目印として挙げているのは、幹に直径1.5〜2.0mmほどの小さな穴が多数あいていること、根元に木くずと虫のふんが混ざったフラスがたまっていること、8〜9月ごろに葉が赤褐色に変わって枯れていることの3つです。対象の樹種はミズナラ・コナラ・アカナラ・カシワ・クリで、ブナ類は被害を受けないとされています。
本州の北の端でも動きが続いています。青森県のまとめでは、令和7年シーズンの被害は118,925本(民有林55,640本、国有林63,285本)で、前のシーズンの約1.9倍でした。新たに8市町村で確認され、被害の出た市町村は30になっています。東奥日報(2026年10月18日)は、下北地方の国有林の被害が2025年度に前年度の10倍以上に増え、住民から不安の声が出ていると伝えています。東京都青梅市も10月15日、青梅の森と公園・緑地でナラ枯れの被害木の伐採を随時進めているとして、散策する人に注意を呼びかけました。
被害量の確定値と、これから出る数字
林野庁の都道府県別の表で、令和6年度から令和7年度への増減を並べました。増えたのは青森県(+27.6千m3)が飛び抜けて大きく、秋田県・岩手県・群馬県が続きます。一方で、福島県・栃木県・広島県・岡山県などは減っています。東京都は3.7千m3から2.3千m3、神奈川県は1.1千m3から0.3千m3に減りました。

林野庁は、ナラ枯れが7〜8月ごろに急に枯れ、11月以降に枯れることが少ないことから、10月末までの被害を調べて「速報値」として年末に公表しています。令和7年度は12月24日に速報値が載り(翌日に一部を修正)、9月30日に確定値へ差し替わりました。全国の合計は、速報値の203.7千m3から、確定値では212.3千m3になっています。令和8年度の速報値も、例年どおりなら12月ごろに出ます。林野庁は令和7年度のデータを10月に統計(e-Stat)へ載せる予定としていますが、10月20日の時点ではまだ載っていません。
国の森林病害虫等防除費は約2.3倍の要求
農林水産省の令和9年度概算要求書(2026年8月)によると、森林病害虫等防除費は、令和8年度予算の575,296千円から、1,303,460千円に増えています。内訳を見ると、補助金のうち松くい虫防除事業費が210,264千円から525,240千円へと大きく増え、森林害虫駆除事業委託費も179,979千円から512,538千円になりました。「政令指定病害虫等防除費(他害虫)」は122,701千円から173,703千円です。この資料にはナラ枯れの分の額が書かれておらず、委託費の使い道も示されていません。ナラ枯れの対策にどれだけ回るかは、年末の政府案と各地の事業の動きを見ていく必要があります。

最新の防除の知見──予測、樹幹注入、おとり丸太、空からの探索
カシナガが出てくる日を前もって見積もる
予防の多くは、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が木から出てきて飛び回る前に済ませておく必要があります。森林総合研究所は、関東地方の延べ103地点(2021〜2024年)の調査から、カシナガが初めて出てくる日(初発日)を予測するモデルを公開しています。3月、または3〜4月の気温などを入れると予測日が出る仕組みで、予測より20日ほど早く出ることもあるため、予測日の20日前を目安に対策をとるよう勧めています。
千葉県農林総合研究センター森林研究所の研究(2026年3月公表)は、カシナガの発育が始まる温度を9.0℃、出てくるまでに必要な有効積算温度を471日℃と求めました。過去10年の気象で予測すると、千葉県での初発生はどの年も5月中旬〜6月上旬で、薬剤散布(スミパイン乳剤)の適期は4月下旬〜5月中旬、市販のノズル式殺虫剤(園芸用キンチョールE)の適期は5月中旬〜6月上旬としています。時期は地域で変わります。薬剤を使うときは、最新のラベルと農薬登録情報で、適用と使い方を確かめる必要があります。
予防の手段と時期を、登録と資料の言葉で一覧にしました。
| 手段 | 時期の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 殺菌剤の樹幹注入(ウッドキングSP・微量注入用ウッドキングDASH) | 着葉期、但し紅葉始期まで(なら類) | 農薬登録情報提供システム |
| 薬剤散布(スミパイン乳剤) | 4月下旬〜5月中旬(千葉県での適期) | 千葉県の研究(2026年3月) |
| ノズル式殺虫剤(園芸用キンチョールE) | 5月中旬〜6月上旬(千葉県での適期) | 千葉県の研究(2026年3月) |
| 集合フェロモン剤による誘引(カシナガコール) | 春季〜夏季 | 農薬登録情報提供システム |
| おとり丸太の伐採・集積 | 脱出のピークの前に伐採し、秋(10月)以降に搬出・破砕 | 新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル p.43 |
出典: 農林水産省「農薬登録情報提供システム」(2026年10月20日に確認)、福原(2026)、日本森林技術協会「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」。使うときは、最新のラベルと登録情報で確かめる必要があります。
殺菌剤の樹幹注入──登録は2剤、時期は紅葉の始まりまで
樹幹注入は、カシナガが入る前に殺菌剤を幹に入れておき、カシナガが入っても材の中でナラ菌が増えるのを防ぐ方法です(森林総研関西支所「ナラ枯れの被害をどう減らすか」2012年)。農薬登録情報提供システムで調べると、なら類の萎凋病(ナラ枯れ)に樹幹注入で登録があるのは、トリホリン乳剤の「ウッドキングSP」(登録番号22373)と「微量注入用ウッドキングDASH」(同23301)の2剤です。どちらも使用時期は「着葉期、但し紅葉始期まで」で、量は胸高直径ごとに決められています。以前使われていた「ケルスケット」は、平成29年9月20日に登録が失効しています。

東京神奈川森林管理署が高尾山で行った例(2023年の発表)では、地際から20cmほどの高さにドリルで穴をあけ、専用の注入器で注入しています。施工した261本のうち、令和2年9月の調査で被害を受けていたのは5本で、そのうち1本は葉が全部枯れていました。なお、令和8年3月の新版マニュアルには、殺菌剤の樹幹注入の記述はありません。

おとり丸太──効果の範囲と、使ってはいけない場所
新版マニュアルは、被害が広い範囲に広がった地域の対策として「おとり丸太集積法」を挙げています。健全なナラ類を脱出のピークの前に伐って1〜2mほどに玉切りし、井桁積みなどにして寒冷紗をかけ、誘引剤を付けてカシナガを集めます。集まった丸太は秋(10月)以降に運び出して破砕し、翌年5月ごろまでに必ず処理を終えます。有効な範囲は、中害の地域で半径300mほどとされています。

ただし、虫を呼び寄せる方法なので、周りの健全な木に被害を広げるおそれがあります。マニュアルは未被害地での施工を厳禁とし、周囲80m以内にナラ林があると被害が広がるおそれが高まるとして、被害を受けないスギ林の中や林道沿いなどに置き、専門家の指導を受けるよう求めています。今の時期は、夏に設置した丸太を運び出して破砕する段階にあたります。
空から探すなら、紅葉の前
香川河川国道事務所の研究(令和6年度)は、マルチスペクトルカメラを付けたドローンで被害木を探しました。緑の葉の時期(9月)には画像と植生の指数で被害を捉えられましたが、紅葉期(11月)は紅葉した木と見分けられず、「紅葉前までの調査が適期」としています。北海道の檜山森林管理署の報告(2026年1月)では、令和7年に被害木を見つけた箇所数は、ヘリコプター33、巡視6、ドローン1でした。新版マニュアルも、空からの調査、ドローン、車、歩いての調査を組み合わせるよう勧め、定点での調査は紅葉が始まる前が見分けやすいとしています。

冬から春にできること──記録と、伐った後の更新
紅葉が進むこれからの時期は、遠くから色で探すのが難しくなります。そのぶん、夏から秋に見つけた木を一本ずつ確かめ、位置・樹種・太さ・状態を記録しておくことが、翌年の段取りの土台になります。新版マニュアルも、被害地点などを毎年記録しておくと、翌年以降に警戒すべき地域を絞り込めるとしています。

伐った後の森をどう戻すかも、冬に決めておきたいことです。マニュアルによると、ナラ類はおおむね20年生以下の若い木なら切り株から芽を出す力(萌芽力)が高く、老齢木では下がります。伐採は、どんぐりが落ちた後の11月から、発芽する前の4月までが適期で、切り株が高いと数年後に萌芽枝が枯れやすくなるため、10cmほどの低い位置で伐るよう勧めています。伐った木を林の中に残したり、切り株を高く残したりするとカシナガを呼ぶおそれがあり、シカの多い地域では芽を食べられないよう柵などで守ります。一方で、若い木でもカシナガの穿孔やナラ菌の影響で萌芽が期待できない場合があるとも書かれています。

樹木医から見たこと
今月の資料から感じたのは、ナラ枯れの対策が、時期の見積もりの面で一歩進んだことです。初発日の予測や防除の適期の研究は、予防の段取りを勘ではなく数字で組めるようにしてくれます。都市の公園や社寺林のように、薬剤や作業の時期を前もって調整しなければならない場所ほど、この差は大きいと思います。
樹幹注入については、当社は都市部の植栽樹木の予防に微量注入用ウッドキングDASHを勧めています。ただ、使用時期が紅葉の始まりまでなので、この秋に間に合わなかった木は、来年の葉が開いてからが次の機会になります。高尾山の記録のように、注入しても被害を受ける木はあります。守りたい木を選び、注入・幹を覆う資材・見回りを組み合わせ、それでも枯れた木は早めに処理するという順番で考えるのが、現場での経験から見て無理のない形です。
伐るかどうかを迷う木もあります。枯れた木は年を追って枝から落ち、根元から倒れることもあるため(枯死木はなぜ突然倒れるのか)、人が通る場所では、機器診断と引っ張り試験で強さを確かめて、伐る順番を決めています。紅葉の季節は、記録を見返して、来年の春に何をどの木から始めるかを決める時期だと受け止めています。
来月は、北海道の重点調査の結果や、e-Statに載る令和7年度のデータ、各地の冬の処理の動きを追っていきます。
よくある質問
Q1. ナラ枯れの木は、紅葉とどう見分けますか。
ナラ枯れの木は、紅葉より早い7〜9月ごろに葉が赤褐色に変わり、幹に直径1.5〜2.0mmほどの小さな穴が多数あき、根元にフラス(木くずと虫のふん)がたまります。紅葉が始まると色だけでは見分けにくいため、空から探す調査は紅葉の前が適期とされています。
Q2. ナラ枯れの予防の樹幹注入は、いつ行いますか。
なら類の萎凋病に登録のあるウッドキングSPと微量注入用ウッドキングDASHは、どちらも使用時期が「着葉期、但し紅葉始期まで」です。カシナガが入る前に注入しておく方法なので、紅葉が始まった木は、翌年の葉が開いてからになります。使う前に最新のラベルと登録情報で確かめる必要があります。
Q3. おとり丸太は、どこでも使えますか。
使えません。カシナガを呼び寄せる方法なので、新版 ナラ枯れ被害対策マニュアルは未被害地での施工を厳禁とし、周囲80m以内にナラ林があると被害が広がるおそれが高まるとしています。被害が広がった地域で、専門家の指導を受けて行う方法です。
Q4. ナラ枯れで伐った後の切り株から、また木は育ちますか。
若い木なら育つことがあります。マニュアルによると、ナラ類はおおむね20年生以下では萌芽力が高く、老齢木では下がります。11月から4月に10cmほどの低い位置で伐ると萌芽しやすく、シカの多い地域では柵で守ります。ただし若い木でも、カシナガやナラ菌の影響で萌芽しない場合があります。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・北海道函館市「ナラ枯れ被害に関する情報提供のお願い」(2026年10月7日)
・青森県「青森県民有林における松くい虫及びナラ枯れ被害の状況と対策について」(2026年7月31日更新)、Web東奥(東奥日報、2026年10月18日)
・東京都青梅市「青梅の森、公園・緑地でナラ枯れ被害木の伐採作業を進めています」(2026年10月15日更新)
・林野庁「ナラ枯れ被害」(令和8年9月30日更新)、「都道府県別ナラ枯れ被害量(被害材積)の推移(総数)」
・農林水産省「令和9年度 農林水産予算概算要求書」(歳出)
・森林総合研究所「関東地方のカシノナガキクイムシ初発日予測モデル」(v.2025-03-27)
・福原一成(2026)「カシノナガキクイムシの発生生態と防除適期の解明」『公立林業試験研究機関 研究成果集 No.23』
・農林水産省「農薬登録情報提供システム」(ウッドキングSP 22373、微量注入用ウッドキングDASH 23301、カシナガコール 23065、ケルスケット 22145。2026年10月20日に確認)
・森林総合研究所関西支所「ナラ枯れの被害をどう減らすか ― 里山林を守るために ―」(2012年2月改訂)
・東京神奈川森林管理署「高尾山におけるナラ枯れ対策について」(関東森林管理局 森林・林業技術等交流発表会、2023年)
・一般社団法人日本森林技術協会「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」(令和8年3月、林野庁補助事業)
・古市・岡田「ドローンによるナラ枯れ調査手法の検討」(四国地方整備局 令和6年度)、檜山森林管理署「ナラ枯れ被害木調査の効果的な方法の検討」(北海道森林管理局、2026年1月)
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