アーボソニック3Dの解析と断面画像の読み解き方 速さのグラフ・補正・実例を樹木医が解説

アーボソニック3D 伝達経路図 想定断面図 解析 読み解き 樹木医 実測

アーボソニック3Dで測った後、パソコンでデータをどう解析し、速さのグラフと断面画像から幹の中をどう読み解くかを、ソフトの中の補正の仕組みや読み違えやすい場面も含めて、当社が測った18本・20断面の実測データとカルテの図を使って、この機器を使う樹木医が解説します。

アーボソニック3Dは、幹に打ったセンサーをハンマーでたたき、音(応力波)が届くまでの時間から、幹の中の音の速さを推し量るファコップ社(ハンガリー)の機器です。東京都の街路樹診断等マニュアルでは多点式応力波速度測定器と呼ばれ、カルテには「計測時の伝達経路図」と「想定断面図」の2枚の図を貼ります。

色の付いた断面画像は、一目で答えのように見えます。けれども現場で測ったデータを1本ずつ読み返すと、同じような色の図でも、中身はかなり違います。数本の遅い線から大きく塗られた図もあれば、幹のくぼみや入り皮が腐朽のように出ている図もあります。この記事では、メーカーの取扱説明書(2026年9月7日版。以下「説明書」)の一般論に加えて、当社が実際に測った後に、どの数字とどの図をどの順番で見て判断しているかを書きます。

ソフトの各タブの操作と、測った時間のばらつき・往復の時間の差(データの質)の確かめ方は、アーボソニック3Dのソフトの使い方と音波データの読み方に詳しく書きました。この記事はその続きで、データの質を確かめた後の「解析」と「読み解き」を受け持ちます。カルテの欄ごとの書き方はアーボソニックの腐朽診断カルテの読み方にあります。

ソフトの画面は英語です。記事では、画面の項目名を英語のまま書き、日本語の訳を括弧で添えます。パソコンでの操作は「画面1の③」のように、記事の中の画面写真の番号と、写真に重ねた番号の枠で示します。画面写真は当社の社内マニュアルのもので、現場名は消しています。

先に答え

  • 断面画像は「腐朽の写真」ではなく「音の速さの地図」です。説明書も、断面画像は健全さそのものではなく音の速さを示すもので、入り皮や年輪に沿った割れ(目回り)も速さを下げると書いています。
  • 当社は、①時間データの質 ②センサーごとの速さ ③伝達経路図 ④想定断面図 ⑤高さの重なり ⑥外観・レジとの突き合わせ、の順に読み、最後にカルテの文を書きます。
  • ソフトは、測った時間から「センサーの中を音が通る時間」を差し引き、年輪を横切る向きと沿う向きの速さの違いも補正してから色を付けます。手で直すのは、外れた行の打ち直し、センサーの距離の入力、色の範囲だけで、色の範囲は基本的に触りません。
  • 伝達経路図の線1本1本は実測で、想定断面図は線の間を補って塗った推定です。想定断面図の大きな青い範囲が、何本の遅い線から描かれたのかを、伝達経路図で先に確かめます。
  • カルテには腐朽空洞率の数字だけでなく、どの方向に、どの高さで広がり、健全な外周がどれだけ残るかを文で書きます。

 

断面画像は何を表しているか

アーボソニック3Dは、1つのセンサーをたたくと、残りのすべてのセンサーで音が届くまでの時間を測ります。センサーが10個なら45本、16個なら120本の経路の時間が集まります。2つのセンサーの間の距離は Sensor Geometry(センサーの配置)のタブに入れた値から計算されるので、距離を時間で割れば、その経路の音の速さが出ます。

健全な材の中では、音はまっすぐ届きます。途中に空洞があれば音は空洞の縁を回り込み、届くまでの時間が長くなります。ソフトはこれを「まっすぐの距離のわりに時間がかかった」、つまり「遅い経路」として扱います。

アーボソニック3D 原理 音波 空洞 回り込み 伝わる時間 遅れ 模式図

健全な断面(左)では音はまっすぐ届き、空洞のある断面(右)では回り込む分だけ遅れる(イラストは当社作成)

ここで大事なのは、ソフトが知っているのは「時間」と「まっすぐの距離」だけだということです。音が遅れた理由が空洞なのか、柔らかくなった腐朽材なのか、割れなのか、入り皮なのかは、時間の数字からは分かりません。説明書は、断面画像は測った断面の健全さを示すものではなく、音の速さがどう分布しているかを示すもので、多くの場合は健全さと関係するが、そのことを忘れてはいけない、という趣旨を書いています(p.25)。そのうえで、目回り(年輪に沿った割れ)と入り皮も速さを下げると明記しています。

アーボソニック3D 断面画像 空洞 腐朽 亀裂 見分け 色 音の速さ

空洞・腐朽・亀裂は、どれも音が遅く伝わる所として、断面画像では似た色に出ることがある(イラストは当社作成)

ですから断面画像は、「この経路の上のどこかに、音を遅らせる何かがある」という手がかりを集めて描いた地図だと考えています。その地図をどこまで信じてよいかを、元の数字に戻って確かめるのが、この記事でいう「解析」です。

 

測った後、PC で見る順番

当社は、測った後のデータを次の順番で見ています。順番そのものは説明書に決まりがあるわけではなく、現場での経験から当社が決めたものです。最初に見るのは断面画像ではなく、時間データの質です。質の悪いデータから描いた断面画像は、どれだけきれいに見えても判断に使えないからです。

アーボソニック3D 解析 手順 時間データ 伝達経路図 想定断面図 レジ カルテ 流れ図

測った後、PC で見る順番(当社の手順。①は「アーボソニック3Dのソフトの使い方と音波データの読み方」で詳しく説明)

順番 見るもの 確かめること この記事の節
① Time Data(時間データ)の Processed Times(集計した時間) 同じ組のばらつき、往復の時間の差、エラーの行 前の記事(リンク先)
② センサーごとの速さ 1つのセンサーから出る線が全部遅くないか 速さのグラフを読む
③ Graph(伝達経路図) 遅い線がどこに集まり、何本あるか 伝達経路図の読み方
④ 2D Map(想定断面図) 凡例の速さの範囲、残る外周の厚さと方向 想定断面図の読み方
⑤ Multilayer model(高さを重ねた図) 上下で腐朽がつながるか 想定断面図の読み方
⑥ 外観診断・レジ(Resi PD) 腐朽が大きい方向と外周が薄い方向を確かめる 外観・レジと突き合わせる
⑦ カルテの所見 割合・方向・高さ・残る外周を文にする カルテに書く言葉

①の時間データの質(ばらつきが±10%を超える組の打ち直し、往復の時間の差の目安など)は、前の記事に当社の実測の数字と一緒にまとめました。この記事は②から始めます。

 

時間が速さになるまで ― ソフトの中の補正

速さのグラフを読む前に、ソフトが測った時間をどう扱っているかを知っておくと、グラフの読み違いが減ります。説明書の記述をもとに、時間が色になるまでの流れを1枚にまとめました。

アーボソニック3D 補正 Time correction 外れた行 放射 接線 速さ Velocity limits 2D Map 流れ図

測った時間が断面画像の色になるまで。金茶の2つはソフトが自動で行う補正(説明書 p.24・25・29〜31・86 をもとに当社作成)

外れた行を除く(Auto-filtered measurements)

1か所を数回たたくと、同じ組の時間が数個ずつ集まります。Processed Times(集計した時間)の表の上の切り替えで「Auto-filtered measurements(外れた行を自動で除いて計算)」を選ぶと、ソフトが外れた行を除いた後の表が出ます。説明書は、こちらが断面画像の計算に実際に使われる表だと書いています(p.24・25)。除く基準は、設定の Auto filter limit(センサーごとに認めるばらつきの限度)です(p.86)。

アーボソニック3D Time Data Processed Times Regularized Time Auto-filtered measurements Time correction 対称差 赤いセル 画面

画面1 Time Data(時間データ)のタブ。①外れた行を消す ②補正した時間と平均の時間の切り替え ③全部の行と外れた行を除いた表の切り替え ④センサーの中を通る時間の補正 ⑤センサー4の行 ⑥往復の時間の差(当社のソフトの画面。現場名は消しています)

パソコンでは、次の順に確かめます。

  1. Time Data(時間データ)のタブを開き、下の Processed Times(集計した時間)の表を見る。
  2. 画面1の③を「Raw measurements(全部の行)」のままにして、赤いセルを探す。赤いセルは、同じ組のばらつきが Rel. Time Error Threshold(既定5%)を超えた組です。
  3. 赤いセルが1つの行や列に並んでいないかを見る。画面1では、センサー4の行(⑤)に赤いセルが並び、右の symm. diff.(往復の時間の差。⑥)も 224μs と、ほかのセンサー(101μs 以下)より飛び抜けて大きくなっています。1つのセンサーにだけ問題が集まるときは、まずそのセンサーの付き方を疑います。
  4. 外れた行は、上の Time rows(時間の行)の表で選んで消すか、①の Remove bad rows(外れた行を消す)で消し、その組をたたき直す。
  5. 最後に③を「Auto-filtered measurements(外れた行を除いた表)」に切り替え、断面画像の計算に使われる表を見ておく。

ただし、自動の除外は「どれかの行が外れている」ことには対応できても、「全部の行が同じように遅い」ことには対応できません。センサーが浮いている、樹皮の枯れた所に付いている、といった設置の問題は、何回たたいても同じ遅さで出るので、ばらつきの表には赤いセルが出ないことがあります。この点は、後の「センサーごとの速さ」で実例を示します。

センサーの中を音が通る時間を引く(Time correction)

センサーは釘で幹に固定され、音はたたいたセンサーの中と、受けたセンサーの中も通ります。ソフトは、この「センサーの中を音が通る時間」を Time correction(時間の補正)として計算し、測った時間から差し引きます(p.25)。この値は設定の Minimum T0・Maximum T0 の範囲に収められ、当社のプロジェクトファイルではどれも 30〜50μs になっていました。説明書は、この2つはメーカーのサポートから頼まれない限り変えないように、としています(p.86)。

この断面で差し引いた時間は、画面1の右上の Time correction(④)に「50μs」と出ています。②の Regularized Time(補正した時間)を押すと、表が補正の後の時間に切り替わり、Average Time(平均の時間)に戻すと測ったままの時間になります。2つを見比べると、ソフトがどれだけ差し引いたかが分かります。

補正の範囲は、Tree(樹木)のタブのスパナから開く Project options(プロジェクトの設定)にあります(画面2)。Sensor type(センサーの種類。④)が Normal(ふつう)のときは、Minimum T0・Maximum T0(⑤)と Maximum velocity(速さの上限。⑥)は灰色で、変えられません。当社は①〜③も含めて、この画面の数字は変えずに使っています。

アーボソニック3D Project options Auto filter limit Min. good row count Rel. Time Error Threshold Sensor type Minimum T0 Maximum T0 Maximum velocity 画面

画面2 Project options(プロジェクトの設定)。①外れた行を除くときのばらつきの限度 ②1つのセンサーに要る正しい打撃の回数 ③赤く示すばらつきの境目 ④センサーの種類 ⑤センサーの中を通る時間の補正の下限・上限 ⑥速さの上限(当社のソフトの画面)

この補正がなぜ要るのかは、当社の健全に近い断面のデータで、補正の前と後の速さを比べると分かります。

アーボソニック3D Time correction 補正 前後 隣のセンサー 短い経路 速さ 実測 グラフ

センサーの中を通る時間を引く前(薄い色)と後(濃い色)の速さ。短い経路ほど、引く前は遅く見える(当社の測定データから当社が計算。40μs は当社が仮に置いた値)

隣どうしのセンサーの経路は長さが10cm台しかなく、測った時間の中で「センサーの中の時間」が占める割合が大きくなります。引く前の速さは、隣どうしで約1,050m/s、向かい合う組で約1,750m/s と、短い経路ほど遅く見えました。40μs を引くと、隣どうしは約1,550m/s まで上がります。生の時間から速さを手で計算するときは、この補正を忘れると、外周の短い経路が軒並み「遅い」ように見えてしまいます。

年輪を横切る向きと、沿う向きの違いを補正する

木材の中の音の速さは、向きによって違います。年輪を横切って中心へ向かう向き(放射方向)より、年輪に沿って回る向き(接線方向)のほうが遅く、隣どうしのセンサーの経路は接線方向に近い向きを通ります。説明書は、ソフトが放射方向と接線方向の違いも補正した時間を「Regularized Time(補正した時間)」として扱うと書いています(p.24)。健全な材では、放射方向がほかの方向より約30%速いとされます(Wang ほか 2004)。補正の計算式は説明書に載っていないので、当社のグラフ(G3〜G6)はこの補正の前の値で描いています。図6で、40μs を引いた後も隣どうしの経路がまだ少し遅いのは、このためと考えています。

手で直すもの、直さないもの

項目 誰が直すか 当社の扱い
外れた行(Remove bad rows・打ち直し) 測る人が現場で ばらつきの赤いセルを見て、その組をたたき直す(画面1の①)
センサーの距離(Sensor Geometry) 測る人が入力 キャリパーで測り直し、桁違い・入れ違いを直す
センサーの中の時間(Time correction) ソフトが自動で Minimum T0・Maximum T0 は変えない(画面2の⑤)
放射・接線の違い ソフトが自動で 触る項目はない
色の範囲(Velocity limits) ソフトが自動で(手でも変えられる) 自動の計算のまま、基本的に調整しない(画面3の⑤)
Maximum velocity(速さの上限) 設定 断面画像の速さの上限、変えない(画面2の⑥)

色の範囲を手で動かすと、断面画像の見た目だけでなく、腐朽と読む範囲そのものが変わります。理由は前の記事の「色の範囲は、触らない」に書きました。

 

速さのグラフを読む ― 生の数字から分かること

ソフトの断面画像は、補正と補間を重ねた後の姿です。当社は、気になる断面については、プロジェクトファイルからセンサーの位置と時間を取り出し、経路1本ずつの速さをグラフにして見ることがあります。ソフトでは、Tomograms(断面画像)のタブの Matrix(速さの表。画面3の①、p.25)に、センサーの組ごとの速さが表で出ます。当社のグラフは、この表と同じ「組ごとの速さ」を、距離や向きで並べ替えて見ているものだと考えてください。ここでは、当社が2025年10月に測ったデータから描いたグラフを3つ紹介します。

距離と時間のグラフ ― 点が1本の直線にまとまるか

横軸にセンサーの間の距離、縦軸に音が届くまでの時間をとり、経路1本ずつを点で打ちます。音の速さが断面のどこでも同じなら、点は1本の直線の上に並びます。直線の傾きが速さ(の逆数)で、直線が縦軸と交わる高さが、センサーの中を音が通る時間などの「距離によらない遅れ」です。

アーボソニック3D 距離 時間 グラフ 散布図 健全 腐朽 傾き 速さ サクラ 実測

距離と時間。健全に近い断面(左)は点が1本の直線にまとまり、腐朽が進んだ断面(右)は同じ距離でも時間が長く、点が散らばる(当社の測定データ)

左の健全に近いサクラ(地上0.4m、腐朽空洞率2%)は、120本の経路がほぼ1本の直線に並び、傾きから約2,200m/s、縦軸と交わる所は約70μs でした。右の腐朽が進んだサクラ(地上0.9m、同94%)は、同じ距離40cm でも 400μs から 800μs 近くまで散らばり、傾きから読める速さは約780m/s と、左の3分の1ほどです。

このグラフで見ているのは、断面全体の「まとまり方」です。点が直線から上へ外れるほど、その経路は回り道をしたか、遅い材を通っています。外れる点が少数なら局所的な異常、全体が上へずれて散らばるなら断面の広い範囲の異常、と大まかに読み分けられます。

中心を通る線と、外周の線の速さを比べる

次に、経路を「断面の中心の近くを通るか、外周の近くを通るか」で分けて、速さを比べます。腐朽が幹の中心から始まる木では、中心を通る経路だけが遅くなるはずです。

アーボソニック3D 中心 外周 経路 速さ 比較 中心腐朽 シラカシ サクラ 実測 グラフ

横軸は経路が断面の中心からどれだけ離れて通るか(0=中心を通る、1=外周の近く)。中心の腐朽では中心を通る線だけが遅く、腐朽が進むと外周の線まで遅くなる(当社の測定データから当社が計算)

断面 中心を通る線(中央値) 外周の線(中央値) 読み方
サクラ 地上0.4m(腐朽空洞率2%) 約1,980m/s 約1,760m/s 中心のほうが速い、外周は接線方向の分だけ少し遅い
シラカシ 地上0.6m(同49%) 約1,310m/s 約1,770m/s 中心を通る線だけが約3割遅い、中心の腐朽
サクラ 地上0.9m(同94%) 約780m/s 約880m/s 中心も外周も遅い、断面の広い範囲の腐朽

当社の測定データ(2025年10月)から当社が計算。センサーの中を通る時間40μs を差し引いた値で、ソフトの放射・接線の補正の前。

健全に近い断面では、中心を通る線のほうがむしろ速く、外周の線は少し遅く出ます。先に書いた放射方向と接線方向の違いがそのまま見えています。中心を通る線が外周の線より遅ければ、それだけで「中心に何かある」と読めます。腐朽が進んだサクラは、外周の線まで遅く、外周に残る健全な材も薄いか、すでに傷んでいると考えられます。

センサーごとの速さ ― 全部の線が遅いセンサー

説明書は伝達経路図の見方として、1つのセンサーから出る線がすべて遅いとき(青や赤の線)に特に注意するよう書き、その原因として、固定が弱い(センサーをもっと深く打つ)、腐朽の上に付けた、センサーの故障の3つを挙げています(p.26)。当社は、センサーごとに「そこから出る線の速さの中央値」を並べて、これを数字で確かめています。

アーボソニック3D センサーごと 速さ 全部の線が遅い 樹皮の枯れた所 設置 実測 グラフ

センサーごとの速さ。南側のセンサー5・6 から出る線は、どの向きの線も遅い(当社の測定データから当社が計算。説明書 p.26)

このサクラ(地上1.1m、センサー10個)は、南側のセンサー5・6 から出る線の速さが、ほかのセンサーの半分ほどしかありませんでした。カルテの所見には、樹皮の枯れた所にセンサーを付けたため、腐朽空洞率(47%)が大きめに出ている可能性がある、と書かれています。

この断面は、時間のばらつきが最大2.2%、往復の時間の差も最大7μs と、データの質の表では問題が見えませんでした。何回たたいても同じように遅いので、ばらつきの表には出てこないのです。センサーごとの速さを並べると、設置の問題と腐朽の両方の可能性がある所が浮かび上がり、外観で樹皮の状態を確かめに戻る手がかりになります。

凡例の数字を読む

伝達経路図と想定断面図の左にある色の帯(凡例。画面3の⑥)には、速さの数字が付いています。この数字は木ごとに違います。当社の実例では、シラカシ(49%)の凡例は 1,048〜2,912m/s、サクラ(94%)は 741〜2,059m/s でした。色の範囲は断面ごとに自動で計算されるので、同じ緑でも、木が違えば速さが違います。2本の木の図を色だけで見比べず、凡例の数字を読んでから比べます。同じ木でも、健全な材の平均の速さは高さによって違うことがあり、説明書は、そのため高さ(層)ごとに色の範囲が違い、同じ色でも層によって速さが違うと書いています(p.30)。

 

伝達経路図(Graph)の読み方 ― 想定断面図より先に見る理由

Tomograms(断面画像)のタブの Graph(線の図)は、Matrix(速さの表)の速さを、センサーの組ごとに色の線で描いた図です(p.25・26)。東京都のカルテでは「計測時の伝達経路図」の欄に貼ります。

アーボソニック3D Tomograms Matrix Graph 2D Map 伝達経路図 Velocity limits Calculate automatically 凡例 画面

画面3 Tomograms(断面画像)のタブの Graph(伝達経路図)。①速さの表 ②伝達経路図 ③想定断面図 ④色の範囲 ⑤自動の計算 ⑥凡例(当社のソフトの画面。現場名は消しています)

パソコンでは、次の順に見ています。

  1. Tomograms(断面画像)のタブを開き、Color scheme(配色)が Detailed(詳細)になっていること、⑤の Calculate automatically(色の範囲を自動で計算)にチェックがあることを確かめる。
  2. ②の Graph(伝達経路図)を押し、遅い線(赤・紫・青・水色)がどこに集まっているかを見る。
  3. 気になる線にマウスを当て、その組の速さ(m/s)を読む。⑥の凡例の数字と比べ、どのくらい遅いのかを数字でつかむ。
  4. 1つのセンサーから出る線が全部遅くないかを見る(下の表の3行目)。
  5. ①の Matrix(速さの表)を押し、遅い組を表でも確かめる。
  6. それから③の 2D Map(想定断面図)へ進む。

2D Map(想定断面図)は、センサーの間だけでなく断面の全体の速さを推定して塗った図です(p.27)。言い換えると、伝達経路図の線は1本ずつが実測で、想定断面図は線と線の間を補って塗った推定です。だから当社は、想定断面図の大きな青い範囲を見たら、まず伝達経路図に戻り、その範囲が何本の遅い線から描かれたのかを確かめます。

伝達経路図の見え方 考えられること 次に確かめること
向かい合う組の長い線だけが遅い 中心の腐朽・空洞 外周の線が速いか、残る外周の厚さ
片側を通る数本の線だけが遅い 片寄った腐朽 遅い線の本数、外観の傷・キノコの位置
1つのセンサーから出る線が全部遅い 設置の問題、腐朽の上のセンサー、故障(p.26) センサーの固定、樹皮の状態、打ち直し
隣どうしの短い線だけが遅い くぼみ・入り皮・表面の割れ 幹の形、入り皮の位置
ほとんどの線が遅い 断面の広い範囲の腐朽 凡例の数字、外周の線の速さ

説明書 p.25・26 と当社の現場での経験をもとに当社作成。

 

想定断面図(2D Map)の読み方

想定断面図では、速い所が濃い緑、遅くなるにつれて黄・赤・紫・青・水色と色が変わります。東京都のカルテの想定断面図の欄には、健全部・腐朽部・空洞部の凡例が付きます。ただ、ここまで書いてきたとおり、色が表すのは音の速さで、腐朽と空洞の境目を直接見ているわけではありません。

残る外周の厚さと方向を見る

当社が想定断面図でいちばん気にするのは、青い範囲の大きさよりも、その外側に残る緑の帯、つまり健全な外周の厚さと、それがどの方向で薄いかです。木を支えるのは外周に残った材なので、同じ腐朽空洞率でも、腐朽が中心にあって外周が均等に残る断面と、片側に寄って外周が薄くなった断面とでは、意味が違います。パソコンでは、2D Map(画面4の②)の上にマウスを当てると、その点の座標と速さが出ます(p.27)。④の Rulers(定規)を押して断面の上をクリックすると、青い線の長さが出るので、緑の帯の内側の縁から樹皮までを、外周がいちばん薄そうな向きで測ります(p.27)。当社は、ここで測った「いちばん薄い所の厚さと方向」を、レジを打つ向きを決める手がかりにしています。

アーボソニック3D 2D Map 想定断面図 Multilayer model Velocity limits Rulers 定規 凡例 画面

画面4 Tomograms(断面画像)のタブの 2D Map(想定断面図)。①高さを重ねた図とレイヤーの一覧 ②想定断面図 ③色の範囲 ④定規 ⑤凡例(当社のソフトの画面。現場名は消しています)

腐朽空洞率と外周の厚さの関係は、カルテの読み方で東京都のマニュアルの参考基準値とあわせて書いています。

想定断面図は、実際より大きく出やすい

伐採した木の切り口と想定断面図を比べてきた当社の経験では、想定断面図は実際の腐朽より悪く(大きく)出やすいと感じています。ただ、研究や行政のマニュアルを見ると、ずれる向きは一つではありません。東京都の街路樹診断等マニュアルは、機器の測定値と実際との差は、概して腐朽空洞が大きいと小さめに、小さいと大きめに出る傾向があるとし(本編 p.65)、アーボソニックについては、放射方向や外周に沿って長く伸びる空洞のように音の回り道が長くなる形では大きめに、小さな空洞では小さめに出る、と整理しています(参考資料 p.106)。

同じ原理の音波トモグラフィ(ピカス)で、木を伐って断面と比べた研究では、ホワイトオークとヒッコリーの腐朽のある17断面のうち14断面で、断面図の腐朽は実際よりやや小さく出ました(差の平均6%。Gilbert & Smiley 2004)。一方、ブラックチェリーでは、心材の腐朽だけなら小さめに、幹の中に亀裂があると大きめに出たと報告されています(Wang ほか 2009)。ソメイヨシノでも、亀裂のある円板で欠陥が大きく評価され、初期の腐朽と亀裂を見分けるにはレジのデータを足す必要がある、とした研究があります(Lee & Son 2024。要旨による)。

当社が測る都市の木、とくにサクラの仲間は、亀裂や入り皮、幹のくぼみ、大枝の切り口からの腐朽を抱えていることが多く、それが「悪く出やすい」という当社の実感につながっていると考えています。なお、アーボソニック3Dそのものを伐った断面と比べた論文は、今回の調べでは見つけられませんでした。想定断面図の範囲は、大きくも小さくもずれる推定として扱い、木を支える外周の厚さはレジで確かめる。これが当社の読み方です。

伐採した木の切り口で診断の答え合わせをする方法は、切り株は答え合わせに書きました。

高さを重ねる

2つ以上の高さで測ったときは、Multilayer model(高さを重ねた図。画面4の①)で上下のつながりを見ます。左の一覧で Layer(高さ)を1つずつ選ぶと、その高さの断面画像に切り替わります。説明書によると、色の範囲は高さごとに計算されるので(p.30)、高さを比べるときも凡例の数字を見ます。根元で大きく、上へ行くほど小さくなるなら根元から上がってきた腐朽、ある高さだけで大きいなら、その高さの枝の切り口や傷から入った腐朽を疑います。断面と断面の間は測っていないので、つながり方は推定です。

断面画像 高さ 重ねる 腐朽 上下の広がり 推定 レジ 穿孔路 図解

高さを変えて測った断面を重ね、間を推定でつなぐ。断面と断面の間は測っていない(イラストは当社作成)

腐朽の面積の割合(Decayed area)を高さごとに比べる

Biomechanics(力学の評価)のタブを開くと、左下の Layers(レイヤーの表。画面5の①)に、高さごとの Decayed area(腐朽の面積の割合)が並びます。説明書によると、これは断面の面積に対する推定の腐朽部の割合で、平均の t/R(健全な外周の厚さと半径の比)も 1 −√(腐朽の面積÷断面の面積) で計算されます(p.38)。②の Layer Map(荷重を支える範囲と弱い方向の図)は、色の範囲の中間点より遅い所を、荷重を支える力を失った材として透明に描きます(p.40)。

アーボソニック3D Biomechanics Layers Decayed area 腐朽の面積の割合 Layer Map 安全率 Safety Factor 画面

画面5 Biomechanics(力学の評価)のタブ。①高さごとの腐朽の面積の割合 ②荷重を支える範囲と弱い方向の図 ③④安全率の注意(当社のソフトの画面。現場名は消しています)

画面5の例では、Layer #3(高さ150cm)が77%、Layer #2(高さ100cm)が83%でした。高さを上がると割合が下がるなら、腐朽は下から上がってきていると考えられます。③④の注意書きのとおり、安全率は外周の材が一周つながって残る幹にだけ当てはまり、割れや開口部のある幹には使えません。風と安全率の読み方はアーボソニック3Dの風荷重解析に書いています。

 

実例で読む ― 当社が測った5つの断面

ここからは、2025年10月に当社が測った公園の樹木のうち5つの断面を、ソフトが描いた伝達経路図と想定断面図(カルテに貼った図)で読みます。場所は出さず、樹種・高さ・数字だけを書きます。図の上が北です。各例で、データの質、伝達経路図、想定断面図、判断の順に書き、最後に「カルテにはこう書く」を一文で添えます。

例1 健全に近いのに、くぼみが腐朽のように出たケヤキ

アーボソニック3D ケヤキ 伝達経路図 想定断面図 くぼみ 腐朽空洞率1% 実例

ケヤキ 地上0.3m(腐朽空洞率1%、センサー16個)。①くぼみを挟む隣どうしの線だけが遅い ②想定断面図ではその所だけが赤く出る(当社のソフトの画面。カルテに貼った図)

  • データの質: ばらつきは最大2.3%、往復の時間の差は最大3μs で、とてもきれいなデータでした。
  • 伝達経路図: ほとんどの線が緑です。遅いのは東側の、センサー14と15、12と13 の隣どうしの線(①)で、測定ファイルから計算しても、この2本が120本の中でいちばん遅い2本でした。
  • 想定断面図: センサー14・15 の間だけが赤く塗られています(②)。
  • 判断: この所は、幹が肥大していないくぼみでした。隣どうしのセンサーの間の「まっすぐの距離」は空気を横切っていて、音は幹の表面を回って届くので、遅く見えます。腐朽ではなく、幹の形が作った見かけの遅さと読みました。

カルテには「腐朽空洞率は1.0%で異常値は小さい。東側の肥大成長していないくぼみの部分が腐朽空洞部として示されている」と、出ている色の理由まで書きました。

例2 数本の遅い線から大きく塗られたソメイヨシノ

アーボソニック3D ソメイヨシノ 伝達経路図 想定断面図 片寄った腐朽 西側 腐朽空洞率27% 実例

ソメイヨシノ 地上1.3m(腐朽空洞率27%、センサー10個)。①4→10 の赤い線 ②3→7 の紫の線 ③想定断面図では西側に大きな青い範囲(当社のソフトの画面。カルテに貼った図)

  • データの質: ばらつきは最大3.4%、往復の時間の差は最大3μs で問題ありません。
  • 伝達経路図: 45本のうち、赤と紫の線は4→10(①)と 3→7(②)の2本で、どちらも西側を斜めに横切ります。測定ファイルから計算しても、この2本がいちばん遅い2本でした。ほかに橙・黄の線が西側に何本かあります。
  • 想定断面図: 西側に、水色から赤までの大きな範囲が塗られています(③)。
  • 判断: 西側に片寄った腐朽があることは、複数の遅い線が西側で交わることから読めます。ただ、青い範囲の形と大きさは、2本の遅い線が交わる所を中心に、線の間を補って塗ったものです。外観では根元・幹の打診音の異常と樹皮の欠損があり、西側の外周の厚さはレジで確かめる候補になります。

カルテには「西側に偏って腐朽空洞部が広がっている。被害の進行に注意し、継続観察が必要」と、偏りの方向を書きました。

例3 中心の腐朽と、残る外周が見えるシラカシ

アーボソニック3D シラカシ 伝達経路図 想定断面図 中心の腐朽 残る外周 腐朽空洞率49% 実例

シラカシ 地上0.6m(腐朽空洞率49%、センサー12個)。①中心から東寄りに広がる遅い範囲と、外側に残る緑の帯(当社のソフトの画面。カルテに貼った図)

  • データの質: ばらつきは最大2.7%、往復の時間の差は最大9μs です。
  • 伝達経路図: 外周を回る線は緑で、中心を通る長い線が青・赤です。測定ファイルで遅い順に並べると、上位は 6→11、5→10、1→8 などの、向かい合う組の長い線でした(図 G4 の中央のグラフと同じ断面です)。
  • 想定断面図: 中心から東寄りに丸い遅い範囲があり(①)、その外側に緑の帯が一周しています。
  • 判断: 外観では東側に開口空洞とベッコウタケがありました。中心の腐朽が東側の開口部に向かって広がっていると読みます。外周の緑の帯は一周残っていますが、東側で薄くなっているので、レジを足すならこの向きです。

カルテには「開口空洞・ベッコウタケが見られる東側を中心として腐朽空洞部が広がっている。短期周期の継続観察が必要」と、外観の所見と結び付けて書きました。

例4 ほとんどの線が遅い、腐朽が進んだサクラ

アーボソニック3D サクラ 伝達経路図 想定断面図 腐朽が進んだ 腐朽空洞率94% 凡例 実例

サクラ 地上0.9m(腐朽空洞率94%、センサー14個)。①②凡例は 741〜2,059m/s。ほとんどの線と範囲が水色(当社のソフトの画面。カルテに貼った図)

  • データの質: ばらつきは最大9.7%で、5%を超える組が5つ、往復の時間の差は最大129μs と、ほかの4本より大きめです。説明書は、腐朽が大きい木では往復の時間の差が約100μs まで届くことがあるとしています(p.24)。
  • 伝達経路図: ほとんどの線が水色です。凡例(①②)を読むと、色の範囲は 741〜2,059m/s で、図 G3・G4 のとおり、生の数字で見ても経路の速さの中央値は 800m/s 前後と、健全に近いサクラの半分以下でした。
  • 想定断面図: 北側と南東側の外周の一部にだけ緑・赤が残り、ほかは水色です。
  • 判断: 断面の大部分の材が音を伝えにくくなっていて、外周に残る健全な材もごく一部です。色の範囲は木ごとに決まるので、水色ばかりの図でも「相対的に遅い」だけの可能性はありますが、この木は凡例の数字そのものが低く、絶対の速さで見ても遅いことが確かめられます。

カルテには「樹体内部に大きく腐朽空洞部が広がっている」と書き、支柱があっても数値的に折損・倒木の可能性が高いことを添えました。

例5 入り皮も腐朽のように出た根元のサクラ

アーボソニック3D サクラ 根元 入り皮 伝達経路図 想定断面図 帯状 腐朽空洞率27% 実例

サクラ 地上0.05m(腐朽空洞率27%、センサー16個)。①北 ②南。北から南へ帯のような遅い範囲がつながる(当社のソフトの画面。カルテに貼った図)

  • データの質: ばらつきは最大7.9%、往復の時間の差は最大52μs でした。根元で幹の形が複雑な断面としては、許せる範囲と判断しました。
  • 伝達経路図: 測定ファイルで遅い順に並べると、上位は 8→9(南)、14→15、1→16(北)の隣どうしの短い線でした。
  • 想定断面図: 北(①)から南(②)へ、帯のような遅い範囲がつながっています。
  • 判断: 北と南に入り皮があり、隣どうしの線がそこで遅くなっています。説明書も入り皮は速さを下げると書いています(p.25)。帯の中ほどの遅い範囲には、大枝の切り口からの枯れ下りによる腐朽も考えられ、どこまでが入り皮でどこからが腐朽かは、この図だけでは分けられません。

カルテには「大枝切除痕からの枯れ下りが見受けられ、北・南側の入り皮部も腐朽空洞部として示されている」と、腐朽空洞率27%の中に入り皮の分が含まれていることを書きました。

 

読み違えやすい場面

実例の5本からも分かるように、遅い線や青い範囲が、そのまま腐朽とは限りません。当社が読み違えないように気をつけている場面をまとめます。

場面 断面画像への出方 見分ける手がかり
幹のくぼみ・溝 くぼみの所が腐朽のように出る 隣どうしの短い線だけが遅い、外観の幹の形(例1)
入り皮 入り皮から中へ帯のように出る 二股・合わさった幹の位置と一致(例5)
樹皮の枯れた所のセンサー そのセンサーの周りが大きく塗られる そのセンサーから出る線が全部遅い(図 G5)
亀裂・目回り 実際の幅より広い異常として出る 外観の割れ、線の向きで遅さが違う
コードの入れ違い・入力の誤り 穴や腐朽のような形 設置と入力の見直し(前の記事)
凍った幹 外側だけ速くなり、中が腐朽のように出る 測った日の気温、0℃未満では測らない(説明書 p.69)
少ない遅い線からの補間 数本の線の交わる所が大きく塗られる 伝達経路図で遅い線の本数を数える(例2)

説明書 p.25・26・29・69、Wang & Allison 2008、Divós ほか 2021 と、当社の測定データ・現場での経験をもとに当社作成。

亀裂 向き 音の通り道 平行 横切る 速さ 図解

亀裂に沿って測れば速さはあまり落ちず、亀裂を横切って測ると大きく落ちる(Mattheck & Bethge 1993 の考え方をもとに当社作成)

亀裂は音をさえぎり、回り道をさせます。アカガシワを伐って比べた研究では、内部の亀裂が音を遠回りさせ、腐朽の無い所まで腐朽のような帯が出て、腐朽と亀裂の影を見分けるには貫入抵抗(レジ)の測定が必要だったとされています(Wang & Allison 2008)。説明書の Cracks(亀裂)の表示は、表面から入った亀裂の深さを推定するもので、内部の亀裂は見つけません(p.29)。

季節にも気をつけています。凍った材では音が速くなり、温度が下がるほど速さが上がります(Gao ほか 2012)。ファコップ社が加わった欧州の研修テキストには、雪と霜の後に測ったスズカケノキ類の断面で腐朽41%と出たものが、約2週間後に同じ位置で測り直すと1%だった例が載っています(Divós ほか 2021)。凍った外側だけが速くなり、内側が相対的に遅く見えたためと説明されています。説明書も、0℃未満と40℃を超えるときは使わないよう書いています(p.69)。

 

外観・レジと突き合わせて結論を出す

音波の図は、断面の全体を一度に見渡して「どこが怪しいか」をつかむのに向いています。一方、レジ(Resi PD)(東京都のマニュアルでの呼び名は貫入抵抗測定器)は、細い針を1本の線の上に進め、その線の上の材の固さを細かく記録します。広く見る道具と、1本の線を細かく見る道具です。

当社は、レジを追加で打つのは、想定断面図で腐朽が大きい方向、または健全な外周が薄い方向を確かめるときにしています。木を支える外周がどれだけ残っているかを、音波の推定ではなく実際の材の固さで確かめたいからです。

アーボソニック3D 想定断面図 レジ Resi PD 打つ向き 外周が薄い方向 腐朽 突き合わせ

想定断面図に、レジを打つ向きの例を重ねた(例2のソメイヨシノの断面。実際に打った位置ではない。打つ向きの考え方は当社の現場での判断)

例2のソメイヨシノなら、外周がいちばん薄い西側から腐朽の範囲へ向けて1本(①)、腐朽の範囲を横切る向きにもう1本(②)が候補になります。①で外周の材の厚さを、②で範囲の端と中身の固さを確かめます。音波の図とレジの波形が食い違ったときは、外観診断(外観診断)のキノコ・傷・割れの位置に戻り、3つが同じ方向を指しているかで判断します。

 

カルテ・報告書に書くときの言葉

腐朽空洞率の数字は、断面画像を一つの数字にまとめたものです。数字だけでは、どの方向に、どの高さで広がり、健全な外周がどれだけ残っているかが伝わりません。当社はカルテの所見に、次のことを文で書くようにしています。

書くこと 例(実例のカルテから)
腐朽空洞率と、参考基準値との関係 腐朽空洞率は27.0%でやや大きな異常値
広がっている方向 西側に偏って腐朽空洞部が広がっている
外観の所見との結び付き 開口空洞・ベッコウタケが見られる東側を中心として
色が出ている理由(腐朽でない可能性) 東側の肥大成長していないくぼみの部分が腐朽空洞部として示されている
測り方の注意 樹皮枯死部にセンサーを設置したため過大に数値が出ている可能性がある
この後の扱い 短期周期の継続観察が必要

機器の数字は、言い切りすぎないように書きます。たとえば「空洞がある」ではなく「腐朽空洞部が広がっている」「示されている」と書き、測り方の影響が考えられるときはそれも書き添えます。再測定や経過観察の時期の書き方は、カルテの読み方にまとめています。

 

当社の考え方

アーボソニック3Dの断面画像は、たくさんの経路の時間を重ね合わせて描いた、よくできた推定です。けれども、その絵が答えなのではありません。絵の下には、1本ずつの経路の時間、1つずつのセンサーの付き方、1か所ずつの幹の形があり、それを一つずつ読み戻すことで、絵のどこを信じてよいかが分かります。

私たちは、断面画像の大きな青い範囲を見ても、すぐに「伐る」とは考えません。遅い線が何本あるのか、外周の材がどの方向にどれだけ残るのか、外観とレジがそれを裏づけるのかを確かめてから、残す方法と安全を確保する方法の両方を考えます。数字をていねいに読むことは、木を残すための判断の根拠を確かにすることでもあります。

当社の樹木診断では、機器診断の結果を、剪定や支柱などの処置、その後の経過観察まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。アーボソニック3Dの結果の読み方や、診断の仕様づくりのご相談は、お問い合わせからお寄せください。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. 伝達経路図と想定断面図は、どちらを信じればよいですか?

A. 伝達経路図の線は1本ずつが実測の経路で、想定断面図は線の間を補って塗った推定です。当社は想定断面図の大きな遅い範囲を見たら、まず伝達経路図に戻り、何本の遅い線から描かれたのかを確かめます。数本の線から大きく塗られていることもあるからです。

Q2. 想定断面図の青い所は、必ず空洞ですか?

A. 必ずではありません。断面画像が表すのは音の速さで、空洞のほか、柔らかくなった腐朽材、亀裂、入り皮、幹のくぼみ、樹皮の枯れた所に付けたセンサーでも遅く出ます。外観の所見と伝達経路図の線の出方を合わせて読み、必要ならレジで材の固さを確かめます。

Q3. ソフトは測った時間をどう補正していますか?

A. 説明書によると、外れた行を自動で除き、センサーの中を音が通る時間(Time correction)を差し引き、年輪を横切る向きと沿う向きの速さの違いも補正してから、速さを計算して色を付けます。Time correction の範囲(Minimum T0・Maximum T0)はメーカーから頼まれない限り変えないよう説明書に書かれています。

Q4. 色の範囲(Velocity limits)は調整してもよいですか?

A. 説明書は自動の計算を推奨しており、当社も基本的には調整しません。色の範囲を手で動かすと、断面画像の見た目だけでなく、腐朽と読む範囲そのものが変わるからです。また色の範囲は木ごとに決まるので、2本の木を比べるときは色ではなく凡例の速さの数字を読みます。

Q5. 時間データの質がよければ、断面画像は信じてよいですか?

A. 質がよいことは前提ですが、それだけでは足りません。樹皮の枯れた所にセンサーを付けると、何回たたいても同じように遅く出るので、ばらつきの表には問題が出ないことがあります。センサーごとに、そこから出る線の速さを比べると見つけやすくなります。

Q6. アーボソニック3Dとレジは、どう使い分けますか?

A. アーボソニック3Dは断面の全体を見渡して怪しい所をつかむ道具、レジは1本の線の上の材の固さを細かく確かめる道具です。当社は、想定断面図で腐朽が大きい方向や健全な外周が薄い方向に、レジを追加で打って確かめています。

出典・参考情報

Fakopp Kft.「ArborSonic 3D Manual」2026年9月7日版(ページは印字の番号。p.24〜27・29・30・69・86)。

東京都建設局「令和三年度 街路樹診断等マニュアル」本編 p.65(機器の測定値と実際の差)・p.66(腐朽空洞率の参考基準値)、第Ⅶ章 参考資料 p.106(機器ごとの測定の特徴)・p.108(アーボソニック3Dの測定方法と注意)。

Gilbert, E.A., Smiley, E.T. 2004. Picus sonic tomography for the quantification of decay in white oak (Quercus alba) and hickory (Carya spp.). Journal of Arboriculture 30(5): 277–281.
Wang, X., Wiedenbeck, J.K., Liang, S. 2009. Acoustic tomography for decay detection in black cherry trees. Wood and Fiber Science 41(2): 127–137.
Wang, X., Allison, R.B. 2008. Decay detection in red oak trees using a combination of visual inspection, acoustic testing, and resistance microdrilling. Arboriculture & Urban Forestry 34(1): 1–4.
Lee, G., Son, J. 2024. Reliability of noninvasive sonic tomography for detection and quantification of internal defects in Yoshino cherry. Forest Science 70(3): 259–265(要旨による).
Wang, X., Divos, F., Pilon, C., Brashaw, B.K., Ross, R.J., Pellerin, R.F. 2004. Assessment of decay in standing timber using stress wave timing nondestructive evaluation tools. USDA Forest Service, FPL-GTR-147(p.3).
Gao, S., Wang, X., Wang, L., Allison, R.B. 2012. Effect of temperature on acoustic evaluation of standing trees and logs: Part 1 Laboratory investigation. Wood and Fiber Science 44(3): 286–297.
Divós, F. ほか 2021. Advanced tree assessment – manual for professionals: Instrumental tree assessment. Erasmus+ 2019-1-PL01-KA202-065670, Wrocław(p.51〜53・60).

当社の測定データ(2025年10月、18本・20断面のプロジェクトファイル)と、同じ木の機器診断カルテ。記事中の伝達経路図・想定断面図は当社のソフトの画面で、場所の分かる情報は載せていません。グラフ(図 G3〜G6)は、プロジェクトファイルのセンサーの位置と時間から当社が計算したもので、ソフトの補正(放射・接線の違い)の前の値です。ソフトの表示とは一致しません。

記事中のイラストと図は、株式会社トシ・ランドスケープが作成しました。絵と模式図は説明のための簡略化です。

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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

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