先日訪れた都内の公園で生育不良の樹木を見かけましたのでご紹介いたします。
先に答え
生育不良とは、樹木の育ち方が、本来の状態より明らかに悪くなっていることをいいます。枝が伸びない、葉が小さい・色が悪い、梢(こずえ)や枝先から枯れてくる、といった形で表に出ます。原因は土(植栽基盤)だけでなく、根の傷み、病気や害虫、気象や立地、剪定などの管理と幅があります。国総研の「街路樹再生の手引き」は、生育不良が枯死につながるほか、倒木や枝の落下の危険を大きくすることがあるとしています。
- 樹木の生育不良は、土が締め固められて根が伸びられないこと、水はけが悪く根腐れすること、植栽基盤が狭く乾燥することなどで起こります。
- 根が十分に働かないと、水分も養分も枝先まで送れません。国総研の手引きでも、土の硬さや透水性が不適だと、樹勢低下や枝枯れが起こる場合があるとされています。
- 都内の公園では、幹の芯が無くなって片側に傾いたカツラや、雨の後も植桝の水が地面にしみ込まない場所がありました。
- 植える前に、土の硬さや透水性などを調べる植栽基盤診断を行うことで、その後何十年と育つ樹木の生育を支えられます。
よくある質問
Q1. 樹木の生育不良は、何が原因で起こりますか。
東京都建設局の街路樹診断等マニュアルは、腐朽菌のほかに、締め固めによる根の発達不良、透水性の悪さによる根腐れ、土のpHや塩類濃度の異常、植栽基盤が狭いことによる水分不足(乾燥害)を、樹勢不良の原因に挙げています。
Q2. なぜ土が硬いと、木が育たないのですか。
土が硬いと、根を伸ばせないためです。国総研の手引きは、土の透水性や硬さ、酸度、養分が不適だと根の伸長が不良になり、樹勢低下や枝枯れが起こる場合があるとしています。近くの舗装工事などで、植栽地の土が締め固められることもあります。
Q3. 水はけの悪い植栽地では、何が起こりますか。
雨水が地面にしみ込まず、根腐れの原因になります。この公園では、雨の後も植桝の水がまったく地面に浸透していない場所があり、この状態を当社では「鉢底穴の無い植木鉢」と呼んでいます。上からの枯れが進んだためか、幹や支柱だけが残った場所もありました。
Q4. 樹木が育ちやすいのは、どんな土ですか。
柔らかくフカフカで、水もちが良いけれど水はけも良い土です。国総研の手引きも、透水性が良く水が停滞しないこと、硬さが適当なこと、適度な保水性があること、有害物質を含まず、酸度と養分が適当なことを植栽基盤の条件に挙げています。
Q5. 植栽基盤診断では、何を調べますか。
東京都建設局のマニュアルでは、試坑を掘って土の断面を見るほか、山中式土壌硬度計などで硬さを、長谷川式簡易現場透水試験で透水性を測ります。さらに保水性、pH、電気伝導度(塩類濃度)、養分を室内分析で調べる方法が示されています。
Q6. 土のほかに、生育不良の原因には何がありますか。
周辺の工事による根の切断や傷、踏み固め、ベッコウタケやナラタケのように生きた組織にも入り込む腐朽菌、風や日照などの立地環境、過密な植栽による競合や不適切な強剪定などです。いずれも東京都建設局のマニュアルや国総研の手引きに挙げられています。
Q7. 生育不良の木は、元に戻りますか。
原因と程度によります。国総研の街路樹再生の手引きは、剪定や植栽基盤の整備・改良による生育の改善を挙げる一方、著しい生育不良で回復が見込めない場合は、同じ樹種を植え直すことが効果的としています。まず原因を調べることが先になります。

建物の前に植えられた木。樹冠が片側に寄っている

芯の幹が途中で無くなり、脇から伸びた幹に樹冠がついたカツラ
カツラの木
幹の芯が無くなって片側に傾いたようなおかしな形になってしまっています。
現場での経験から、生育不良になる緑化木の多くは重機によって造成された場所に植栽されます。すると、
・土が硬すぎて根が伸びられない!
・水がはけなくて根腐れになる!
と少しずつ変調をきたしていきます。
現場での経験から、不適な植栽環境で植えられた樹木は、だいたい上部の梢端から枯れていきます。
根がしっかり機能しなければ、水分も養分も上部の枝先まで送り届ける事は出来ません。
その為にも樹木を植える前に先日ブログ内でご紹介したような
土壌を診断(植栽基盤診断)する必要があります。
先ほどのカツラが植栽されていた場所と同じ公園です。

樹皮がはがれた幹だけが残り、丸太の支柱に囲まれた植桝

木が無くなり支柱だけが残った植桝。水が地面にしみ込まずにたまっている
上部からの枯れが進行した為か、
幹だけ・・・、支柱だけ・・・となってしまっている箇所もありました。
よく見ると雨が降った後、植桝の水が全く地面に浸透していません。
こういう状態を「鉢底穴の無い植木鉢」と勝手に呼んでます。
多少語弊もあると思いますが、
建築物にとっては固くてしっかり建物を支持する地盤(土壌)が一番ですが、
樹木にとってはどうでしょうか?
全く真逆の性質が求められます。
柔らかくフカフカで、
水もちが良いけど水はけも良い
そんな土壌が樹木は大好きです。
植栽前のちょっとしたひと手間(植栽基盤診断)でこれから何十年と育ってくれる樹木が
健全に育つことが可能になります。
生育不良とは ― 樹木医が見る「樹勢」の7つの視点
樹木医が生育不良かどうかを判断するときは、木全体の勢い(樹勢)を見ます。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)では、次の7つの視点で樹勢を5段階に評価します。カッコ内は、評価が下がったときに見られる状態の例です。
- 枝の伸長量(枝が細く短い。ひどくなると、節と節の間が詰まったショウガのような形になる)
- 梢や上枝の先端の枯れ(枯れが多い)
- 下枝の先端の枯れ(枯れが多い、切断が目立つ)
- 枝や幹の枯れ・傷(古い傷が残る、腐朽や空洞がある)
- 剪定後の巻き込み(巻き込みが遅く、切り口が残る)
- 葉の大きさ(全体に小さい)
- 葉の色(変色が多い)

葉の様子は生育環境によって大きく変わるため、マニュアルは、周りの同じ樹種の様子も参考にして判断するとしています。また、梢の衰弱や枝先の枯れ下がりがあるときは、根株の腐朽の末期、根の障害、生育基盤の問題などが関係しているとして、注意深く見ることを求めています。
生育不良の主な原因
原因は一つとは限りません。手引きやマニュアルに挙げられているものを、5つに分けて整理します。
1. 植栽基盤(土)の問題
植栽基盤とは、「植物の根が支障なく伸長して、水分や養分を吸収することができる条件を備え、ある程度以上の広がりがあり、植物を植栽するという目的に供せられる土層」のことです(日本緑化センター『植栽基盤整備技術マニュアル』2009年)。植栽基盤には、根に水分・養分・酸素を過不足なく届けられることが求められ、その条件の一つが「透水性(通気性)が良好であり、かつ下層との境界等で水が停滞しないこと」です。
東京都建設局のマニュアルは、腐朽菌のほかに樹勢不良となる原因として、次のものを挙げています。
- 締め固め: 土が硬く、根が発達できない
- 透水性の悪さ: 水がはけず、根腐れを起こす
- pHや塩類濃度の異常: 養分や水分の吸収が妨げられる
- 植栽基盤の狭さ: 土の水分が足りず、乾燥害を起こす

本文で触れた「土が硬すぎて根が伸びられない」「水がはけなくて根腐れになる」は、この上の2つにあたります。どのくらいの硬さや水はけなら問題なのかは、国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」が、植栽前の土壌調査の判定基準の例として示しています(表-2.6。植栽基盤整備マニュアル(2009)をもとに作成されたもの)。
- 土の硬さ(山中式土壌硬度計): 11〜20mmが良、24mm以上と11mm以下は不良
- 透水性(長谷川式簡易現場透水試験器): 毎時100mmを超えれば良、毎時30mm未満は不良
- 酸度(pH): 5.6〜6.8が良、4.5未満と8.0を超えるものは不良
「良」と「不良」のあいだの「可」も含めて、表にすると次のとおりです。
| 調べること(器具) | 良 | 可 | 不良 |
|---|---|---|---|
| 土の硬さ(山中式土壌硬度計) | 11〜20mm | 20〜24mm | 24mm以上、11mm以下 |
| 透水性(長谷川式簡易現場透水試験器) | 毎時100mmを超える | 毎時30〜100mm | 毎時30mm未満 |
| 酸度 pH(H2O)(pH計) | 5.6〜6.8 | 4.5〜5.5、6.9〜8.0 | 4.5未満、8.0を超える |
良は植栽基盤として望ましい、可はほかの要素と重なった場合などに樹種によっては影響を受けることがある、不良は明らかに樹木の生育などに悪影響を及ぼす状態。出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料第1059号、2019年)p.1-57 表-2.6(植栽基盤整備マニュアル(2009)をもとに作成されたもの)
2. 根の傷み
東京都建設局のマニュアルは、周辺の工事などで根が切られたり傷つけられたりすることを、樹勢が衰える原因として挙げています。根はふだん目で見られないため、根の切断や伸長不良があっても気づきにくく、植栽基盤の状況や工事の履歴にも注意するよう求めています。国総研の手引きも、近くの舗装工事などで、植栽基盤の土が締め固められることがあるとしています。人に踏み固められること(踏圧)を防ぐ対策も、東京都建設局のマニュアルに示されています。
3. 病気・害虫
木材腐朽菌(木を腐らせるキノコの仲間)の多くは、木の死んだ組織を分解して栄養をとります。ただ、ベッコウタケやナラタケのように、条件によっては生きた組織にも入り込む種類があり、東京都建設局のマニュアルは、樹勢への影響にも注意するよう求めています。病気と害虫の有無は、国総研の「街路樹再生の手引き」の生育状況調査の記入票でも、確かめる項目に入っています。
4. 気象・立地
東京都建設局のマニュアルは、木の生育に影響している風や日照条件などの立地環境も、診断のときに記録するよう求めています。また、樹皮の薄い樹種で樹勢が弱っていると、強い日差しや高温が続いたときに形成層が壊死し、樹皮が溝状に枯れることがあるとしています。国総研の「街路樹再生の手引き」の記入票にも、「気象による影響」の欄があります。
5. 管理(植え方・剪定)
国総研の「街路樹再生の手引き」は、老木化のほか、過密に植えられたことによる木どうしの競合や、不適切な強剪定を、生育不良の原因に挙げています。東京都建設局のマニュアルも、強剪定などの不適切な処置で、かえって樹勢を弱めてしまう例が少なくなかったとしています。
生育不良かどうかを確かめる順番
東京都建設局のマニュアルの見方に沿って並べると、次の順になります。
- 時期を選ぶ: 樹勢の衰えを確かめるなら、葉が展開する時期が適しています。
- 周りの同じ樹種と比べる: 葉の大きさや色は環境で変わるため、近くの同じ木と見比べます。
- 上を見る: 梢や枝先の枯れ、枝の伸び方は、下からは見えにくいところです。マニュアルの外観診断の用具には、双眼鏡も入っています。
- 幹と根元を見る: キノコ、樹皮の傷や枯れ、根元の傷みを確かめます。
- 足元の土を見る: 雨の後に水がたまったままになっていないか、踏み固められていないか、木の大きさに対して植栽地が狭すぎないかを見ます。
この公園の植桝で見た、雨の後に水がまったく地面にしみ込まない様子は、5番目にあたります。
樹木医の診断の流れ
東京都建設局の街路樹診断は、次の流れで行われます。
- 樹木点検: 外観診断が必要な木と、維持管理の処置が必要な木を拾い出します(任意の点検)。
- 外観診断: 樹勢と樹形から活力を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝を見る「部位診断」を行い、健全か健全に近い(A)、注意すべき被害(B1)、著しい被害(B2)、不健全(C)の4段階で判定します。
- 機器診断: 外観診断で必要とされた木について、診断機器で腐朽や空洞の程度を数値で把握します。
- 総合判定と処置: 結果に応じて、処置と次の診断の時期を決めます。

樹木点検と外観診断の項目は「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)」、機器診断と総合判定は「後編」で説明しています。
原因が土にありそうなときは、植栽基盤の土壌調査を必要に応じて行います。マニュアルでは、試坑を掘って土の断面と根を見る方法、硬さや透水性の現地での測定、pH・電気伝導度・養分の室内分析などを、目的に応じて選ぶとしています。
処置は原因によって変わります。国総研の「街路樹再生の手引き」は、生育不良への対策として、剪定や、植栽基盤の整備・改良(狭い植栽桝の拡大や、土の保水性・透水性・養分の改善)などを挙げ、著しい生育不良で回復が見込めない場合は、同じ樹種を植え直すことが効果的としています。東京都建設局のマニュアルも、水が多すぎる植栽地には暗渠の設置や不透水層の破壊・除去を、葉が小さくなったり黄色くなったりする樹勢低下には緩効性肥料の施肥などを挙げています。
当社では、樹木診断(外観診断・機器診断)と、土壌調査・土壌改良(植栽基盤)を行っています。植栽基盤の考え方は「植栽基盤調査とは?」でも説明しています。木の育ち方が気になるときは、お問い合わせページからのご相談をお待ちしています。
出典・参考情報
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度) 第Ⅳ章 診断後の樹木の扱いについて/1 樹木の処置について(p.69、p.79)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料第1059号、2019年2月) 第1編第2章(p.1-53〜1-57、p.1-67)
いずれも2026年9月27日に内容を確認しました。
加筆にあたり、次の資料を確認しました(2026年10月3日)。
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度) 第Ⅰ章(p.3)、第Ⅱ章(p.5)、第Ⅲ章(p.11、p.15、p.18〜19、p.21、p.28、p.42、p.66)、第Ⅳ章(p.79、p.82)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料第1059号、2019年2月) 第1編第2章 表-2.6(p.1-57)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」(国総研資料第885号、2016年3月) 第1章 1.1(p.1-1〜1-2)、第3章 生育状況調査の記入票例、図-3.18 生育不良に対応した保全対策工のイメージ
- 大阪府「植物の生育を支える植栽基盤」(日本緑化センター『植栽基盤整備技術マニュアル』2009年の定義と成立条件を引用したページ)
株式会社トシ・ランドスケープ
Toshi Landscape inc.
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