今回の「樹木模擬診断研修会」は、最新機器のデモンストレーションではなく、“人の眼”と“機械の眼”を擦り合わせることで樹木診断の解像度を高めるという明確な理念のもとに実施されました。
機器活用の知識を増やすだけでなく、専門家と市民、現場と研究をつなぎ、樹木をめぐる課題を社会と共有するための学びの場であったことが、終始一貫して伝わってきました。
とりわけ裏テーマとして掲げられた
「専門家の眼」と「一般の方の眼」を合わせる
という視点は、近年の都市樹木管理の社会的要請を象徴するキーワードであり、樹木医として強く共感を覚えました。

なぜ今、“共通理解”が必要なのか——近年の樹木を取り巻く問題点
近年、日本の樹木を取り巻く環境は大きく変化しています。
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都市樹木の一斉老齢化(高度経済成長期から昭和期に植えられた樹木が、植栽から数十年を経ています)
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ナラ枯れ・松枯れをはじめとする樹病の全国的拡大
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豪雨・強風・猛暑など極端気象の増加によるリスクの顕在化
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樹木管理予算の縮減による診断・更新の遅れ
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専門人材(樹木医・クライマー)の不足
こうした複合的な問題が重なり、外観だけではリスクを捉えきれない木が増えているのが現状です。
だからこそ、「機械による可視化」と「人の感覚・経験」が対立するのではなく、補完し合う診断体制が求められています。
今回の研修は、その重要性を可視化する“モデルケース”でもありました。
各種診断機器の理解と役割——範囲が違うからこそ、組み合わせに価値が生まれる
研修で扱った機器は、調べる所も、木に与える影響も違います。表にまとめます。
| 項目 | レーダ(地中レーダー・ツリーレーダー) | アーボソニック3D | ピカス(音波とトロニック) | レジ(Resi PD) |
|---|---|---|---|---|
| 東京都のマニュアルでの名称 | レーダを用いた反射診断(マニュアルの例はツリースキャン) | 多点式応力波速度測定器 | 弾性波樹木診断装置 | 貫入抵抗測定器 |
| 測り方 | 幹の周りにアンテナを当てて一周走査し、腐朽した部分の境界で反射する電磁波をとらえる | 幹の周りのセンサーの間で、音が伝わる時間を測る(面) | 同じく音が伝わる時間を測る(面)、トロニックは電気の通りにくさを測る | 細い針を回転させて差し込み、抵抗の高低を記録する(線) |
| わかること | 幹の内部の腐朽・空洞の境界、根系の分布の調査にも使われる | 断面のどこに音の遅い部分があるか | 断面の音の遅い部分、トロニックは材の水分などの性状 | 針が通った線の上の、腐朽・空洞の位置と健全な材の厚さ |
| 樹木に与える影響 | 非破壊 | 樹皮・形成層がわずかに傷付く(専用の釘を6〜32個) | 樹皮・形成層がわずかに傷付く(釘を12〜30個) | 樹皮・形成層・木部がわずかに傷付く(軸径1.5mm・先端幅3mmのキリ) |
| 本文で紹介した使いどころ | 本数の多い街路樹や大規模施設で、精密診断の対象を絞り込む | 巨樹・文化財樹木など、精度が重視される場面 | 不整形な断面の木、初期腐朽や、湿潤腐朽か空洞かの見分け | 音波診断で見つけた弱い部分を確かめる |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」表Ⅲ-3・1(p.53)、参考資料 p.110(ツリースキャン)、応用地質「倒木による事故を防ぐ『樹木腐朽空洞調査』」、IML Electronic「PiCUS TreeTronic」製品ページ。「本文で紹介した使いどころ」は本文の記述
地中レーダー(ツリーレーダーを含む)——地中の“見えない世界”を読む
地中レーダーは、地中の根系の分布を、掘らずに調べられる技術です。
応用地質様は、幹の内部の空洞や腐朽の有無をレーダで短時間に判定する簡易診断と、レーダによる根系分布の調査を行っています(応用地質「倒木による事故を防ぐ『樹木腐朽空洞調査』」)。
応用地質様の「ツリーレーダー」は、
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外観観察
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レーダーによる簡易診断
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必要木のみ精密機器診断
という流れで運用されており、本数の多い街路樹や大規模施設の管理で、精密診断の対象を絞り込むのに向いています。

- 幹にセンサーを取り付けて音波を測る機器診断
音波診断(アーボソニック3Dとピカス)の違いと補完関係
同じ「音波トモグラフィ」であっても、特徴は異なります。
アーボソニック3D
多点センサーを用いた高精度の応力波解析により、内部構造を2Dだけでなく3D的に把握できます。
巨樹・文化財樹木など、精度が重視される場面に適しています。
- 根元のキノコとアーボソニック3Dのセンサー
- 根元に巻いたセンサーとキノコ
- アーボソニック3Dの3次元の解析画面
ピカス(PiCUS)
断層画像が色で表示され説明性が高く、不整形断面の木でも解析しやすい特長があります。
Sonic(音波)とTreeTronic(電気抵抗)を組み合わせることで、
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初期腐朽の検出
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湿潤腐朽か空洞かの判別
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一見健全でも内部劣化が進んだ木の把握が可能になります。
- 幹に取り付けたピカスのセンサー
- センサーを打って音波を送る
- ピカスの解析画面
- 幹の横で断層画像を確かめる
レジ(Resi PD/穿孔抵抗測定)——ピンポイントで“確証”を得る技術
微細な錐の貫入抵抗を読み取ることで、腐朽の進行度や健全部の残存率をミリ単位で把握できます。
音波診断で見つけた弱い部分を、確かめる段階で使います。

- レジ(Resi PD)の本体
- レジで幹の穿孔抵抗を測る
- レジ(Resi PD)で幹の貫入抵抗を測る
機器は判断を“決める”のではなく、“支える”もの
研修を通じて改めて感じたのは、
最終判断はあくまで樹木医の統合的な視点で行うものだという原則です。
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視診・触診
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樹種特性
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環境条件
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管理履歴
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利用状況
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現場感覚
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そして機器データ
これらすべてを束ねて初めて、樹木のリスクと未来像が立体的に見えてきます。

ハイテクであっても“人の眼”は欠かせず、
アナログであっても“科学的根拠”は必要です。
その両輪こそが、これからの都市樹木管理を支える基盤になると確信しました。
マメシバ造園様の事例と、樹上の体感を診断に生かす試み
マメシバ造園様が紹介された
《Office By-you(台湾)》
《Dancing Trees, Singing Birds(東京)》
といった事例は、樹木が単に“管理すべき対象”ではなく、
人の身体感覚・心理的安心・コミュニティ形成に寄与する存在へと進化していることを示唆していました。
また、クライマーが樹上で感じる
「揺れ」「怖さ」「違和感」
といった主観的体感を数値化し、診断に取り入れようとする試みも示唆に富むものでした。
これは、樹木医の専門領域が
“科学診断 × 人の感性”へと広がっていく未来の兆しであると感じています。
多分野とつながる樹木医へ
都市樹木が果たす役割は、安全管理だけではありません。
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地域文化の継承
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景観の価値形成
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心理的・社会的な豊かさ
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都市環境の質向上(温熱環境・生態系)
これらすべてに関わる存在であり、樹木医には
科学・市民参加・造園・建築・地質・行政・教育との協働
が求められています。
今回の研修は、その未来像への実践的な一歩でした。
感謝の気持ちを込めて
技術提供者、参加者、市民の視点が自然に交わる、とても豊かで魅力的な場でした。
企画設計、CPD調整、会場環境に至るまで、細やかなご配慮に深く感謝申し上げます。
河合菜採さん(マメシバ造園)
樹木医・クライマー・研究者・市民の距離を近づける場を、継続してつくり続けておられる姿勢に、心から敬意を抱いております。
私たちも今回の学びを現場へ還元し、
日々の樹木診断に生かしてまいります。
貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。










































