マツ枯れの伐倒駆除に長く使われてきたくん蒸剤「NCS」の農薬登録が、2026年6月30日に失効しました。林野庁の広報誌に載った森林総研の研究、抵抗性マツの新しい品種、秋から春に行う伐倒駆除と樹幹注入の段取りを、一次情報をもとに樹木医が整理します。
月に1回お届けしているマツ枯れ(松くい虫被害)のニュース、今回は第2回です。第1回では、令和7年度の全国の被害量が約63万m3と前年度の1.6倍に増えたこと、山形県庄内の海岸林の状況などを取り上げました。今回は、防除の道具と研究の動き、そしてマツノマダラカミキリが枯れた松の中で冬を越すこの時期にできることを中心にまとめます。
今月の要点
- 伐倒木のくん蒸に使われてきたカーバム剤「NCS」「ヤシマNCS」の農薬登録が、2026年6月30日に失効しました。樹幹注入剤の「ホドガヤセンチュリーエース注入剤」も2月27日に失効しています。
- 林野庁の広報誌「林野」9月号で、森林総合研究所が、夏の異常高温の影響もあって被害が広がっていると伝え、化学農薬に頼らない防除の研究を紹介しました。
- 抵抗性マツは、令和6年度末までにアカマツ326品種、クロマツ293品種、リュウキュウマツ5品種が開発され、令和7年度にも14品種が加わりました。
- 伐倒駆除は、秋から翌春、カミキリが枯れた松から出てくる前までに行います。厳冬期のくん蒸は避けます。
- e-Stat の令和7年度の統計は、10月6日の時点ではまだ載っていません。
最新情報──くん蒸剤と注入剤の登録が失効
農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の失効農薬一覧によると、マツ枯れの伐倒木のくん蒸に使われてきたカーバム剤の「NCS」と「ヤシマNCS」は、2026年6月30日に登録が失効しました。FAMIC の一覧に載っている失効の理由は、登録を保つために必要な追加の資料をそろえる経費です。同じ理由で、樹幹注入剤の「ホドガヤセンチュリーエース注入剤」(塩酸レバミゾール)も2026年2月27日に失効しました。ボーベリア菌を使った「ボーベリアン」も9月16日に失効しています。
いま伐倒木のくん蒸に登録があるカーバム系の薬剤は「キルパー40」です。ラベルの使い方は、伐倒木をシートで覆い、成虫の羽化脱出前に1回くん蒸するものです。樹幹注入剤には、酒石酸モランテル、エマメクチン安息香酸塩、ネマデクチン、ミルベメクチン、塩酸レバミゾールなどの有効成分の製品があり、注入できる期限は製品ごとに「成虫発生の2〜3か月前まで」「発生前まで」などと決まっています。少し前の手引きや見積りには失効した薬剤が載っていることもあるので、使う前には、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで、適用と使い方を確かめる必要があります。
山形県の「庄内海岸林再生プロジェクト通信」第5号(8月27日)によると、7月31日の幹事会で、海岸林を砂草地から丘の頂・風背地までの区域に分け、区域ごとに目指す森林の姿を決める基本方針の案が示されました。方針は年度内に最終決定されます。鶴岡市は、湯野浜・西郷地区で、業者に頼んで被害木を伐り、枝まで含めて破砕またはくん蒸する費用の2分の1(上限5万円)を補助しています。
最新の防除の知見
化学農薬に頼らない防除の研究(「林野」9月号)
林野庁の広報誌「林野」2026年9月号に、森林総合研究所の「終わらないマツ材線虫病被害、終わりなき研究対応」が載りました。ひと頃は「過去のもの」のように扱われかけていた被害が、ここ数年の夏の異常高温の影響もあって各地で深刻に広がっている、という書き出しです。いまの防除は、駆除・予防散布・樹幹注入・抵抗性苗の植栽の組み合わせで、駆除と予防散布は化学農薬への依存が高いため、生物的な防除への期待が高まっているとしています。
紹介されている研究は3つです。1つ目は、虫を殺す線虫(昆虫病原性線虫)の利用で、1〜2頭が入っただけでカミキリの幼虫が死ぬことがあります。2つ目は、害虫の特定の遺伝子の働きを抑える「RNA農薬」のカミキリへの応用です。3つ目は、昆虫の繁殖を操作する共生細菌ボルバキアの利用で、マツノマダラカミキリからは見つかっていないものの、近い仲間のビロウドカミキリで感染が見つかっています。いずれも研究の段階で、すぐに現場で使えるものではありません。

地域ごとに方針を選ぶ(森林総研の7つの方針)
同じ記事は、4つの質問に答えると、地域に合った対応の方針にたどり着くフローチャートも紹介しています。もとになった森林総研の冊子「マツ材線虫病にどう対処するか」(2022年)では、年平均気温、周囲3〜5kmに被害が広がっている所があるか、守るべき松林か、十分な予算を入れられるか、の4つを問い、次の7つの方針に分けています。
- 徹底した駆除で根絶をめざす
- 徹底した駆除と予防散布を組み合わせる
- 選んだ枯れ木を駆除する(寒い地域に限る方法)
- 被害が広がる先端に防除を集め、空白地帯をつくる
- 守る松林を孤立させて防除を集める
- 予算の範囲で、1本ずつ予防する
- 放置して松以外の林に変えていく(人家や道路の近くの枯れ松は、倒れる前に対処する)
冊子は、虹の松原を2番目、三保松原を5番目の方針の成功例としています。庭や社寺の大切な1本は、多くの場合6番目にあたります。
抵抗性マツの新しい品種
林木育種センターの「林木育種情報」No.49(2026年3月)によると、令和6年度末までに、府県と協力してアカマツ326品種、クロマツ293品種、リュウキュウマツ5品種の抵抗性品種が開発されました。リュウキュウマツの抵抗性品種は、令和6年度に全国で初めて開発されたものです。令和7年度には、山口県の銘木「滑(なめら)マツ」に由来するアカマツ9品種、茨城県のクロマツ1品種、熊本県のクロマツ4品種が加わりました。熊本県の4品種は、抵抗性品種どうしを掛け合わせた第2世代の品種です。

ただし、第1回でも触れたとおり、抵抗性マツは「枯れにくい松であっても、枯れない松ではない」とされています。植えた後も、見回りと駆除を続けることが前提です。

秋から春にできること
愛知県は、伐倒駆除を「秋期〜春期」に、カミキリの羽化脱出前までに行うとしています。東北森林管理局も、伐倒くん蒸は、カミキリの飛散・移動が終わった秋から翌春の羽化脱出前までに行うとしています。森林総研の冊子は、成虫が出てくる時期までに作業を終えることを絶対条件としたうえで、次の点を挙げています。
- くん蒸は、連日の最高気温が5℃を下回る厳冬期を避け、薬液を1か所に流し込まない。
- 破砕するときは、チップの厚さを6mm以下にする。
- 土に埋めるときは、10cmの土をかぶせれば成虫の脱出をほぼ防げる。
- 被害を受けた材を、被害地から被害のない地域へ動かさない。
枝の処理も欠かせません。青森県産業技術センターの手引きは、直径2cmほどの枝にも幼虫が入っていることが多いため枝も全部処理し、細い枝は丸太の山の中段より下に入れるとしています。

翌春の予防の準備もこの時期です。樹幹注入は、製品ごとの期限(成虫発生の2〜3か月前まで、など)から逆算して行い、愛知県は時期を「冬季」としています。森林総研の冊子は、老木や庭園木への施用には十分に注意し、五葉松の類は薬害が出やすいので勧められないとしています。毎年少しずつ処理する木を変えていく場合は、どの木にいつ注入したかを記録しておきます。

松やにの出方で弱った松を探す調査(樹脂滲出調査)は、冬は松やにの出が落ちるため向いていません。青森県の手引きの防除暦では、4〜5月と9〜11月に行います。

抵抗性マツを植える時期について、森林総研の成果(2016年)は、クロマツの植栽の適期を「開葉前の春と成長終了後の秋」としています。仙台の試験では、コンテナ苗を1月以外の各月に植えて、生存率が98%以上でした。
樹木医から見たこと
NCSとセンチュリーエース注入剤の失効は、松を管理する側の段取りに直接かかわります。これまでの作業手順や見積りに失効した薬剤が入っていれば、使える製品と、その期限・回数を確かめ直す必要があります。樹幹注入は製品ごとに注入できる期限が違うので、冬のうちに、どの木に、どの製品を、いつ入れるかを決めておくことが大切だと考えています。
森林総研の7つの方針は、地域の松林を対象にしたものですが、個人のお宅や社寺の1本の松を考えるときにも参考になります。周りに被害がどれだけあるか、その松をどこまで守りたいか、どれだけ費用をかけられるか。この3つを整理すると、予防の樹幹注入、枯れた枝や周りの枯れ松の処理、場合によっては植え替えのどれを優先するかが見えてきます。当社でも臥竜の松の薬剤散布など、1本の松を守る仕事を続けてきました。
来月は、e-Stat に載る令和7年度の統計や、各地の冬の伐倒駆除の動きを追っていきます。
よくある質問
Q1. マツ枯れの伐倒くん蒸に使っていたNCSは、もう使えないのですか。
カーバム剤の「NCS」「ヤシマNCS」は、2026年6月30日に農薬登録が失効しました。いま伐倒木のくん蒸に登録があるカーバム系の薬剤は「キルパー40」です。使う前に、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで確かめる必要があります。
Q2. 枯れた松の伐倒駆除は、いつ行えばよいですか。
愛知県や東北森林管理局は、秋から翌春、マツノマダラカミキリが羽化脱出する前までに行うとしています。森林総研の冊子は、成虫が出てくる時期までに終えることを絶対条件とし、くん蒸は連日の最高気温が5℃を下回る厳冬期を避けるとしています。
Q3. 樹幹注入は、いつ行えばよいですか。
製品ごとに、ラベルで「成虫発生の2〜3か月前まで」「発生前まで」などの期限が決まっています。愛知県は時期を「冬季」としています。五葉松の類は薬害が出やすく、森林総研の冊子では施用は勧められていません。
Q4. 抵抗性マツには、どのくらいの品種がありますか。
林木育種センターによると、令和6年度末までにアカマツ326品種、クロマツ293品種、リュウキュウマツ5品種が開発され、令和7年度にもアカマツ9品種とクロマツ5品種が加わりました。ただし、枯れにくい松であっても、枯れない松ではないとされています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・農林水産消費安全技術センター「登録・失効農薬情報」(失効農薬一覧 2026年9月30日現在)、「農薬登録情報ダウンロード」、農林水産省「農薬登録情報提供システム」
・林野庁 広報誌「林野」2026年9月号「終わらないマツ材線虫病被害、終わりなき研究対応」(森林総合研究所)
・森林総合研究所 東北支所「マツ材線虫病にどう対処するか―防除対策の考え方と実践―」(2022年3月)
・林木育種センター「林木育種情報」No.49(2026年3月)・No.48、森林総合研究所「研究成果選集2023」
・森林総合研究所 東北支所「海岸林再生に向けたクロマツの通年植栽」(2016年)
・愛知県「森林病害虫の防除」、東北森林管理局「松くい虫被害対策」
・青森県産業技術センター 林業研究所「マツ材線虫病(松くい虫被害)の監視・防除対策〜対策の手引き〜」(令和6年7月改訂)
・山形県「庄内海岸林再生プロジェクト通信 第5号」(令和8年8月27日)、鶴岡市「松くい虫被害木伐倒費補助金」
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