樹木点検表は、何をどう読めばよいのか。東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」に載っている樹木点検表の記入例(トウカエデ3本)を使い、上の欄から点検結果までを1欄ずつ解説します。15項目の○の付け方、○の個数から「外観診断が必要」が決まる仕組み、特記事項と写真の決まりまで、樹木医がまとめました。
街路樹や公園の木を管理していると、委託先から点検表が届く、あるいは自分たちで点検表を付ける、という場面があります。縦に細かく項目が並び、○と数字が並んだ表は、慣れないと読み方が分かりにくいものです。けれども、この表は「どの木を、次に誰が見るべきか」を決めるための、よく考えられた道具です。欄の意味が分かると、1行を見ただけで、その木に何が起きていて次に何をすべきかが読み取れるようになります。
点検の項目そのもの(根元の揺らぎの確かめ方、キノコの見分け方など)は、樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)に、イラスト付きで書きました。この記事は、点検表という書類の読み方に絞ります。ページ番号は、すべて上記マニュアルのものです。
樹木点検は、外観診断の手前の「ふるい」

街路樹診断の流れ図(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.1・p.11・p.67 をもとに当社作成)
東京都のマニュアルでは、樹木点検は街路樹診断の流れのいちばん手前に置かれています。目的は2つあります。ひとつは「外観診断が必要な木」を拾い出すこと、もうひとつは「維持管理の処置が必要な木」を拾い出すことです(p.5)。かつて「初期診断」と呼ばれていたものが、令和3年度の改定で「点検」として位置づけ直されました。
点検は任意とされていますが、次の外観診断までの間に木を見守るのに必要な項目がそろっているので、樹木の知識を持つ職員がいる場合は、できるだけ行うのが望ましいとされています(p.5)。決まりの要点は次のとおりです。
| 項目 | マニュアルの決まり |
|---|---|
| 対象 | 基本は高さ3m以上の高木すべて 目的によって、外観診断の対象の木に絞ってもよい |
| 時期 | 着葉期(5月から10月)が望ましい キノコを見つけるのが主な目的なら季節の変わり目や雨の多い時期、樹勢の衰えを確かめるなら葉が開く時期 |
| 行う人 | 樹木の知識を持つ街路樹の担当職員 委託してもよい |
| 頻度 | 決まりはなく、目的と木の状況に応じて管理者が定める |
| 人数 | 測る人と記録する人を分け、最低でも2人で行うのが望ましい |
| 評価 | 「異常なし・該当なし」か「異常あり・該当あり」の2段階 |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.5・p.6

樹木点検は、見る人と記録する人を分けて、2人以上で行うのが望ましいとされています(イラストは当社作成)
大事なのは、点検で問題がなかった木でも、診断の対象の木は5年から10年の周期で外観診断を受ける必要がある、という点です(p.5)。点検は外観診断の代わりではなく、外観診断までの間をつなぐ見守りです。
点検表の見取り図 6つの欄を順に読む

樹木点検表の見取り図(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅶ章 参考資料 p.133 の記入例をもとに当社作図)
上の図は、マニュアルの参考資料に載っている樹木点検表の記入例(p.133)を、当社で描き直したものです。トウカエデ3本の点検結果が書き込まれています。表は横に長く、左から右へ、次の6つの欄に分けて読むと分かりやすくなります。
- ❶ 上の欄と左の欄(いつ・誰が・どの木を)
- ❷ 維持管理上の問題(6項目)
- ❸ 活力点検(3項目)と樹木の異常(6項目)
- ❹ ○の個数(❷の個数と、❸の個数の2つ)
- ❺ 点検結果(3つの欄)
- ❻ その他特記事項
なお、マニュアルには1本の木を1枚に書く形の点検表(様式2、p.134)もあり、そちらには被害部の写真を貼る欄が付いています。項目と点検結果の決まり方は同じです。
❶ 上の欄と左の欄 いつ・誰が・どの木を点検したか
上の欄には、点検事務所、点検日、点検者、路線名、点検箇所(住所)を書きます(p.6)。右上の凡例には「異常なし・該当なし=空欄」「異常あり・該当あり=○」とあり、この表では空欄は「見たが異常がなかった」という意味になります。
左の欄は、通し番号、樹木番号、樹種、幹周りです。通し番号は点検ごとの連番で、樹木番号は街路樹台帳と同じ番号を振ります(p.6)。台帳の番号と合っていることで、過去の点検や診断の記録と1本ずつつながります。

幹周りは地上1.2mの高さで測ります(イラストは当社作成)
幹周りは、地上1.2mの高さで幹の周りをスチールメジャーなどで測った長さ(cm)です。1.2mの位置が枝の分かれ目や大きな凸凹に当たるときは、その上の測りやすい位置で測ります。株立ちの木は、すべての幹の周りを足した合計に0.7を掛けた値を書きます(p.6)。記入例の3本は、68cm・70cm・72cmです。
❷ 維持管理上の問題 日常の管理で対応すべき6項目
❷の6項目は、木の健康というより、道路の安全と日常の管理の視点で見る項目です(p.6〜8)。
| 項目 | ○を付けるとき | 特記事項に書くこと |
|---|---|---|
| 建築限界越え車道側 | 幹や枝葉が車道側の建築限界(高さ4.5m、重要物流道路は4.8m)の内側に入っている | 接触痕の有無、剪定が必要なこと、越えている枝の太さ・長さ・本数の概略 |
| 建築限界越え歩道側 | 幹や枝葉が歩道側の建築限界(高さ2.5m)の内側に入っている | 剪定が必要なこと、枝の太さ・長さ・本数の概略 |
| 道路施設との競合 | 信号・標識・照明・電柱・バス停などと木がぶつかる、見えにくくしている | 支障の程度 |
| 支柱直し・撤去 | 根付いた木に支柱が残っている、必要な支柱が壊れている、支柱が無いのに揺らぐ | 撤去・補修・再設置のどれが必要か |
| 太枝枯れ・折れ | 大枝・中枝が枯れている、折れている(小枝の枯れは書かない) | 枯枝の太さ・長さ・本数 |
| 根上がり・舗装クラック | 根が舗装や縁石を持ち上げる、縁石を押し出す、樹木保護盤を持ち上げる、つまずきの原因になっている | 補修が必要なこと |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.6〜8

建築限界越え。車道側は高さ4.5m、歩道側は2.5m(イラストは当社作成)
マニュアルは太枝枯れ・折れについて、落ちると歩行者や車に大きな被害を与えるおそれがあるので丁寧に確かめる、と書いています(p.7)。根上がりについては、多くは樹勢の良い健全な木が、植えられた場所の広さを超えて育ったときに見られる、という説明があります(p.8)。○が付いたからといって、木が弱っているとは限らないということです。

根上がり・舗装クラック(イラストは当社作成)
❸ 活力点検と樹木の異常 木の健全さを見る9項目
❸の9項目は、木そのものの健全さを見る項目です。前半の3項目(活力点検)は木全体の元気さ、後半の6項目(樹木の異常)は根元・幹・大枝の傷みを見ます(p.8〜10)。
| 項目 | 見るところ | ○を付けない例 |
|---|---|---|
| 葉の状態 | 葉の大きさ・色・密度を、周りの同じ樹種と比べる | 冬で葉が無いときは項目から外してよい |
| 先端枝の枯れ | 枝先の伸び、梢の枯れ、枝の枯れ下がり | 冬は枝先の伸びや冬芽で判断し、周りの同じ樹種と比べる |
| 枯死・著しい衰弱 | 枯れていないか、ひどく弱っていないか | ― |
| キノコの有無 | 根元・幹・大枝のキノコ | ―(特記事項に必ず発生部位を書き、分かれば種類も) |
| 開口空洞 | 根元・幹・大枝の、口の開いた空洞 | ―(特記事項に部位を書く) |
| 樹皮枯死・欠損・腐朽 | 根元・幹・大枝の樹皮の枯れ・はがれ・腐れ | 小さく新しい剪定痕、ふさがりつつある傷、小さな樹皮の枯れ |
| 病虫害(穿孔痕・フラス) | 幹に穴をあける虫(カミキリムシ類など)の穴・木くず(フラス)・ヤニ、胴枯病・がんしゅ病などの病気 | 葉を食べる虫や葉の病気(危険度にあまり影響しない) |
| 揺れ | 幹を押したとき、地際にわずかなすき間ができるか、樹上が揺れるか | ―(押している本人は分かりにくいので複数人で) |
| 不自然な傾斜 | 幹の不自然な傾き、地際の周りの亀裂や盛り上がり | 途中から幹が立ち直って安定している |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.8〜10

揺れは、押す人と地際を見る人の2人で確かめます(イラストは当社作成)
キノコの欄では、マニュアルが特記事項に「必ず」発生部位を書くよう求めています(p.9)。根元や幹の下の方に出るキノコは根株の腐朽(倒木の原因)に、大枝や幹の枯れた所に出るキノコは枯れ枝の分解(落枝の原因)に結び付きやすく、出ている場所からリスクの種類を見当づけられるからです。キノコの種類と出る場所の関係は、前編の「カ キノコ」の節に図で載せています。
❹ ○の個数と ❺ 点検結果 2つの視点が別々に結果を出す

点検結果の決まり方(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.8・p.10 をもとに当社作図)
この表の要は、❹の2つの個数です。❷の6項目の○を数えた「①の○の個数」と、❸の9項目の○を数えた「②+③の○の個数」を、それぞれ別の欄に書きます(p.8・p.10)。
- ①の個数が1以上 → 点検結果の「維持管理の処置が必要」に○。その項目の処置を速やかに行う
- ②+③の個数が1以上 → 点検結果の「樹木の外観診断が必要」に○。外観診断を速やかに行う
- どちらも0 → 「概ね良好・異常なし」に○
2つの視点が別々に結果を出すので、1本の木に「維持管理の処置が必要」と「外観診断が必要」の両方に○が付くこともあります。たとえば、支柱が壊れているだけの健全な木は、処置の欄だけに○が付きます。逆に、道路の支障は無くても根元にキノコが出ている木は、外観診断の欄だけに○が付きます。○が1つでもあれば次の手当てにつながる、という単純な仕組みにしてあるのは、樹木の知識を持つ担当者が手早く点検できるようにするためです(p.6)。
マニュアルは、点検を外部に発注したときは、事故につながるおそれのある問題が見つかったら、速やかに都の監督員へ報告することを受託者にあらかじめ求めておく必要がある、とも書いています(p.10)。点検表は後でまとめて提出する書類ですが、危ないものはその日のうちに伝える、ということです。
❻ その他特記事項 ○の中身を言葉で残す
○は「異常がある」ことしか伝えません。どこに、何が、どの程度あるのかは、❻の特記事項に言葉で書きます。キノコの発生部位と種類、枯れ枝の太さや本数、建築限界を越えた枝の長さ、支柱をどうするか、といった内容です(p.6〜9)。記入例の1番には「先端枯れあり、大枝の枯れあり要撤去、照明柱と至近、樹皮欠損大、伐採要検討」とあります。
現場での経験から、点検表を受け取ったら、○の付いた項目と特記事項の書き込みを1つずつ突き合わせる読み方をおすすめしています。記入例の1番なら、「先端枯れあり」は先端枝の枯れの○、「大枝の枯れあり要撤去」は太枝枯れ・折れの○、「照明柱と至近」は道路施設との競合の○、「樹皮欠損大」は樹皮枯死・欠損・腐朽の○に当たります。一方で、歩道側の建築限界越え、葉の状態、開口空洞の○については、特記事項に詳しい内容が書かれていません。どの○に説明があり、どの○に無いかが分かると、外観診断のときに何を重点的に見るか、どの写真を見直すかが決まります。
「伐採要検討」という書き込みも、点検の段階では見立てのひとつです。点検は外観診断が必要な木を拾い出すためのもので、伐るか残すかは、外観診断や機器診断で確かめた結果をもとに決めることになります。
写真は1本に5点と、問題の箇所

点検の写真は1本に5点。①番号プレート ②全景 ③樹冠部 ④主要部 ⑤根元。○を付けた項目は問題の箇所も撮ります(イラストは当社作成)
点検表と一緒に残すのが写真です。マニュアルは、点検したすべての木について、次の5点を撮るよう定めています(p.10)。
- 樹木番号のプレート(番号が無ければ、白板やリスト・平面図の番号)
- 全景
- 樹冠部
- 主要部(幹を中心に、根元・幹・主な大枝が入る写真)
- 根元
さらに、○を付けた項目は、必ず6点目として問題の箇所を撮ります。写真はすべて縦長で撮り、多くなってもよいので、木ごとに写真票にまとめます(p.10)。番号のプレートを最初に撮っておくと、写真が何枚あっても、どの木の写真かを取り違えません。写真を撮るときのこつは、樹木の写真の撮り方にも書きました。
記入例の3本を読む
最後に、記入例の3本を、ここまでの読み方で通して読んでみます。
| 木 | ❷の○ | ❸の○ | 点検結果 |
|---|---|---|---|
| 1番 トウカエデ 幹周り68cm | 建築限界越え歩道側、道路施設との競合、太枝枯れ・折れ(3) | 葉の状態、先端枝の枯れ、開口空洞、樹皮枯死・欠損・腐朽(4) | 維持管理の処置が必要、外観診断が必要 |
| 2番 トウカエデ 幹周り70cm | 道路施設との競合(1) | 開口空洞、病虫害(2) | 維持管理の処置が必要、外観診断が必要 |
| 3番 トウカエデ 幹周り72cm | なし(0) | なし(0) | 概ね良好・異常なし |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅶ章 参考資料 p.133 の記入例をもとに当社作成
1番は、枯れた大枝と照明柱との競合という道路側の問題と、梢の枯れ・葉の異常・樹皮の欠損という木そのものの問題が重なっています。処置と外観診断の両方を急ぐ木です。2番は、道路施設との競合への対応と、幹の大きな開口空洞と病虫害を確かめる外観診断が必要です。3番は、今回の点検では異常が見られませんでした。ただし、この木も診断の対象であれば、5年から10年の周期での外観診断は欠かせません(p.5)。
点検の後に
「外観診断が必要」に○が付いた木は、外観診断へ進みます。外観診断では、樹木医などが活力診断と部位診断を行い、A・B1・B2・C の4段階で健全度を判定して、街路樹診断カルテにまとめます。そのカルテの読み方は、街路樹診断カルテ(外観診断)の読み方で、マニュアルの記載例を使って1欄ずつ解説しています。
マニュアルは、点検の結果をその後の日常管理に活用することが望ましい、と結んでいます(p.10)。点検表は、提出して終わりの書類ではなく、木ごとの記録を積み上げていく台帳の1ページです。
点検・診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。点検の結果を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木点検や樹木診断の仕様書・点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 樹木点検表とは何ですか?
A. 街路樹などの木を1本ずつ見て、外観診断が必要な木と、維持管理の処置が必要な木を拾い出すための記録表です。東京都建設局の令和3年度 街路樹診断等マニュアルの様式では、維持管理上の問題6項目と、活力点検3項目・樹木の異常6項目の計15項目に、異常があれば○を付け、○の個数から点検結果を決めます。
Q2. 樹木点検表の○と空欄は、それぞれ何を意味しますか?
A. ○は「異常あり・該当あり」、空欄は「異常なし・該当なし」です。空欄は点検しなかったという意味ではなく、見たうえで異常が無かったという意味です。○を付けた項目は、部位や程度を特記事項に書き、問題の箇所の写真を撮ることになっています。
Q3. 点検結果の「外観診断が必要」は、どう決まるのですか?
A. 活力点検3項目と樹木の異常6項目の○の個数が1以上なら、「樹木の外観診断が必要」に○を付けます。維持管理上の問題6項目の○が1以上なら「維持管理の処置が必要」に○を付けます。2つは別々に決まるので、両方に○が付くこともあります。どちらも0なら「概ね良好・異常なし」です。
Q4. 樹木点検はいつ、誰が行うのですか?
A. 東京都のマニュアルでは、樹木の知識を持つ街路樹の担当職員が行うことを想定し、委託してもよいとしています。時期は、枯れ枝や支障の様子が分かりやすい着葉期(5月から10月)が望ましく、測る人と記録する人を分けて2人以上で行うのが望ましいとされています。点検は任意で、頻度は管理者が定めます。
Q5. 点検で異常が無ければ、外観診断は要らないのですか?
A. 要ります。東京都のマニュアルでは、点検で問題が無かった場合でも、診断の対象となる木は5年から10年の周期で外観診断を行う必要があるとしています。点検は外観診断の代わりではなく、次の外観診断までの間に木を見守るためのものです。
出典・参考情報
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅱ章 樹木点検について(p.5〜10)、第Ⅶ章 参考資料「8 カルテ様式」(p.132〜134。様式1 樹木点検表・記入例・様式2)。本文のページ番号はすべて同マニュアルのものです。樹木点検表の見取り図と点検結果の決まり方の図は、同マニュアルの記入例と本文をもとに当社が作図しました。記入例の樹木番号などは、マニュアルの表記を伏せ字のまま写しています。
記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。点検の手順は上記マニュアルで確かめて描いていますが、絵は説明のための簡略化です。
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊





















