街路樹100万本の「樹冠を拡大する」剪定──都の方針を、現場で樹木を育てる側はどう受け止めるか|東京グリーンビズ連載 第2回 育てる

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都内の街路樹は約100万本(2024年4月1日時点)で、東京都はその約65万本を管理しています。都は「東京都の緑の取組 Ver.3」で、計画的な剪定により樹冠を拡大し、暑さ対策の緑陰を確保する方針を書きました。樹冠を広げる剪定と小さくする剪定の違いを、現場で樹木を育てる側から書きます。

連載「東京グリーンビズ」の第2回(全3回)です。第1回「まもる」では、都が「大径木等を中心とした樹木診断」を緑の計画に書き込んだ意味を考えました。今回は「育てる」です。

当社が伐採したケヤキの話から始めます。大田区のマンションで伐採したケヤキは、敷地の境界ぎりぎりに植えられ、落ち葉の問題もあって何十年ものあいだ毎年強く剪定されてきた木でした。太い枝や幹には大きな腐朽がいくつもあり、伐採して中心を確かめると、外からは分かりにくかったものの、ほぼ空洞になっていました(都市の高木は、なぜ手入れできなくなるのか)。毎年切り詰める剪定を続けた木は、樹冠が小さいまま、幹の中だけが傷んでいく。現場でそういう木を何本も見てきた目で都の方針を読むと、「樹冠を拡大する」という一行は、剪定の考え方を切り替える宣言に見えます。

 

都内の街路樹100万本と、「計画的な剪定により樹冠を拡大」の方針

Ver.3 の「育てる」の柱には「街路樹の充実(安全性や快適性の確保)」の項があります。令和6(2024)年4月1日現在、都内の街路樹は約100万本で、このうち東京都が管理するのは都道の約65万本です。管理者別の本数は次のとおりです。

管理者(道路の種類) 本数 全体に占める割合
都道(東京都) 645,213本 64.5%
区道 205,940本 20.6%
市町村道 125,735本 12.6%
一般国道 24,095本 2.4%
合計 1,000,983本 100%

出典: 東京都「東京都の緑の取組 Ver.3」(令和7年1月)p.23「都内道路の街路樹本数」(令和6年4月1日時点)。割合は当社の計算

東京都 街路樹 本数 都道 区道 市町村道 国道 100万本 グラフ

都内の街路樹 1,000,983本の内訳(管理者別、2024年4月1日時点。出典: 東京都「東京都の緑の取組 Ver.3」p.23。図は当社作成)

同じページで都は、剪定を2つに分けて説明しています。「基本剪定(冬期剪定)」は、主に落葉樹を対象として、樹木全体の骨格をつくることを目的に行うもの。「軽剪定(夏期剪定)」は、萌芽した枝の密度調整、乱れた樹冠の整正、台風などの強風による倒木防止、病虫害の発生防止を目的に行うものです。そのうえで、「夏の暑さ対策として計画的な剪定により樹冠を拡大し、緑陰を確保しています」と書いています(p.23)。

次のページでは、強化する取組として「街路樹については、歩道幅員などの状況を踏まえ、計画的な剪定などにより、暑さ対策として樹冠拡大による緑陰確保を進めていきます」とあり、既存の道路については「樹種ごとの目標樹形や剪定手法を示した「街路樹維持管理計画書」による計画的な剪定を、歩道幅員や沿道の土地利用等を踏まえて実施し、樹冠拡大を推進していきます」と続きます(p.24)。この計画書については別の記事で、樹種別の4つのタイプ(維持・縮小・拡大・再生)まで読み解きました。

要点を3つにしぼります。

  • 都内の街路樹は約100万本で、その約65万本を東京都が管理している(2024年4月1日時点)
  • 都は、歩道の幅や沿道の土地利用を踏まえながら、計画的な剪定で樹冠を広げ、緑陰を確保する方針を書いた
  • その道具が、樹種ごとの目標樹形と剪定手法を示した「街路樹維持管理計画書」である

 

樹冠を広げる剪定と、小さくする剪定の違い

剪定には目的があり、目的によって切り方も仕上がりも変わります(剪定の目的で、仕上がりは変わる)。樹冠を広げる剪定は、目標とする樹形を先に決め、その形に向かって、込み合った枝や内側に向かう枝を根元から抜いていきます。枝先は切り詰めません。木は切られた枝先から新しい枝を出そうとするので、切り詰めないほうが、幹から出た枝がそのまま伸びて、自然な樹形のまま樹冠が広がります。

これに対して、太い枝や幹を途中で切り詰めて樹冠を一度に小さくする剪定が「強剪定」です。「ぶつ切り」とも呼ばれます。強剪定を受けた木は、切り口のすぐ下から細い枝を束のように出し、数年でまた込み合います。同時に、太い切り口から腐朽菌が入り、幹の中が傷んでいきます。国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」も、強剪定された幹や枝から不定枝が出やすいこと、切り口から腐朽菌が入ると木材の強度が下がることを挙げています。冒頭の大田区のケヤキは、この流れをそのままたどった木でした。

強剪定 繰り返し 不定枝 腐朽 空洞 倒木 流れ 図

強剪定を繰り返した木に起きること(記事 14333 と同じ図。国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」をもとに当社作成)

項目 樹冠を広げる剪定 強剪定(太い枝や幹を途中で切り詰める)
切る枝 込み合った枝・内側へ向かう枝・枯れ枝を、付け根から抜く 太い枝や幹を途中で切り詰める
仕上がり 幹から出た枝がそのまま伸び、自然な樹形のまま樹冠が広がる 樹冠が一度に小さくなり、切り口の下から細い枝が束になって出る
数年後 木陰が広がり、幹の中の傷みは少ない 再び込み合い、切り口から腐朽が入りやすい
向く場面 歩道の幅に余裕があり、目標の樹形へ育てる路線 樹冠を縮めるほかない場所でも、都の計画書は強剪定で詰めず、目標樹形を定めて数年かけて縮める手法を示す
都の計画書の位置づけ 「拡大」タイプの目標樹形 計画書の手法にはない(「縮小」タイプも、目標樹形を定めて数年かけて縮小する方法を示す)

出典: 東京都建設局「街路樹維持管理計画書」(令和3年12月)p.6、国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」p.1-20・1-79〜80 と、当社の現場での経験をもとに当社作成

なぜ日陰が暑さ対策になるのかも、都の資料は書いています。Ver.3 の「緑の効果」の項(p.9)は、環境省のガイドラインを引いて、日向と木陰の気温がほぼ同じ場合でも、木陰では日射や路面からの赤外放射が少ないため、日向より涼しく感じると説明しています。同じ項には、夏草のある地面の表面温度は直接日光にさらされている地表より10〜14℃低くなるというデータや、木の上に降った雨が木の下では20〜50%減るというデータも並びます。木陰の涼しさは、頭の上からの日射と、足元の熱くなった路面からの放射の両方が抑えられて生まれるもので、樹冠が広いほどその面積が増えます。植えた本数ではなく、育った樹冠がどれだけ歩道を覆っているかで街路樹の働きを測る、という見方を、私は前に書いた記事でも述べました。

 

植えた後の10年・30年を、誰が設計するか

当社の GREEN MANAGEMENT の3本の1つに「長期的な植栽管理の計画・プランニング」があります。目標とする樹形を先に決め、そこへ向かう数年の道筋を描き、年ごとの剪定をその道筋の一歩として行う。今年の手入れを数年先の樹冠の姿から逆算して決める、というのが当社の計画のつくり方です。毎年同じ回数、同じ強さで切り続けるだけでは、木は小さく保たれても、木陰をつくる樹冠は育ちません。

植栽 長期計画 10年 30年 100年 現状評価 再生方針 年間管理 見直し 工程図

植えた後の10年・30年・100年を誰が設計するか。現状評価→再生方針→年間管理→見直しの繰り返し(図は当社作成。10年・30年の目安は当社の現場での目安)

都の「街路樹維持管理計画書」は、まさにこの考え方を行政の側で定めたものです。倒木の危険を避けるために樹冠を小さくする場合でさえ、強剪定で詰めるのではなく、目標とする樹形を定め、数年かけて計画的に樹高や枝張りを縮小していくことが求められる、と計画書は書いています(p.6)。植えた後の10年・30年を誰が設計するか。街路樹では都や区市がその役を担い、マンションや寺社の緑では管理組合や施設の所有者と、私たちのような植栽の会社が担います。東京グリーンビズの時間軸は100年先で、1本の樹木が大径木に育っていく時間と重なります。10年・30年の計画は、その中の一区切りにすぎません。

 

当社の現場での「育てる」──都内の低層マンションの打合せから仕様書まで

原則だけでは一般論になるので、当社の現場を一つ引きます。東京都内の低層マンションで、植栽のコンサルティングをお受けしている例です。物件名は出しません。最初の打合せで出てきたのは、「管理費を見直したい」と「理事が交代しても、同じように管理が回る形にしたい」の2つでした(マンションの植栽コンサルティングは、どう進むのか)。

進め方は、月に1回ほど土曜日に集まり、1年ほどかけて進める形にしました。費用の案を複数並べて比べ、間引きや伐採の候補を図にし、専用庭に面した住戸の方とは一人ずつ面談しました。そのうえで、作業の仕様書と、見積を頼むための仕様書、見積の内訳書の様式、基本契約書の案をつくっています。仕様書は、当社が年間の管理を受け持つ場合でも、ほかの業者が同じ条件で見積を出せる形にしておきます。理事が替わっても、仕様書と記録が残っていれば、同じ基準で管理が続くからです。このマンションでは、コンサルティングと並行して年間の植栽管理もお受けしています。残す樹木と更新する樹木の分け方は、植栽の現状評価と再生方針の記事で書きました。

寺社の緑でも同じです。第1回で書いた江戸川区・寿昌院の「臥竜の松」では、年末の手入れで毎年、古い葉を取り除く「古葉の揉み上げ」を行い(記録)、2022年5月には春の新芽の緑摘みも行いました(記録)。松の手入れは1年分の成長をその年に整えるもので、それを何十年も続けることで今の枝ぶりが保たれていると、現場での経験から感じています。都の資料の言葉で言えば「育てる」は、植えて終わりではなく、植えた後の時間を誰かが設計し続けることだと思います。

 

行動宣言② 講座で伝えること、受託緑地の登録を提案すること

東京グリーンビズの「育てる」の柱には、都民が緑を知り、親しむための取組も含まれています(Ver.3 p.31)。当社の仕事でこれに当たるのは、講座と研修です。2026年9月28日には、日比谷公園の緑と水の市民カレッジで、東京都公園協会の「暮らしに役立つ樹木講座」の講師を務めました。テーマは木陰の涼しさと植栽管理の事例です(記録)。今後の講座や研修では、都の「樹冠を拡大する」方針と、樹冠を広げる剪定の考え方を、現場の判断と一緒に伝えていきます。具体の講座名は、開催が決まったものだけをお知らせします。

もう一つは、お客様への提案です。東京グリーンビズマップには、都立公園や街路樹のほかに、民間の施設も掲載されています。掲載の対象は、環境省の「自然共生サイト」に認定された区域や、東京都の「江戸のみどり登録緑地」に登録された緑地、緑に関する受賞歴のある施設などのうち、掲載に了承を得たものです(2024年7月30日の都の発表)。当社が年間の管理や計画をお受けしている緑地のうち、条件に合うものについては、これらの登録や認定の申請を管理組合や施設の所有者に提案していきます。申請は所有者が行うものです。

次回の第3回は「活かす」です。都が掲げる緑の効果の定量化とグリーンインフラについて、樹木医が i-Tree Eco で測れること、まだ測れないこと、そして第3回 Tokyo-NbSアクションアワードへの応募について書きます。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. 東京都内の街路樹は何本ありますか?

A. 令和6(2024)年4月1日時点で1,000,983本です。内訳は都道645,213本、区道205,940本、市町村道125,735本、一般国道24,095本で、このうち東京都が管理するのは都道の約65万本です。出典は東京都「東京都の緑の取組 Ver.3」(令和7年1月)p.23です。

Q2. 東京都の「樹冠を拡大する」方針とは何ですか?

A. 「東京都の緑の取組 Ver.3」で、夏の暑さ対策として計画的な剪定により街路樹の樹冠を拡大し、緑陰を確保する方針です。歩道の幅や沿道の土地利用を踏まえ、樹種ごとの目標樹形と剪定手法を示した「街路樹維持管理計画書」による計画的な剪定で進めるとしています。

Q3. 樹冠を広げる剪定と強剪定は、何が違いますか?

A. 樹冠を広げる剪定は、目標の樹形を決めて、込み合った枝や内側へ向かう枝を付け根から抜き、枝先は切り詰めません。強剪定は太い枝や幹を途中で切り詰めて樹冠を一度に小さくする剪定で、切り口の下から細い枝が束になって出て数年で込み合い、切り口から腐朽菌が入りやすくなります。

Q4. 木陰はなぜ涼しいのですか?

A. 日向と木陰の気温がほぼ同じでも、木陰では頭上からの日射と、熱くなった路面からの赤外放射が少ないため、涼しく感じます。東京都の資料は環境省のガイドラインを引いてこう説明しています。樹冠が広いほど、この効果の及ぶ面積が増えます。

Q5. 街路樹維持管理計画書とは何ですか?

A. 東京都建設局が令和3年12月にまとめた資料で、樹種ごとの目標樹形と剪定手法を示し、計画的な剪定で樹冠の拡大を進めるための参考資料です。樹冠を小さくする場合でも、強剪定で詰めるのではなく、目標の樹形を定めて数年かけて縮小することが求められる、と書かれています。

Q6. マンションの植栽でも、長期の計画は必要ですか?

A. 必要です。当社のマンションの植栽コンサルティングでは、現状評価と再生方針を入口の一つにし、残す樹木と更新する樹木を分けて記録し、作業の仕様書や見積の内訳書の様式をそろえます。仕様書はほかの業者も同じ条件で見積を出せる形にし、理事が交代しても同じ基準で管理が続くようにします。

 

出典・参考情報

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