国の天然記念物に指定された樹木の樹勢回復には、文化庁の「天然記念物再生事業」の補助(補助率は原則2分の1)が使えます。ただし公募ではなく、前年度の5月に文化庁が都道府県へ翌年度の事業計画を尋ねるところから始まります。申請の流れ、文化財保護法の許可、所有者の負担の内訳を、樹木医が一次資料で整理しました。
寺社の御神木や、地域で大切にされてきた巨樹が文化財に指定されていると、枝が枯れ込む、葉が小さく薄くなるといった衰えが見えても、所有者の判断だけでは手を入れられません。手当てには文化財保護法の手続が要り、費用には国・都道府県・区市町村の補助が組み合わさります。その全体像は、文化庁の補助金の手引きや自治体の要綱に分かれて書かれていて、一つの場所にまとまっていません。
この記事では、文化庁「文化財補助金実務ガイドブック」(令和7年12月)、令和8年4月10日に改正された各事業の国庫補助要項、文化財保護法と関係する規則、東京都・神奈川県などの要綱を読み、樹木の所有者・管理者の方が知っておきたい点を順に並べました。数字と条文は2026年10月16日に確かめたものです。運用は都道府県・区市町村ごとに違うため、実際の手続は窓口で確かめるのが確実です。
制度と窓口は、指定の区分で変わります。国の天然記念物なら国の補助と都道府県・区市町村の上乗せ(前半の3つの節)、都道府県や区市町村が指定した樹木なら、その自治体の補助(「所有者の負担はどのくらいか」の節)が中心です。
天然記念物の樹木に使える国の補助 ── 中心は「天然記念物再生事業」
文化庁の文化財の補助金は、国宝重要文化財等保存・活用事業費補助金など3つの予算の科目から出ています(実務ガイドブック p.2)。その中で、天然記念物の樹木に関係する事業は次の4つです。
| 事業 | 主な内容 | 補助事業者(申請できる者) | 国の補助率 |
|---|---|---|---|
| 天然記念物再生事業 | 病害虫駆除、施肥等樹勢回復、生息・生育環境の維持・復元など | 天然記念物の所有者、地方公共団体 | 2分の1 |
| 天然記念物緊急調査 | 天然記念物の生態・分布などの調査(減少の原因、保存の対策) | 地方公共団体 | 2分の1 |
| 史跡等保存活用計画等策定 | 保存活用計画などの策定 | 地方公共団体、所有者、管理団体など | 2分の1 |
| 歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業 | 復旧(保存修理)、環境整備、防災対策など(環境整備は標識などを除き、保存活用計画の策定が条件) | 所有者、管理団体など | 原則2分の1(個人は10分の7) |
出典: 文化庁「文化財補助金実務ガイドブック」(令和7年12月)資料1-b「文化財補助金体系図」、各事業の国庫補助要項(令和8年4月10日改正)。沖縄県は補助率の特例がある
同じ体系図には「天然記念物食害対策」(補助率3分の2)もありますが、これは天然記念物に指定された動物(カモシカなど)による農作物・造林木の食害への対策で、指定木をシカなどから守る制度ではありません。また「指定文化財管理費」は、地方公共団体と国有文化財の管理団体が補助事業者で、要項の対象事業に天然記念物の樹木の剪定は挙がっていません。食害対策は樹木の手当ての財源にはならず、指定文化財管理費は使えるかどうかを窓口で確かめることになります。
天然記念物再生事業で対象になること
中心になる天然記念物再生事業費国庫補助要項は、平成16年に定められ、最新の改正は令和8年4月10日です。対象になる事業は、要項に次の7つが並んでいます。
| 番号 | 要項の文言 | 樹木での例(当社の読み方) |
|---|---|---|
| (1) | 給餌 | 動物向け |
| (2) | 増殖施設、保護収容施設の整備 | 後継樹の育成など |
| (3) | 病害虫駆除 | 穿孔性害虫・病害の防除 |
| (4) | 施肥等樹勢回復 | 施肥・土壌灌注など |
| (5) | 遷移の中断、促進及び正常化 | 樹叢の遷移の管理など |
| (6) | 生息・生育環境の維持・復元のための事業 | 踏み固めの防止、根の周りの土の改善など(扱いは個別に判断) |
| (7) | その他天然記念物の再生に必要と認める事業 | 個別に判断される |
出典: 文化庁「天然記念物再生事業費国庫補助要項」(令和8年4月10日改正)。右の列は当社の読み方で、要項の文言ではない
要項には「土壌改良」という言葉そのものはありません。土壌改良や外科的な処置が(4)(6)(7)のどれに当たるか、あるいは歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業の側で扱うかは、要項の文言からは決まらず、都道府県・文化庁との協議で決まります。
補助の対象になる経費は、要項の本文で7つに分かれ、その一つに「調査経費」があります。別紙の経費の区分には「委託料」(調査委託・研究委託・設計監理費)、「工事請負費」、専門家の招へい・派遣の旅費も挙がっています。樹木医への調査や設計監理の委託、施工の請負は、経費として計上できる組み立てになっています。
補助率と、だれが申請できるか
補助率は補助対象経費の2分の1です。沖縄県内は当分の間5分の4、財政力指数(過去3年の平均)が1.00を超える都道府県・指定都市には調整率がかかります。財政力指数は自治体の財政の余裕を示す数で、1.00を超えるほど自前の財源が多いことを表します。申請できるのは天然記念物の所有者か地方公共団体です。文化庁が管理を任せる「管理団体」(文化財保護法 第113条で指定される地方公共団体などの法人)が地方公共団体なら、地方公共団体として申請できます。一方、所有者が管理のために選ぶ「管理責任者」は、費用を負担する責任を負わないため補助事業者にはなれません(実務ガイドブック p.5)。
全国の実績として、令和7年版の環境白書は、天然記念物再生事業を2025年3月末時点で43件実施したと記しています。この数は動物・植物・地質鉱物を合わせたもので、樹木だけの数ではありません。
申請は前年度の5月から ── 国の補助の1年半の流れ
国の文化財補助金で、誤解されやすいのが時期です。実務ガイドブックは、全国の申請を文化庁が直接受けて審査する公募の形は「不可能」だとし、都道府県を通じて事業を積み上げる仕組みを説明しています。

国の補助の1年半の流れ(文化庁「文化財補助金実務ガイドブック」令和7年12月などをもとに当社作図)
| 時期 | 文化庁・都道府県の動き |
|---|---|
| 前年度の5月中旬 | 文化庁が都道府県の教育委員会などへ、翌年度の事業計画を照会する(1回目) |
| 前年度の8月末 | 照会をもとに概算要求が財務省へ出される |
| 前年度の10月上旬 | 2回目の照会(1回目より具体的な内容) |
| 前年度の1月上旬 | 文化庁が都道府県の担当者からヒアリングする(都道府県は事業の優先順位を決めて臨む) |
| 当年度 | 準備が整った事業に、文化庁が申請書の提出を依頼する(1会計年度に5回程度で、内示ではない) |
| 交付決定の後 | 着手する(交付決定の前に着手した分は原則として対象外) |
| 年度内 | 事業を終える(年度内に終わらないときに次の年度へ予算を送る、明許繰越・事故繰越の制度もある) |
| 完了後 | 実績報告は「完了の日から30日後」か「翌年度の4月10日」の早い日まで |
出典: 文化庁「文化財補助金実務ガイドブック」(令和7年12月)p.4〜10・25・37、文化財保存事業費関係補助金交付要綱 第9条(令和8年4月10日改正)
翌年度の事業は、この照会とヒアリングを通じて積み上がっていきます。照会に載らなければ、その年度の補助は見込みにくくなります。樹木の衰えに気づいてから実際に手当てが始まるまで、補助を使うなら1年以上かかると考えておくほうが現実に近いと思います。だからこそ、相談は照会の前、春のうちに始めておきたいところです。なお、区市町村が指定した文化財の補助は、その区市町村の予算の日程で動きます。大田区は、区指定の文化財の補助について「前年度の夏頃まで」に事業計画を出すよう案内しています。
交付決定より前に着手した分は、原則として補助の対象になりません。例外は災害復旧で、応急的な部分に限り、所定の「事前着工届」を出したうえで事前に着工できることがあります(実務ガイドブック p.37〜38)。この場合も補助が約束されるわけではありません。
申請の経路と、相談の入口

申請の経路と相談の入口(文化財保存事業費関係補助金交付要綱 第5条などをもとに当社作図)
国の交付要綱が定めているのは、申請書を「都道府県知事又は都道府県教育委員会」を経由して文化庁長官に出すところまでです(交付要綱 第5条)。区市町村が間に入ることは国の文書には書かれていません。ただ、都道府県の上乗せ補助の募集や計画の照会は、今回確かめた神奈川県・山形県・東京都では区市町村の担当を通じて行われていて、所有者にとっての実際の入口はそこになります。神奈川県は前年度6月頃、山形県は前年度9月頃に、市町村の担当を通じて県の補助を募集しています。東京都は前年度の5月以降に、区市町村を通じて補助事業の計画を調べます。
補助とは別に要る手続 ── 文化財保護法の許可と届出
補助の申請と並んで、もう一つ欠かせないのが文化財保護法の手続です。補助が決まっても、この手続を済ませずに手を入れることはできません。

許可と届出の分かれ目(文化財保護法、許可申請等に関する規則、神奈川県のマニュアルをもとに当社作図)
文化財保護法 第125条第1項は、史跡名勝天然記念物の現状を変更したり、保存に影響を及ぼす行為をしたりするときは、文化庁長官の許可を受けなければならないと定めています。許可を受けずに行った場合は、原状回復を命じられることがあります(同条第7項)。神奈川県教育委員会の「神奈川県天然記念物管理マニュアル(樹木・樹叢)」(令和4年3月)は、許可が要る行為の例として「樹木の剪定、支柱・ワイヤー補修、土壌改良等」を挙げています。
例外は、現状の変更なら「維持の措置」と非常災害のときの応急措置、保存に影響を及ぼす行為なら影響が軽微な場合です(同項ただし書)。維持の措置は、き損・衰亡しているときの次の3つに限られます(現状変更等の許可申請等に関する規則 第4条)。
- 指定されたときの原状に戻すこと
- き損・衰亡が広がるのを防ぐ応急の措置
- 復旧が明らかに不可能な部分を取り除くこと
神奈川県のマニュアルは、その例に「破損箇所への充填」「仮養生(盛土、土留め、添え木等)」「枯死部分の伐採」を挙げ、いずれの場合も別に「滅失等届」が要るとしています。同じ枯枝の除去でも、維持の措置として扱われる場合と、剪定として許可が要る場合があり得ます。どこまでが維持の措置に当たるかは、手を入れる前に窓口と相談して決めることになります。
| 手続 | どんなとき | 期限・時期 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 現状変更等の許可申請 | 剪定・支柱・土壌改良など、現状を変える・保存に影響する行為 | 着手の前(許可を受けてから着手) | 文化財保護法 第125条 |
| 現状変更等の終了報告 | 許可を受けた行為が終わったとき | 終了後、遅滞なく(結果の写真か見取図を付ける) | 許可申請等に関する規則 第3条 |
| 滅失・き損などの届出 | 指定木がき損・衰亡したとき | 事実を知った日から10日以内 | 第33条(第118条・第120条で準用) |
| 復旧の届出 | き損した指定木を復旧するとき(許可が要る場合は除く) | 着手の30日前まで | 第127条 |
出典: 文化財保護法、特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請等に関する規則(いずれも e-Gov 法令検索)、神奈川県教育委員会「神奈川県天然記念物管理マニュアル(樹木・樹叢)」p.11〜14
許可の申請には、設計仕様書と設計図、実測図、写真、所有者の承諾書、管理団体・管理責任者の意見書などを付けます(規則 第2条)。当社では、樹木の場合の設計図は「どの枝を、どこで、どれだけ切るか」「根の周りのどこを、どの深さまで掘るか」を示した図になると考えていて、ここは樹木医の診断と計画がそのまま根拠になります。補助の交付申請と許可の申請は別の手続なので、同じ時期に並べて準備しておくと手戻りが少なくなります。
許可の権限の一部は、文化財保護法 第184条第1項第2号と施行令 第5条第4項で、都道府県の教育委員会(一部の区域では市の教育委員会)に移されています。ただし、天然記念物の木竹の伐採で移されているのは「危険防止のため必要な伐採」に限られ(施行令 第5条第4項第1号ト)、剪定や土壌改良はこの一覧にありません。指定木そのものへの手当ては、原則として文化庁長官の許可と考え、どこへ申請するかを区市町村の担当に確かめておくのが確実です。
所有者の負担はどのくらいか ── 都道府県・区市町村の上乗せ
国の補助は2分の1ですが、残りの半分に都道府県と区市町村が上乗せする仕組みがあります。上乗せの率は自治体ごとに違います。

負担の内訳の計算例(各補助が上限まで付いたと仮定した単純な計算。国庫補助要項、東京都・大田区の要綱をもとに当社作図)
東京都の「東京都文化財保存事業費補助金交付要綱」では、国指定の文化財の事業に、国庫補助の残りに「国が決定した補助率を乗じた額を限度」として補助します。国が2分の1なら、残りの2分の1にさらに2分の1を掛けた額、つまり全体の4分の1までが都の上乗せです。大田区のように区の上乗せがある場合は、所有者の負担はさらに小さくなります。大田区の要綱は、国・都指定の事業に、総事業費500万円以上の事業に限り、国・都の交付決定額を差し引いた額の50%以内を補助しています(1件1年度500万円まで)。図4は、補助の対象になる経費が1,000万円の事業で、どの補助も上限まで付いたと仮定した計算で、所有者の負担は125万円(12.5%)になります。国の財政力指数による調整や、都の補助率の加算は入れていない単純な計算です。実際の採択と額は、どの段階でも予算の範囲で決まります。
| 自治体 | 国指定の事業への上乗せ | 自らが指定した樹木への補助 | 募集の時期 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 国庫補助の残りに国の補助率を掛けた額が限度(区市町村が事業者なら50%以内) | 都指定天然記念物の「施肥等樹勢回復」「保護のための害虫防除、病害駆除、保全対策」などは補助対象経費の50% | 前年度の5月以降に区市町村を通じて計画を調べる |
| 神奈川県 | 国庫補助の残りの3分の1以内 | 補助対象経費の3分の1以内(財政規模などで加算することがある) | 前年度の6月頃、市町村を通じて募集 |
| 山形県 | 国の補助金相当額を除いた額の2分の1以内 | 経費の2分の1以内(災害復旧は10分の7以内) | 前年度の9月頃、市町村を通じて募集 |
| 兵庫県 | 事業者が個人などなら、国2分の1・県6分の1・市町6分の1・個人6分の1 | 事業者が市町なら県2分の1・市町2分の1 | 県の要綱による |
| 島根県大田市 | 国庫補助の残りの3分の2以内 | 市指定は補助対象経費の2分の1以内 | 市の要綱による |
出典: 東京都文化財保存事業費補助金交付要綱(令和3年改正)と「東京都指定文化財保存事業費補助金の概要」(いずれも大田区のサイトに掲載)、神奈川県教育委員会「神奈川県天然記念物管理マニュアル(樹木・樹叢)」p.11、山形県「山形の宝ポータルサイト」、兵庫県教育委員会『文化財の保存と活用』(令和8年2月)p.16、大田市文化財保存事業費補助金交付要綱
東京都の要綱では、区市町村・営利法人以外の事業者(寺社など)は、事業の規模に応じて補助率に最大35%を加算でき、加算後の上限は85%と定められています。都指定の樹木では、所有者の負担がかなり小さくなる場合があります。
区市町村が指定した樹木の場合
区市町村の指定・登録の天然記念物は、国の補助ではなく、その区市町村の要綱が中心になります。大田区の要綱では、区指定の天然記念物の「樹勢回復等、病虫害駆除」は補助対象経費の50%以内です。東京23区でも、渋谷区の区指定天然記念物は日赤医療センター内の「大銀杏」(推定樹齢約500年)と金王八幡宮の「金王桜」の2件があり、世田谷区は令和6年2月に、乗泉寺世田谷別院のクスノキ、慶元寺のケヤキ(5本)、玉川神社のクスノキを登録・指定しています。補助率や上限は区ごとに違い、今回の調べでは世田谷区・渋谷区などの率までは確かめられていません。要綱と様式は、区の文化財の担当で確かめることになります。
文化財の補助のほかに関係する助成
| 制度 | 内容 | 注意すること |
|---|---|---|
| とちぎ緑の基金「名木・古木樹勢回復事業」(令和8年度) | 栃木県内の衰退した名木・古木の支柱、腐朽部の処置、土壌改良・通気管・踏圧防止柵、病害虫の防除など、国・県指定の天然記念物は10分の10以内、市町村指定は10分の9以内、1か所40万円まで | 実施は(公社)とちぎ環境・みどり推進機構、事業主体は市町村緑化推進委員会・市町村・保護活動の団体 |
| 渋谷区保存樹木等管理助成 | 樹木医診断は1本5万円まで、剪定は1本3万円まで | 作業前の事前申請、交付決定まで約2週間 |
| 大田区の保護樹木の補助 | せん定経費の2分の1以内(幹周2.1m未満は1本10万円、2.1m以上は20万円まで) | 3会計年度に1回、せん定前に申請 |
| 港区の保護樹木 | 1所有者・1管理者につき年7万円まで | 文化財の指定を受けた木は対象外 |
| 葛飾区の樹木の保全支援 | 区が樹木医による点検を行い、必要なら診断も行う | 幹周1.5m以上で生育不良や病気の疑いがある木、年度に2本まで |
| 緑の募金(国土緑化推進機構)の一般公募 | 営利を目的としない民間団体の森林整備・緑化 | 広い範囲で一般の参加を呼びかける事業が条件で、1本の木の樹勢回復には合いにくい |
出典: (公社)とちぎ環境・みどり推進機構「名木・古木樹勢回復事業」、渋谷区「渋谷区保存樹木等管理助成」、大田区「保護樹木・保護緑地」、港区「保護樹木・樹林・生垣」、葛飾区樹木の保全支援事業実施要綱、国土緑化推進機構「緑の募金一般公募事業募集規則」(令和8年度)
区の保存樹木・保護樹木の制度は、港区のように文化財の指定を受けた木を対象外とする区があります。指定木に使えるかどうか、文化財の補助と同じ経費を重ねて申請できるかどうかも含めて、事前に区の担当へ確かめておくのが確実です。
公開されている事例 ── 三波川(サクラ)、安中原市のスギ並木、蒲生のクス
樹木の天然記念物で、国・県の補助や保護の取組みが公開されている例を、文化庁の交付一覧と自治体・研究機関の資料から並べます。
| 樹木(指定) | 所在 | 確かめられた補助・取組み | 出典 |
|---|---|---|---|
| 三波川(サクラ)(国の名勝及び天然記念物) | 群馬県藤岡市 | 天然記念物再生の国庫補助 令和5年度363万円・令和6年度339万円(各年度第1回) | 文化庁 文化財補助金交付一覧 |
| 安中原市のスギ並木(国の天然記念物) | 群馬県安中市 | 天然記念物再生の国庫補助 令和5年度466万9千円・令和6年度249万1千円、令和5年度は保存活用計画策定にも142万2千円 | 文化庁 文化財補助金交付一覧 |
| 蒲生のクス(国の特別天然記念物) | 鹿児島県姶良市 | 平成8年度から4か年の国庫補助事業で保護増殖事業、根元の舗装を透水性のものに替え、耕耘と酸素管で土壌を改良 | 国土技術政策総合研究所『巨樹・老樹の保全対策事例集』p.52 |
| 加茂の大クス(国の特別天然記念物) | 徳島県東みよし町 | 周辺の開発で樹勢が落ちたため、周りの農地を公園にし、傷んだ部分を補修して樹勢が回復(補助の有無は確かめられていない) | 東みよし町「加茂の大クス」 |
| 柏原の大ケヤキ(兵庫県の補助の例) | 兵庫県丹波市 | 令和5年度に兵庫県の県指定文化財保存整備費補助事業(国の補助ではない)で保存修理(樹勢回復) | 兵庫県教育委員会『文化財の保存と活用』 |
出典: 文化庁「令和5年度・令和6年度 文化財補助金交付一覧」(群馬県 第1回)、国総研資料第566号『巨樹・老樹の保全対策事例集』(2010年1月)、東みよし町、兵庫県教育委員会『文化財の保存と活用』(令和6年2月)p.14。交付一覧の金額は国庫補助の交付決定額
蒲生のクスについては、2017〜2025年度の9年間に国の補助を受けて総額約8,400万円の事業を行い、報告書を刊行したと報道されています(南日本新聞 2026年5月6日)。報告書そのものは今回確かめられていないため、表には載せていません。
三波川(サクラ)に見る、段階を分けた進め方

段階を分けた進め方と三波川(サクラ)の例(国庫補助要項、藤岡市・日本花の会の報告書、文化庁の交付一覧をもとに当社作図)
群馬県藤岡市の三波川(サクラ)は、1937年に国の名勝及び天然記念物に指定された冬桜の群落です。藤岡市教育委員会と公益財団法人日本花の会の報告書(2025年3月)によると、2001年に樹勢の診断を行い、2013年3月に保存管理計画を定め、2020年度から2024年度にかけて国の補助金(2021年度からは群馬県の補助金も)を使って樹勢調査を委託しました。2021年には、樹木医を委員長とし、気象学・森林病理学・樹木生理生態学・植物病原菌類学の研究者が加わる臨時の委員会を設け、文化庁の文化財調査官が顧問に入っています。
調査と並行して、2021年からは、現状変更のいらない通常の管理作業(つる植物や枯枝の除去、施肥、土壌灌注、根元の除草など)を続けています。『広報ふじおか』令和4年3月1日号は、冬桜の本数が平成24年度の調査で407本、令和2年度の調査で185本だったと伝えています。調べて、計画を立て、できる手当てから始めて、また調べる。この報告書からは、1回の工事で終わらせず、年度をまたいで積み上げていく進め方が読み取れます。

根元の踏み固めを防ぐ柵と、根の上の木材チップ。天然記念物再生事業の「生息・生育環境の維持・復元」に当たると当社では考えている手当ての一つ(当社のイラスト)
蒲生のクスでは根元の舗装を、加茂の大クスでは周りの開発を受けて、足元の環境を改める手当てが行われています。現場での経験からも、枝先の枯れ込みの原因をたどると根の周りの土の固さや水はけに行き着くことが多く、水圧穿孔法などの土壌改良や、踏み固めを防ぐ柵が、樹冠への処置より先に要ることがあります。ただし指定木では、根の周りを掘ることそのものが現状変更の許可の対象になり得ます。手当ての方法は、許可の手続と一緒に考える必要があります。
契約・記録・報告で気をつけること
補助事業では、補助事業者が寺社や管理組合のように地方公共団体でなくても、所在する都道府県・区市町村の契約の規則に「準拠」して業者を選ばなければなりません(交付要綱 第8条)。実務ガイドブックは「準拠」を「基準に従う」ことで「概ね基準を満たす」ことではないと念を押しています。
| 項目 | 実務ガイドブックの決まり |
|---|---|
| 業者の選び方 | 競争入札が原則、入札によらない場合も複数者から見積を取る |
| 随意契約 | 地方自治法施行令 第167条の2に挙げられた場合に限る |
| 決め方 | 理事会など合議制の機関で決め、一人の担当者の判断に任せない |
| 結果の公表 | 競争入札の結果や随意契約の締結の状況を公表する |
| 下請け | 一括下請けは原則として禁止 |
| 寄附 | 工事などの請負業者から指定寄附金を受けると、資金の還流とみなされるおそれがある |
| 書類の保存 | 帳簿と証拠書類は、完了した年度の翌年度から5年間保存する |
| 検査 | 出勤簿・作業日誌・検収簿などを確かめ、報告書は現物を確かめる |
出典: 文化庁「文化財補助金実務ガイドブック」(令和7年12月)p.20〜22・35・40〜43、文化財保存事業費関係補助金交付要綱 第4条・第8条(令和8年4月10日改正)
当社では、診断・調査・計画の委託と施工の発注を分けておくと、競争性と透明性を説明しやすくなると考えています。どの形にするかは補助事業者が決めることですが、計画を作る段階で発注の分け方まで見通しておくと、後の手続が滑らかになります。

手当ての前・途中・後の記録写真は、実績報告と検査の根拠になる(当社のイラスト)
実績報告では、記録写真・作業日誌・検収の記録がそのまま根拠になります。同じ位置・同じ向きから、手当ての前・途中・後を撮っておくと、報告の写真としてだけでなく、次の年度の調査で変化を比べる記録にもなります。
相談の前にそろえておきたいもの

柵の外から枝の付け根を見上げる外観診断。相談の最初の材料になる(当社のイラスト)
区市町村の文化財の担当へ相談に行くときは、次のものがあると話が早く進みます。指定木の衰えの原因と、手当ての必要性・緊急度を示す材料は、樹木診断で用意できます。外から見て分かる症状は外観診断で、幹の内部の腐朽などは精密診断(機器診断)で確かめます。樹木医は、令和7年2月14日に国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」(公園施設〈樹木〉の点検・診断)にも登録されました。
- 指定の区分(国・都道府県・区市町村)、名称、指定の範囲、所有者・管理団体・管理責任者
- 樹木医の診断の結果(衰えの原因、手当ての必要性、緊急度、写真)
- 手当ての案(調査・計画・施工を年度ごとに分けた案)
- 概算の費用(積算の根拠と、複数の見積を取れる見通し)
- これまでの手当ての記録(いつ、だれが、何をしたか)
- 所有者側の意思決定の段取り(理事会・役員会など)
相談のあとは、補助の申請書(設計書や事業計画書、収支予算書、写真・図面、工程表など)と、現状変更等の許可の申請書を並べて作っていきます。申請書の様式や添付書類は、交付要綱の様式と、都道府県・区市町村の要綱で決まっています。
指定木の手当ては、思い立ってすぐに始められるものではありません。前年度の5月から動く補助の仕組みと、許可の手続とを並べてみると、秋に衰えに気づいたら、補助を使う手当ては早くても翌々年度になるくらいの見通しで考えるのが実際に近いと感じます。その時間を、原因を調べ、確かな計画を立てるための時間として使えるかどうかが、樹木を次の世代へ残せるかどうかを左右するのだと思います。
弊社でのご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. 天然記念物の樹木の樹勢回復に使える国の補助金はありますか?
A. 文化庁の天然記念物再生事業が中心です。要項の対象事業に「病害虫駆除」「施肥等樹勢回復」「生息・生育環境の維持・復元のための事業」があり、補助率は原則2分の1です。復旧や環境整備を伴う場合は、歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業も対象になり得ます。どの事業で扱うかは、都道府県・文化庁との協議で決まります。
Q2. 補助金はいつ申請すればよいですか?
A. 国の補助は公募ではなく、前年度の5月中旬に文化庁が都道府県へ翌年度の事業計画を照会するところから始まります。10月上旬に2回目の照会、1月上旬にヒアリングがあり、当年度に申請書の提出を依頼されます。照会に間に合うよう、前年度の春のうちに区市町村の文化財の担当へ相談するのが目安です。
Q3. 補助金はだれが申請できますか?
A. 天然記念物再生事業の補助事業者は、天然記念物の所有者か地方公共団体です。寺社などの所有者も申請できます。所有者が選んだ管理責任者は、費用を負担する責任を負わないため補助事業者にはなれません。申請書は都道府県の教育委員会などを経由して文化庁長官に出します。
Q4. 所有者の負担はどのくらいですか?
A. 国の補助は2分の1で、残りに都道府県と区市町村が上乗せすることがあります。東京都は国庫補助の残りに国の補助率を掛けた額まで上乗せし、大田区の要綱にも、総事業費500万円以上の事業に限って国・都指定の事業への上乗せがあります。大田区の例でどの補助も上限まで付くと、所有者の負担は補助対象経費の1割強になる計算ですが、実際の額は予算の範囲で決まります。
Q5. 天然記念物の木の剪定や土壌改良に許可は要りますか?
A. 文化財保護法 第125条により、現状を変える行為や保存に影響を及ぼす行為には文化庁長官の許可が要ります。神奈川県のマニュアルは、樹木の剪定、支柱・ワイヤー補修、土壌改良などを例に挙げています。き損・衰亡したときの維持の措置は許可が要りませんが、き損・衰亡は知った日から10日以内に届け出ます。
Q6. 補助金の交付決定の前に作業を始めてもよいですか?
A. 交付決定日以降に着手するのが大原則で、前に着手した分は補助の対象になりません。例外は災害復旧で、応急的な部分に限り、所定の事前着工届を出したうえで事前に着工できることがあります。現状変更の許可も、許可を受けてから着手します。
Q7. 区市町村が指定した天然記念物の樹木にも補助はありますか?
A. 区市町村の要綱による補助が中心です。たとえば大田区の要綱では、区指定の天然記念物の樹勢回復や病虫害駆除は補助対象経費の50%以内です。補助率や上限、締切は区市町村ごとに違うため、要綱と様式は文化財の担当で確かめることになります。
出典・参考情報
いずれも2026年10月16日に確認しました。
- 文化庁「文化財補助金等」(要項・交付要綱・実務ガイドブックの掲載ページ)
- 文化庁文化資源活用課「文化財補助金実務ガイドブック」(令和7年12月)
- 文化庁「天然記念物再生事業費国庫補助要項」(令和8年4月10日改正)
- 文化庁「歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業費国庫補助要項」(令和8年4月10日改定)
- 文化庁「文化財保存事業費関係補助金交付要綱」(令和8年4月10日改正)
- 文化庁「令和5年度文化財補助金交付一覧」・「令和6年度文化財補助金交付一覧」
- 環境省「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」第2部第2章第3節
- 文化財保護法(e-Gov 法令検索)・文化財保護法施行令・特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請等に関する規則
- 神奈川県教育委員会「神奈川県天然記念物管理マニュアル(樹木・樹叢)」(令和4年3月)
- 大田区「指定・登録文化財の手続き」(東京都文化財保存事業費補助金交付要綱の写し・大田区文化財保存事業費補助金交付要綱を掲載)
- 山形県「山形の宝ポータルサイト」(文化財の保存・活用等に関する助成制度)
- 兵庫県議会 文教常任委員会の資料(兵庫県教育委員会『文化財の保存と活用』令和6年2月・令和8年2月)
- 大田市文化財保存事業費補助金交付要綱
- 渋谷区「区指定文化財」・世田谷区「世田谷区文化財保護条例に基づく文化財の登録及び指定について」(令和6年2月26日)
- 藤岡市教育委員会・公益財団法人日本花の会『国指定名勝及び天然記念物 三波川(サクラ)樹勢調査業務委託 報告書』(2025年3月)・『広報ふじおか』令和4年3月1日号
- 国土技術政策総合研究所『巨樹・老樹の保全対策事例集』(国総研資料第566号、2010年1月)p.52
- 姶良市「日本一の巨樹『蒲生のクス』」・東みよし町「加茂の大クス」
- 南日本新聞(2026年5月6日)(蒲生のクスの報告書の刊行の報道)
- (公社)とちぎ環境・みどり推進機構「名木・古木樹勢回復事業」
- 渋谷区「渋谷区保存樹木等管理助成」・大田区「保護樹木・保護緑地」・港区「保護樹木・樹林・生垣」・葛飾区樹木の保全支援事業実施要綱
- 国土緑化推進機構「緑の募金一般公募事業募集規則」(令和8年度)
- 国土交通省 報道発表「新たに13の民間資格を登録します!」(令和7年2月14日)



















