腹掛け(はらかけ)、股引(ももひき)、脚絆(きゃはん)、地下足袋(じかたび)。日本の庭師の服装は、江戸の職人装束から今に続くものです。樹木医の中村雅俊が、辞典と博物館の資料でその歴史をたどり、英国やフランスの庭師の仕事着、海外のアーボリスト(樹木の手入れを専門とする職業)の保護具の規格と比べて、何が違い、何が同じかを整理しました。
私が修業時代に最初に買った仕事着も、紺の腹掛けと地下足袋でした。今は、ヘルメットとハーネスを着けて木に登る日もあれば、手ぬぐいと腹掛けで松を手入れする日もあります。同じ会社の中に、江戸から続く装いと、海外の規格で作られた装備が並んでいるのが、いまの造園の現場です。この記事では、その両方の来歴を一度に見渡してみます。

日本の庭師の伝統的な装い(左)と、現代のアーボリストの装備(右)。名前は本文の表と対応しています。服の色は藍染の紺と当社の装備の色合いのイメージ(イラストは当社作成)
先に答え ― この記事で分かること
- 日本の庭師の伝統的な服装は、半纏・腹掛け・股引を基本にした江戸の職人装束の流れにあり、昭和初期まで職人の制服のような姿でした。(日本大百科全書)
- 地下足袋は1923年に売り出された新しい履物で、それまでの足袋にわらじの足元を置き換えました。乗馬ズボンや膝下を絞ったズボンはさらに後のものです。
- 英国では1825年の奉公人の手引きが「庭師は青いウールのエプロンを着ける」と書き、19世紀のパリの職人は青いブラウスを着ていました。紺や青が仕事着の色だったのは、日本だけではありません。
- 現代のアーボリストの装備は、ヘルメット・保護眼鏡・防護ズボン・ブーツ・ハーネスのそれぞれに規格があり、日本でも2019年からチェーンソー作業の防護衣が法令で義務になりました。
庭師の伝統的な服装 ― 各部の名前と役目
まず、いまも現場で見かける「伝統の装い」を、上から順に並べます。各部の形と役目は、辞典の記述を正としました。藍染の仕組みや紺の色名については、当社のフランス人スタッフ加藤バンジャマンが書いた「藍染と庭師の装い 青と緑が語る文化の物語」に図と表があるので、ここでは重ねて書きません。

庭師の伝統的な装い(腹掛け・どんぶり・乗馬ズボン・脚絆・地下足袋)。記事「藍染と庭師の装い」の図を再掲
| 部分 | 読み | 形と役目(辞典の記述の要点) | いつごろから |
|---|---|---|---|
| 手ぬぐい | てぬぐい | 頭に巻く、かぶる、首に掛ける、汗を拭く | ― |
| 半纏 | はんてん | 羽織に似るが襠(まち)がなく襟を折り返さない上着、印半纏は紺木綿に屋号や家紋を白抜きに染めた職人の仕事着 | 18世紀末から、天保の改革(1841〜43)のあと庶民に広まる |
| 腹掛け | はらかけ | 胸と腹を覆い背中で紐を交差させて留める作業衣、腹に横幅いっぱいの物入れ「どんぶり」、体から離れているので前にかがんでも中身がこぼれにくい | 江戸で生まれたとされ、初出の用例は1689年の俳諧集 |
| 股引 | ももひき | すねにぴったり沿う細身のズボン、後ろで打ち合わせて紐で結ぶため腰の屈伸が自由、細く作るのを「いなせ」とした | 語の初出は1539年、仕事着としては江戸時代 |
| 手甲 | てっこう | 手首から手の甲を覆う布、屋外の労働でけが・日差し・寒さを防ぐ、手の甲側が三角形で中指に輪を掛け手首を紐かこはぜで留める | 用例の初出は1785年の浄瑠璃 |
| 脚絆 | きゃはん | すねを覆う布、労働・旅・防寒に使い、動きやすくする、江戸脚絆はこはぜで留める | 平安の「はばき」が室町時代に「脚絆」の語に |
| 地下足袋 | じかたび | 厚い布の甲にゴム底を貼り付けた、地面にじかに履く足袋、指股があり踏ん張りがきく | 1923年に「アサヒ地下足袋」として発売 |
| 乗馬ズボン | じょうばズボン | 腰から膝まではゆったりふくらみ、膝下は細い(ジョッパーズの形) | 辞典に庭師の着用時期の記述なし |
| 前掛け | まえかけ | 腰から下を覆い衣服の汚れを防ぐ布、江戸中期までは「前垂れ」と呼んだ | 名称は江戸時代中期以降 |
出典: コトバンク(日本大百科全書「腹掛け」「半纏」「手甲」「脚絆」「地下足袋」「前掛け」、改訂新版 世界大百科事典「股引」「脚絆」「地下足袋」「前掛け」、精選版 日本国語大辞典「腹掛け」「股引」「手甲」、デジタル大辞泉「ジョッパーズ」)
表を見て気づくのは、どの部分も「庭師のため」に作られた服ではなく、大工・左官・鳶職・行商人・旅人などが共通に使っていた職人の装束だということです。日本大百科全書は腹掛けの使い手として「大工、左官、鳶職、庭師などの職人」を挙げ、印半纏を「大工や植木屋など職人の仕事着」と書いています。庭師は、江戸の職人の装いをそのまま引き継いだ、ということになります。
江戸の職人装束 ― 半纏・腹掛け・股引はどこから来たか

江戸末期から明治・大正のころの植木職人の仕事着。印半纏の下に腹掛けと股引、手首に手甲、すねに脚絆、足袋にわらじ(辞典の記述をもとに図にしたもの。紺は藍染の色合いのイメージ)
半纏は、日本大百科全書によると18世紀末からみられる上着で、天保の改革(1841〜43年)で女性の羽織が禁じられたことをきっかけに、庶民の衣服としていっそう広まりました。紺木綿に屋号や家紋を白く染め抜いた印半纏は、ブリタニカ国際大百科事典によれば、親方が盆や正月に職人へ与えるものでした。半纏の紋は、誰のもとで働いているかを示す看板でもあったわけです。
腹掛けは、世界大百科事典が「江戸で生まれたとされ、京阪では江戸腹当と呼ばれた」と書くとおり、江戸の職人文化の中で育った装いです。腹の前の大きな物入れ「どんぶり」は、体から少し離れて付いているので、前にかがんでも中身がこぼれにくい、と同事典は説明しています。釘や小さな道具を入れたまま屈伸する職人の仕事に合った作りで、庭師なら剪定鋏や縄がここに入ります。
股引は、同じ事典によると、職人が半纏・腹掛けと組み合わせて仕事着にしたもので、紺木綿の無地に浅葱(あさぎ)木綿の裏を付けた袷(あわせ)仕立てが基本でした。すねに細身に作るのを「いなせ(粋)」とし、極端なものは竹の皮を当てないと履けないほど細く仕立てた、とあります。後ろで打ち合わせて紐で結ぶため腰の屈伸が自由で、機能的な仕事着だったとも書かれています。細く見せる粋と、しゃがみやすさの両方が、股引の形を決めていました。
江戸東京博物館のデジタルアーカイブズには、江戸末期から明治期の腹掛け(火消装束として使われたもの)や、昭和初期の漆職人の印半纏と職人用股引が収められています。日本大百科全書は、腹掛けについて「昭和初期まで、半纏とももひきを組み合わせた職人の制服的な姿」だったと記しており、江戸から昭和の初めまで、職人の装いの基本形は大きく変わっていなかったことが分かります。
法被と半纏は別のもの
現場では半纏を「法被(はっぴ)」と呼ぶこともありますが、辞典の上では別の衣服です。世界大百科事典は、法被は下級武士も用いたため半纏より格が高く、袖は多く広袖で、背に紋を付けた紋付きを「看板」と呼んだ、と説明しています。ブリタニカは、江戸時代に武家の中間(ちゅうげん)や駕籠かき、職人などが着た表着で、縹(はなだ)色や茶色の無地が多かったと書いています。庭師の装いとして紹介されるものは、多くが印半纏のほうです。
脚絆と手甲 ― 旅の装いが仕事着に
脚絆は、平安時代の「はばき(脛巾)」に始まり、室町時代に「脚絆」の語が現れたものです(世界大百科事典)。日本大百科全書は、労働・旅・防寒のためにすねに当てて用いるもので、長い旅で脚が疲れるのを防ぐ意味があった、と書いています。江戸時代には、扇形の布を紐で巻く大津脚絆、すねの太さに合わせて裁ちふくらはぎをこはぜで留める江戸脚絆、円筒形の筒脚絆の3種があり、庭師がいま使っているのはこはぜの付いた江戸脚絆の系統です。
手甲は、屋外の労働でけがや日差し、寒さを防ぐために使われ、旅や行商にも用いられました(日本大百科全書)。甲の側が三角形になっていて、その先の輪を中指に掛け、手首を紐かこはぜで留めます。花毎(第一園芸)の連載「庭の中の人」で、元ガーデナーのはつやまさちこさんは、手甲について「手首や血管を守り、袖口から虫や葉が入るのを防ぎ、袖口が木を傷つけたり引っかけたりするのを防ぐ」と現場の感覚を書いています。枝の間に腕を差し入れる庭師にとって、手首は意外によく傷つく場所です。これは私も現場で同じように感じています。
明治から昭和へ ― 地下足袋の登場と、膝下を絞るズボン

庭師と職人の服装の年表。上が日本、下が海外(辞典・原典・法令の記述から当社が作成)
伝統の装いの中で、いちばん新しいのが地下足袋です。日本大百科全書によると、明治30年代にゴム底の足袋が試作され、1917年(大正6年)にはタイヤの裏を縫い付けたものが製造販売されていました。そして1923年、石橋正二郎が新案のゴム底を貼り付けた地下足袋を売り出し、爆発的な人気を得たとあります。世界大百科事典は、1922年に足袋製造業者の石橋徳次郎・正二郎兄弟が考案し、翌1923年1月に「アサヒ地下足袋」として発売したと記し、それ以前に阪神地方で使われていたゴム底を縫い付けた履物に対して、ゴム底を貼り付け、滑り止めの溝を入れた点が新しかったと説明しています。関東大震災後の復興作業で需要が増え、1月に日産約1,000足だった生産が年末には約1万足に達した、とも書かれています。
ブリタニカ国際大百科事典は、アメリカ製のズック靴にヒントを得てゴム底を糊づけする大量生産方式に成功し、以後、草履やわらじに代わって広く普及した、と記しています。つまり江戸の植木職人の足元は足袋にわらじで、地下足袋姿の庭師は大正の終わりからの姿です。「地下」はデジタル大辞泉によれば「じかに土を踏む」の当て字で、石橋正二郎はのちにブリヂストンタイヤを創立します。足袋そのものの話は、記事「足袋」にも書いています。

地下足袋で枝の上に立つ足元(記事「アーボリストとは」から再掲)
膝から上がふくらみ、膝下が細い「乗馬ズボン」は、デジタル大辞泉では乗馬用のジョッパーズの形として説明されていて、庭師がいつから履くようになったかを書いた辞典は見つかりませんでした。膝下をバンドで絞ったゆったりしたニッカーボッカーズも、世界大百科事典によれば19世紀末から1920年代の欧米の野外運動服で、1930年代以降は登山や作業用として残った、とあります。現場での経験から言えば、鳶職や造園の現場では膝下を絞ったゆったりしたズボンが広く使われてきました。股引の「細く、しかし屈伸しやすく」という考え方を、別の形で引き継いだものだと私は見ています。
なぜ紺色なのか ― 仕事着の色の話
辞典の記述を並べると、腹掛けも股引も脚絆も手甲も、材料は「紺木綿」が普通でした。藍で染めた木綿が丈夫で手に入りやすく、汚れが目立ちにくかったからで、その経緯と藍四十八色の話は「藍染と庭師の装い」に書いたとおりです。日本では昔から、藍で染めた野良着や作業着は虫やヘビを寄せ付けにくいといわれてきましたが、これは効果を確かめた話ではなく、言い伝えとして紹介しています。

藍染の脚絆と作業着(記事「藍染と庭師の装い」から再掲)
花毎の連載では、手ぬぐい・手甲・濃藍色の足袋と脚絆・乗馬ズボン・鯉口シャツ・法被をそろえると全身が黒っぽくなり、祭りで神輿を担ぐ人の姿に似ている、と書かれています。大使館の庭で作業していたら外国人に「Oh Ninja」と喜ばれた、という話も出てきます。庭の主役は植物で、庭師は目立たない色をまとう。これは日本の庭師に限らず、後で見る英国やフランスの職人の青い仕事着にも通じる考え方です。
一方で、現代の現場では「目立つ色」が安全のために求められる場面があります。日本産業規格 JIS T 8127「高視認性安全服」(2015年制定・2020年改正)は、ISO 20471 をもとに、運転者や機械の作業者から着用者を目立たせて安全性を高める服を定めたもので、道路脇の街路樹の作業では蛍光色のベストが紺の仕事着の上に重なります。目立たないことと目立つことの両方を、場面で使い分けるのがいまの庭師です。
現代の日本の現場 ― 法令が決めた装備
伝統の装いの上に、この数十年で法令と規格に基づく保護具が重なりました。高木の作業で当社が着けているものを、根拠と一緒に並べます。

当社の作業員の装備。クライミング型のヘルメットにイヤーマフ、ハーネス、チェーンソー
| 装備 | 日本の法令・規格 | 要点 |
|---|---|---|
| 保護帽(ヘルメット) | 労働安全衛生法 第42条・第44条の2、保護帽の規格(昭和50年労働省告示第66号) | 型式検定に合格したものを使う、「飛来・落下物用」「墜落時保護用」の区分がある、造林等の作業(安衛則第484条)とロープ高所作業(同第539条の8)で着用 |
| 墜落制止用器具(ハーネス) | 労働安全衛生法施行令 第13条第3項第28号、安衛則、墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン(平成30年6月22日 基発0622第2号) | 2019年2月1日施行で「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に、フルハーネス型が原則、6.75mを超える箇所ではフルハーネス型を使う |
| 下肢の切創防止用保護衣(防護ズボン) | 安衛則 第485条(2019年2月12日公布、同年8月1日施行) | チェーンソーを用いる伐木・造材の作業で、事業者は労働者に着用させ、労働者は着用しなければならない、林業に限らず造園工事業も対象 |
| 防護服の性能 | JIS T 8125-2〜-4(手持ちチェーンソー使用者のための防護服) | 防護ズボン・手袋・履物の性能と試験方法 |
| 高視認性安全服 | JIS T 8127(2015年制定・2020年改正) | ISO 20471 をもとにした蛍光色・再帰反射材のベストなど |
出典: e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則」第485条、厚生労働省「伐木作業等の安全対策に係る改正労働安全衛生規則(平成31年2月公布)に基づくガイドラインの改正について」、厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(基発0622第2号)、日本規格協会 JIS T 8125・JIS T 8127
とくに大きな変化が2019年でした。2月には「安全帯」が「墜落制止用器具」と名を改めてフルハーネス型が原則になり、8月には、労働安全衛生規則第485条で「事業者は、チェーンソーを用いて行う伐木の作業又は造材の作業を行うときは、…当該作業に従事する労働者に下肢の切創防止用保護衣を着用させなければならない」と定められました。労働者の側にも着用の義務があります(同条第2項)。厚生労働省の周知資料は、この改正が林業だけでなく、伐木等の作業を行うすべての業種に当たるとしており、造園の現場も対象です。
ヘルメットの区分や保護眼鏡、イヤーマフの話は、連載「アーボリストの基礎」の「頭と体を守る ― ヘルメット・保護眼鏡・耳と手足の保護具」に書いたので、ここでは繰り返しません。
海外のガーデナーの服装の歴史 ― 英国の青いエプロンと、パリの青いブラウス

19世紀の英国の庭師(左。山高帽・ウエストコート・たくし上げたウールのエプロン・剪定ナイフ)と、19世紀のパリの職人(右。キャスケットと膝まで届くブラウス)。原典の記述をもとに図にしたもので、色はイメージ
英国 ― 1825年の手引きに書かれた庭師の装い
英国で1825年に出た奉公人の手引き『The Complete Servant』(サミュエル・アダムズとサラ・アダムズ著、ロンドン)には、庭師の道具と服装についての一節があります。鋤、熊手、鍬、三つ又のフォーク、はさみ、大鎌、はしご、ほうきなどを列挙したあと、「庭師はふつう青いウールのエプロンを着けていて、剪定のときにはそれを前でたくし上げ、釘、布きれ、はさみ、金づち、剪定ナイフを入れておく」と書かれています(原文: The gardener usually wears a blue woollen apron, which, when he is pruning, he ties up before him, and then serves to hold his nails, shreds, scissors, hammer, and pruning-knife)。同じ本には、庭頭(head gardener)の年給が40ギニーに週13シリングの食費手当と住居付き、という記載もあります。
読んで面白いのは、たくし上げたエプロンが道具入れになっている点です。日本の腹掛けの「どんぶり」と、英国の庭師のエプロンは、同じ役目を別の形で果たしていました。壁に果樹を仕立てる英国の庭では、釘と布きれ(枝を壁に留めるための shreds)が手放せなかったことも、この一文から分かります。
19世紀末から20世紀初めの英国の庭師の写真には、上着に山高帽という姿が残っています。ヘレフォードシャー(英国イングランド西部)の公文書館が公開している1900〜1914年ごろの写真には、道具を手にした庭頭が山高帽をかぶって写っています。庭頭は屋敷の中で地位の高い使用人で、帽子はその立場を示すものでもあったようです。当社に研修に来た英国の庭師マイケルさんの話は、記事「造園国際交流 イギリス人庭師マイケルさん」に書きました。
フランス ― ブラウスから bleu de travail へ
フランスの歴史家アラン・フォール(Alain Faure)は、2018年に『Modes pratiques』誌に発表した論文で、19世紀のパリの職人の服装を追っています。それによると、職人のしるしは膝まで届く平織りの長い上っ張り「ブラウス(blouse)」で、18世紀のパリの職人の図像には見当たらず、19世紀の初めごろから使われたようだ、とされています。多くは青で、安価な藍の染料「bleu populaire」で染めた木綿や混紡の布が、フランスの多くの地方で仕事着に長く使われていました。石工やペンキ職人は白いブラウスを着た、という例外も書かれています。
上着とズボンの二つに分かれた「bleu de travail(仕事の青)」は、フォールによれば世紀の変わり目(1900年ごろ)に現れ、ブラウスに取って代わっていきました。日本で地下足袋が生まれる少し前に、フランスでは青い作業着の形が変わっていたことになります。加藤が「藍染と庭師の装い」でフランスの bleu de travail と日本の藍の仕事着を並べて書いたのは、この歴史を踏まえてのことでした。
海外のアーボリストの装備 ― 規格で決まる
現代の海外のアーボリストの服装は、伝統よりも規格で決まります。英国と米国の公的な資料から、頭から足まで並べます。

作業によって保護具を変える。左は手鋸で剪定するとき、右はチェーンソーを使うとき(連載「アーボリストの基礎」第3回の図を再掲)
| 部位 | 英国(HSE の案内) | 米国(OSHA・ANSI Z133) | 日本 |
|---|---|---|---|
| 頭 | 樹上は登山用の規格 EN 12492 のヘルメット、産業用の EN 397・EN 14052 は地上の作業向け | ANSI Z89.1 に合うヘルメット、電線の近くは Class E | 型式検定に合格した保護帽(飛来・落下物用、墜落時保護用の区分) |
| 目・顔 | 網のバイザー EN 1731 か保護眼鏡 EN 166 | ANSI Z87.1 に合う保護眼鏡 | JIS T 8147 保護めがね |
| 耳 | EN 352 | 8時間の時間加重平均で85デシベルを超えるとき聴覚保護 | JIS T 8161 聴覚保護具 |
| 手 | EN 381-7 のチェーンソー用手袋、作業に合う手袋 | ― | JIS T 8125-4 |
| 脚 | EN 381-5(現在は ISO 11393-2)、樹上は全周を守る Type C を強く勧め、暑さで無理なら Type A | チェーンソー作業者は切創に強い脚の保護具(OSHA 29 CFR 1910.266)、ASTM F1414・F1897 | 安衛則第485条の下肢の切創防止用保護衣、JIS T 8125-2 |
| 足 | EN ISO 17249 のチェーンソー用ブーツ、樹上は EN ISO 20345 の足首を守るブーツ | 足首を覆う重作業用のブーツ、チェーンソー作業は切創に強いもの | JIS T 8125-3 |
| 外衣・色 | 引っかからない服、危険があれば高視認性の服 | 道路交通の危険があるとき ANSI/ISEA 107 の高視認性の服 | JIS T 8127 高視認性安全服 |
出典: 英国 Health and Safety Executive「Personal Protective Equipment (PPE) for aerial tree work」「Chainsaw personal protective equipment (PPE)」、米国 OSHA 29 CFR 1910.266(d)(1)、ANSI Z133(ISA 電子版)、ISO 11393-2:2018、日本規格協会 JIS、厚生労働省
英国の安全衛生庁(HSE)の案内で目を引くのは、樹上の作業には産業用ではなく登山用の規格(EN 12492)のヘルメットを勧めていることと、脚の防護は樹上では全周を守る Type C を強く勧めていることです。チェーンソーの防護服の国際規格 ISO 11393 は1999年に初版が出て、2018年に全面改訂されました(ISO 11393-2:2018「Protective clothing for users of hand-held chainsaws — Part 2: Performance requirements and test methods for leg protectors」)。メーカーの技術資料によれば、防護の等級は止められる刃の速さで分かれ、クラス1が秒速20m、クラス2が24m、クラス3が28mです。
米国では、労働安全衛生局(OSHA)の伐木作業の規則(29 CFR 1910.266)が、チェーンソーを使う作業者に、太ももの付け根からブーツの上端までを覆う切創に強い脚の保護具を着けさせるよう定めています。ただし、木に登る作業者については、脚の保護具を着けるほうが危険が大きいと事業者が示せる場合は例外とされ、ここは英国の「樹上こそ Type C」とは考え方が違います。アーボリストの安全基準 ANSI Z133 は、ヘルメットは ANSI Z89.1、保護眼鏡は ANSI Z87.1、道路の交通にさらされるときは ANSI/ISEA 107 の高視認性の服、と部位ごとに規格を名指ししています。

当社の樹上のチェーンソー作業。防護ズボンにハーネス、ヘルメットにイヤーマフ
比べてみる ― 日本の伝統の装いと、海外の装備は何が違い、何が同じか
ここまでを、部位ごとに一枚の表にしました。
| 部位 | 日本の伝統の装い | 海外の庭師の歴史(英・仏) | 現代のアーボリスト(日本・海外) |
|---|---|---|---|
| 頭 | 手ぬぐい | 山高帽(英)、キャスケット(仏) | クライミング型のヘルメット |
| 上半身 | 印半纏・腹掛け・鯉口シャツ | シャツとウエストコート(英)、ブラウス(仏) | 引っかからない長袖、高視認性のベスト |
| 道具入れ | 腹掛けの「どんぶり」 | たくし上げたエプロン(英) | ハーネスのギアループ、腰の道具袋 |
| 腰・脚 | 股引、のちに乗馬ズボン、脚絆 | コーデュロイのズボン(英)、ズボン(仏) | チェーンソー防護ズボン(Type A・C、クラス1〜3) |
| 手首・手 | 手甲 | ― | 手袋(EN 381-7 ほか) |
| 足 | 足袋にわらじ、1923年から地下足袋 | 革の編み上げ靴、木靴 | 足首を守るブーツ、チェーンソー用ブーツ |
| 体を支えるもの | 三脚脚立、幹に回した縄 | はしご | フルハーネスとロープ(日本は墜落制止用器具) |
| 色 | 紺(藍染) | 青(ウールのエプロン、ブラウス) | 目立たせる蛍光色を場面で重ねる |
| 何が形を決めたか | 職人の粋と屈伸のしやすさ | 屋敷の中の立場と作業の道具 | 法令と規格(安衛則、EN・ISO・ANSI) |
出典: 本文の各節の出典をまとめたもの。「現代のアーボリスト」の道具入れと体を支えるものは当社の現場の装備

三脚脚立と地下足袋で刈り込む植木職人(左)と、ハーネスとロープで樹上に体を預けるアーボリスト(右)(記事「アーボリストとは」の図を再掲)
違いは、はっきりしています。伝統の装いは「職人の粋」と「体の動かしやすさ」が形を決め、現代の装備は「法令と規格」が形を決めています。地下足袋の足裏で枝をつかむ感覚と、防護ズボンで刃から脚を守ることは、同じ「脚」の話でも向いている方向が違います。
一方で、同じところもあります。ひとつは色で、日本の紺も英国の青いエプロンもパリの青いブラウスも、安く丈夫で汚れが目立たない藍の色でした。もうひとつは道具入れで、腹掛けのどんぶりも、たくし上げたエプロンも、ハーネスのギアループも、「両手を空けたまま小さな道具を体に付けておく」ための工夫です。庭師の服は、国と時代が変わっても、しゃがみ、登り、刃物を使う体の動きに合わせて作られてきました。
職人の視点 ― 当社の現場ではどう着分けているか

棚仕立ての松の手入れ。手ぬぐいに腹掛け姿

松の庭園での作業の合間。頭には手ぬぐい
当社の現場の写真を並べると、同じ会社の中に二つの姿があります。松の手入れの現場では、手ぬぐいに腹掛け、地下足袋という伝統の装いで、脚絆と地下足袋のこはぜは足袋と同じく脚の内側にして着けます(当社の現場の着け方。詳しくは「藍染と庭師の装い」)。高木の剪定や特殊伐採の現場では、クライミング型のヘルメットにハーネス、チェーンソーを使う日は防護ズボンとイヤーマフに切り替えます。市川造園東京作業所のウェブ記事「職人の装束について考える」(2025年6月)も、仕事の場が公共の公園・街路樹・商業施設・マンションに広がり、足袋や半纏が場違いに見える現場があるため、現場に応じた作業服を使い分けている、と書いています。同時に、足袋・半纏・前掛けは今も「正装」として大切にしている、ともあります。これは私たちも同じ感覚です。

街路樹の診断の日は、紺の作業着の上に「樹木診断」と書いた目立つ色のベストを重ねます
現場での経験から言えば、伝統の装いの良さは、体に近いところにあります。地下足袋は足裏で枝や石の形が分かり、股引や乗馬ズボンは枝の間に脚を差し入れたときに引っかかりません。腹掛けのどんぶりには剪定鋏と縄が入り、しゃがんでも落ちません。一方で、チェーンソーの刃を止める繊維は伝統の布にはなく、頭を守る規格もありません。伝統の装いを捨てるのではなく、法令と規格が求める装備をその上に重ねる。当社の現場の答えは、いまのところそれです。
花毎の記事に出てきた「Oh Ninja」という外国人の反応は、見た目の話ですが、私は少し違うことを思いました。海外のアーボリストが日本の現場を見て驚くのは、服装よりも、ツリークライミングの技術と道具が海外と同じ規格で動いていながら、足元に地下足袋が残っていることのほうではないかと思います。江戸の職人装束と EN 12492 のヘルメットが同じ人の体に乗っている。その姿が、いまの日本の庭師です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 庭師の伝統的な服装は、どんな部分でできていますか?
A. 手ぬぐい、半纏(印半纏)、腹掛け、股引または乗馬ズボン、手甲、脚絆、地下足袋が基本です。どれも辞典に職人の仕事着として載っている言葉で、大工・左官・鳶職などと共通の江戸の職人装束を庭師が引き継いだものです。
Q2. 腹掛けの「どんぶり」とは何ですか?
A. 腹掛けの腹の部分に付いた、横幅いっぱいの大きな物入れです。体から少し離れて付いているので、前にかがんでも中身がこぼれにくい作りだと世界大百科事典は説明しています。庭師は剪定鋏や縄をここに入れます。
Q3. 地下足袋はいつからありますか?
A. 1923年に「アサヒ地下足袋」として売り出されたのが始まりです。日本大百科全書は1923年に石橋正二郎が新案のゴム底を貼り付けた地下足袋を売り出したと記し、世界大百科事典は1922年に石橋徳次郎・正二郎兄弟が考案し翌年1月に発売したと記しています。それまでの職人の足元は足袋にわらじでした。
Q4. 庭師の服はなぜ紺色が多いのですか?
A. 辞典の記述では、腹掛け・股引・脚絆・手甲は紺木綿で作るのが普通でした。藍で染めた木綿が丈夫で汚れが目立ちにくかったためで、英国の庭師の青いウールのエプロンやパリの職人の青いブラウスも、同じく安価な藍の色でした。虫やヘビを寄せ付けにくいという話は、昔からの言い伝えとして伝わっています。
Q5. 海外の昔の庭師はどんな服装でしたか?
A. 英国では1825年の奉公人の手引き『The Complete Servant』が、庭師はふつう青いウールのエプロンを着け、剪定のときはたくし上げて釘や布きれ、はさみ、金づち、剪定ナイフを入れておく、と書いています。19世紀のパリの職人は膝まで届く青いブラウスを着ていて、1900年ごろに上着とズボンの「bleu de travail」に変わっていきました。
Q6. 海外のアーボリストの服装は何で決まっていますか?
A. 規格です。英国の安全衛生庁(HSE)は、樹上の作業には登山用の規格 EN 12492 のヘルメット、脚には全周を守る Type C の防護具、足には EN ISO 17249 のチェーンソー用ブーツなどを挙げています。米国では OSHA の規則と ANSI Z133 が、ヘルメット(ANSI Z89.1)、保護眼鏡(ANSI Z87.1)、脚の保護具(ASTM F1897 など)を定めています。
Q7. 日本でもチェーンソーの防護ズボンは義務ですか?
A. はい。労働安全衛生規則第485条により、2019年8月1日から、チェーンソーを用いる伐木・造材の作業では、事業者が労働者に下肢の切創防止用保護衣を着用させ、労働者も着用しなければなりません。厚生労働省の周知資料では、林業に限らず伐木等の作業を行うすべての業種が対象で、造園の現場も含まれます。
Q8. 伝統の装いと現代の保護具は、どちらを選ぶべきですか?
A. どちらかではなく、重ねて使うのが当社の現場の答えです。松の手入れのような地上の作業では腹掛けや地下足袋の良さが生き、高木の作業やチェーンソーを使う日は、法令と規格が求めるヘルメット・ハーネス・防護ズボンを必ず着けます。何を着るかは、現場の状態と作業の内容に照らして決めます。
Q9. 手甲(てっこう)は何のために着けるのですか?
A. 手首から手の甲を覆う布で、日本大百科全書は、屋外の労働でけがや日差し、寒さを防ぐために使われたと説明しています。甲の側が三角形になっていて、中指に輪を掛け、手首を紐かこはぜで留めます。庭師の現場では、枝の間に腕を差し入れるときに手首を守る役目があります。
Q10. 法被(はっぴ)と半纏(はんてん)は同じものですか?
A. 辞典の上では別のものです。世界大百科事典によると、法被は江戸時代に下級武士も用いたため半纏より格が高く、袖は広袖で、背に紋を付けた紋付きを「看板」と呼びました。庭師の仕事着として紹介されるのは、紺木綿に屋号や家紋を染め抜いた印半纏のほうです。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- コトバンク「腹掛け」「半纏」「法被」「股引」「手甲」「脚絆」「地下足袋」「前掛け」「ニッカーボッカーズ」(日本大百科全書、改訂新版 世界大百科事典、精選版 日本国語大辞典、デジタル大辞泉、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア) https://kotobank.jp/
- 江戸東京博物館 デジタルアーカイブズ「腹掛け」(江戸末期〜明治期、火消装束として使用) https://www.edohakuarchives.jp/detail-136602.html、「漆職人半纏・股引」(昭和初期) https://www.edohakuarchives.jp/detail-193420.html
- 花毎(第一園芸)「庭の中の人」第二話「庭師の出で立ち」(はつやま さちこ、2020年7月22日) https://www.hanagoto.daiichi-engei.jp/garden/19898.html
- 株式会社市川造園 東京作業所「職人の装束について考える」(緑師プロジェクト vol.09、2025年6月) https://ichikawa-zoen-tokyo.jp/articles/maekake/
- KYOUENstore(有限会社京苑)「衣装の着かた」(庭師の衣装の着け方の特集ページ)
- Samuel and Sarah Adams『The Complete Servant』(London: Knight and Lacey, 1825)。Project Gutenberg の電子版 https://www.gutenberg.org/ebooks/69487
- Herefordshire History(ヘレフォードシャー公文書館)「Head gardener with tools」(写真、1900〜1914年ごろ) https://herefordshirehistory.org.uk/view/1186261-g36-419-06-head-gardener-with-tools-jpg
- Alain Faure「The Working Man’s Blouse in 19th Century Paris」『Modes pratiques』no.1(2018) https://devisu.inha.fr/modespratiques/228?lang=en
- e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則」第484条・第485条・第539条の8 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 厚生労働省「伐木作業等の安全対策に係る改正労働安全衛生規則(平成31年2月公布)に基づくガイドラインの改正について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000614984.pdf
- 厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドラインの策定について」(平成30年6月22日 基発0622第2号) https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001258810.pdf
- 日本産業規格 JIS T 8125-2〜-4「手持ちチェーンソー使用者のための防護服」、JIS T 8127「高視認性安全服」(日本規格協会)
- Health and Safety Executive(英国)「Personal Protective Equipment (PPE) for aerial tree work」 https://www.hse.gov.uk/treework/safety-topics/ppe.htm、「Chainsaw personal protective equipment (PPE)」 https://www.hse.gov.uk/treework/safety-topics/chainppe.htm
- ISO 11393-2:2018「Protective clothing for users of hand-held chainsaws — Part 2」 https://www.iso.org/standard/70749.html
- Occupational Safety and Health Administration(米国)29 CFR 1910.266「Logging operations」 https://www.osha.gov/laws-regs/regulations/standardnumber/1910/1910.266
- ANSI Z133「Safety Requirements for Arboricultural Operations」(International Society of Arboriculture の電子版。最新版は Z133-2026)
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※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。
※ 「ツリークライミング」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、ロープとハーネスで樹木に登って作業する技術を指す言葉として使っています。





















