守破離とは ― 植木屋と樹木医の仕事で考える、型を守り・破り・離れる順番

守破離 植木屋 樹木医 剪定 松の手入れ 職人 型

守破離(しゅはり)とは、型を守り、型を破り、型から離れるという、技を学ぶ人が通る3つの段階を表す言葉です。植木屋と樹木医の仕事に置き換えると、枝をどこで切るかという基本から、この木を残すか伐るかという判断までが、この順番で身についていきます。

私は修業時代から植木屋の仕事を続け、いまは樹木医として樹木の診断にも携わっています。振り返ると、身についた技術はどれも、この順番を通ってきたように思います。この記事では、植木屋と樹木医の仕事を例にして、守破離の3つの段階を一つずつたどってみます。

 

守破離とは ― 言葉の意味と由来

守破離は、技芸を身につけていく順番を、3つの段階で表した言葉です。茶道や武道などの世界で使われてきました。それぞれの段階の意味と、植木屋・樹木医の仕事での例を表にまとめると、次のようになります。

段階 意味 植木屋の仕事では 樹木医の仕事では
守 師や先輩の型を、そのとおりに身につける 掃除と片付け、道具の手入れ、刈込、枝を切る位置 外観診断で決められた部位と項目を漏れなく見る
破 身につけた型を、場面に合わせて工夫する 樹種や場所に合わせて、切る量と残す枝を変える 外観の所見と機器の結果を重ねて読む
離 型から離れ、自分の判断で動く 数年後の樹形から逆算して、切る枝を選ぶ 安全と樹木の保全を両方考え、残すか伐るかを決める

※ 植木屋・樹木医の仕事の例は、当社の考え方で整理したものです。

由来には諸説あります。よく知られているのは、千利休の作と伝えられる『利休百首』の一首「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」です。ただ、この歌が利休自身の作かどうかは、はっきりしていません。ほかにも、江戸時代中期の茶人・川上不白の言葉だとする説や、もとは兵法の言葉で、のちに茶の湯の修業の段階に取り入れられたとする説があります。

私がこの歌で大切だと思うのは、結びの「本を忘るな」です。型から離れても、もとになる基本は忘れない。植木屋の仕事にも、樹木医の仕事にも、そのまま当てはまる言葉だと感じています。

 

「守」― 植木屋の型は、掃除と道具と「切る位置」から

修業時代に繰り返し教わったのは、現場の掃除と片付け、道具の手入れ、刈込と生垣、そして枝を切る位置でした。先輩は多くを語らず、私は横で仕事を見て覚えました。なぜそこで切るのか、その理由がまだわからないうちから、手は型のとおりに動かしていました。

守破離 型 刈込 先輩 若手 植木屋 剪定

型から入る。先輩の構えをそのまま真似て刈り込む(イラストは当社作成)

枝を切る位置には、はっきりした型があります。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」は、剪定ではブランチカラー(枝の付け根の下側にあるふくらみ)を残し、その直前で切り落とすよう定めています。ブランチカラーには腐朽をくい止める防御帯ができるため、ここを切り落としたり傷つけたりすると、防御帯ができにくくなり腐朽が生じるとされています(同マニュアル p.71)。切る位置は「剪定の切る位置はブランチカラー」、付け根から枝を抜く切り方は「枝抜き剪定とは」で、図を使って説明しています。

剪定 枝の付け根 分かれ目 大透かし 枝ぶり図 植木屋 型

大透かし。太い枝を分かれ目から抜く(イラストは当社作成)

樹木医の仕事にも型があります。外観診断では、マニュアルで見る部位と項目が決まっていて、それを一つも飛ばさずに確かめていきます。見慣れた木でも、項目を省きません。

守の段階で大切なのは、自分の考えを足さずに、まず型のとおりにやってみることだと思います。型には理由があります。ただ、その理由がわかるのは、たいてい後になってからです。

 

「破」― 同じ型を、木と場所に合わせて当てはめ直す

私が切り方の理由を本当に理解したのは、樹木医になってからでした。樹木が傷をどう囲い込むのか、切り口から腐朽がどう広がるのかを学び、修業時代に見て覚えた切り方の一つ一つに、樹木学の裏づけがあることを知りました。

型の理由がわかると、型を場面に合わせて当てはめ直せるようになります。同じ透かし剪定でも、マツとケヤキでは枝の伸び方が違い、マンションの中庭と寺社の境内では、木に求められる姿も違います。型を知っているから、どこを変えて、どこを変えないかを言葉にできる。これが「破」の段階だと考えています。透かし剪定の加減は「透かし剪定を深く」に書きました。

型 守の段階 破の段階
剪定 先輩と同じ位置、同じ量で切る 樹種と場所に合わせて、切る量と残す枝を選ぶ
刈込 決まった形に、決まった手順で刈り込む 木の勢いを見て、刈る深さを加減する
外観診断 決められた部位と項目を漏れなく見る 外観の所見、機器の結果、立地、これまでの経過を重ねて判断する

※ 当社の考え方で整理したものです。

樹木医の仕事でも同じです。外観で症状を探し、必要なときはピカス(音の伝わる速さで幹の内部を調べる機器)などで確かめます。ただ、機器の数値だけで判断はしません。外観の所見や立地、これまでの経過と重ねて読むことで、はじめて数値の意味が決まります。

 

「離」― 数年後の木の姿から逆算して決める

私の場合、「破」から「離」へ進むきっかけになったのは、海外の技術に触れたことでした。アーボリカルチャー(樹木の管理を科学的に扱う考え方と技術)やロープワークを学び、それを修業時代に身につけた植木屋の型に重ねていきました。当社のGREEN MANAGEMENTの柱の一つ「科学的な知見(アーボリカルチャー)と現場経験の融合」も、この重ね合わせの延長にあると考えています。

離の段階では、今日の見栄えより、3年後、5年後の樹形から逆算して、切る枝を選びます。東京都のマニュアルも、樹冠を小さくするときは、いきなり強剪定で詰めるのではなく、目標樹形を定めて、数年かけて計画的に縮小していくことを求めています(同マニュアル p.73)。先の姿を描けるのは、型が体に入り、その理由まで理解しているからだと思います。

樹木医にとっての離は、残すか伐るかを自分で決めることかもしれません。利用する人の安全を確保することと、木を残す努力をすることの両方を考え、最後は自分の判断で決めます。当社のカルチャーにある「自分で決める」は、こうした場面の言葉でもあります。

それでも、離の段階で変えないものがあります。当社では、枝を切る位置と、安全の手順は、どれだけ経験を積んでも変えません。「離るるとても本を忘るな」の「本」は、こうした基本のことだと受け止めています。

 

順番を飛ばすと ― 自己流の剪定が木に残すもの

当社では、型を身につけないまま、いきなり「離」に飛ぶと、ただの自己流になってしまうと考えています。剪定でいえば、型を知らないまま、枝を途中で切ってしまうことです。

東京都のマニュアルは、幹の途中での切断は、幹の内部での腐朽を容易に進行させるとされている、と書いています(同マニュアル p.71)。愛知県植木センターが、平成26年度から28年度にかけてサクラ(ジュズカケザクラ)の切り口の経過を調べた報告でも、枝の途中で切った切り口は、切り口を巻き込む成長がほとんど進まなかったとされています(同報告 p.60・63)。

強剪定 切り口 腐朽 ウロ 空洞 ぶつ切り 剪定

太い枝を途中で切った切り口から腐朽が入り、年月がたって幹の中にウロができる(イラストは当社作成)

強く切り詰める強剪定も同じです。国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、強剪定で不定枝(幹や枝の途中から出てくる新しい枝)がたくさん出て、もろい構造になることを、樹木に弱点が生まれる要因の一つに挙げています(同手引き p.1-18)。

自己流の切り方の結果は、切ったその日には見えません。何年もたってから、腐朽や折れやすい枝として木に表れます。順番を飛ばしたつけを払うのは、切った人ではなく、木と、その木の下を通る人たちです。強剪定と腐朽の関係は「都市の高木はなぜ手入れできなくなるのか」でも書いています。

ぶつ切り 枝先 切り替え 柔らかい枝先 強剪定 剪定の型

左は分かれ目で切り替えていく柔らかい枝先、右は途中でぶつ切りを重ねた枝先(イラストは当社作成)

 

木の育ち方にみる守破離 ― 根を忘れた木は立っていられない

守破離を1本の木にたとえると、根が「守」、幹と枝が「破」、樹冠が「離」にあたるように思います。実際の木は、根も幹も枝も同時に育っていくので、これはあくまでたとえです。それでも木を見ていると、この順番の意味がよくわかります。

守破離 木 根 幹 枝 樹冠 たとえ 型を守る 型を破る 型を離れる

守破離を1本の木にたとえると、根が守、幹と枝が破、樹冠が離(イラストは当社作成)

樹冠が大きく広がっても、根が弱っていれば、木は立っていられません。国総研の手引きは、根返り(木が根ごと倒れること)の要因として、根系の腐朽や空洞、根の衰弱や伸びの悪さ、根系の切断や損傷を挙げています(同手引き p.1-7)。東京都のマニュアルも、根の張り具合に対して樹冠が大きい場合は、倒木の危険があるとしています(同マニュアル p.73)。

どれだけ枝を広げても、根を忘れた木は立っていられない。技術も同じで、型から離れて大きな判断をするときほど、根にあたる基本が問われるのだと思います。

 

当社の育て方 ― 同行し、観察し、真似て、振り返る

刈込のような基幹の技術は、座学だけでは身につきません。当社では、若手が先輩の現場に同行して仕事を観察し、真似て、何度も繰り返し、そのつど振り返ります。先輩がそばで見ながら、任せる範囲を少しずつ広げていきます。

私自身は、修業時代に先輩の仕事を見て覚えました。見て覚えることは、いまも学び方の土台だと思っています。そのうえで当社では、なぜそこで切るのか、なぜその順番なのかという理由も、言葉にして伝えるようにしています。理由がわかっていれば、「破」へ進むときに、変えてよいところと変えてはいけないところを、自分で見分けられるからです。

当社のバリューには、「手をうごかす」「育てて、のこす」「伝えて、つなぐ」という言葉があります。手を動かして型を身につけ、その型を言葉にして次の人へ伝え、会社に残していく。守破離は、一人の職人が育つ順番であると同時に、技術を会社に残していく順番でもあると考えています。

 

守破離の順番は、木が育つ順番とよく似ています。根を張りながら幹を太らせ、枝を伸ばし、やがて大きな樹冠を広げる。どの段階でも、根は木を支え続けています。型を守り、破り、離れても、本を忘れずに、これからも一本一本の木に向き合っていきたいと思います。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. 守破離とは何ですか?

A. 型を守り、型を破り、型から離れるという、技を学ぶ人が通る3つの段階を表す言葉です。まず師や先輩の型をそのとおりに身につけ(守)、次に型を場面に合わせて工夫し(破)、やがて型から離れて自分の判断で動く(離)、という順番を示しています。茶道や武道などの世界で使われてきました。

Q2. 守破離の由来は何ですか?

A. 由来には諸説あります。千利休の作と伝えられる『利休百首』の一首「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」がよく知られていますが、利休自身の作かどうかは、はっきりしていません。江戸時代中期の茶人・川上不白の言葉だとする説や、兵法の言葉が茶の湯に取り入れられたとする説もあります。

Q3. 植木屋の仕事では、守破離はどのように表れますか?

A. 守は、掃除と片付け、道具の手入れ、刈込、枝を切る位置などの基本を、先輩のやり方どおりに身につける段階です。破は、樹種や場所に合わせて、切る量と残す枝を変えられる段階です。離は、数年後の樹形から逆算して、切る枝を自分で選べる段階です。当社では、どの段階でも、枝を切る位置という基本は変えません。

Q4. 剪定で順番を飛ばすと、どうなりますか?

A. 型を知らないまま自己流で切ると、何年もたってから木に影響が表れることがあります。東京都の街路樹診断等マニュアルは、幹の途中での切断は幹の内部での腐朽を容易に進行させるとされている、と書いています。国総研の街路樹の倒伏対策の手引きは、強剪定で不定枝が多く出てもろい構造になることを、樹木の弱点の要因に挙げています。

 

出典・参考情報

  • 東京都建設局「令和三年度 街路樹診断等マニュアル」p.71(ブランチカラー・幹の途中での切断)、p.73(風圧軽減剪定・目標樹形・根の張り具合と樹冠) PDF
  • 国土交通省 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料第1059号(平成31年2月)p.1-7(根返りの発生要因)、p.1-18(樹木に発生する弱点) 国総研のページ
  • 愛知県植木センター「剪定切口の保護・回復についての調査」(調査期間 平成26年度〜平成28年度)p.60・63 PDF
  • 守破離の由来は諸説あり、この記事では『利休百首』の歌・川上不白の言葉とする説・兵法に由来するとする説を、伝えられている説として紹介しました

 

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