マツ枯れ(松くい虫被害)の全国の被害量は、林野庁が9月30日に公表した令和7年度の値で約63万m3となり、前年度の1.6倍に増えました。被害の半分を占める山形県庄内の海岸林、北限の青森県、天然記念物の松の指定解除などを、一次情報をもとに樹木医の立場で整理します。
海岸の松原や社寺の松、庭の仕立て松を枯らすマツ枯れ。正式には「マツ材線虫病」といい、マツノマダラカミキリが運ぶマツノザイセンチュウ(線虫)がマツの中で増え、水の通り道をふさいで枯らします。林野庁は今も「我が国最大の森林病虫害」と位置づけています。クビアカツヤカミキリ、ナラ枯れに続いて、マツ枯れも月に1回、全国の状況と国・自治体の動きをまとめていきます。初回は、林野庁の最新の数字から見える全国の「いま」です。

今月の要点
- 令和7年度の全国の被害量は約63万m3(前年度比163%)。長く減ってきた被害が令和5年度に12年ぶりに増え、3年続けて増えています。
- 都道府県別では山形県が323.8千m3(前年度比298%)と突出し、全国の約半分を占めます。長野・秋田・福島・新潟が続きます。
- 令和7年度までに被害が出たのは北海道を除く46都府県で、そのうち32都府県で前年度より増えました。
- 山形県は3月、知事を会長とする「庄内海岸林再生プロジェクト会議」を立ち上げ、危険な枯れ木の伐採を最優先に、抵抗性クロマツなどでの再生に取り組み始めました。
- 沖縄県久米島の天然記念物「久米の五枝のマツ」が枯れ、国の文化審議会が6月に指定の解除を答申しました。
全国の被害量は約63万m3。12年ぶりの増加から3年連続
林野庁の統計で、マツ枯れの被害量は「被害材積」、つまり枯れた木の幹の体積(m3)で数えます。過去最大は昭和54(1979)年度の243万m3。その後は長く減り続け、令和4年度には25万m3まで下がりました。それが令和5年度に31万m3と12年ぶりに増え、令和6年度は39万m3、令和7年度は63万m3と、増え方が大きくなっています。

マツ枯れは明治38年に長崎で初めて記録され、令和7年度までに北海道を除く46都府県で被害が出ています。そのうち32都府県で前年度より増えました。令和7年度の表で被害が無かったのは、北海道と埼玉県、大阪府だけです。
どこで増えているのか──被害の半分は山形県

令和7年度でまず目に入るのは山形県です。被害量は323.8千m3で、前年度の108.8千m3から約3倍。全国の被害量の約51%を山形県だけで占めています。秋田県(35.6千m3)、福島県(28.8千m3)、岩手県(16.1千m3)も増えました。長野県は53.2千m3と前年度よりは減りましたが、全国で2番目の多さが続いています。

量は少ないものの、前年度から大きく増えたところもあります。東京都は0.7千m3から5.8千m3へ、愛知県は0.7千m3から3.3千m3へ、京都府は3.5千m3から8.0千m3へ増えました。九州・沖縄では、鹿児島県が17.3千m3、沖縄県が12.1千m3、宮崎県が10.0千m3です。
北の端では、青森県の動きが続いています。青森県では平成22年1月に蓬田村で初めて被害が確認されました。令和7年シーズン(令和7年7月〜令和8年6月)は深浦町で1,540本の被害木が確認されています。県は、このシーズンから一部の地区で枯れた木をすべて被害木として数える方法に変えたため、前のシーズンとそのまま比べることはできませんが、被害が続いていることに変わりはありません。
山形県庄内の海岸林──「切り残し」と二次被害
山形県の被害の中心は、日本海に面した庄内海岸林です。山形県は2026年3月27日、知事を会長に、鶴岡市・酒田市・遊佐町、林野庁の庄内森林管理署などが加わる「庄内海岸林再生プロジェクト会議」を立ち上げました。会議の要旨によると、被害は令和4年度まで年2万m3台でしたが、令和5〜7年度に急に増えました。高温少雨に加えて、被害木の切り残しが広がりに拍車をかけたと説明されています。
会議が当面10年の方針として掲げたのは、危険な枯れ木の把握と緊急伐採を中心とする二次被害対策を最優先にすること、抵抗性クロマツや広葉樹を使った再造林、苗木の供給、枯れた木のチップ・ペレットとしての利用、県民の参加と資金づくり、の5つです。出席した市町長からは、危険な木の伐採を最優先にしているものの、自治体の負担が急に増えている、という声も上がりました。

会議は、荒廃した庄内海岸林を再生し、地域の安全・暮らし・産業を守ることを目的に掲げています。一度に大量の木が枯れると、伐るだけでも人手と費用がかかり、枯れた木が倒れれば道路や電線などにも影響します。インフラ事業者との連携まで含めて「二次被害対策」を真っ先に掲げたのは、そのためだと受け止めています。
天然記念物の松も──久米の五枝のマツ
沖縄県久米島町の久米の五枝のマツは、平成9年に国の天然記念物に指定されたリュウキュウマツの巨樹です。沖縄県教育委員会の報告によると、久米島では令和3年夏ごろから松くい虫の被害が確認され、薬剤の樹幹注入や散布で守ってきました。しかし令和7年6月に感染が確認され、8月26日に枯死と診断されました。国の文化審議会は2026年6月19日、指定の解除を答申しています。予防を重ねてきた木でも守りきれないことがある、という現実を示す出来事です。
樹木医から見たこと

マツ枯れの防除で何より大事なのは、枯れた木をカミキリが出てくる前に片づけることです。林野庁の資料では、5〜7月ごろに羽化したカミキリが線虫を体に入れて木から出ていき、健全なマツの若い枝をかじるときに線虫が入り込みます(時期は地域で違います)。森林総合研究所の手引きは、伐倒駆除について「成虫脱出時期までに終了することが絶対条件」とし、直径1.5〜2cmほどの枝にもカミキリがいることがあるので、枝まで集めて処理することを求めています。山形県が切り残しを拡大の理由に挙げたことと、ちょうど重なります。秋から春は、その処理に取りかかる時期です。
同じ手引きによると、カミキリは1回の飛翔で3kmほど移動できる一方、ふだんは10m程度の短い移動を繰り返しているとされます。枯れた木を1本残すと、そのすぐ周りの松が真っ先に危なくなるということです。また、寒い地域では感染から発症までに時間がかかる木(潜在感染木)が出やすく、そうした木も見逃さないよう、松やにの出方を調べる調査が勧められています。東北で被害が増えている今、見た目の緑だけで安心できない理由がここにあります。
守りたい1本の松には、予防の手があります。幹に薬剤を入れる樹幹注入は、適切に使えば確かな予防効果があり、薬剤によって最大7年続くとされます。ただし治療の効果はなく、すでに感染した木を助けることはできません。成虫が出る時期に合わせた薬剤散布も予防の方法です。当社でも、江戸川区登録天然記念物の「臥竜の松」(寿昌院)で、マツノマダラカミキリに備えた薬剤散布を行ってきました。

植え替えの場面では、抵抗性マツが頼りになります。森林総合研究所の手引きは、抵抗性のクロマツ・アカマツが数百品種開発されている一方で、「枯れにくい松であっても、枯れない松ではない」と念を押しています。久米の五枝のマツの例も合わせて考えると、予防・駆除・植え替えのどれか1つに頼るのではなく、毎年の見回りで枯れ始めた木を早く見つけ、手を重ねていくことが、松を残す確かな近道だと考えています。
来月は、各地の令和8年度の被害の速報や、松原・海岸林を守る取り組みを追っていきます。
よくある質問
Q1. マツ枯れの被害は、いまどのくらいですか。
林野庁のまとめでは、令和7年度の全国の被害量は約63万m3で、前年度比163%です。長く減ってきた被害が令和5年度に12年ぶりに増え、3年続けて増えています。山形県が323.8千m3と全国の約半分を占めています。
Q2. マツ枯れは、どうして松が枯れるのですか。
マツノマダラカミキリが体の中にマツノザイセンチュウを入れて運び、マツの若い枝をかじるときに線虫が木の中に入ります。線虫が増えると、数週間のうちに松やにが出なくなり、やがて水の通り道がふさがって枯れます。
Q3. 枯れた松は、いつまでに伐ればよいですか。
枯れた松の中では、次の年に出てくるカミキリの幼虫が育っていることがあります。森林総合研究所の手引きは、伐倒駆除を成虫が出てくる時期までに終えることを絶対条件とし、直径1.5〜2cmほどの枝まで集めて処理することを求めています。
Q4. 大切な松を、マツ枯れから守る方法はありますか。
樹幹注入や薬剤散布で予防できます。樹幹注入は、適切に使えば薬剤によって最大7年まで効果が続くとされます。ただし治療の効果はないため、感染する前に行う必要があります。
Q5. 抵抗性マツなら枯れませんか。
枯れにくくはなりますが、枯れないわけではありません。森林総合研究所の手引きは、抵抗性マツを「枯れにくい松であっても、枯れない松ではない」としています。見回りと駆除を続けることが前提です。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・林野庁「松くい虫被害」(令和8年9月30日更新)、「松くい虫被害対策について」、「全国の松くい虫被害量(被害材積)の推移」、「都道府県別松くい虫被害量(被害材積)の推移(総数)」
・森林総合研究所「マツ材線虫病にどう対処するか―防除対策の考え方と実践―」(2022年3月)
・山形県「庄内海岸林再生プロジェクト会議(設立会議)【要旨】」(令和8年3月27日)
・青森県「青森県民有林における松くい虫及びナラ枯れ被害の状況と対策について」(2026年7月31日更新)
・沖縄県教育委員会「史跡の追加指定及び天然記念物の指定解除についての報告」(令和8年7月23日)
・図の地図は「地球地図日本」(国土地理院)を加工して作成
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