樹種によって t/R 率の目安は変わるのか。研究を読み直すと、樹種の違いが大きく効くのは目安の数字そのものではなく、残った外周の壁がどれだけ信頼できるか(腐朽の型)と、薄くなった壁がどう壊れるかでした。樹木医が、材の強さのデータ、腐朽による強度低下、中空の幹の壊れ方を図と表で解説します。
「ケヤキは材が強いのだから、t/R 率が0.3を少し下回っても大丈夫ではないか」「ヤナギのような軟らかい木は、もっと厳しく見るべきではないか」。樹木診断の数字を樹種と結びつけて考えるのは自然なことです。この記事では、材の強さの公的なデータ、引き倒し試験、腐朽の室内試験、中空の幹の力学の論文を一つずつ確かめ、樹種の違いが t/R 率の判定のどこに効くのかを整理しました。
先に結論を書きます。健全な材の強さは樹種で約3倍違いますが、それを理由に t/R 率の目安を緩める根拠は見当たりませんでした。樹種で変わるのは、残った壁の信頼性と壊れ方です。そのため当社では、t を「外周から最初の腐朽の境までの、つながった健全な材の厚さ」で測り、腐朽の内側に残った健全な材(島やリング)は t に足しません。

t/R 率は、外周に残っている健全な材の厚さ t を、幹の半径 R で割った値(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.57 の定義。t も R も樹皮を含めない)
t/R 率とは──この記事の答えを先に
t/R 率は、幹の外周に残っている健全な材の厚さ(t)を、幹の半径(R)で割った値です。東京都の街路樹診断等マニュアルは、方向ごとに ti/Ri として求め(本編 p.57)、t/R 率が0.3未満、面積に直すと腐朽空洞部が断面積の約50%以上にあたる場合は、折損の危険性が高い場合があるとしています(p.58・66)。中心に円い空洞がある幹では、t/R 0.3 で断面積の約49%、曲げに耐える力の目安になる断面係数の約24%が失われます(当社の計算)。

空洞の直径の割合と、断面積・Wagener の近似・曲げの強さの低下(Wagener 1963 の考え方をもとに当社が計算した図)
この記事で確かめたことを、表にまとめます。
| 問い | 研究から言えること(最後の行は当社の考え) | 詳しく書いた節 |
|---|---|---|
| 健全な材の強さは樹種で違うか | 違う、生材の曲げ強さは北米の同属の樹種で約2.9倍の幅がある、ただし差の多くは材の密度で説明できる | 健全な材の強さ(後半) |
| 樹種で t/R の目安を変えるべきか | 樹種で目安を変える根拠は見当たらない、一方で、t/R の一つの数字で折れる木と立つ木を分けられないという研究もある | t/R の論争(後半) |
| 表の強さの値を、そのまま立木に使えるか | そのままは使えない、カエデ属24本の引き倒し試験では、同じ木の試験片の曲げ強さより低い応力で折れた | 試験片と生きた木(後半) |
| 樹種の違いはどこに効くか | 腐朽の型(褐色腐朽は初期から強さを大きく落とす、軟腐朽のオオミコブタケは同じ重さの減少で白色腐朽より大きく落とした例がある)と、薄い壁の壊れ方(縦の割れやすさ) | 薄くなった壁の壊れ方、腐朽の型(後半) |
| 内側に残った健全な材は t に足せるか | 当社は足さない、曲げへの寄与が小さく、両側から腐朽に接し、足すと判定が変わってしまう | 内側の健全な材を t に足さない理由 |
根拠にした数値と研究は、専門的な内容が多いので、記事の後半にまとめました。

当社の t の取り方。t は外周から最初の腐朽の境まで。腐朽の内側に残ったリングや中心の島は t に足さない
薄くなった壁は、どう壊れるか
Huang ら(2017)は、まっすぐな円い中空の幹が曲げられたときの壊れ方を、壁の厚さごとに計算しました。タイワンベニヒノキの生材の値では、t/R が0.06未満では断面がつぶれる座屈、0.06〜0.27では接線方向に割れて縦に裂け、0.27以上ではふつうの曲げで折れるという結果でした。ほかの3樹種でも、割れと曲げの境は0.21〜0.27でした。

中空の幹の3つの壊れ方。壁がとても薄いとつぶれて折れ曲がり、中くらいだと縦に裂け、厚いと曲げで折れる(t/R の境は Huang ほか 2017 のタイワンベニヒノキの計算の値)

壁の厚さで中空の幹の壊れ方が変わる(Huang ほか 2017 をもとに当社作成)
著者らは、境の値は樹種の中でも樹種の間でも変わりうるが、その変わり方は材料の性質の差よりずっと小さいと書いています。ただしこれは、接線方向の強さを曲げ強さに比例させて置いた計算での話で、実測の値を入れた2020年の続報では、境が樹種でかなり開きました(次の段落)。また、t/R 0.3 の中空の幹は、曲げで折れる場合、中身の詰まった幹の約76%の力に耐えるとしています。この計算は、空洞になっていない心材腐朽の幹と、横に開口のある幹には当てはまりません。縦割れの始まりを、断面がつぶれて生じる割れとみる説(Huang ら)と、せん断とみる説(マテックら)があることも書き添えます。
2020年の論文では、ケヤキやスギなど日本の樹種を含む11樹種で、幹の曲がりも入れて計算しています。広葉樹は曲げで、針葉樹は割れで折れやすいという結果でした。同じ比重なら曲げ強さは同じくらいでも、針葉樹は木目と直角に引っ張る強さ(接線方向の引張強さ)がかなり低いためです。割れが曲げより先に起きる t/R の上限は、スギ0.287、アカマツ0.273に対して、ケヤキ0.119でした。幹が曲がっていると、曲げの向きによっては、割れはさらに早く起きます。

まっすぐな中空の幹で、割れが曲げより先に起きる t/R の上限(Huang ほか 2020 の表2をもとに当社作成。日本の7樹種)
木目と直角に引っ張る強さは、USDA の表では生材で1.9〜5.3MPa と、縦の圧縮強さの1〜2割ほどしかありません。値そのものは軽い材ほど小さい傾向ですが、縦の圧縮強さとの比で見ると、軽い材ほど裂けやすいという単純な並びにはなりません。樹種で変わるのは t/R の目安ではなく、薄くなった壁が「曲げで折れるか、縦に裂けるか」という壊れ方です。

木目と直角に引っ張る強さ(横引張強さ)と、縦の圧縮強さに対する比(USDA Wood Handbook Table 5-3a をもとに当社作成)
内側の健全な材を t に足さない理由
機器の断面画像や波形には、腐朽の内側に健全な材が残っているように見えることがあります。リングのように残る材、中心に島のように残る材です。当社は、これらを t に足しません。理由は3つあります。
1. 曲げへの寄与が小さい
曲げに耐える力(断面二次モーメント。円い幹では断面係数と同じ割合で減ります)は、材の量に中心からの距離の2乗を掛けて効くので、中心に近い材ほど寄与が小さくなります。円の断面全体で見ると、半径の4乗に比例します。外周の壁だけ(t/R 0.2)の幹に、中心の島(半径0.3R)を足しても、残りは59.0%から59.8%にしか増えません。0.4R〜0.6R のリングなら69.4%と計算上は約10ポイント増えますが、腐朽の層をはさんでいるので、外周の壁と一体で働くかは分かりません(当社の考え)。

内側の健全な材を t に足すと、強さを読み違える(円い幹・円い層を仮定した当社の計算)
2. 両側から腐朽に侵される
内側に残ったリングは、外側も内側も腐朽に接しています。菌は両方の面から入ることができ、外周の壁より早く弱っていく可能性があります(当社の考え)。後半の「判定を本当に左右するのは『腐朽の型』」で紹介するとおり、褐色腐朽や軟腐朽では見た目が健全でも強さが落ちていることがあるので、外周の t でさえ割り引いて考える場面で、内側の材を t に足すのは、二重に危ない側の判断になります。

内側に残ったリングは、内と外の両側から腐朽がしみ込む
3. 足すと、判定そのものが変わる
外周の壁とリングの厚さを足して t=0.4R と記録すると、t/R は0.2から0.4になり、目安の0.3を越えてしまいます。計算上の曲げの残りは87.0%となり、外周の壁だけの59.0%の約1.5倍に見積もることになります。
なお、中身が残っている幹は、空洞の幹より断面のつぶれに強いという計算もあります(Huang ほか 2017)。内側の材がまったく働かないわけではありません。それでも t に足さないのは、腐朽をはさんだ材がどれだけ働くかを、診断の場で数字として見込めないからです(当社の考え)。
レジ(Resi PD)の波形では、針が初めて腐朽に入る所までが t です。腐朽の先で抵抗がまた上がっても、そこは t に足しません。レジの画面では、深さ0cm(樹皮の側)が右端にあり、波形は右から左へ読みます。

レジの針は、右の樹皮から中心へ、外周の健全な材・腐朽・健全なリング・腐朽・空洞の順に通る

波形のどこまでを t に数えるか(上の絵と同じ層の並びの模式図。右端が深さ0cm=樹皮の側。東京都のマニュアル p.57 の定義と Rinn 2012・2016 をもとに当社作成)
波形の読み方の全体は「レジ(Resi PD)の波形の読み方」にまとめています。
空洞がずれているときは、いちばん薄い方向を見る
腐朽は中心からずれていることが多く、方向によって外周の壁の厚さが大きく違います。東京都のマニュアルは方向ごとに ti/Ri を求めます。空洞の大きさだけで計算する同心円の式は、空洞がずれるほど失われる強さを小さく見積もり、危ない側に外れます。いちばん薄い壁の t/R で計算すると、実際より大きく見積もるので、安全の側に外れます。

腐朽が中心からずれた幹。十字の4本の線で測ると、方向によって外周の壁の厚さが大きく違う

空洞が中心からずれると、式の答えはどう外れるか(空洞の半径 0.6R。当社の計算)
空洞のずれと直角の向きに曲げられたときは、同心円の式と同じ値になります。風の向きで答えが変わるので、断面全体を見る機器(ピカスやアーボソニック3D)の断面画像と、レジの線の情報を合わせて読みます。
当社の判定の流れと、樹種ごとの注意点
この記事で確かめた研究を、当社の判定の流れにまとめます。樹種ごとの健全な材の強さを理由に、t/R の目安(0.3)を緩めることはしません。樹種の情報は、腐朽の型と壊れ方を考える手がかりとして使います。

樹種と腐朽を、t/R の判定にどう入れるか(当社の判定の考え方)
樹種ごとの注意点を、この記事で確かめた資料だけで表にしました。
| 樹種 | 材の強さ(資料) | t/R の判定で気をつけること |
|---|---|---|
| ケヤキ | 木材の曲げ強さ100.0MPa(林業試験場)、辺材は褐色腐朽で27.4%減る | 2020年の計算では曲げで折れやすい側、材が強くても、t/R の目安は緩めない |
| サクラ類(ソメイヨシノなど) | ソメイヨシノの公的な強さの値は見当たらない、ヤマザクラの辺材は褐色腐朽で40.9%減る | 行政の手引きに、ベッコウタケによるソメイヨシノの根株の腐朽の事例が写真で示されている(国総研)、根株診断と合わせる |
| ニセアカシア・エンジュ(マメ科) | 北米のニセアカシアの生材の曲げ強さ95MPa と、健全な材は強い | マメ科の樹木にはベッコウタケが多い(国総研)、根株を確かめる |
| ポプラ・ヤナギ・ドロノキ | 北米の同属の生材で33〜37MPa、ドロノキの木材で43.1MPa と弱い | Wagener(1963)は、ポプラのような材の弱い樹種を、広葉樹で幹折れが比較的まれであることの例外に挙げた(Bond 2006 の紹介)、強さの表で割り増しも割り引きもせず、荷重と断面を見る |
| マツ類・スギなど針葉樹 | 木目と直角に引っ張る強さが低い | まっすぐな中空の幹の計算では、スギ・アカマツは t/R 0.27〜0.29 くらいまで、曲げより先に縦に割れる(Huang ほか 2020) |
| カシ類・クスノキ | シラカシの木材の曲げ強さ131.7MPa、心材は褐色腐朽の室内試験でほとんど減らない(1%前後) | 材が強く心材が腐りにくくても、t/R の目安は緩めない |
| イチョウ・ハナミズキ・トウカエデ・マテバシイなど | イチョウは幅(階級)の値だけ、ほかは公的な強さの値が見当たらない | ほかの樹種の値で推し量らない、断面と腐朽の型で判断する |
出典: 林業試験場(1982)、Kretschmann(2010)、Huang ほか(2020)、国土技術政策総合研究所 国総研資料第1059号「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」Ⅱ別冊 1-24・1-101・2-42、Bond(2006)
樹種ごとの「折れやすさ」を数字で示した資料も、多くはありません。米国カリフォルニア州の樹木の破損の報告(California Tree Failure Report Program)は1987年に始まり、2026年4月16日時点で6,841件が集まっています。1993年9月時点の1,216件ではモントレーマツが全体の15%を占めましたが、これは件数で、植わっている本数を分母にした率ではありません。同じ論文は、サンフランシスコのゴールデンゲートパークで、台帳の23%のモントレーマツが破損報告の44%を占めたと、台帳と比べた例も示しています(Edberg ほか 1994)。日本では、樹種別の破損のデータベースにあたる公開資料は、今回の調べでは見当たりませんでした。東京都の街路樹診断等マニュアルは、過去に幹折れや倒木などの被害が生じた樹種としてエンジュ・シダレヤナギ・ケヤキ・サクラ・スズカケノキ・ユリノキの6樹種を挙げ、優先して診断する対象にしています(本編 p.12)。これも件数の多さで、植わっている本数を分母にした率ではありません。
樹木の安全を一つの数字で決めることはできません。それでも、t をどこまで数えるかという約束がぶれれば、数字そのものの意味が無くなります。外周から最初の腐朽の境まで。内側の材は足さない。この約束を守ったうえで、腐朽の型・壊れ方・荷重を一本ずつ見ていくのが、当社の精密診断(機器診断)の考え方です。
ここから先は、この記事の判断の根拠にした数値と研究を、詳しく紹介します。健全な材の強さ、t/R をめぐる海外の議論、試験片と引き倒し試験、腐朽の型による強さの落ち方の順です。
健全な材の強さは、樹種でどのくらい違うか
生材の曲げ強さは、北米の同属の樹種で約2.9倍
米国農務省林産研究所の Wood Handbook には、立木と同じく水を含んだ生材の強さが、樹種ごとに載っています。日本の街路樹と同じ属の北米の樹種を選んで並べると、生材の曲げ強さはいちばん弱いヤナギの33MPaから、いちばん強いニセアカシアの95MPaまで、約2.9倍の幅があります。日本の木そのものの値ではないことに注意が要ります。

生材の曲げ強さ・ヤング係数・比重(Kretschmann 2010, USDA Wood Handbook Table 5-3a をもとに当社作成。日本の樹種と同じ属の北米の樹種の値)
| 日本の樹種(同じ属) | USDA の樹種 | 比重(生材) | 曲げ強さ 生材/乾いた材(MPa) | 縦の圧縮 生材/乾いた材(MPa) | 横引張 生材(MPa) |
|---|---|---|---|---|---|
| ニセアカシア | Black locust | 0.66 | 95 / 134 | 46.9 / 70.2 | 5.3 |
| ナラ類 | White oak | 0.60 | 57 / 105 | 24.5 / 51.3 | 5.3 |
| サクラ類 | Black cherry | 0.47 | 55 / 85 | 24.4 / 49.0 | 3.9 |
| ハルニレ | American elm | 0.46 | 50 / 81 | 20.1 / 38.1 | 4.1 |
| プラタナス | American sycamore | 0.46 | 45 / 69 | 20.1 / 37.1 | 4.3 |
| ユリノキ | Yellow-poplar | 0.40 | 41 / 70 | 18.3 / 38.2 | 3.5 |
| マツ類 | Red pine | 0.41 | 40 / 76 | 18.8 / 41.9 | 2.1 |
| ポプラ | Eastern cottonwood | 0.37 | 37 / 59 | 15.7 / 33.9 | 2.8 |
| シナノキ類 | American basswood | 0.32 | 34 / 60 | 15.3 / 32.6 | 1.9 |
| ヤナギ | Black willow | 0.36 | 33 / 54 | 14.1 / 28.3 | ― |
出典: Kretschmann, D.E.(2010)Wood Handbook FPL-GTR-190 第5章 Table 5-3a(2018年の正誤表を反映した版)。乾いた材は含水率12%。比重は全乾重量÷生材の体積。「―」は原表に値が無いもの
立木の材は、乾いた材の6割ほどの強さ
強さのカタログの多くは、乾いた材(含水率12%前後)の値です。同じ表で生材と比べると、生材の曲げ強さは乾いた材の約0.53〜0.71倍(平均約0.6)、縦の圧縮強さは約0.45〜0.67倍(平均約0.5)でした。立木の評価に強さの値を使うときは、まず生材の値かどうかを確かめる必要があります。

生材の強さは乾いた材の何割か(USDA Wood Handbook Table 5-3a をもとに当社が計算)
日本の樹種の値──ソメイヨシノの値は見当たらない
日本の樹種では、林業試験場(今の森林総合研究所)が1982年にまとめた「日本産主要樹種の性質」があります。原表を確かめると、曲げ強さはシラカシの131.7MPaからドロノキの43.1MPaまで、約3倍の幅がありました。ただし、これは製材した木材の試験片を JIS の標準の方法で試験した値で、立木の生材の値ではありません。また、この一覧にはソメイヨシノ・イチョウ・プラタナス・トウカエデ・ハナミズキ・マテバシイの値がありません。イチョウには、樹種の値を幅(階級)で示した資料がありますが、ほかの5樹種は、今回の調べでは公的な強さの値が見当たりませんでした。

日本の樹種の曲げ強さ(林業試験場 1982「日本産主要樹種の性質」林業試験場研究報告 319 の原表をもとに当社作成)
| 樹種 | 比重(心材/辺材) | 曲げ強さ(MPa) | 縦の圧縮(MPa) | せん断(MPa) |
|---|---|---|---|---|
| シラカシ | 0.88 / 0.99 | 131.7 | 64.5 | 17.7 |
| タブノキ | 0.68 / 0.70 | 104.4 | 51.5 | 14.5 |
| ケヤキ | 0.62 / 0.61 | 100.0 | 44.3 | 12.4 |
| イタヤカエデ | 0.67 / 0.67 | 96.0 | 41.2 | 15.0 |
| クロマツ | 0.58 / 0.57 | 91.3 | 43.6 | 10.4 |
| ハルニレ | 0.61 / 0.48 | 89.7 | 43.7 | 12.3 |
| クリ | 0.56 / 0.52 | 75.2 | 40.8 | 11.9 |
| シナノキ | 0.49 / 0.52 | 66.1 | 37.0 | 10.4 |
| スギ(3産地) | 0.36〜0.41 / 0.35〜0.40 | 63.4〜68.1 | 30.8〜34.6 | 6.6〜8.0 |
| ドロノキ | 0.34 / 0.41 | 43.1 | 24.5 | 6.7 |
出典: 林業試験場木材部・木材利用部(1982)日本産主要樹種の性質 木材の性質一覧表. 林業試験場研究報告 319: 85–126。kgf/cm² を MPa に換算
強さの差の多くは、材の重さ(密度)で説明できる
Spatz と Pfisterer(2013)は、3つの木材のカタログの306種・393件を解析し、針葉樹も広葉樹も、生材の強さを、全樹種をまとめた一本の密度の式でおおむね表せることを示しました。USDA の値を重ねると、ニセアカシアとポプラでは式との差が11〜19%で、同じ樹種の中のばらつき(強さで約15%)と同じくらいでした。樹種の差に見えるものの多くは、材の重さの差です。なお、この式は健全な生材だけについての関係で(原文は「健全な生材だけを代表する」)、腐朽した材にそのまま当てはめるものではありません。

生材の密度と曲げ強さ(Spatz & Pfisterer 2013 の式と USDA Wood Handbook の値をもとに当社作成)
ドイツで使われてきたシュトゥットガルト強度表(Wessolly と Erb の表。Brudi と van Wassenaer が英語で紹介)でも、中欧の樹種の生材の比較圧縮強さは14〜28MPa に収まっています。紹介した2人は、中欧の樹種どうしの差は小さいと書いています。

シュトゥットガルト強度表の比較圧縮強さ(Wessolly & Erb の表を Brudi & van Wassenaer が載せたものから、中欧の主な20樹種を抜粋して当社作成。和名は当社が当てた)
材の弱さは、計算の上では太さで補える
曲げに耐える力は、材の強さと直径の3乗に比例します。計算の上では、曲げ強さが約2.9分の1の材でも、直径が約1.42倍あれば同じ力に耐えます。マテック(Mattheck)博士は、樹木は応力を均すように形をつくる、と考えました(連載「マテック博士と VTA 法 第2回」)。ただし、材の弱い樹種が実際にその分だけ太っているかを確かめた研究は、今回の調べでは見当たりませんでした。当社は、材の強さの表の差をそのまま立木の強さの差とは読まず、樹種の材の強さで t/R の目安を上げ下げしないことにしています(当社の考え)。

同じ曲げに耐えるのに要る幹の太さ(ニセアカシアを1としたとき。USDA の生材の曲げ強さをもとにした当社の計算。実際の木がその分太っているかは確かめられていない)
「樹種も太さも t/R に関係ない」説と、その反論
t/R の目安と樹種の関係は、海外で長く議論されてきました。主な立場を並べます。
| 研究者 | 主張 | 確かめた資料 |
|---|---|---|
| Wagener(1963) | ほかに欠陥の無い心腐れの針葉樹について、強さの1/3の低下までは安全に大きく響かないとした、広葉樹には、形の違い・てこの働き・材の強さ・(ポプラなどを除き)幹折れが比較的まれ、の理由で一律の基準を当てはめにくいとした | Bond(2006)の紹介 |
| マテックと Breloer(1994) | 樹冠を切り詰めていない(満樹冠の)木では t/R が0.3〜0.35を超えれば断面の扁平化による破壊は起きない、幹の太さも材の強さも関係しない(強いオークも弱いヤナギも同じ) | Bond(2006)の紹介 |
| Bond(2006) | 公表された図を読み、t/R の一つの値を安定の条件にはできないとした、直径約90cmを超える木では、立っている木と折れた木の比は良くても1:1 | Arborist News の記事 |
| Gruber(2008) | t/R=0.32 の規則は科学的に支持できず、退けるべき、折れるかどうかは荷重に大きく左右される、同じ年にマテックと Bethge が応答し、Fink(2009)は題で VTA(目で見て樹木の欠陥を評価する方法、マテック博士らが提唱)を「科学的に確かで、実務で認められている」と掲げた | Gruber は論文の要旨、マテックと Bethge・Fink は書誌 |
| Rinn(2018) | 中心に円い空洞がある幹では、t/R=1/3 で空洞は断面積の約45%、耐荷力の低下は約20%、ただし高さが伸びている木に限り、断面が円でない都市の成熟木にはそのまま当てはめられない | 本人の記事、著者は穿孔抵抗測定器のメーカー RINNTECH の経営者 |
Bond が読んだ数字は、誤解されやすいものです。折れた木802本のうち、約1/3は t/R 0.25 以上で、約2/3は 0.20 以上で折れていました。一方、Detter らがまとめた立っている木4,807本では、45%が t/R 0.3 未満でも、引き倒し試験の手順で安定と判定されていました。これは「t/R がいくつなら何%の確率で折れる」という数字ではありません。母集団は折れた木だけで、Bond 自身も、どちらのデータも母集団の選び方が示されていないと注意しています。

折れた木802本の t/R と、立っている木4,807本のうち t/R 0.3 未満の割合(Bond 2006 の紹介をもとに当社作成。折損の確率ではない)
反論の側も、樹種ごとの t/R の数値を示したわけではありません。Gruber(要旨)も Rinn も、問題にしているのは「一つの数字だけで決めること」と「荷重や断面の形を見ないこと」でした。Bond は、種を問わない要件は Wagener や木に登る人の経験と食い違うように見えるとしつつ、その理由は、種が材の強さ以外の点でも違うからかもしれない、と書いています。当社は、樹種の材の強さを t/R の目安を動かす要因とは考えていません。Gruber が書いたとおり、折れるかどうかは荷重に大きく左右されます。同じ t/R でも、樹高・樹冠の大きさ・風当たりで、幹にかかる力は大きく変わります。

同じ大きさの空洞でも、樹冠が大きく茂った木と小さく保った木では、風から受ける力が違う
試験片の強さと、生きた木が折れる強さ
表の強さの値は、節や割れの無い小さな試験片で測ったものです。生きた木には、枝の付け根、二又、古い傷、腐朽があります。

左は、節や割れの無い小さな試験片の曲げ試験。右は、枝の付け根や古い傷のある生きた1本の木
Kane と Clouston(2008)は、米国マサチューセッツ州でカエデ属3種24本を折れるまで引きました。根返りは0本で、側枝の位置で幹が折れた木が11本、二又の付け根が折れた木が13本でした。折れたときの応力は、同じ木から取った試験片の曲げ強さの、幹で79%、二又の付け根で45%でした。著者らは、試験片の材の値を使う引き倒しのモデルは、曲げの強さを大きく、折れる危険を小さく見積もるかもしれないと書いています。

木を折れるまで引く試験の道具立て。二又の片方にスリングを掛け、ワイヤーロープと手動ウインチで引く

折れたときの応力は、同じ木の試験片の曲げ強さの何%だったか(Kane & Clouston 2008 をもとに当社作成)
ただし、これは1つの研究で、カエデ属を、ゆっくり引いた結果です。折れたときの応力は樹皮の外側の直径で計算されており、著者は差の一部はそのためとも書いています。ほかの樹種や強い風にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、試験片で測った強さの値を当てにすると、立木の強さを大きく見積もるおそれがあることは言えます。表の値も、同じように小さな試験片で測った値です。
強さを見積もる式にも限界があります。Kane と Ryan(2004)は19本の空洞・腐朽のある幹の断面写真で4つの式を比べ、腐朽の多くは中心からずれていて、式と実際の差が大きかったのは腐朽が中心から大きく外れた木でした。いちばん薄い壁で計算する t/R は、危ない木を見逃した木が0本で、危ない側に分けすぎた木が3本でした。式はどれも、木にかかる力も材の強さも入れていません。

Kane & Ryan(2004)が19本の幹の断面で4つの式を比べた結果(本数)
判定を本当に左右するのは「腐朽の型」
腐朽の初めは、重さより先に強さが落ちる
t/R 率の計算は、「t の範囲の材は、健全な材と同じ強さを持つ」と仮定しています。ところが腐朽の型によっては、見た目が健全な材でも、すでに強さが落ちています。
Wood Handbook によると、腐朽はまず靱性(衝撃に耐える力)に効き、次に曲げの強さ、最後にすべての強さを落とします。室内試験では、重さが1%減った時点で靱性が6%から50%超(菌によって大きく違う)失われ、重さが10%減ると多くの強さが50%以上失われます。重さが10%減るまでの腐朽は、顕微鏡でしか見えないことが多いとされています。2021年版は、褐色腐朽菌は腐朽の初期に白色腐朽菌より大きく強さを落とすと書いています。

重さが少し減っただけで、強さは大きく落ちる(Wood Handbook、Ibach & Lebow 2014〈図は Curling ほか 2002〉、Winandy & Morrell 1993 をもとに当社作成。木材の小さな試料の室内試験)
米国林産研究所の研究者の解説(Ibach と Lebow 2014)では、褐色腐朽菌 Gloeophyllum trabeum について、曲げ強さの低下は測れる重さの減少より先に起き、重さが10%減ると曲げ強さが約40%、最大荷重までの仕事量などが70〜80%失われるとしています(サザンパインの室内試験)。白色腐朽は一般に強さがゆっくり落ちますが、靱性はより速く落ちることがあるとも書いています。
オオミコブタケ(Kretzschmaria deusta)は、論文では軟腐朽菌とされ、日本ではブナなどの生きた木の根株を腐らせる菌として報告されています(青島 1955)。Cristini ら(2024)は、生材のヨーロッパブナとフユボダイジュで、同じ重さの減少なら、オオミコブタケのほうが白色腐朽菌のツリガネタケより大きく曲げ強さを落としたと報告しています。オオミコブタケについては「ナラ枯れの枯死木はなぜ倒れるのか」でも書きました。

腐朽の入り方の違い。左は中心から広がる腐朽(外周の壁は全周に残る)、中は褐色腐朽(見た目が健全な壁も弱り始めていることがある)、右は外周から入る腐朽(t そのものが侵される)
| 腐朽の型 | 主な例 | 強さの落ち方 | t/R の判定で当社が気をつけること |
|---|---|---|---|
| 褐色腐朽 | 室内試験では G. trabeum・オオウズラタケ(サザンパイン・ダグラスファーなど針葉樹の材で試験) | 初めのうちから強さが大きく落ちる、重さの減少より先に強さが落ちる | 見た目が健全な外周の壁でも、強さが落ちていることがある |
| 軟腐朽(生きた木) | オオミコブタケ | 同じ重さの減少で、白色腐朽菌より大きく曲げ強さを落とした例がある | 根元の外周の壁を割り引いて考える |
| 白色腐朽 | ベッコウタケ・コフキタケ・ナラタケなど | 一般に強さはゆっくり落ちるが、靱性は早く落ちることがある | 褐色腐朽よりは強さの落ち方がゆるやかだが、靱性は早く落ちることがある、ベッコウタケ・ナラタケは生きた組織も侵す(東京都) |
出典: Wood Handbook(2010・2021)p.14-6、Ibach & Lebow(2014)、Cristini ほか(2022・2024)、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」参考資料 p.104
東京都のマニュアルは、木材腐朽を部位と型で分け(樹幹辺材腐朽=モミサルノコシカケ、樹幹心材腐朽=コフキタケ、根株辺材腐朽=ナラタケ、根株心材腐朽=ベッコウタケ)、生きた組織も分解するベッコウタケとナラタケには特に注意するよう求めています(参考資料 p.104)。また、ベッコウタケやコフキタケのようなキノコ(子実体)が出ていれば、根株や幹は著しく腐朽していると考えてよい、としつつ、キノコを出していない腐朽のほうが多いとも書いています(同 p.117)。国総研の手引きは、ベッコウタケを緑化樹で最も発生の多い腐朽菌の一つとし、マメ科の樹木に多いとしています。
腐朽の型の違いは、材の折れ方にも出ます。靱性が落ちた材は、繊維が粘らずにぽきっと折れます。

左は繊維が長くささくれて残る粘った折れ方、右は折れ口が平らなぽきっとした折れ方
材の折れやすさを、診断のときに抜き取った細い材の棒(コア)で確かめる道具もあります。考え方は「フラクトメーターの仕組み」で紹介しています。
心材と辺材の腐りにくさは、樹種で大きく違う
林業試験場の一覧には、切り出した材に褐色腐朽菌オオウズラタケを植えたときの重さの減り方(重量減少率)も載っています。クスノキやシラカシの心材は1%前後しか減らないのに、ヤマザクラの辺材は40.9%減りました。ケヤキは心材0%に対して辺材27.4%でした。

褐色腐朽菌オオウズラタケによる重量減少率(心材と辺材。林業試験場 1982 をもとに当社作成)
ただし、これは切り出した材の試験で、生きた木が腐朽を囲い込むはたらき(CODIT)は入っていません。生きた木の辺材がすぐ腐るという意味ではなく、傷で辺材が死んだあとの進みやすさの目安として読みます。外周から入る腐朽では、t そのものが侵されるので、t/R の計算の前提が崩れます。
材のつくりも、樹種によって違います。年輪の初めに太い道管が輪になって並ぶ環孔材(クリ・ハルニレ・ナラ類など)、細い道管が全体に散らばる散孔材(カツラ・シナノキ・イタヤカエデなど)、道管が放射方向に並ぶ放射孔材(シラカシ・アラカシなどのカシ類)、道管の無い針葉樹です。なお、スダジイは放射孔材ではなく環孔材とされています。

木口(断面)の見え方の違い。環孔材・散孔材・放射孔材・針葉樹
よくある質問(Q&A)
Q1. t/R 率とは何ですか?
A. 幹の外周に残っている健全な材の厚さ(t)を、幹の半径(R)で割った値です。東京都の街路樹診断等マニュアルは、t/R 率が0.3未満、面積に直すと腐朽空洞部が断面積の約50%以上にあたる場合は、折損の危険性が高い場合があるとしています。方向ごとに ti/Ri として求めます。
Q2. 樹種によって t/R 率の目安は変わりますか?
A. 樹種で目安を変える根拠は見当たりません。健全な材の強さは樹種で約3倍違いますが、差の多くは材の密度で説明できます。樹種で変わるのは、残った壁の信頼性(腐朽の型)と、薄い壁の壊れ方です。
Q3. ケヤキは材が強いので、t/R が0.3を少し下回っても大丈夫ですか?
A. 材の強さを理由に目安を緩めることはしません。カエデ属24本を引いた1つの研究では、同じ木の試験片の曲げ強さより低い応力(幹で79%、二又の付け根で45%)で折れました。試験片で測った強さの表の値を当てにすると、強さを大きく見積もるおそれがあります。
Q4. 腐朽の型によって、なぜ判定が変わるのですか?
A. 褐色腐朽は、重さがわずかに減った段階で強さを大きく落とします。室内試験では、重さが10%減ると曲げ強さが約40%失われた例があります。見た目が健全な外周の壁でも強さが落ちていることがあるので、t/R の数字だけでは足りません。
Q5. 腐朽の内側に健全な材が残っていたら、t に足してよいですか?
A. 当社は足しません。中心に近い材ほど曲げへの寄与は小さく、両側から腐朽に侵されるうえ、足すと t/R の判定そのものが変わってしまうためです。t は外周から最初の腐朽の境までの、つながった健全な材の厚さで測ります。
Q6. 中空の幹はどのように壊れますか?
A. まっすぐな中空の幹の計算では、壁がとても薄いと断面がつぶれる座屈、中くらいだと縦に裂ける割れ、厚いとふつうの曲げで折れます。タイワンベニヒノキの値では、境は t/R 0.06 と 0.27 でした。日本の樹種の計算では、スギ・アカマツは t/R 0.27〜0.29 くらいまで、曲げより先に縦に割れるという結果でした(ケヤキは 0.12 くらいまで)。
Q7. ソメイヨシノの材の強さのデータはありますか?
A. 今回確かめた公的な資料(林業試験場の「日本産主要樹種の性質」)には、ソメイヨシノの値はありませんでした。プラタナス・トウカエデ・ハナミズキ・マテバシイも同じで、イチョウは樹種の値を幅で示した資料があるだけです。ほかの樹種の値で推し量らず、断面と腐朽の型で判断します。
Q8. t/R 率だけで、伐るかどうかを決められますか?
A. 決められません。t/R の一つの数字では、折れる木と立つ木を分けられないという研究があります。外観の症状、腐朽の型、断面の形、樹高や樹冠の大きさ、周りに何があるかを合わせて、総合して判定します。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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出典・参考情報
・東京都建設局(2021)令和3年度 街路樹診断等マニュアル 本編 p.12・57・58・66、参考資料 p.104・117(参考資料の PDF)
・国土技術政策総合研究所(2019)国総研資料 第1059号 街路樹の倒伏対策の手引き 第2版 Ⅱ 別冊 1-24・1-101・2-42
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

































