都内の電線共同溝の整備工事で街路樹のまわりを掘削するにあたり、樹木医の立会いによる根系調査と移植適性度診断のご依頼をいただきました。
電線共同溝は、電線を道路の地下に収めるための施設で、電柱をなくす無電柱化の工事として整備されます。歩道を掘って管路を入れるので、植樹帯の脇の街路樹の根と、掘削の範囲が重なることがあります。
今回の調査の目的
今回の調査の目的は、電線共同溝を整備する際に、街路樹の根が今どのように伸びているか、その根を工事の際にどのように処理するかを確かめることでした。

植樹帯の縁石の脇を掘削し、根の伸び方を確かめる

根系試掘調査。歩道の街路樹の根元を掘り、根の広がりを確かめる
地下には根と埋設物が混在している
街路樹の植樹帯、歩道、車道の下は普段見ることはほとんどありませんが、樹木の根だけでなく、電気・上下水道・ガスなど様々な埋設物があります。今回の現場でも、過去の工事のたびに根が切られ、そこから新しく根が出ているところと、腐朽しているところが見られました。

掘削で現れた街路樹の根。太い根から細い根が分かれて伸びる
今回の調査対象樹木では、日々の剪定維持管理と根の分布状態に相関関係がある結果が得られました。
根を切ると木に何が起きるか
根は水や養分を吸うだけでなく、土をつかんで木を支えています。国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、根の切断や腐朽などがあると、その影響に応じて根系の抵抗力(木を地面に固定する力)が低下するとしています。また、根株と根の腐朽は、根の切断などから腐朽菌が材の中に入って起きる場合が多いとしています。
同じ手引きは、樹木の生育と安定にとって重要な根の範囲の目安として、根株を中心に「胸高直径(cm)×18」を半径とする範囲を挙げています。胸高直径30cmの木なら、半径5.4mです。街路樹の根は、植え桝や植樹帯の中だけに収まっているわけではありません。

東京都の工事配慮エリアと海外の根の保護の決まりは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」で比べています。
樹木医が立ち会って判断すること
掘削工事の際に街路樹の根を傷めないよう、適切に工事が行えるように樹木医が立ち会います。剪定してよい根と、温存しておきたい根を判断し、剪定する根についても、適切に処置するためのアドバイスや、樹木医自ら剪定・防腐処理を行います。

切ってよい根と、残したい根を見分ける(イメージ)。点線の円は幹に近い太い根、点線の楕円は根の大切な範囲
国総研の手引きも、地下の工事では、工事関係者と根系の保護のための調整を図り、できる限り根系を切断しないこと、やむを得ず切断する際には切り口に殺菌剤を塗布するなどして腐朽を抑えることを挙げています。

根元まわりの根を確かめる

掘削の溝のそばで、根の状態を確かめる

掘削で現れた根の様子を記録する
切った根の処置
今回も根系の確認後、剪定した箇所にトップジンMペースト(殺菌癒合剤)を塗布して養生しました。トップジンMペーストは、樹木類の「切り口及び傷口のゆ合促進」に農薬登録のある薬剤です。

根の切り口の処置に使ったトップジンMペースト
重機で引きちぎられた根は、切り口が裂けてささくれます。そのままにせず、鋭利な刃物で切り口を整えてから塗布します。国総研の手引きも、周辺工事で切断された根系の適正な処置として、鋭利な刃物による切断と殺菌剤の塗布を示しています。

裂けた根の先を、鋭利な刃物で直角に切り直し、切り口に殺菌癒合剤を塗る
若手も立ち会って
弊社で樹木医を目指す若手も、樹木医とともに調査に立ち会うことができました。普段なかなか見ることのできない街路樹の根の環境を間近で確認できたことは、貴重な体験だったと思います。

掘削工事に立ち会う若手スタッフ

歩道の掘削工事の現場
街路樹とインフラの共存
街路樹は都市環境において、
・景観の向上
・夏場の緑陰の提供
・環境の保全
・交通の安全
など様々な機能があります。
2023年の夏も厳しい暑さが続き、街路樹の緑陰の大切さを改めて感じました。街路樹とインフラ設備がどちらもよりよく共存していけるよう、樹木医として適切な診断・アドバイスに努めてまいります。
掘削工事における診断の書式は、工事ごとに最適な診断書を作成しております。樹木医による掘削工事・調査の立会い・診断の経験が豊富にございますので、樹木医へのご依頼が初めての方からのご相談もお待ちしています。
よくある質問
Q1. 街路樹の近くで掘削工事をするとき、なぜ樹木医の立会いが必要なのですか?
根は木を支え、水や養分を吸っています。根を切ると木を地面に固定する力が弱まり、切り口から腐朽菌が入ることもあります。樹木医が立ち会い、切ってよい根と残したい根を判断し、切る根は適切に処置します。
Q2. 切った根の切り口はどのように処置しますか?
鋭利な刃物で切り口を整え、殺菌剤を塗布します。今回は、樹木類の切り口及び傷口のゆ合促進に農薬登録のあるトップジンMペーストを塗布しました。
Q3. 街路樹の根はどのくらいの範囲に広がっていますか?
国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、生育と安定にとって重要な根の範囲の目安を、根株を中心に胸高直径(cm)×18を半径とする範囲としています。胸高直径30cmの木なら、半径5.4mです。
出典・参考情報
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料 第1059号、2019年2月)1-14・1-15(根系の抵抗力と重要な根域)、1-23(根株と根の腐朽)、1-93・1-94(周辺工事における保護対策)
・国土交通省「無電柱化の推進」
・日本曹達「トップジンMペースト」(農林水産省登録 第13411号)
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
樹木医 髙尾聡司
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