樹上で人の体を支えるロープは、最後は1本の枝や幹に預けられています。連載「アーボリストの基礎」の第10回では、この支点が登るシステムの要である理由と、登る前に樹木医が見る枯れ枝・キノコ・入り皮・樹勢を、日本の法令と東京都の街路樹診断の項目を先に、海外の基準とあわせて解説します。
この連載をお読みいただく前に
この記事は、ツリークライミングの仕組みと安全の考え方を紹介するものです。登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うもので、記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため決して行わないでください。
前回の第9回では、結びの名前と、それぞれが受け持つ役目を書きました。今回は、第1回と第2回で「第10回で詳しく書きます」とお約束した、登る前に木を見る話です。
私たちは、ふだん樹木診断で木の傷みを見ています。その目は、登る前に体を預ける枝を見るときにも使えます。ただし、そのまま当てはめてはいけないところもあります。この回では、その両方を書きます。ロープの掛け方や投げ方、枝の太さなどの目安は書いていません。どの枝を選び、どう確かめるかは、指導者が現場で木を前にして教えるものです。
支点 ― 登るシステムのすべてを受け止める枝
ツリークライミングで体を支える仕組みは、ハーネス、器具、ロープ、カラビナがつながってできています。そのつながりのいちばん先で、ロープを受け止めているのが、枝や幹です。これを支点(アンカー)と呼びます。英語の安全基準では tie-in point とも書かれます。
第4回から第8回で取り上げた道具には、規格があり、強さの表示があり、点検の基準があります。ところが、それらすべてを最後に受け止める枝には、強さの表示がありません。樹種も、育った場所も、傷の具合も一本ずつ違います。道具がどれほど確かでも、支点の枝が折れれば、システム全体が意味を失います。
日本の決まり ― 支持物の位置と状態を前もって調べる
日本の労働安全衛生規則は、ロープで体を支えて行う高所の作業(ロープ高所作業)について、体を支えるメインロープと墜落を止めるライフライン(命綱)を、作業箇所の上方にある「堅固な支持物」に、それぞれ別々にとるよう定めています(第539条の3)。そのうえで、作業の前に、支持物の位置と状態、その周りの状況、ロープが切れるおそれのある箇所などを調べて記録し(第539条の4)、作業計画に支持物の位置を示すよう求めています(第539条の5)。
樹上作業がロープ高所作業に当たるかを厚生労働省が示した資料は、私が調べた範囲では見当たりません。どの決まりが当たるかは第20回で書きます。それでも、体を預ける物の位置と状態を前もって調べて記録する、という考え方は、ロープを受け止める枝や幹にもそのまま通じます。
海外の基準 ― 支点に求められる条件
海外では、ISA(国際アーボリカルチャー協会)が事務局を務める米国の樹木作業の安全基準 ANSI Z133 の改訂案(2024年1月の公開レビュー版)が、支点の条件を並べています。作業中にかかる力に耐えられること(8.2.10)、メインロープが横へ動かないこと(8.2.9)、制御できない振り子の揺れを受けない位置であること(8.2.14)、作業位置より上で、通電している電線などの方へ振られない位置が望ましいこと(4.1.7)。条件は「強さ」だけではありません。
| 支点について求めていること | 日本(安衛則 ロープ高所作業) | 海外(ANSI Z133 改訂案) |
|---|---|---|
| 力に耐える | 堅固な支持物を使う(第539条の3) | 作業中にかかる力に耐えられること(8.2.10) |
| 前もって調べる | 支持物の位置と状態、周りの状況を調べて記録する(第539条の4) | 地上から支点の状態を目で点検する(8.2.11) |
| 1か所に頼らない | メインロープとライフラインを別々の支持物に(第539条の3) | ― |
| ロープを傷めない | 切れるおそれのある箇所を調べ、覆いなどで防ぐ(第539条の3・第539条の4) | ― |
| 位置 | 作業箇所の上方(第539条の3) | 作業位置より上、電線の方へ振られない(4.1.7)、横へ動かない(8.2.9)、振り子にならない(8.2.14) |
出典: 労働安全衛生規則 第539条の3〜第539条の5(e-Gov 法令検索)、ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)。日本の欄はロープ高所作業の条文で、樹上作業に当たるかは示されていない。「―」は、この記事で引いた条にはない、という意味
補いとして、メーカーのペツル(Petzl)は技術資料で、木の支点の考え方は専門の訓練で理解しなければならない、と断ったうえで、幹(場合によってはいちばん太い枝)にとる「主たる支点」と、体重を支えられる枝にとる「補助の支点」を分けて説明しています。木を傷めないための人工の支点(フォールスクロッチ)という器具もありますが、この連載では名前と役目までにとどめます。
登る前に、木を見る ― 一度で終わらない点検
日本では
日本で、樹上作業の支点の選び方を説明した公的な資料は、厚生労働省・林野庁・都道府県の公開資料を探した範囲では見つかりませんでした。手がかりは、先のロープ高所作業の「支持物を前もって調べて記録する」決まり(第539条の4)です。
樹木診断の側では、東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)が、幹の分かれ目や大枝の付け根は梯子や脚立で直接触れて診断し、それより高い所は墜落制止用器具や高所作業車を使って調べる、としています(p.33)。街路樹の診断でも、高い所の付け根は「上がって見る」場面があります。
海外では
ANSI Z133 の改訂案は、誰かが木に入る前に、樹木の危険の評価について訓練を受けたアーボリストが、根元と木のすぐ周りを含めて木を目で点検するよう求めています(3.4.5)。腐朽、付け根の弱い枝、枯れた樹皮などの兆候が見えるときは、資格のあるアーボリストが、作業でかかる力に木が耐えられるかを判断し(3.4.6)、疑問があれば、詳しい評価ができるまで作業を始めません(3.4.6.1)。支点の状態も、地上から目で点検します(8.2.11)。
ISA の木登りの資格(ISA Certified Tree Climber)の試験の範囲は、作業前の打合せの前に木と現場の危険を点検することを挙げ、腐朽の兆候(樹冠の枯れ下がり、キノコ、樹皮のはがれ、穿孔虫など)と樹種ごとの壊れ方の傾向を知ること、木が登るのに安全でなければ高所作業車やクレーンなど別の方法を勧めることを求めています。実技試験には、最初の支点に着いたところで、もう一度木を点検する課題もあります。
なぜ何度も見るのか。ISA の学術誌に載った Kane と Arwade の研究(2022年)は、登っている間、支点には登る人の体重を上回る力が、揺れを伴って繰り返しかかることを測り、体を預ける前に一度確かめるだけでは単純にとらえすぎている、と指摘しています(被験者が1人なので一般化には注意が要る、と研究者自身が断っています)。
| 木を見る場面 | 見ること | 参考 |
|---|---|---|
| 登る前(地上で木全体) | 根元と木のすぐ周りを含めた、木の危険 | Z133 改訂案 3.4.5、考え方の手がかりとして安衛則 第539条の4(ロープ高所作業の条文、樹上作業に当たるかは第20回) |
| 登る前(地上から支点) | 支点にする枝や幹の状態 | Z133 改訂案 8.2.11 |
| 兆候が見えたとき | 作業でかかる力に木が耐えられるか | Z133 改訂案 3.4.6 |
| 疑問が残るとき | 詳しく調べるまで始めない、別の方法を考える | Z133 改訂案 3.4.6.1、ISA Certified Tree Climber の試験の範囲 |
| 最初の支点に着いたとき | 地上から見えなかった欠陥、支点と予想される力に照らした弱さ | ISA Certified Tree Climber の実技試験の評価票 |
| 登っている間 | 樹冠の欠陥と危険を評価し直す | ISA Certified Tree Climber の試験の範囲 |
出典: ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)、ISA「Certified Tree Climber Examination Outline」と実技試験の評価票、労働安全衛生規則。判断する場面を並べたもので、作業の手順ではない

樹上で、枝の付け根の亀裂を指さして確かめる作業員

落葉した大木の樹冠の中で、枝の分かれ目に体を預ける職人
樹木医が見るところ ― 東京都の街路樹診断の外観診断の項目
東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、外観診断を、樹木の外観を目視と診断用具で総合的に診るもので、高い専門知識と経験に基づく技術が要る、と位置づけています(p.15)。木全体の樹勢と樹形を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝を見る「部位診断」に分かれます。マニュアルが挙げる視点を、登る前に見るときの関わりと並べると、次のようになります。

折れて垂れ下がった枝を指さして確かめる樹木医
| 区分 | 外観診断の視点(東京都のマニュアル p.17) | 登る前に見るときの関わり |
|---|---|---|
| 活力診断 | 樹勢 | 梢端や枝先の枯れは、根や生育の場所の問題の手がかり(p.18) |
| 活力診断 | 樹形 | 木全体の姿を見る項目 |
| 部位診断 | 樹皮枯死・欠損・腐朽 | Z133 改訂案も兆候に挙げる(3.4.6) |
| 部位診断 | 開口空洞(芯達・芯未達) | 幹や大枝の中の傷みを外から知る手がかり |
| 部位診断 | 枯枝・ぶら下がり枝・折れ枝の落枝の危険 | 体を預けられない、作業中に落ちてくる |
| 部位診断 | スタブカットの落枝の危険 | 過去の切り残しが枯れて落ちるおそれ |
| 部位診断 | キノコ | 腐朽のしるし、出る場所で危険の種類が違う(p.28) |
| 部位診断 | 木槌打診音の異常 | 幹の中の空洞や腐朽の手がかり |
| 部位診断 | 分岐部・付根の異常 | 着葉の重さでも折れることがある(p.33) |
| 部位診断 | 胴枯れなど病害 | 幹や枝の傷み |
| 部位診断 | 虫穴・虫フン・ヤニ | ISA の試験の範囲も腐朽の兆候に挙げる |
| 部位診断 | 根元の揺らぎ | Z133 改訂案も根元まで点検する(3.4.5) |
| 部位診断 | 鋼棒貫入異常 | 根株の腐朽の手がかり(p.37) |
| 部位診断 | 巻き根 | 根元の状態 |
| 部位診断 | ルートカラーの露出 | 根元の状態 |
| 部位診断 | 露出根被害 | 根の傷み |
| 部位診断 | 不自然な傾斜 | ISA の実技試験も見分ける欠陥に挙げる |
| 部位診断 | 建築限界越え、枝の道路境界越え(民地越境)など | 道路の管理の項目で、目的が違う |
| その他の事項 | 根上がりによる舗装や縁石の破壊、道路工事などによる根の切断など根系の状況、風環境・日照条件など立地条件、植栽地の土壌の踏圧・締め固めなど | 木全体の見方に関わる |
出典: 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)p.15・p.17・p.18・p.28・p.33・p.37、ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)、ISA「Certified Tree Climber Examination Outline」と実技試験の評価票。右の列は当社のまとめで、マニュアルの判定基準ではない
項目ごとの確かめ方と判定は「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)」で書いています。ここでは、登る前の点検と特に関わりの深い4つを取り上げます。

1本の木の、外観診断で見る17か所の被害
樹勢 ― 梢端と枝先を見る
マニュアルは、樹勢を、枝の伸び、梢端の枯れ、葉の大きさや色などで評価し、見えにくい梢端も樹勢の判断に大きく関わるので丁寧に見る、としています(p.18)。梢端の衰えや枝先の枯れ下がりには、根株の腐朽の末期や根の障害、生育の場所の問題が関わっていることがある、とも書いています。支点の枝が健全に見えても、木全体が弱っていれば話は変わります。枝より先に、木全体から見始めるのはそのためです。

葉の密な木と、梢端が枯れた木を見比べる樹木医
枯れ枝・ぶら下がり枝・折れ枝
マニュアルには、大枝の枯れ枝・ぶら下がり枝・折れ枝について、太さと長さで判定を分ける基準があります(p.26)。ただ、これは街路樹の落枝の危険を判定するためのもので、支点にしてよいかの目安ではありません。この記事では、その数字も書いていません。樹上で働く人にとって、枯れ枝は二重の危険です。体を預けられないこと、そして作業中の揺れで落ちてくることです。海外でも、ISA の一般向けの資料が、枯れ枝を最も分かりやすい危険としています。
キノコ ― 出ている場所で、危険の種類が違う
キノコ(子実体)は、木材を腐らせる菌が胞子をまくための器官です。腐朽菌は剪定の跡や根の切り口、虫の穴などの傷口から入り、材を腐らせます。マニュアルは、菌の種類によって出る場所と腐らせる部位が違い、落枝の原因になるものと、根株の心材を腐らせて倒木の原因になるものがある、と説明しています(p.28)。キノコが枝に出ているか根元に出ているかで、「この枝が危ない」のか「この木全体が危ない」のかが変わります。見えない時期もあるので、傘の痕や幼菌にも注意します。

根元の棚状のキノコと、脇の土を掘って確かめる樹木医
分岐部・付根 ― 亀裂と入り皮
マニュアルは、幹の分かれ目や大枝の付け根の亀裂・入り皮(分かれ目に樹皮が挟まった状態)・腐朽・空洞を見るとし、亀裂や入り皮のある幹や大枝は、風や雪だけでなく、初夏に葉が付いた重さでも折れることがあり、木材腐朽菌の入り口にもなりうる、と書いています(p.33)。大枝と幹の結合部は、風を受けると大きな力が加わる所でもあります(p.20)。
海外では、ISA の資格の試験の範囲が、狭い角度の付け根を、点検する欠陥の一つに挙げています。日本のマニュアルが付け根の亀裂や入り皮を見るよう定めているのと同じく、付け根を見る外観診断の目は、体を預ける枝を見るときにもそのまま使えます。
診断の基準を、支点の合否に当てはめない
外観診断の項目は、登る前の点検に重なります。ただし、街路樹診断の判定の基準を、そのまま「この枝に体を預けてよいか」の合否に使ってはいけません。
日本の診断の基準は、何のためのものか
東京都のマニュアルは、街路樹の健全さを診断し、処置や機器診断が要るかを決めるためのものです。分岐部・付根の異常なら、「健全か健全に近い」「注意すべき被害」「著しい被害」「不健全」の段階で判定します(p.33)。人がその木に登って体を預けたときの力を、判定の前提にしたものではありません。ですから、「健全か健全に近い」とされた木でも、どの枝でも支点にしてよいことにはなりません。登る間の支点には、体重を上回る力が揺れを伴って繰り返しかかるからです。反対に、被害が見つかった木をどう扱うかも、判定から機械的には決まりません。作業でかかる力に木が耐えられるかを資格のある人が判断し、疑問があれば詳しく調べるまで始めない(Z133 改訂案 3.4.6・3.4.6.1)。これが海外の基準の考え方です。
海外でも、リスク評価と登る前の点検は分けている
ISA には、樹木のリスク評価の資格(Tree Risk Assessment Qualification、TRAQ)があり、限られた目視・基本・詳細の段階に分けて木のリスクを評価します。ISA の認定アーボリストの試験の範囲でも、「樹木のリスク」と、作業前の木の点検を含む「安全な作業」は、別の領域として並んでいます。ISA の一般向けの資料は、欠陥を見つけることは木の持ち主にもできるが、その深刻さの評価は専門のアーボリストに任せるのがよい、としています。見つけることと判断することは別の仕事で、樹木医が登る前に木を見る意味は、見つけた兆候をその日の作業でかかる力に照らして判断できるところにあると、私は考えています。
| 街路樹の外観診断 | 登る前の木の点検 | |
|---|---|---|
| 目的 | 木の健全さを判定し、処置や機器診断を決める | その日の作業でかかる力に、木と支点が耐えられるかを判断する |
| 主に見る相手 | 街路樹としての健全さと、その後の管理 | 登る人と、地上の仲間の安全 |
| 判断の物差し | マニュアルの判定基準(健全か健全に近い〜不健全) | 作業でかかる力との比べ合わせ(Z133 改訂案 3.4.6・8.2.10) |
| 見る場面 | 地上から、必要に応じて梯子・高所作業車・墜落制止用器具を使って | 地上で、支点に着いてから、登っている間も |
| 拠り所 | 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」 | ANSI Z133 改訂案、ISA の資格の試験の範囲、考え方の手がかりとして安衛則 第539条の4(ロープ高所作業の条文、樹上作業に当たるかは第20回) |
出典: 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)p.33、労働安全衛生規則、ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)、ISA の資格の試験の範囲
この記事に、枝の太さの目安を書かない理由
ISA の試験の範囲は、支点の枝の強さを、材の強さ、枝の付き方、太さ、腐朽などを合わせて評価することを、身に付けるべき技能に挙げています。一つの数字で決まるものではない、ということです。樹種も、傷みの具合も、その日の作業でかかる力も違います。記事に数字を一つ書けば、その数字だけが一人歩きして、木を見ないまま判断される危険があります。支点の選び方と確かめ方は、指導者が現場で、目の前の木を使って教えます。
職人の視点 ― 木を「診る目」と、体を「預ける目」
第1回で書いたとおり、私は登る前に地上から枝ぶりを眺め、どの枝がどちらへ伸び、どこに古い切り口や枯れ枝があるかを頭に入れておきます。樹木医として、腐朽やキノコ、幹や枝の付け根の裂け目がないかも確かめます。
当社では、登る前の木の点検を、樹木医と、その日に登る職人が一緒に行っています。私の感覚では、樹木医の目は「この木をこの先どう残していくか」を見ていて、登る職人の目は「今日この枝に体を預けられるか」を見ています。同じ木を、違う問いで二度見るようなものです。
現場での経験から言うと、葉の落ちた時期は枝ぶりや古い切り口がよく見え、葉のある時期は、葉の付いていない枯れ枝が見分けやすくなります。どちらの時期にも、見えにくいものがあります。だから当社の職人は、最初の支点に着いたところで、地上からは見えなかった枝の付け根の上側や、葉に隠れた枯れ枝を、もう一度見ます。
修業時代から、「枯れ枝には乗るな」と教わってきました。日本の植木職人が受け継いできたこうした言葉は、海外の基準と同じことを、短い言葉で言い当てていると思います。
木の状態に迷いが残るときは、登りません。高所作業車など、ほかの方法に切り替えます。登らないと決めることも、樹上の仕事の技術のうちだと、私は考えています。

地上から見上げた樹冠と、その中で作業する職人たち
新人のための確認
この回で覚える名前
- 支点(アンカー、英語では tie-in point とも)、主たる支点と補助の支点
- 人工の支点(フォールスクロッチ)
- ロープ高所作業の「支持物」と、作業前の調査と記録(安衛則 第539条の4)
- 外観診断の活力診断(樹勢・樹形)と部位診断(根元・幹・骨格となる大枝)
- 梢端、枯れ枝・ぶら下がり枝・折れ枝、スタブカット
- キノコ(子実体)、腐朽、開口空洞
- 分岐部・付根の亀裂と入り皮
理解しておく考え方・決まり
- 支点はシステムの要で、強さの表示がない。条件は強さだけではない
- 木は登る前に地上で木全体と根元・周りから見て、支点に着いてからも見直す
- キノコは出ている場所で、枝の危険か木全体の危険かが変わる
- 亀裂や入り皮のある分かれ目は、葉の重さでも折れることがある
- 街路樹診断の判定基準を、支点の合否にそのまま使わない
- 木の状態に疑問があれば、詳しく調べるまで始めない。登らない判断も技術のうち
指導者のもとで習う項目
- 支点の選び方と、体を預ける前の確かめ方
- 地上からの木と支点の点検
- 樹上での木の見直し
- 登らない判断と、別の方法への切り替え
よくある質問(Q&A)
Q1. ツリークライミングで、ロープを掛ける枝(支点)はなぜ大事なのですか?
A. 支点は、ハーネスから器具、ロープへと伝わる、登る人の体重と作業でかかる力を、最後にすべて受け止める所だからです。道具には規格と強さの表示がありますが、枝にはありません。道具がどれほど確かでも、支点の枝が折れればシステム全体が意味を失います。ISA が事務局を務める安全基準の改訂案も、支点は作業中にかかる力に耐えられるものでなければならない、としています。
Q2. 登る前に、木のどこを見るのですか?
A. 根元と木のすぐ周りを含めた木全体から見始めます。東京都の街路樹診断等マニュアルの外観診断の項目で言えば、樹勢(梢端や枝先の枯れ、葉の大きさや色)、枯れ枝・ぶら下がり枝・折れ枝、キノコ、腐朽や空洞、分岐部・付根の亀裂や入り皮、根元の状態、傾きなどです。地上で見たうえで、最初の支点に着いてからも見直します。
Q3. 街路樹診断で健全と判定された木なら、どの枝にロープを掛けてもよいのですか?
A. そうとは言えません。街路樹診断の判定基準は、木の健全さを判定し、処置や機器診断を決めるためのもので、人が登って体を預けたときの力を前提にしたものではありません。登る間の支点には、体重を上回る力が揺れを伴って繰り返しかかります。支点にしてよいかは、その日の作業でかかる力に照らして、訓練を受けた人が判断します。
Q4. 枝の太さが何センチあれば、ロープを掛けても大丈夫ですか?
A. この連載では、枝の太さなどの目安を書いていません。支点の枝の強さは、材の強さ、枝の付き方、太さ、腐朽などを合わせて評価するもので、一つの数字では決まらないからです。樹種や傷みの具合、作業でかかる力によっても変わります。支点の選び方と確かめ方は、資格と経験のある指導者のもとで、実際の木を前にして習うものです。
Q5. この記事を読んで、自分で木に登ってもよいですか?
A. 記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため行わないでください。この連載は仕組みと安全の考え方を紹介するもので、登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うものです。高い木の手入れでお困りの場合は、専門の業者にご相談ください。
出典・参考情報
- e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則」(第539条の3、第539条の4、第539条の5)
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)p.15・p.17・p.18・p.20・p.26・p.28・p.33・p.37。マニュアルの要点と入手先は当社の記事「東京都「街路樹診断等マニュアル」の要点と、国土交通省の点検・診断の指針(案)」
- International Society of Arboriculture「ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)」(最新版は Z133-2026。本文の記述は改訂案による)
- International Society of Arboriculture「ISA Certified Tree Climber Examination Outline」「Certified Tree Climber Skills Test Evaluation Form」
- International Society of Arboriculture「ISA Certified Arborist Examination Outline」「ISA Tree Risk Assessment Qualification」
- TreesAreGood.org(ISA)「Recognizing Tree Risk」(2021年)
- Kane, B., Arwade, S.R.(2022)「The Effect of Climbing Line and Ascent Technique on the Magnitude and Frequency of Arboricultural Climbing Loads」Arboriculture & Urban Forestry 48(6): 309–318
- Petzl「Basic tree care concepts」、「ツリーケア カタログ 2026」(日本語版)
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- 樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編) 東京都の街路樹診断等マニュアルの流れで、樹木点検と外観診断の18項目を解説
- 樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編) 機器診断のt/R率と腐朽空洞率、総合判定、処置、フォローアップ診断
- 樹木診断(サービスのご案内)
- 伐採・特殊伐採・ケーブリング(サービスのご案内)
次回の第11回は、登る前の段取りとして、天候や周りの確かめ方の考え方と、救助の準備を登る前に決めておく理由を取り上げます。
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この記事は、ツリークライミングの仕組みと安全の考え方を紹介するものです。登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うもので、記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため決して行わないでください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。
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