CODIT(コディット)は、樹木が傷を受けたとき、腐朽の広がりを4つの壁で区画化して封じ込めるという、米国森林局のアレックス・シャイゴらが1977年に示した考え方です。木は傷を治さず、傷を受けた時点の材を囲い、外側に新しい材を重ねて生き続けます。のちの研究での見直しまで、樹木医が整理します。
この考え方は、樹木医の仕事の足場になっています。剪定でどこを切るか、傷口をどう扱うか、樹木診断で空洞のある木をどう読むか。どれも、木が傷をどう受け止めるかの理解から始まります。一方で近年は、シャイゴの考え方は古い、と言われることもあります。この記事では、CODIT がどんな考え方で、何が後の研究で裏づけられ、何が見直されたのかを、出典を示しながら書きます。分かっていないことは、分かっていないと書きます。
先に答え CODIT を3つの文で
- 木は、傷んだ材を治しません。傷を受けた時点の材を壁で囲んで封じ込め、その外側に新しい材を重ねます(区画化)
- 壁は4つあり、上下の壁(壁1)がいちばん弱く、傷の後に形成層がつくる壁(壁4、バリアゾーン)がいちばん強いとされます
- 「古い」と言われる点は、モデルとしては更新され、防御の仕組みは論争が続き、実務の指針は大筋で裏づけられた、と分けて見ると整理できます

CODIT の4つの壁。壁1(上下)がいちばん弱く、壁4(傷の後にできるバリアゾーン)がいちばん強い(Shigo & Marx 1977 をもとに当社作図)
CODIT の成り立ち 先人の観察と、シャイゴの解剖
傷んだ木を縦に割ると見えるもの
CODIT のもとになったのは、木を縦に割る観察でした。シャイゴは、16年にわたる研究で、約10,000本の樹木を完全に解剖したと、1977年の冊子に書いています。大半は広葉樹で、針葉樹が1,000本以上、熱帯の樹種が17種です。自身の総説(1984年)には、輪切りだけを見ていると仕組みが分かりにくく、縦に割って初めて、変色や腐朽の柱が傷を受けた時点の材の中に収まり、上下に長く伸びている様子が見える、という趣旨の記述があります。
傷を受けた時点の材の中に腐朽が収まり、その外側に健全な材が育つ。この形を、当社の図にしたものが下の絵です。左の縁が樹皮、中央の灰色が傷を受けた時点の材にできた変色の柱で、上下へ長く伸びています。

傷を受けた時点の材の中にできた変色の柱(灰色)が、上下に長く伸びる縦断面の模式図(イラストは当社作成)
シャイゴとは誰か 先人の観察を、約10,000本の解剖でまとめた人
アレックス・シャイゴは、米国森林局の植物病理学者です。1977年の冊子の肩書きは、ニューハンプシャー州ダーラムにある北東部森林試験場でした。冊子は、シャイゴと、出版を担当したハロルド・マルクスの連名で、米国農務省森林局の Agriculture Information Bulletin 405 として出ました。水彩の挿絵は、デイビッド・キャロルが描いています。
シャイゴが一人で考えついた、とは言えません。シャイゴ自身の1984年の総説は、腐朽した材と健全な材を隔てる境界を最初に図にしたのは、19世紀のドイツの Hartig らだと書き、1935年に Hepting が、火災で傷ついた木を縦に割って、腐朽が傷を受けた時点の材の中にとどまることを記したと続けます。1977年の冊子の序も、Hepting の観察を出発点として、「ここで示す研究は、その考えの拡張」と書いています。先人の観察を、10,000本の解剖で一つの考えにまとめたのが、CODIT です。

CODIT をめぐる研究の流れ(当社作成。出典は記事末尾に記載)
木は傷を「治す」のではなく「区画化」する
まず言葉を揃えます。日常の「傷が治る」は、傷口が巻き込まれて閉じることも含みます。シャイゴは、「治癒(healing)」を、傷んだ細胞が同じ場所で修復されたり置き換わったりすること、と定義しました。木の材は、人の皮膚のようにはそれをしません。カルスで傷が閉じるのは、新しい場所に新しい細胞ができることで、シャイゴ自身も、それを治癒と呼ぶなら治癒の定義を広げる必要がある、と書いています。区画化を治癒と同じものとして扱うと、問題が始まる、というのが彼の言い分です。
| 比べるところ | 人の傷 | 木の傷(区画化) |
|---|---|---|
| 傷んだ部分 | 同じ場所で、細胞が修復されたり置き換わったりする | 置き換わらず、傷を受けた時点の材が壁で囲われる |
| その後に増える組織 | 傷のあった場所で再生する | 囲われた外側に、新しい年輪が重なる |
| 菌への備え | 体の内側で、血液や免疫が働く | 菌を殺すのでなく、広がりを壁で封じ込める |
| うまくいかないとき | 感染が広がる | 壁が破られ、腐朽が広がる |
出典: Shigo (1984) Annu. Rev. Phytopathol. 22:189–214 の記述をもとに当社が整理(木が菌を「殺す」でなく「境界をつくる」とする点、治癒と区画化の区別)。
シャイゴは同じ総説で、「樹木は、感染を防ぐことはできない。病原体の広がりに対して、境界をつくれるだけ」とも書いています。うまくいくとき、木は傷の後も何年も生きています。うまくいかなければ、枝や木全体が枯れます。十分な時間と、強い病原体の圧力があれば、すべての境界は破られる、というのが彼の見方です。
4つの壁を一つずつ
CODIT は、傷を受けた時点の材の中に、4種類の壁を考えます。1977年の冊子の本文は、壁1(区画の上下)が最も弱く、壁2(年輪に沿った内側)がその次に弱く、壁3(放射組織による側面)はかなり強いが途切れがあり、壁4(傷の後に形成層がつくるバリアゾーン)が最も強い、と書いています。壁1〜3は、傷を受けた時点の材の中にあり(のちに「反応帯」と呼ばれるもの)、壁4だけが、傷を受けた時点の材と、その後にできる新しい材を隔てます。
色分けは、壁の弱さと強さを表します。淡い青が弱く、濃い青が強い壁です(図A と同じ配色)。順位は冊子の本文に従った目安で、のちの資料では、傷を受けた時点でいちばん強いのは壁3とするものもあり、資料によって食い違います。
| 壁 | 場所と向き | 働き | 強さの目安(1977年の冊子) | できるとき |
|---|---|---|---|---|
| ● 壁1 | 区画の上下(縦の向き) | 縦に走る道管などが詰まり、腐朽が上下へ伸びるのを遅らせる | 最も弱い | 傷を受けた時点の材の中 |
| ● 壁2 | 年輪に沿った内側 | 内側(中心の方向)への広がりを抑える | その次に弱い | 傷を受けた時点の材の中 |
| ● 壁3 | 放射組織による側面(横の向き) | 横(外周に沿う向き)への広がりを抑える | かなり強い(ただし途切れがある) | 傷を受けた時点の材の中 |
| ● 壁4 | 傷の後にできる、新しい材との境 | 傷を受けた時点の材と、その後の新しい材を隔てる | 最も強い | 傷の後に、形成層がつくる |
出典: Shigo & Marx (1977) Compartmentalization of Decay in Trees, USDA Forest Service AIB 405 p.13・p.16 の記述をもとに当社が整理。色は壁の強さの目安を表す当社の配色。
この冊子は、「壁」という言葉が「ごく緩い意味で、イメージを与えるためだけに」使われていて、図は解剖学の正確な描写ではない、とも断っています。これからの絵も、理解のための見取り図です。

区画の立体図。木材は、年輪(円周の壁)と放射組織(縦の壁)で区切られた、縦に長い箱の集まりとして描いている(イラストは当社作成)
壁1 上下の壁は最も弱い
傷の上下では、縦に走る細い管(道管)が、栓のようなもの(チロースやガム状の物質)でふさがれます。縦の管は長く、すき間なくふさぐのが難しいため、上下の壁は弱く、変色や腐朽は上下に長く伸びます。

壁1(上下の壁)の見取り図。縦に走る管(道管)が栓でふさがれ、変色の柱は上下に長く伸びる(Shigo & Marx 1977 p.13 をもとに当社作図。解剖学の正確な図ではありません)
壁2 内側へは年輪の境で止まりやすい
冊子は、壁2が、すべての年輪を一周し、幹の上下にもつながる、と書いています。年輪の境にある、細胞壁の厚い密な晩材の帯が、内側への広がりを抑える、という説明は、のちの Morris ら(2016年)の総説にあります。

壁2(内側の壁)の見取り図。内側へ入る腐朽が、濃い年輪の境で止まる(Shigo & Marx 1977 p.13 をもとに当社作図。解剖学の正確な図ではありません)
壁3 横へは放射組織が区切る
中心から外周へ放射状に走る放射組織が、外周に沿った横の広がりを区切ります。放射組織は途切れがあるため、「かなり強いが絶対ではない」とされます。

壁3(横の壁)の見取り図。変色の扇形が、左右の放射組織(途切れがある)で区切られる(Shigo & Marx 1977 p.13 をもとに当社作図。解剖学の正確な図ではありません)
壁4 傷の後につくる壁がいちばん強い
壁4(バリアゾーン)だけは、傷を受けた後に、形成層が新しくつくります。傷を受けた時点の材と、その後に育つ新しい材を隔てる壁です。冊子は、壁4を壁2の「より強く、より局所的な版」と書き、同時に、壁は絶対ではなく、「十分な時間があれば、バリアゾーンも破られる」と記しています。

壁4(バリアゾーン)の見取り図。傷の後に形成層がつくる壁が、傷を受けた時点の材と、その後の新しい材を隔てる(Shigo & Marx 1977 p.16 をもとに当社作図。解剖学の正確な図ではありません)
腐朽は上下に長く、横には広がりにくい
4つの壁の強さが違うことから、変色や腐朽の柱は、傷の上下に長く伸び、内側や横へは広がりにくい、という形になります。腐朽の進む向きを読むときの、基本の見方です。
この形は、のちの接種試験でも確かめられています。ダグラスファー(針葉樹)、ブナ、オーク、シカモアカエデの4樹種に6種の腐朽菌を接種した試験(Deflorio ら 2008)では、すべての樹種で、変色と腐朽の広がりが、縦(軸方向)に大きく、横(放射・接線方向)には小さくなりました。壁の強さの順位に合う結果です。同じ試験では、ブナとシカモアカエデで、カワラタケとクロコブタケがバリアゾーンを破り、傷の後にできた辺材にも入っています。壁4が「破られない」わけではない、という点も、裏づけられました。

横断面の模式図。変色は放射組織で区切られ、年輪で止まり、外側の輪(バリアゾーン)の外には広がらない(イラストは当社作成)
空洞を抱えても生きる、そこは生きものの住みかにもなる
私は、幹に空洞を抱えながら、葉をよく茂らせているケヤキを見てきました。空洞があるのに木が生きている理由は、CODIT で説明できます。傷を受けた時点の材が、内側から壊れても、バリアゾーンの外側には、その後に育った新しい材が、生きた層として残っています。1977年の冊子には、基部の大きな傷で、「内側の壁がすべて失われ、バリアゾーンだけが残る」図があり、「これが空洞のできるしくみ」と説明されています。

空洞を抱えながら生きている老木の模式図。右の円は幹の横断面で、外から樹皮、厚い生きた木部、バリアゾーン、腐朽の帯、空洞(当社作図。樹種は特定していません)
ケヤキが、区画化に強い樹種なのか、弱い樹種なのかを示す一次情報は、今回調べた範囲では見つけられませんでした。欧州の街路樹の試験(Dujesiefken と Stobbe 2002)では、ブナ・コナラ・シナノキの仲間が強い区画化をする樹種、トチノキ・カバノキ・リンゴ・ポプラ・サクラ・ヤナギの仲間が弱い樹種に挙げられています。ケヤキは入っていません。「ケヤキは強い」とは、書けません。
もう一つ、大事な点があります。バリアゾーンは、腐朽を止める壁としては強い一方、構造としては弱い、とシャイゴ自身が書いています。1984年の総説で、バリアゾーンは風・雪・氷・衝撃で割れる出発点になり、輪状の割れ(ring shake)や放射状の割れの元になる、と述べています。区画化があるから空洞があっても安心、とは言えません。空洞のある木の安全は、残存した壁の厚さや空洞の大きさ、機器診断などで、別に確かめます。

バリアゾーンは、腐朽を止める壁としては強い一方、構造としては弱く、輪状の割れの出発点になりうる(Shigo 1984 p.208 をもとに当社作図)
空洞は、生きものの住みかにもなります。冒頭の絵のように、洞の縁は巻き込んだ樹皮の厚い縁になり、鳥が顔をのぞかせ、甲虫やアリが幹を歩き、苔が付き、枝にはキノコが生えます。シャイゴ自身も、1979年の冊子の図の説明に、腐朽は有益にもなりうると書いています。新しい木のための有機物のリサイクル、野生生物や多くの微生物の食物と住みか、火災の可能性を減らすことです。一方で、樹木と木材製品の強度と価値を下げることもある、とも書いています。
切り口で何が変わったか
CODIT が、剪定の考え方を変えました。シャイゴの1984年の総説には、17世紀以来のヨーロッパの剪定の研究269編が、最終的には「癒合を促すため、幹に近く切る」と勧めていたのに、その切り方で材の腐朽が増えた、という記述があります。枝の付け根にある防御の境界を、切り取ってしまうためです。現在の切り方は、付け根の盛り上がり(ブランチカラー)を残して、その外側で切ります。詳しい理由と手順は、剪定の切る位置はブランチカラーの記事に書いています。

ブランチカラーを残し、その外側で切る(イラストは当社作成)
この点は、後の試験でも裏づけられました。ドイツ・ハンブルクの研究所が、1985年から、街路樹と公園木115本で、750の剪定の傷を調べています(Dujesiefken と Stobbe 2002)。ブランチカラーを切り取るフラッシュカットは、傷が2〜3倍大きく、変色も多く、傷の縁の形成層の枯れ込みも大きくなりました。報告は、この結果が、シャイゴの勧めを裏づけると書いています。ただし、上部の枝などには、ブランチカラーが無いものが多く、その場合は、枝の付け根の盛り上がり(バークリッジ)の外側で、幹に近い位置から垂直に近く切る、と修正しています。この試験では、傷の直径が5cm未満なら、樹種を問わず、有効に区画化されました。強い樹種は10cmまでです。シャイゴの単純な図は、細かく見直されたと言えます。

ブランチカラーを切り取るフラッシュカット(イラストは当社作成)
巻き込みの速さについて、私の現場での経験を書きます。切り口の巻き込みは、樹種によって違い、ケヤキやクスノキは早い方だと感じています。同じ木でも、切り方と樹齢で変わります。若い木は早く、老齢の木はゆっくりです。これは私の感覚で、日本の樹種どうしや、木の年齢を直接比べた研究は、今回調べた範囲では見つけられませんでした。樹種で違うことは、米国の10樹種の試験(Neely 1988)で確かめられていて、成長あたりの閉じ方は、シラカバ・アメリカサイカチ・アメリカスズカケノキ(sycamore)が小さく、ニレ・カエデ・コナラ属が大きく、同じ樹種でも個体差が大きい、と報告されています。国土交通省国土技術政策総合研究所の『景観重要樹木の保全対策の手引き』も、活力度の調査項目の一つに、「剪定後の巻き込み」を置いています。

切り口の巻き込みの、若い木(上)と老齢の木(下)の見取り図。左から切った直後、1年後ごろ、数年後ごろ(筆者の現場での経験をもとにした模式図で、研究で確かめた事実ではありません)
図Lは、私の現場での経験をもとにした見取り図で、研究で確かめた事実ではありません。
切り口に薬剤を塗るかどうかも、よく聞かれます。日本曹達のトップジンMペーストの製品情報は、切り口に塗ると耐雨性のある殺菌保護被膜ができ、カルスの形成を促す、と説明しています(農林水産省登録 第13411号。適用は樹木類の「切り口及び傷口のゆ合促進」)。一方、シャイゴとショートルが13年にわたって調べた試験(1983年)は、どの材料も腐朽を防がなかった、個々の木のほうが、処理より傷への影響が大きかった、と結論しています。米国森林局の『How to Prune Trees』も、多くの場合、傷口の保護剤は不要で、むしろ有害でさえありうる、と書いています(ニレ立枯病とナラ枯れの対策は例外)。当社の現場では、薬剤の有無より、樹種や木ごとの違いのほうが大きいと感じています。日本の行政の資料には、切り口に癒合剤を塗る基準が残っているものがあり、資料ごとの書き方は2319の記事の表にまとめています。
「シャイゴの考えは古い」と言われるのは、なぜか
「古い」と名指しで書いた論文は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。見つかったのは、モデルの中身の見直し、言葉の問題、木の防御の捉え方の違い、腐朽や空洞を「病気」と見るかどうかの違いです。これらが混ざって、「古い」と伝わっているのだと私は考えています(これは当社の整理で、推測を含みます)。三つに分けると、状況が見えやすくなります。
| 区分 | 何が言われているか | 現在の評価 |
|---|---|---|
| モデルとして | 「壁」のたとえは、細胞の働きを説明するには粗く、研究の言葉は、反応帯・バリアゾーン・境界へ移った | 更新された |
| 防御の捉え方として | 木が能動的に壁をつくって防ぐのか、水分が多い辺材は菌が育ちにくい受け身の仕組みなのか | 1983年から論争があり、決着していない(両方が働くとする見方が多い) |
| 実務の指針として | 切り口はブランチカラーの外側で切る、薬剤は腐朽を防がなかった(1983年の試験) | 大筋で裏づけられ、細かく見直された |
出典: 本文に挙げた論文をもとに当社が整理。
モデルとして 実務者向けの見取り図だった
米国森林局の研究者 Kevin Smith は、2020年の論評で、CODIT の冊子は実務者向けの教材として作られ、研究の「クラシック・コミックス版」で、厳密な科学的批判に耐えるようには作られていない、と書いています。共著者の Marx は研究者ではなく、叙述を整える出版の専門家でした。Smith は、米国で、木材生理や病理の研究者が、自分の研究の説明に CODIT を使う例は思いつかない、とも述べています。ただし、これは Smith 個人の見方です。同じ論評は、CODIT は複雑な過程を言い表す「常識的で使いやすい言葉」でもあり、1977年の冊子はもう一度読む価値がある、と結んでいます。壁の強さは、生きた細胞の働きに依っている、という指摘もあり、研究の言葉は、細胞の働きへ移りました。シャイゴ自身も、1984年の総説では、反応帯とバリアゾーンという細胞の働きの言葉を前面に出しています。
言葉の問題もあります。Santamour(1987年)は、境界は傷の前から木にあるが、「壁」は傷の後に、生きた細胞の働きでつくられる、という見方を示しました。「壁」という図に、傷の前からある壁1〜3を含めたことへの異議です。CODIT の D は、decay(腐朽)だけでなく、damage(損傷)や dysfunction(機能不全)と読むべきだという提案もあります(Boddy と Rayner 1983が提案し、のちの研究者が発展させたと、Morris ら 2016・2019が紹介)。
防御の捉え方 能動か、水分による受け身か
最も科学的な論点です。Boddy と Rayner(1983年)は、生きた辺材は水分が多く、菌が使いやすい栄養が細胞の外にほとんど無いので、菌の菌糸が育ちにくく、腐朽は、傷や乾燥やストレスで辺材の機能が止まった所で始まる、と考えました。木が能動的な防御で腐朽を止める、と考えなくても、詰まりやコルク質の層で水分を保つ、非特異的な仕組みで説明できる、という主張です。CODIT は、見かけの防御と、機能を保つ仕組みを取り違えた例かもしれない、とも書いています。
Pearce(2000年)は、反応帯は、感染の最前線で後退するだけでなく、長く働く固定された境界でもあり、傷の後5〜7日で乾いた木部が再び水分を含む、と整理しました。水の動きが防御物質を運ぶので、水分と細胞の化学反応の両方が働く、という見方です。日本でも、山田利博(1998年)が、CODIT・反応帯・材内環境の3モデルの適合性を、日本の樹種を含めて検討しています。決着はまだ付いていません。
実務として 覆されたのでなく、細かく見直された
前の章に書いたとおり、フラッシュカットを避けるという実務の指針は、ハンブルクの試験などで裏づけられました。見直された点は、ブランチカラーの無い枝の切り方、太い枝(傷の直径が5cm・10cm)、樹種の違いです。薬剤については、1983年以降に、結論を覆した試験は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。ただし、シャイゴの時代の研究は「大部分が観察」だった、という指摘もあります(Clark と Matheny 2010)。
最近の議論も、一つ書いておきます。2026年9月に、Wainhouse(英国・ナチュラル・イングランド)と Boddy(カーディフ大学)が、「心材腐朽は病気ではない」という論文を New Phytologist に発表しました(抄録のみ読みました)。腐朽菌と木の関係の大半は木に悪い結果をもたらさず、心材腐朽を病気と呼ぶと、貴重な木とそこに住む生きものが失われる方向に、研究や管理の見方が傾く、という主張です。シャイゴの1984年の総説は、木の腐朽を「微生物が起こす病気」と書いていました。この見方の違いは、「古い」と言われる理由の一つになりえます。ただし、この論文の抄録は、シャイゴにも CODIT にも触れていません。批判した論文ではなく、腐朽を悪いものとして取り除く対象と見るか、木と森の仕組みの一部と見るかという、見方の違いとして受け取っています。シャイゴ自身も、前に書いたとおり、腐朽が有益にもなりうると書いていました。

傷が重なると、貯蔵や水の通り道に使える辺材(外側の帯)が細くなる模式図(Shigo 1984、Smith 1988 をもとに当社作図)
傷が重なる影響も、シャイゴは書いていました。ニレで、傷と枯れ枝が増えるほど、貯蔵の空間が減り、エネルギーが落ち、区画化が弱まって、木が「生きてはいるが無防備な状態」に追い込まれる、という趣旨です(1984年)。Smith(1988年)も、毎年傷をつけると、バリアゾーンが合わさって、通水と防御が細い帯に集中する、と書いています。「全体を見る視点」は、シャイゴにもありました。
日本の樹木と、まだ分かっていないこと
日本の樹木ではどうか
日本では、シャイゴの考えは、日本樹木医会が訳・編した『現代の樹木医学(要約版)』(Shigo 著、モダンアーボリカルチャー編集委員会 訳・編、日本樹木医会、1996年)で紹介されています。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」の参考文献に載り、横浜市の街路樹維持業務委託の共通仕様書では、剪定の図の出典になっています。
山田利博(1998年)は、1977年の冊子の壁を日本の樹種に当てはめると、合わないところがある、と指摘しました。1977年の図は、主に広葉樹の観察から生まれたと考えられます。スギなどの針葉樹では、壁1〜3は、同じ樹脂のような物質による反応で、区別できず、論文は、少なくとも針葉樹では、壁1〜3の区別は無意味だとしています。スギもミズナラ(環孔材の広葉樹)も、材の変色は、年輪の境で止まっていません。論文は、針葉樹と一部の広葉樹の間で、防御の仕組みに大きな差があり、それを含んだモデルの再構築が必要だと結んでいます。

スギ(左、針葉樹)とミズナラ(右、環孔材の広葉樹)の材の変色が、年輪の境で止まらず広がる様子の模式図(山田利博 1998『生立木辺材の防御機構 —三つのモデルの適合性—』樹木医学研究 2(2):59–64 の記述をもとに当社作図。論文の図の写しではありません)
図Pは、山田利博(1998)「生立木辺材の防御機構 —三つのモデルの適合性—」(樹木医学研究 2(2):59–64)の記述をもとに、当社が描いた模式図です。論文の図の写しではありません。左がスギ(針葉樹)、右がミズナラ(環孔材の広葉樹)で、変色の灰色が年輪の境を越えて広がります。
山田論文は1998年のものです。「1998年の時点では」と書くのは、その後の日本の研究を、私が調べきれていないからです。日本の街路樹や庭木の樹種ごとに、区画化の強さを比べた一次情報は、今回の調査では見つけられませんでした。
まだ分かっていないこと
- 木の防御は、能動的な反応と、水分による受け身の仕組みの、どちらがどこまで働いているのか(樹種でも違う可能性があります)
- 日本の樹種ごとの、壁の強さと巻き込みの速さ。若い木と老齢の木で、どれだけ違うのか
- 腐朽や空洞を、木にとって悪いと言い切ってよいのか。生きものの住みかとしての価値と、安全の確保は、どこで折り合いをつけるのか
- 傷を重ねたとき、木が守る力を失う境目はどこか
- 針葉樹と広葉樹で、壁のモデルを分けて考えるべきか
CODIT は、1977年に実務者のために描かれた見取り図で、そのまま今の科学の言葉になっているわけではありません。それでも、木が傷をどう受け止めるかを考える足場として、今も使われています。分かっていないことは、分からないまま、現場で一本ずつ確かめていきます。
よくある質問(Q&A)
Q1. CODIT(コディット)とは何ですか?
A. 樹木が傷を受けたとき、腐朽の広がりを4つの壁で区画化して封じ込めるという考え方です。1977年に、米国森林局のシャイゴとマルクスが、冊子「Compartmentalization of Decay in Trees」で示しました。壁1〜3は傷を受けた時点の材の中にあり、壁4(バリアゾーン)は傷の後に形成層がつくります。
Q2. 木は傷を治すのですか?
A. シャイゴの定義では、治すのではなく区画化します。傷んだ材は同じ場所で置き換わらず、壁で囲われ、外側に新しい年輪が重なります。傷口がカルスで巻き込まれて閉じることは、新しい場所に新しい細胞ができることで、シャイゴはこれを治癒とは区別しました。
Q3. シャイゴの考えは古いのですか?
A. 3つに分けて見る必要があります。モデルとしては、細胞の働きを前面に出す言葉に更新されました。防御の仕組みについては、能動か水分による受け身かの論争が1983年から続いています。切り口をブランチカラーの外側で切るなどの実務の指針は、ハンブルクの試験などで大筋で裏づけられ、細かく見直されました。
Q4. 空洞のある木は安全ですか?
A. 空洞があっても生きているのは、区画化で説明できますが、安全とは別の話です。シャイゴ自身が、バリアゾーンは構造としては弱く、割れの出発点になりうると書いています。空洞のある木の安全は、残った壁の厚さや空洞の大きさ、機器診断などで、樹木医が確かめます。
出典・参考情報
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- 山田利博 (1998) 生立木辺材の防御機構 —三つのモデルの適合性—. 樹木医学研究 2(2):59–64(J-STAGE)
- Wainhouse, M. & Boddy, L. (2026) Heart-rot is not a disease: reframing wood decay in living trees. New Phytologist 252(3):1004–1009(抄録のみ確認)
- Shigo, A.L. 著、モダンアーボリカルチャー編集委員会 訳・編 (1996) 現代の樹木医学(要約版). 日本樹木医会
- USDA Forest Service (2012) How to Prune Trees
- 日本曹達「製品情報: トップジンMペースト」(2026年7月22日現在。製品ページ)
- 国土交通省 国土技術政策総合研究所『景観重要樹木の保全対策の手引き』(活力度の調査項目「剪定後の巻き込み」)
- 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅶ章 参考資料/横浜市道路局「街路樹維持業務委託共通仕様書」(令和8年2月)
※ 当社の見解や現場での経験として書いた箇所は、研究で確かめた事実と区別して「現場での経験から」「私の感覚では」と書いています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

































