2026年10月20日、山形市桧町の剪定鋏の鍛冶、飛庄(飛塚製鋏所)を、2019年に続いて訪ねました。真鍮でろう付けするA型、2枚の刃が交差しない飛龍型、型ごとの違い、樹上で鋏を落とさない工夫まで、飛庄の方との会話と工場で見たものを樹木医の目でまとめます。
この記事の要点
- 飛庄(飛塚製鋏所)は、昭和5年(1930年)に山形市で創業した剪定鋏・園芸鋏の鍛冶です。当主の家は文化元年(1804年)創業の刃物鍛冶で、鋏職人としては4代目の飛塚大貴さんが工房を率いています。
- 刃と持ち手を別の素材で作って真鍮でろう付けするA型と、2枚の刃が交差しない飛龍型が、飛庄を代表する鋏です。
- 飛庄の方の説明は、どの型も「何を切るか」と結びついていました。迷ったときは「持ってみてテンションが上がる方」をすすめていると伺いました。
前回、飛庄を訪ねたのは2019年のゴールデンウィークでした(飛庄(飛塚製鋏所)を訪ねて──山形の剪定鋏のつくり、ろう付けA型と手入れ)。私が愛用している鋏の一つも、飛庄のろう付けのA型です。今回は、山形県東根市での街路樹診断(株式会社環meguru様との協働)の折に、社員と、環meguruの皆さんと一緒に立ち寄らせていただきました。

株式会社飛庄(飛塚製鋏所)の看板
店先で、お店の方がこんな話をしてくださいました。
「雨の日はすごくお客様が多いんです」
果樹農家の方が畑に出られない日に、鋏を見に来られるのだと伺いました。山形では、剪定鋏がいまも農具として使われ続けています。

ショールームで、型ごとに並べた鋏を前に説明を伺いました
ショールームでは、木箱に型ごとに並べた鋏を前に、説明を伺いました。この記事では、そのとき伺った話を中心に、飛庄の資料と雑誌『庭』の記事で裏付けを取りながら書いていきます。

「剪定鋏|本職」「ろう付けA型」などの札が付いた木箱
飛庄(飛塚製鋏所)とは──刃物鍛冶の家と、山形の剪定鋏の源流
飛庄(株式会社飛庄・飛塚製鋏所)は、山形県山形市桧町にある、剪定鋏・園芸鋏を専門に作る鍛冶です。屋号の「飛庄」は、初代当主・飛塚庄次郎の名前から取ったもので、ロゴマークと商品にも使われています(株式会社飛庄「飛塚製鋏所とは」)。

社屋の壁の「飛庄」のロゴ
文化元年の刃物鍛冶の家と、昭和5年の製鋏所
飛庄の公式サイトによると、当主は文化元年(1804年)創業の刃物鍛冶の十代目にあたります。昭和5年(1930年)に飛塚庄次郎が飛塚製鋏所を創業し、剪定鋏・園芸鋏の製造を始めました。鋏職人としては4代目を数えます(同上)。
4代目の飛塚大貴さんは、雑誌『庭』No.249(2022年冬号)の取材で、初代の庄次郎が、A型剪定鋏の元祖とされる「村久」(野村屋製鋏所)の初代・衡田久作さんの弟子だったと話しています。飛庄にA型本来の作り方が受け継がれているのは、この師弟のつながりがあるからです。
先代(3代目)の飛塚靖仁さんは、刃が交差しない飛龍型を生み出した職人です(『庭』No.238、2020年春号)。同じ号の記事では、靖仁さんと4代目の大貴さんが並んで紹介されています。
山形の剪定鋏はどこから来たか──桑からリンゴへ
山形の剪定鋏は、20世紀初頭に生まれた2つの流れ、B型の「最上川」とA型の「村久」を源流としています(『庭』No.238)。
同誌によると、日本の剪定鋏のルーツをたどると2つの系統に行き着きます。1875年(明治8年)にリンゴ栽培とともに青森へ伝わったリンゴ鋏と、白河藩お抱えの刀鍛冶が、廃刀令を受けて洋鋏を参考に作り始めた阿武隈川の剪定鋏です。阿武隈川の鍛冶に弟子入りして山形へ帰り開業したのがB型の最上川、同じころにろう付けによる鋏づくりを始めたのがA型の村久でした。
山形の打刃物そのものの歴史は、さらに古くさかのぼります。山形市によると、延文元年(1356年)に斯波兼頼が入部した際、お抱えの鍛冶師たちに武具や農具を作らせたのが始まりといわれています(山形市「市長のやまがた自慢」山形打刃物)。
いまの山形は果物の産地として知られていますが、4代目の大貴さんは『庭』No.249で、山形県が果物の一大産地になったのはここ半世紀ほどのことで、それまでは養蚕が盛んだったため、鋏は桑の木を剪定する道具として使われていたと話しています。この話は、あとで触れる225mmの鋏につながります。
4代目の「質実剛健」と、使い手の声が届く工房
大貴さんが大切にしている理念は「質実剛健」です。『庭』No.249では、鋏鍛冶を名乗る以上、切れるのは当たり前で、そのうえに強靭さが伴わなければプロから頼りにされる鋏にはならない、という趣旨を語っています。
同じ記事によると、代替わりとともに会社は法人化され、社屋をリニューアルしてショールームを設けました。販売と事務は、大貴さんの奥様の智美さんが担当されています。以前はなじみのお客様以外の声を聞く機会が少なかったものの、いまはSNSを通じて国内外から声が届くようになったそうです。SNSで飛庄を知り、この仕事がしたいと連絡をしてきた方が製造に加わっていることも紹介されています。海外向けには、Niwaki などの取扱店が公式サイトで案内されています。
使い手の声を形にしてきた工房だからこそ、このあと書く樹上作業の相談にも、その場で耳を傾けてくださったのだと思います。
一丁の鋏ができるまで──工場で見た工程
飛庄の公式サイトは、一丁の鋏ができるまでの工程数を「200以上」としています(株式会社飛庄「製造工程」)。今回は、工場も見せていただきました。

飛庄の工場。職人の方がそれぞれの持ち場で作業されていました
飛庄の製造工程のページは、鋏づくりが2本の鋼材から始まると説明しています(同上)。工場では、鋼の丸棒を2本見せていただきました。

見せていただいた鋼の丸棒
飛庄のパンフレットは、製品の特長の1つ目に鍛造を挙げています。鋼の組織を壊さない低温で加熱し、何度も繰り返し打つことで、不純物を取り除き、鋼の組織を密にするという説明です。

打ち出された鋏の部品
工場の一角には、鋏の部品の形を彫り込んだ金型が置かれていました。

鋏の部品の形を彫り込んだ金型
パンフレットの2つ目は熱処理です。酸素を遮断する伝統の方法で約800℃まで加熱する「焼入れ」のあと、材料に合わせた温度まで再加熱する「焼戻し」を行います。焼入れで硬くなった鋼に「ねばり」が加わり、鋏として最適な状態になるといいます。

箱に収められた、仕上げ前の鋏の部品
3つ目は裏スキです。切り刃の裏面を三次元の曲面状にすき、受け刃には刃元から先へ低くなるひねりを付けます。こうすることで、2枚の刃が刃の根元から先まで「点」で重なりながら移動し、皮の切り残りをなくして切断面へのダメージを抑える、と飛庄は説明しています。4つ目は、切り刃を二枚貝のハマグリのような形に仕上げるハマグリ刃で、枝に食い込んだときの摩擦が少なく、研ぎ減っても刃先の鋭さが変わりにくいといいます。

ライトの下、研磨の台で作業する職人の方
最後の5つ目がネジ締めです。切り刃と受け刃を合わせ、一丁ずつ感触を確かめながら、滑らかに開閉するよう熟練の職人が調整します(いずれも飛庄のパンフレット「製品の特長」)。
ショールームには、材料から製品になるまでを順に並べた「飛庄印 剪定鋏製造工程」の展示がありました。その手前には、自由に試し切りができる鋏も置かれています。

「飛庄印 剪定鋏製造工程」の展示と、試し切り用の鋏
工場に戻ると、何人もの職人の方がそれぞれの持ち場で作業され、研磨の台では火花が散っていました。

工場の全景
ろう付けA型とは──切れる部分にだけ、いい鋼を使う
ろう付けA型とは、持ち手と、持ち手より硬い別の素材の刃を別々に作り、真鍮でろう付けしてつなぐ剪定鋏です(株式会社飛庄「製造工程」)。『庭』No.249によると、飛庄のA型は、マルエーブル(白芯可鍛鋳鉄)の持ち手に鋼の刃を真鍮でろう付けする、本来の製造方法で作られています。
手に取ると、要(かなめ)の近くに金色の線が見えます。これが真鍮のろう付けの跡です。

持ち手と刃の継ぎ目に見える、金色の真鍮のろう付け
飛庄の方の説明では、A型の切り刃に使っているのは安来青紙鋼です(公式サイトも、安来青紙鋼を切り刃に使った商品として紹介しています)。硬く擦り減りにくい鋼ですが、持ち手まで同じ鋼で加工するのは難しく、価格も上がってしまう。だから、切れる部分にだけいい鋼を使う。「いいとこどり」の鋏という説明でした。
『庭』No.249も同じ点を説明しています。全身鍛造の鋏は一本の鋼の丸棒から刃も持ち手も作るため、硬い青紙鋼で全身鍛造をすると無駄が多く、高額になってしまいます。A型は持ち手と刃を別々に作るので、刃に青紙鋼を選べる、という理屈です。

工場で見せていただいた、A型の部品
全国でも数少ない製法を、あえて残す
このろう付けの技術は、昔はいろいろな鋏屋が使っていました。いまは手間がかかるため、この方法で作っているのは「飛庄ともう1か所くらい」だと伺いました。飛庄の公式サイトも、全身鍛造が主流となったいま、この製法を受け継いでいるのは全国でも当所を含め1〜2の製造所と思われると書いています(株式会社飛庄「剪定鋏 型の特徴」)。
市場に出ているA型の剪定鋏は、そのほとんどが全身鍛造で作られています。それでも飛庄がろう付けを続ける理由を、大貴さんは『庭』No.249で、自分たちまで全身鍛造に切り替えてしまったら、本来の製造方法を次の世代に残せなくなる、という趣旨で語っています。先代は、ろう付けの職人の育成にも取り組んでいたそうです。
貼り合わせの技術を生かして、刃にダマスカス材を使ったA型も作っています。2022年の取材で大貴さんがいずれはダマスカス鋼の刃でA型を作るのも面白い、と話していた構想が、今回の訪問では製品として並んでいました。

真鍮のナットと「A」の刻印がある、刃にダマスカス材を使ったA型
一番重い225mmと、桑の樹木
飛庄で一番大きく、一番重い鋏が225mmのA型です。ほかの鋏は持ち手の裏側を肉抜きして軽くしていますが、225mmだけは、あえて肉を残しています。桑の剪定がきっかけで生まれた型で、太く硬い枝を切ることを前提に、強度を優先したと伺いました。
「握力があって、硬いのをガンガン切る方なら大丈夫ですが、正直、普段の作業にはおすすめじゃないです」
『庭』No.249でも、大貴さんは225mmについて、桑の木は硬いので特に剛性が必要だった、と同じ説明をしています。4年前の雑誌の記事と、今回伺った説明は同じでした。
肩の張りは、使い手の声を集めた形
飛庄のA型は、他社のA型と比べて持ち手の肩が大きく張り出しています。『庭』No.249によると、以前は他社と同じようななだらかな肩でしたが、お客様からの要望を集約して先代が大きく改め、作業中に手がずれにくい形にしたそうです。人間工学に基づいた形と、肉抜きによる軽量化も、このときに取り入れられています。
全身鍛造とろう付け、どちらが良いのか
飛庄では、ろう付けのA型以外の鋏は全身鍛造で、刃から持ち手まで同じ素材で作られています。どちらが良いのかを伺うと、答えはこうでした。
「どっちが良いというのはないです。それぞれにメリットと違いがあります」
切れ味の持ちを重視する方には、ろう付けの型。持ちやすさや、クッションバネによる衝撃の吸収を重視する方には、別の型。そのうえで、最後はこう話してくださいました。
「持ってみて、テンションが上がる方をおすすめしています。しっくり来て切れ味がいいと、作業のスピードもリズムも良くなる。それが結果的に、体の負担や作業の効率につながるんです」

緑の皿に並ぶ、A型や全身鍛造の鋏
数値ではなく、手に持ったときの感覚で選ぶ。一日中剪定をする職人ほど、握るたびのわずかな差が積み重なることを、現場で知っています。
飛龍型とは──刃が交差しなくても枝は切れる
飛龍型とは、切り刃と受け刃の間に隙間があり、2枚の刃が交差しない構造の剪定鋏です(株式会社飛庄「剪定鋏 型の特徴」)。生み出したのは、先代の飛塚靖仁さんです。
青森の野鍛冶の鋏から生まれた
『庭』No.238(2020年春号)によると、飛龍型は、靖仁さんの祖父の代に開発された飛鳥型を発展させたものではありません。きっかけは、青森の野鍛冶が廃業することになり、その鋏を使っていた方が「同じものを作れないか」と相談に来たことでした。持ち込まれた鋏は、刃が交差していなかったそうです。
靖仁さんは、刃が交差しない理由は分からなかったものの、触ってみて閃いたと話しています。刃が交差しなければ、刃と刃の摩擦がない。そうであれば、枝を切り抜けるときの負荷が減るのではないか。一回の握りでは小さな差でも、一日中剪定をする農家や庭師にとっては大きな差になります。
刃が交差しない仕組み
同誌の説明をまとめると、仕組みは次のとおりです。
- 通常の鋏は、2枚の刃が交わる点が切れるポイントになる。交点がない飛龍型では、包丁で切るときのように対象物を固定する仕組みが要る。それを受け刃の絶妙なカーブが担い、枝をくわえ込んで固定する
- 切り刃は薄いハマグリ刃で、表も裏も鏡面に仕上げている。樹液が付きにくい
- 2枚の刃に隙間があっても樹皮まで切り抜けられるのは、刃が樹木の中を斜めに切り進むため。最後のところで受け刃と軽く触れて、切り残しをなくす。刃の角度や隙間の量は、この動きを加味して設計している
- カシメを留めるナットがない(公式サイトによると、左ネジにしてナットを省いている)。内部のグリス溜めから、常にカシメにグリスが回るようになっている
- バネは2つ。カシメの近くの虫バネが開閉を滑らかにし、中央のバネが握り込んだときの衝撃を和らげる
今回伺った話では、飛龍型は刃が薄く繊細なので、枯れ枝をガンガン切る方には向かない(刃が欠けやすい)一方、生きている枝の剪定にはとても使いやすいとのことでした。公式サイトも、枯れ枝や太い枝を切るときは注意するよう書いています。

「剪定鋏|本職」の木箱に並ぶ、コイルバネの付いた鋏
飛庄の剪定鋏の型を比べる──飛龍型・飛鳥型・飛庄型・飛翠
飛庄の剪定鋏は、型ごとに「何を切るか」がはっきり分かれています。飛庄の代表的な4つの型を、公式の説明をもとに比べると次のようになります。
| 項目 | 飛龍型 | 飛鳥型 | 飛庄型 | 飛翠 |
|---|---|---|---|---|
| 品番・全長 | PS-09・190mm | PS-11・195mm | PS-12・195mm | PS-41・165mm |
| 刃と持ち手の特徴 | 2枚の刃の間に隙間があり、交差しない | スプリングで手元へのショックを和らげる | 左右非対称の持ち手と、刃の傾り(かしがり) | 飛龍仕上げで、手に収まる小ぶりな形 |
| 生まれたきっかけ | 青森の野鍛冶の鋏の相談から | 靖仁さんの祖父の代に開発 | 自然な手の角度で切れるように | 桃農家の方の声から |
| 向く作業 | 生きている枝をたくさん切る剪定 | 長時間で、切る回数の多い作業 | 手首を無理に曲げずに切りたい場合 | 細くて硬い枝、細かい作業 |
出典: 株式会社飛庄「剪定鋏」「剪定鋏 型の特徴」、公式オンラインショップの各製品ページ(PS-09・PS-11・PS-12・PS-41、2026年10月25日に確認)、『庭』No.238。向く作業は公式の説明と今回伺った話から
飛翠と飛龍型は、刃の仕上げが同じです。違いを伺うと「一番はサイズ感です」とのことでした。リンゴ農家の方が年明けに生きている枝をひたすら切るなら飛龍型。細い枝や細かい作業、手の小さい方には飛翠が持ちやすい。ただし、飛翠は刃の開き(可動域)が狭くなります。飛翠と同じ形で、切り刃と受け刃にあさりを付けて耐久性を高めた飛鴒(ひれい)という型もあります(PS-42)。

黄色や赤の握りの付いた鋏が並ぶ木箱
持ち手の形が左右で違う型については、「これは飛庄型と、私たちは商品名を付けています」とのこと。基本は革止めで、要望があれば金止めの仕様も受注で作ります。在庫がないと数か月待ちになることもあると伺いました。
細かいものまで含めると、飛庄が作っている鋏は約40種類あるそうです。説明の途中で「名前が色々あってすみません」と笑っておられましたが、型の一つひとつに、切る相手と使う人の声が結びついていました。

工場の作業台に並ぶ鋏と部品
工場では、木の柄の刈込鋏も見せていただきました。刃には銘が刻まれていました。

刈込鋏の刃に刻まれた銘
樹上で鋏を落とさないために──飛庄に相談した「落下防止の穴」
樹上で使う剪定鋏の落下防止は、道具の側から地上の安全を守る工夫です。今回の訪問で、私が相談したかったことの一つがこの話です。
ロープを使って樹木に登り、樹上で剪定をするアーボリストが増えています。樹上では、鋏に落下防止のコードを付けたい。ところが、いまの剪定鋏には、それを付ける場所がありません。現場では、要の隙間に無理やりリングを通したり、カラビナを引っ掛けたりしているのが実情です。
怖いのは、樹木の下に歩行者や車があることです。鋏一丁でも、高い所から落ちれば事故になります。事故が起きてからでは遅いので、道具の側で防げることは防いでおきたいと考えています。
相談すると、飛庄の方からは、注文で穴を開けることはできる、ただしモデルによる、という答えが返ってきました。
- 革止めの鋏は、開閉に関わる板が入っているので穴開けが難しい
- 厚みのある鋏も向かない
- 飛鴒なら開けられそう。穴の大きさは、5mmほどのリングが通るくらい
あわせて、片方の持ち手に目立つものを付けておけば、落としたときに見つけやすい、グリップを付ける方もいる、という話も伺いました。
樹上の作業は、地上の安全とつながっています。その工夫を、作り手と一緒に考えられたことが、今回の訪問の収穫でした。飛龍型が、青森の使い手の相談から生まれたように、鍛冶の新しい鋏は昔から使い手の声から始まってきたのだと思います。
樹木医から見た切り口と、剪定鋏の手入れ
剪定は、樹木に傷をつける作業です。切り口の状態は、樹木がその傷を閉じていく早さに関わります。
切り口と、樹木の傷の閉じ方
オハイオ州立大学の資料は、きれいに切れる鋭い道具を使うと、傷を囲む組織(カルス)が早くできると書いています(Ohio State University「Pruning and Care of Tree Wounds」2012年)。モンタナ州立大学のエクステンションも、切れない道具での切り口は精度が落ち、閉じるまでに時間がかかることがあるとしています(Montana State University Extension「The Basics of Pruning Trees and Shrubs」)。
もう一つは、樹木は人の体のように傷を治すことができない、という点です。ペンシルベニア州立大学のエクステンションは、傷を負った樹木は治ることができず、身を守ることしかできないと説明しています(Penn State Extension「Understanding the Spread of Decay in Trees」2024年更新)。樹木は傷の周りを区切って、腐朽が広がるのを抑えます。
一方で飛庄は、裏スキと受け刃のひねりによって刃が「点」で重なりながら移動し、皮の切り残りをなくして切断面へのダメージを抑える、と自社の鋏の設計を説明しています(飛庄のパンフレット「製品の特長」)。
切り口の位置や切り方の考え方は「枝の付け根で切る」に、切り口に薬剤を塗るかどうかは「剪定の切り口に癒合剤は必要か」にまとめています。
私たちは樹木診断で、過去の剪定の跡を必ず見ます。現場での経験から、荒れた切り口や、塞がりきらない切り口から入った腐朽が、何年も後に幹の中で広がっていることがあります。外から見える切り口は小さくても、中で何が起きているかは、外観診断だけでは分からないことがあります。そのときは、レジ(Resi PD)、ピカス、アーボソニック3Dなどの診断機器で、幹の中を確かめます(樹木の精密診断(機器診断)とは)。切り口が塞がる樹木と塞がらない樹木の違いは「剪定の切り口が塞がる木、塞がらない木」でも書きました。
長く使うために──手入れと研ぎ直し
飛庄の公式サイトは、使ったあとは樹脂が乾かないうちに硬めの布で拭き取り、機械油や錆止めを薄く塗ること、ネジの周り(内側の擦り合わせ部)にオイルを一滴差すこと、固まったヤニは定規のような硬質プラスチックで掻き取ることを勧めています。食用油は酸化を促すので使わないように、とも書かれています(株式会社飛庄「お手入れ・修理のご案内」)。
研ぎ直しと修理は、他社で買った鋏も受け付けています。預かり期間は通常2週間前後で、秋から冬(11月〜3月頃)は2〜3週間ほどが目安です。料金は同じページに載っています。現場での経験から、裏スキの曲面は自分で研ぐと崩してしまいやすいので、作り手に預けるのが確実だと感じています。
A型の刃の付け替えについて、大貴さんは『庭』No.249で、いまは現実的な価格にならないと話しています。以前は刃を付け替えて使い続ける方もいたものの、それは材料費も工賃も安かった時代の話で、いまの修理は全身鍛造の鋏と同じく、刃を削って整え直します。同じ記事は、使い慣れた道具はその人だけの味に変わっていく、と結んでいます。
道具を選ぶことは、切り口を選ぶこと
飛庄の方の説明は、どの型も「何を切るか」から始まっていました。桑、リンゴ、桃、そして庭や街の樹木。約40種類の鋏の一つひとつに、切る相手がいます。
切り口は、樹木に長く残ります。だから、鋏を選ぶことは、樹木に残す切り口を選ぶことでもあります。現場の声を工房に届け、工房の技術を現場に持ち帰る。それも、現場に立つ緑の総合窓口としての私たちの仕事だと思っています。
剪定の跡からの腐朽や、大切な樹木の状態が気になる場合は、樹木医による樹木診断のご相談をお問い合わせから承っています。
お忙しい中、工場まで案内してくださった飛庄の皆さま、ありがとうございました。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. 飛庄(飛塚製鋏所)とはどんな鋏の鍛冶ですか?
A. 山形県山形市桧町にある、剪定鋏・園芸鋏を専門に作る鍛冶です。昭和5年(1930年)に飛塚庄次郎が飛塚製鋏所を創業し、当主は文化元年(1804年)創業の刃物鍛冶の十代目にあたります。屋号の「飛庄」は初代の名前から取ったもので、いまは4代目の飛塚大貴さんが工房を率いています。
Q2. ろう付けA型の剪定鋏とは何ですか?
A. 持ち手と、持ち手より硬い別の素材の刃を別々に作り、真鍮でろう付けしてつなぐ剪定鋏です。刃だけに安来青紙鋼のような硬い鋼を使えるのが特長で、要の近くに見える金色の線がろう付けの跡です。飛庄の公式サイトは、この製法を受け継いでいるのは全国でも1〜2の製造所と思われる、と書いています。
Q3. ろう付けA型と全身鍛造の剪定鋏は、どちらが良いですか?
A. 飛庄の方の答えは「どっちが良いというのはない」でした。切れ味の持ちを重視するならろう付けの型、持ちやすさやクッションバネによる衝撃の吸収を重視するなら別の型、という分け方です。最後は「持ってみてテンションが上がる方」をすすめていて、手になじむ鋏は作業のリズムが良くなり、体の負担や作業の効率にもつながるそうです。
Q4. 飛龍型の剪定鋏は、なぜ刃が交差しなくても切れるのですか?
A. 受け刃のカーブが枝をくわえ込んで固定し、薄いハマグリ刃の切り刃が樹木の中を斜めに切り進むためです。最後に受け刃と軽く触れて、切り残しをなくします。刃同士の摩擦がないので枝を切り抜けるときの負荷が減る、という発想から、先代の飛塚靖仁さんが生み出しました(『庭』No.238)。
Q5. 飛龍型の剪定鋏で枯れ枝や太い枝は切れますか?
A. 向いていません。刃が薄く繊細なので、枯れ枝をたくさん切ると刃が欠けやすいと伺いました。公式サイトも、枯れ枝や太い枝を切るときは注意するよう書いています。一方で、生きている枝の剪定にはとても使いやすい型です。
Q6. 飛翠と飛龍型の違いは何ですか?
A. 刃の仕上げは同じで、いちばんの違いは大きさです。飛龍型は全長190mm、飛翠は165mmで、細い枝や細かい作業、手の小さい方には飛翠が持ちやすいそうです。ただし、飛翠は刃の開きが狭くなります。飛翠は、桃農家の方の声から生まれた型です。
Q7. 樹上で使う剪定鋏に、落下防止の穴は開けられますか?
A. 飛庄では、注文で穴を開けられる型があると伺いました。ただし、開閉に関わる板が入る革止めの鋏や、厚みのある鋏は難しく、型によります。穴の大きさは、5mmほどのリングが通るくらいが目安です。
Q8. 飛庄の剪定鋏の研ぎ直しは頼めますか?
A. 頼めます。飛庄は、他社で買った鋏の研ぎ直しと修理も受け付けています。預かり期間は通常2週間前後で、秋から冬(11月〜3月頃)は2〜3週間ほどが目安です。料金は、公式サイトの「お手入れ・修理のご案内」に載っています。
出典・参考情報
- 株式会社飛庄「飛塚製鋏所とは」
- 株式会社飛庄「製造工程」
- 株式会社飛庄「剪定鋏 型の特徴」
- 株式会社飛庄「剪定鋏」
- 株式会社飛庄「お手入れ・修理のご案内」
- 株式会社飛庄 公式オンラインショップ PS-09 飛龍型
- 同 PS-11 飛鳥型
- 同 PS-12 飛庄型
- 同 PS-41 飛翠
- 同 PS-42 飛鴒
- DEKIRU!「質実剛健の剪定鋏 飛庄の飛塚大貴さん」2025年10月8日
- 山形市「市長のやまがた自慢「山形打刃物」」
- Ohio State University「Pruning and Care of Tree Wounds」2012年
- Montana State University Extension「The Basics of Pruning Trees and Shrubs」
- Penn State Extension「Understanding the Spread of Decay in Trees」2024年更新
- 株式会社飛庄 パンフレット「飛庄の歴史」「製品の特長」
- 『庭』No.238(2020年春号)「常識を覆した剪定鋏 飛龍型剪定鋏」
- 『庭』No.249(2022年冬号)「A型剪定鋏 飛庄 使いやすさを追求しながら魂を伝承していく」
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取材協力: 株式会社飛庄(飛塚製鋏所) 山形県山形市桧町1丁目10-8 https://www.tobisho.jp/
※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。






















