寿昌院様
臥竜の松と並んで江戸川区の保護樹木に指定された松があり、こちらは年に1回この時期での手入れ作業となります。
江戸川区松本の寿昌院(松本弁天)の境内で、区の保護樹木に指定されている松を手入れした記録です。区の保護樹の制度と、同じ境内にある区の登録天然記念物「臥竜の松」との指定の違い、冬の松の手入れの考え方を、区の資料や研究とあわせてご紹介します。
- 寿昌院 江戸川区 保護樹木 保存樹木
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江戸川区の保護樹とは──区の要綱による指定
江戸川区は、昭和48年から、区内の古木や名木の大径木を、江戸川区緑化推進要綱に基づいて「保護樹」に指定しています。区の資料では、指定した木に対して樹木医の派遣などの支援を行うとしています。
同じ資料によると、江戸川区は昭和45年に区民と行政が一体となった緑化運動を始め、令和4年に「区民一人あたりの樹木数10本」を達成しました。一方で、公共の用地のみどりが増える中、農地や屋敷林などの民有地のみどりは減っているとしています。寺社の境内に残る古い木は、こうした民有地のみどりの一つです。
大きな木を残す仕組みには、国の「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」(昭和37年)による「保存樹」と、区市町村が条例や要綱で定めるものがあり、呼び名も「保存樹木」「保護樹木」など区ごとに違います。指定されても、木の所有権と日常の管理は所有者のままで、区は手入れや診断などで所有者を支える、という形が多くの区で共通しています。東京の区ごとの違いは「保存樹木・保護樹木とは」でまとめています。
同じ境内の2本の松──指定の違い
寿昌院の境内では、臥竜の松と、この記事で手入れをした松とで、指定の種類が違います。区の資料で確かめられた範囲を並べると、次のとおりです。
| 項目 | 臥竜の松 | この記事の松 |
|---|---|---|
| 区の指定 | 江戸川区登録天然記念物(昭和61年2月12日告示) | 江戸川区の保護樹(区の資料での呼び名) |
| 指定の根拠 | 区の文化財の登録 | 江戸川区緑化推進要綱 |
| ほかの指定・選定 | 景観法に基づく江戸川区の景観重要樹木、えどがわ百景 | ― |
| 樹種と大きさ | クロマツ、高さ5m、枝張り東西16.5m・南北18.4m(区の資料) | ― |
| 当社の手入れ | 春のみどり摘み、年末の古葉の揉み上げ、支柱の交換、土壌改良など | 年に1回の手入れ |
出典: 江戸川区「松本弁天臥竜の松」、「えどがわ百景 34」、江戸川区景観計画 第5章、江戸川区「2-5 水とみどりのまちづくり」。「―」は区の資料に記載が無いもの。当社の手入れの欄は当社の記事から。
樹木医の指導のもとで、手入れを覚える
新人も樹木医の職人の指導を受けながら、
一生懸命手入れを勉強していました。
- 松 剪定 手入れ
- 松 剪定 手入れ
- 松 剪定 手入れ
- 松 剪定 手入れ
冬の松の手入れ──古葉の「もみあげ」
松の冬の手入れとして、庭師が昔から行ってきたのが「もみあげ」(古葉取り、葉むしり)です。枝先のその年の葉を残し、枝元側の古い葉を手でむしり取って、下枝まで光と風を通します。長野県林業総合センターの技術情報は、美しい樹形を保ち病虫害を防ぐには下枝まで陽が当たることが必要で、秋に古葉と今年の葉の一部を手で軽くむしり取る、と説明しています。
松の手入れは、春のみどり摘みと、秋から冬のもみあげ・剪定で一組です。京都の御所と修学院離宮の松の手入れを調べた前田稔氏の論文(1966年)は、春のみどり摘みを5〜7月、秋の葉むしりと剪定を9〜12月としています。臥竜の松でも、春に新芽の緑摘みを、年末の手入れとして毎年古葉の揉み上げを行っています。


同じ資料は、松は夏までに翌年の芽を作るため、秋に枝葉を刈り込むと今年の葉の多くを失って樹勢が衰える、としています。鋏で刈らずに手で古い葉を抜くのは、この松の性質に合わせた方法です。残す葉の量について、前田氏は、一般の民家で行われる強い葉むしりでは1本の芽に15〜16本を残すのが目安で、京都大宮御所と修学院離宮のクロマツでは意識的に多く残し、葉むしりの後に平均24〜25本が付いていたと報告しています。葉を減らしすぎれば松は弱るため、木の勢いを見て加減します。もみあげのやり方と時期は「松の「もみあげ」とは」でくわしくご説明しています。
臥竜の松の支柱の改修
現在、臥竜の松については支柱の交換のプロジェクトが進んでいます。
昨日にご紹介をした「ヴァレ・オ・ルー樹木園」の樹齢150年のアトラスシーダー・ペンデュラのように、
樹木と支柱が調和しさらに魅力的になるような改修を行う予定です。
- ヴァレ・オ・ルー 公園 樹木園 フランス パリ郊外 アトラスシーダー ペンデュラ
- ヴァレ・オ・ルー 公園 樹木園 フランス パリ郊外 アトラスシーダー ペンデュラ
- 江戸川区 寿昌院 臥竜の松
- 江戸川区 寿昌院 臥竜の松
臥竜の松は、大正期の大風で幹が折れ、太い枝が地面すれすれを這うように伸びています。その枝の重さを、丸太や竹の支柱が受けています。この記事の後、2023年3月に大規模な支柱の改修を行い、枝どうしを横につないでいた丸太や竹の横木をなくして頬杖支柱で補強し、劣化した丸太・竹の支柱・石柱を部分的に撤去して、防腐剤処理をした焼き丸太に交換しました(「寿昌院様 臥竜の松 支柱改修プロジェクト」)。
江戸川区登録天然記念物「臥竜の松」
お近くにお越しの際はお立ち寄り下さい。
推定樹齢500年
大正期に大風で幹が折れて現在のような這う松の形になり、その姿から臥竜の松と命名されたようです。
江戸川区登録天然記念物、江戸川区景観重要樹木に指定され、えどがわ百景のひとつに選ばれています。
江戸時代の地誌『新編武蔵風土記稿』(文政13年〈1830〉献上)は、弁天社に向かって左に「老松三株」が並び、中の松は低い所から大枝を出して左右へ大きく広がる珍しい木だと書いています。江戸川区は、この記述の松がいまの臥竜の松と考えられる、としています。地誌の絵図と今の松を見比べた記事は「200年の時を超える「臥竜の松」」です。
引き続きよろしくお願いいたします。
ご依頼ありがとうございました。
株式会社トシ・ランドスケープ
よくある質問
Q1. 保護樹木と天然記念物は、何が違いますか。
寿昌院の境内では、臥竜の松が区の登録天然記念物で、この記事の松は区の保護樹です。江戸川区の保護樹は、区内の古木や名木の大径木を江戸川区緑化推進要綱に基づいて指定するもので、区は樹木医の派遣などで管理を支えています。
Q2. 江戸川区の保護樹は、いつから指定されていますか。
区の資料によると、昭和48年からです。区内の古木や名木の大径木を、江戸川区緑化推進要綱に基づいて保護樹に指定しています。
Q3. 松の「もみあげ」とは何ですか。
秋から冬に、枝先のその年の葉を残し、枝元側の古い葉を手でむしり取る松の手入れです。長野県林業総合センターの技術情報は、下枝まで陽が当たるようにして樹形を保ち、病虫害を防ぐための作業としています。
出典・参考情報
・江戸川区「2-5 水とみどりのまちづくり」p.79(保護樹指定)
・江戸川区「松本弁天臥竜の松」(登録天然記念物)
・江戸川区「えどがわ百景 34 樹齢500年 松本弁天臥竜の松」
・江戸川区「江戸川区景観計画 第5章」(景観重要樹木)
・e-Gov 法令検索「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」(昭和37年法律第142号)
・長野県林業総合センター「ミニ技術情報 No.11 マツの剪定」(平成11年)
・前田稔「マツ樹の整枝剪定法について」造園雑誌 29(4), 1966年(doi:10.5632/jila1934.29.4_2)
・『新編武蔵風土記稿』巻之二十九 松本村「辨天社」(『大日本地誌大系』第6巻、国立国会図書館デジタルコレクション)
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