街路樹診断の後編は、外観診断で内部の腐朽が疑われた木に行う機器診断(腐朽診断・根株診断)と、t/R率・腐朽空洞率の読み方、総合判定の A から C、判定後の処置、B2 の木に1〜3年後に行うフォローアップ診断を、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」に沿って樹木医が解説します。
前編では、樹木点検と外観診断の18項目を書きました。外観診断は、目と手と木槌・鋼棒で、木の外に現れたサインを読む診断です。ただ、マニュアルにもあるとおり、活力が健全に見える木でも、幹の内部や根株に極めて危険な空洞や腐朽を抱えていることがあります(p.15)。外から読めるのはここまで、という線を越えて中を知りたいときに、機器診断に進みます。ページ番号は前編と同じく、すべて同マニュアルのものです。

街路樹診断の流れ図
機器診断が必要になる木 外観診断のどの結果が引き金になるか
機器診断は、外観診断で必要とされた木にだけ行います(p.51)。どの被害で必要になるかは、マニュアルの表Ⅲ-2・21 に整理されています(p.43)。樹皮枯死・欠損・腐朽や開口空洞が周囲長比率3分の1以上で被害が進行している、キノコの発生部位の被害が大きい、ベッコウタケやコフキタケが出て被害が進行している、木槌の打診で異常音が大きいか範囲が広い、鋼棒が芯に達している、といった場合です。
マニュアルは、外観診断で B2 と判定された街路樹のほとんどについて機器診断が必要だとし、C 判定でも状況に応じて機器診断を行うとしています(p.15)。逆に言えば、機器診断は「数値を出すため」ではなく、外観診断で読み切れなかった内部を確かめるための手段です。

腐朽診断と根株診断の使い分け
機器診断には2つあります。根元・幹・大枝の腐朽や空洞を測る腐朽診断と、地中の根株の腐朽や空洞を測る根株診断です。腐朽や空洞が根元や幹、大枝に広がっていると考えられる場合は腐朽診断、根株に広がっていると考えられる場合は根株診断を行います(p.43、p.51)。両方にまたがる被害では、診断者が状況に応じて必要な方を判断しますが、どちらか一方は必ず実施します(p.43)。
季節の制約はなく、外観診断で必要と判定されたら速やかに行います(p.51)。
腐朽診断 細い針を回転させて、幹の中の硬さを読む

レジ(Resi PD)による穿孔抵抗の測定
東京都の街路樹診断の機器診断は、作業効率とこれまでの測定実績から、貫入抵抗測定器(商品名 レジ)によるものを基本としています(p.51)。軸径1.5mm、先端幅3.0mmの細いキリを診断箇所に回転させながら貫入させ、貫入にかかる抵抗の高低から材の腐朽や空洞の状態を把握する機器です。健全な材では抵抗が高く、腐朽や空洞では抵抗が低いか現れない。その波形が、横軸に深さ、縦軸に抵抗値のグラフとして記録されます(p.51〜52)。
測り方にも決まりがあります。健全材の薄い部分を捉えられるように、おおむね十字方向の4箇所から貫入させて測ります。芯に達する空洞の開口部が大きいなど4方向が難しい場合は3方向でもよいとされています(p.51)。腐朽診断では水平に貫入させ、樹種ごとの材の硬さに応じてキリの貫入速度を調整します(p.52)。国内で普及しているのは F型と PD型で、PD型は回転抵抗に加えて前進抵抗も測るので、材の状態をより詳しく把握できます(p.52)。当社のレジ(Resi PD)とは何かに、機器の中身を書いています。
レジ以外の機器も、診断の目的や用途に応じて選んでよいことになっています。マニュアルの表には、アーボソニック3D(多点式応力波速度測定器)、ピカス(弾性波樹木診断装置)、ドクターウッズ、ツリーガンマ、ツリースキャンの特性が並んでいて、機器ごとに得意とする腐朽や空洞の形が違うため、診断部位や木の状況に応じて選ぶ必要がある、とされています(p.51、p.53、p.106)。当社では、レジ(Resi PD)に加えてピカスとアーボソニック3Dを保有し、木の状況に応じて使い分けています。

ピカス(音波トモグラフィ)による測定
根株診断 地際から斜め40度に、根株の中心へ

根株診断(レジで俯角40°に穿孔)
根株診断は、平成25年のマニュアル改定で新たに位置づけられたものです。背景には、地上部の活力が旺盛であるにもかかわらず、根株の腐朽によって倒れた街路樹の事例が都道で起きていたことがあります(p.60)。根元に何らかの異常があって根株腐朽が推定される場合に、根株診断を行います。
測り方は腐朽診断と違い、貫入抵抗測定器を地際で40度の俯角をつけ、根株の中心に向かって斜め下方向に貫入させます。石や土に当たると想定される場合は30度です(p.60)。斜めに刺すので、測った長さは水平の断面より長くなります。そこで、俯角40度なら幹半径に1.31を、30度なら1.15を掛けた長さを「測定線分延長」として想定断面図に使います(p.61)。角度の機能があり、500mm以上の測定長を持つ機器を使うことになっているのも、この診断のためです(p.60)。当社の公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断に、現場の様子があります。
t/R率と腐朽空洞率 数字の意味と、数字の限界

腐朽空洞率とt/R率の比較
機器診断の結果は、2つの数字にまとめます。t/R率は、各測定方向の半径(R)に対して残っている健全材の厚さ(t)の割合です。腐朽空洞率は、測定箇所の断面積に対する異常部の面積の割合で、貫入抵抗測定では、断面も異常部もほぼ円形だと仮定して、異常部の長さの合計を測定直径の合計で割った値を二乗して求めます(p.57、p.61)。
この2つのうち、貫入抵抗測定器が直接測っているのは健全材の厚さ、つまり t/R率の方です。腐朽空洞率は、そこから面積に換算した参考値だと、マニュアルは明記しています(p.56)。しかも腐朽空洞が著しく変形しているほど計測の差異が大きくなり、形によって過大にも過小にもなる(p.52)。だから所見欄には、t/R率が0.3未満、または腐朽空洞率が50%以上の場合、腐朽の具合を詳しく書き、健全材と腐朽空洞部の境が波形で不明瞭なときは判読の根拠を記すことになっています(p.62)。
現場での経験から言えば、同じ30%の腐朽空洞率でも、空洞が中心にある木と、片側に寄って健全材が薄くなっている木とでは、折れる危険はまったく違います。t/R率と腐朽空洞率を並べて見る理由は、そこにあります。
総合判定 数字と外観を合わせて、最後は人が決める
総合判定は、外観診断判定と機器診断による腐朽空洞率に基づいて、総合的に判断します(p.65)。腐朽空洞率の参考基準値は、A が10%未満、B1 が10%以上30%未満、B2 が30%以上50%未満、C が50%以上です(p.66)。
ただし、この数字だけで判定を出してはいけない、というのがマニュアルの立場です。機器診断で腐朽空洞が確認できなかったとしても、機器診断のみの結果から総合判定を出すのではなく、外観診断の結果と併せて考慮する(p.65 注1)。判定を出す前に、活力判定、部位診断の所見と判定、外観判定の理由、t/R率と腐朽空洞率を順に確認したうえで、沿道条件や歩道幅員、植栽環境や土地利用も考慮して決め、判定理由欄に根拠を明記する(p.65)。
考慮するその他の要素も表になっています(p.66)。樹木の形状比は、樹高÷幹径が50以上、枝長÷枝径が40以上だと途中で折れる可能性が高い。樹冠の形状は、枝下高が高いと風荷重の力点が高くなり、樹冠が大きく枝葉が密だと風荷重が大きく、枝葉が片側に偏るとねじれの力がかかる。根系は、切断や腐朽、伸長不良が支持力に影響するので、植栽基盤や工事履歴にも留意する。t/R率が0.3未満は折損の危険が高い場合があり、幹が傾いている木では健全なあて材が残っているかも見る。そして立地環境。風を受けにくい場所か、根が十分に伸びていると考えられるか(同じ植樹桝の中低木の生育が良好であるなど)も、判定の際に考慮します(p.65 注2)。
数字は根拠のひとつで、判定は人が出す。診断の責任がどこにあるかを、マニュアルはこの一節ではっきりさせています。
処置 判定ごとに何をするか
総合判定が出たら、処置の方針が決まります(p.68)。A は日常的な観察。B1 は観察と、剪定や樹体保護などの適切な処置。B2 は短い周期の観察と処置に加え、必要に応じて植替え(撤去)も検討。C は更新です。歴史的価値のある街路樹など特別な木は、これによらず別途対応できる、という一文もあります(p.68)。

剪定作業
処置の中身は7つに整理されています(p.68〜69)。観察、剪定(枯枝剪定、腐朽枝等剪定、支障枝剪定、風圧軽減剪定、スタブカット切除、巻き根切除)、樹体保護(支柱の設置)、植栽基盤の改善(土壌改良、過湿対策、乾燥対策、施肥、踏圧防止)、根上がり対策、病虫害防除、更新です。
剪定の節には、切り方の原則が図とともに書かれています。枝は付け根のブランチカラーを残してその直前で切り、ブランチカラーを切り落としたり傷つけたりしない。太枝や幹を途中で切り落としてはならず、やむを得ない場合は分岐部でバークリッジを残して切る。直径5cm以上の切り口には癒合剤を塗る(p.70〜71)。スタブカットを見つけたら直ちに切り戻し、切り口が直径3cm以上なら癒合剤を塗る。「剪定による枯れを見越して」意図的に切り残しを作る剪定方法は誤りだ、とも明記されています(p.72)。切除できる巻き根は直径2cm程度未満の根で、剪定鋏や鋸で他の根や幹を傷つけないように切り、切り口に癒合剤を塗ります(p.73)。

支柱の結束直し

マルチング
マニュアルの改定の経緯には、C 判定の木の撤去・植替えは進む一方で、それ以外の木には風圧軽減剪定などの適切な処置が取られず、強剪定などの不適切な処置でかえって樹勢を弱めることも少なくなかった、と書かれています(p.3)。診断して終わりではなく、判定に合った処置までが街路樹の管理だという考えが、令和3年度の改定で処置の章を厚くした理由です。
フォローアップ診断 B2 の木を、前回の被害に絞って診る

樹木台帳と管理計画
総合判定が B2 の木には、1〜3年後にフォローアップ診断を行います(p.67)。平成26年度版のマニュアルでは、B2 の木は毎年改めて外観診断と機器診断を行うことになっていて、毎年の機器診断が樹体に負担をかけるという問題がありました。そこで令和3年度版では、B2 の木の再診断を「フォローアップ診断」として新たに位置づけ、被害の状況に応じて時期と内容を判断することにしました(p.89)。
時期の目安も書かれています。著しい樹勢衰退や穿孔虫害など短期間で被害が進む可能性が高い場合や、50%に近い腐朽空洞率が確認された場合は1年後。30%程度の腐朽空洞率で、その他に大きな被害がなく活力が旺盛な場合は3年後(p.67)。
診断の進め方は、通常の外観診断と少し違います。診断者は事前に都の担当者から前回までの診断データを受け取り、被害状況と、処置が実施されたかどうか(時期・頻度・内容)を把握してから現地に行きます(p.89)。現地では、前回の判定理由となった被害がどう変化したか(悪化したのか、処置で改善したのか)を外観診断で確かめ、必要なら前回と同じ部位を機器診断します。被害の変化に応じて測定位置を追加・変更することもできます(p.90)。カルテには前回の結果をそのまま転記し、処置欄では前回に必要とされた処置のうち今回実施が確認されたものを塗りつぶして区別します(p.89)。写真も、前回と同じ被害部を同じように撮ります(p.89)。
現場での経験から言えば、前回と同じ高さ、同じ方向で測るからこそ、腐朽が進んだのか止まっているのかが分かります。マニュアルの記入例にも、根元の腐朽空洞率が35.0%から45.0%に増え、歩道側の健全材が薄くなったために次回を1年後とした例が載っています(p.91)。5年以上フォローアップ診断を続けた木は、通常の外観診断に戻します(p.67)。C 判定だが何らかの理由で当面更新しない木も、必要に応じてフォローアップ診断の対象に含めます(p.89)。
伐った木の断面で答え合わせをする
マニュアルの参考資料には、伐採した木の断面調査の方法も書かれています。診断した高さで輪切りにして写真を撮り、断面の腐朽空洞率を求めて、機器診断の結果と照らすものです(p.113〜114)。診断の精度を確かめる機会は、木を伐ったときにしかありません。当社でも、街路樹エンジュの診断と伐採後の腐朽具合の答え合わせや、同じサクラを3機種で測ってその日のうちに伐った研修会のように、断面と診断結果を突き合わせる機会を大切にしています。
前編と後編で、東京都の街路樹診断等マニュアルの流れを一通りたどりました。樹木点検でふるいにかけ、外観診断で木の外に出たサインを18項目で読み、必要な木だけ機器診断で中を確かめ、数字と外観を合わせて判定し、判定に合った処置をして、B2 の木は被害に絞って診続ける。どの段階にも、人の目と判断が置かれています。街路樹の根元にしゃがんでいる作業員を見かけたら、この流れのどこかを確かめているのだと思っていただければ幸いです。
診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。診断の結果を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木診断の仕様書や点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 街路樹診断の機器診断とは、どんな診断ですか?
A. 外観診断で内部の腐朽や空洞が疑われた木にだけ行う診断で、樹木診断機器で腐朽や空洞の程度を数値で把握します。根元・幹・大枝を測る腐朽診断と、地中の根株を測る根株診断があり、東京都の街路樹診断では貫入抵抗測定器(レジ)によるものを基本に、アーボソニック3Dやピカスなどを目的に応じて使います。結果は外観診断と合わせて総合判定の材料にします。
Q2. t/R率と腐朽空洞率は何が違うのですか?
A. t/R率は、各測定方向の半径(R)に対して残っている健全材の厚さ(t)の割合で、貫入抵抗測定器が直接測っている値です。腐朽空洞率は、断面積に対する異常部の面積の割合で、異常部の長さの合計を測定直径の合計で割って二乗した参考値です。腐朽空洞の形が変形しているほど差異が出るため、東京都のマニュアルでは両方を併せて確認し、t/R率0.3未満や腐朽空洞率50%以上の場合は所見を詳しく書くことになっています。
Q3. 腐朽空洞率が何%になると不健全(C)になりますか?
A. 東京都のマニュアルの参考基準値では、腐朽空洞率がAは10%未満、B1は10%以上30%未満、B2は30%以上50%未満、Cは50%以上です。ただしこの数字だけで判定するのではなく、外観診断の結果、t/R率、樹木の形状比、樹冠の形状、根系、立地環境なども考慮して総合的に判断し、判定理由を明記します。機器診断で腐朽が確認できなくても、外観診断の結果と併せて判定します。
Q4. フォローアップ診断とは何ですか?
A. 総合判定がB2(著しい被害が見られる)となった木を対象に、前回の診断の被害状況に焦点を当てて1〜3年後に行う再診断です。前回の診断データと処置の実施状況を把握したうえで、被害の変化を外観診断で確かめ、必要なら前回と同じ部位を機器診断します。短期間で被害が進む可能性が高い木や腐朽空洞率が50%に近い木は1年後、30%程度で活力が旺盛な木は3年後が目安で、5年以上続けた木は通常の外観診断に戻します。
Q5. 診断の後、木にはどんな処置をするのですか?
A. 総合判定に応じて、観察、剪定(枯枝剪定、支障枝剪定、風圧軽減剪定、スタブカット切除、巻き根切除)、支柱の設置、植栽基盤の改善(土壌改良、施肥、踏圧防止など)、根上がり対策、病虫害防除、更新(撤去・植替え)から選びます。剪定ではブランチカラーを残して切り、太枝や幹を途中で切り落とさず、直径5cm以上の切り口には癒合剤を塗るなど、切り方の原則も定められています。
出典・参考情報
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅲ章 3 機器診断(p.50〜63)、4 総合判定(p.64〜67)、第Ⅳ章 1 樹木の処置について(p.68〜88)、2 フォローアップ診断について(p.89〜92)、第Ⅶ章 5 伐採樹木断面調査(p.113〜114)。本文のページ番号はすべて同マニュアルのものです。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。
記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。機器の形は当社の実機に合わせて描いていますが、測定の手順と判定は上記マニュアルの基準と現地の状況によります。
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊






























