東京グリーンビズが「大径木の樹木診断」を掲げたことを、樹木医はどう読むか──連載 まもる・育てる・活かす 第1回

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東京グリーンビズは、東京都が2023年7月に始めた、100年先を見据えた緑のプロジェクトです。「自然と調和した持続可能な都市」を目指し、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を都民や企業とともに進めるもので、都の資料には「大径木等を中心とした樹木診断」や「樹木医等の専門家の意見」が書かれています。

この連載は全3回で、都の資料に書かれた施策と、樹木医である私の仕事を1つずつ突き合わせていきます。第1回は「まもる」です(第2回「育てる」、第3回「活かす」は公開後にこの記事の末尾からたどれます)。

当社は2026年10月、東京グリーンビズのコラボレーションパートナーの登録を申請しました。登録の通知はまだ受け取っていません。申請にあたって、都の基本資料「東京都の緑の取組 Ver.3」を初めから読み直しました。緑の施策の冊子を樹木医として読むと、目が止まる箇所がいくつもあります。その一つが、公園の樹林の項に書かれた「大径木等を中心とした樹木診断」という一文でした。都が緑の長期の計画の中に、樹木を1本ずつ診るという仕事を書き込んだ意味を、この回で考えます。

 

東京グリーンビズとは何か──2023年7月に始まった、100年先を見据えた緑のプロジェクト

東京都の公式サイトは、東京グリーンビズをこう説明しています。「自然と調和した持続可能な都市」を目指し、都民や企業の皆様など様々な方々とともに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進める、100年先を見据えた緑のプロジェクト。始動は令和5(2023)年7月で、コンセプトは「みどりと生きるまちづくり」(ひらがなの「みどり」)です。基本となる資料は「東京都の緑の取組」で、2024年1月に Ver.2、2025年1月31日に Ver.3 が公表されました。Ver.3 の目次では、「まもる」は農地・樹林地・保全地域・森林など今ある緑を守る取組、「育てる」は公園や街路樹の充実と、都民が緑を知り親しむ取組、「活かす」はグリーンインフラの導入など緑の多様な機能を活用する取組として組まれています。

資料の表紙には「緑の量だけでなく質を重視」とあります。東京都はそれまで、2007年の「緑の東京10年プロジェクト」で都内の街路樹を100万本に倍増し、その後の「緑溢れる東京プロジェクト」(2021年)で緑を「増やす」取組を進めてきました。東京グリーンビズは、その次の段階として、今ある緑をどう守り、育て、働かせるかを都市の戦略の中心に置いたものだと私は読みました。

知事は2023年8月10日の第1回アドバイザリーボードで、「今度はクールビズならぬグリーンビズで、しっかりと東京の緑をまもり、増やしてつないで、活かしていきたい」と述べています。初版(2023年10月)の資料では、取組の観点は「まもる」「増やし・つなぐ」「活かす」の3つでした。2024年1月の Ver.2 から「まもる」「育てる」「活かす」の表記になり、Ver.3 もこれを引き継いでいます。「増やす」が「育てる」に変わったことに、私は都の方針の転換を感じます。

項目 内容 出典
始動 令和5(2023)年7月 Ver.3 p.1
目指す姿 「自然と調和した持続可能な都市」 公式サイト・Ver.3 p.1
3本柱 「まもる」「育てる」「活かす」(Ver.2〈2024年1月〉から、初版は「まもる」「増やし・つなぐ」「活かす」) 都報道発表 2024年1月26日、知事記者会見資料 2023年10月6日
コンセプト 「みどりと生きるまちづくり」(ロゴは2023年10月6日に決定) 都報道発表 2023年10月6日
基本資料 「東京都の緑の取組 Ver.3」(2025年1月31日公表) 政策企画局 報道発表
所管 東京都政策企画局 計画調整部 プロジェクト推進課 コラボレーションパートナー募集ページ
官民連携 コラボレーションパートナー 64社(令和8年9月現在)、東京グリーンビズマップに約830か所を掲載(Ver.3 時点) パートナー一覧、Ver.3 p.31

出典: 記事末尾の「出典・参考情報」の各資料をもとに当社作成

要点を3つにしぼると、次のとおりです。

  • 東京グリーンビズは、東京都が2023年7月に始めた、100年先を見据えた緑のプロジェクトで、3本柱は「まもる」「育てる」「活かす」
  • 方針の軸は「増やす」から「量だけでなく質」へ移り、今ある緑を守り、育て、働かせることに重心がある
  • 都民・企業と一緒に進める枠組み(コラボレーションパートナー、東京グリーンビズマップ)が制度として置かれている
東京グリーンビズ 3本柱 まもる 育てる 活かす 樹木診断 育成管理 計測 対応図

東京グリーンビズの3本柱と、当社の3つの仕事の対応(上段は「東京都の緑の取組 Ver.3」から抜粋。図は当社作成)

 

「まもる」の中身──都の資料に書かれた「大径木の樹木診断」と樹木医

Ver.3 の「まもる」の柱は、農地、樹林地(屋敷林等)、保全地域、森林の4つの項に分かれています。樹木医の仕事に直接重なるのは、樹林地の項にある「公園の樹林を循環させる取組を促進」の記述です。原文を引きます。

「都民や来園者等の安全確保や健全な樹林地の育成のため、大径木等を中心とした樹木診断や、ナラ枯れ対策、除伐や補植など、計画的な樹林の管理により、樹林地の若返り(更新)を促進します」(Ver.3 p.14)。続けて、伐採した樹木を園内で活用すること、剪定枝葉や伐採樹木を園内でチップ化・堆肥化することも書かれています。

同じページには、移植が必要な樹木をいったん受け入れて保管し、新たな公園の整備などで活用する「ツリーバンク」の流れがあり、移植を検討する段階に「(必要に応じ、樹木医等の専門家の意見を聴取)」と添えられています。緑の施策の冊子に「樹木医」という言葉が入ったことを、私は小さくないことだと受け止めています。

ここで一つ区別しておきたいことがあります。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、街路樹を外観診断で調べ、必要に応じて機器診断で確かめる体系を定めた資料です。当社の診断もこのマニュアルに準拠していますが、これは建設局の施策で、東京グリーンビズの資料そのものではありません。グリーンビズの「まもる」は、この診断の仕組みを、100年先を見据えた緑の計画の中に位置づけたものと読むのが正確だと思います。マニュアルの流れは「樹木医は街路樹診断で何を見ているか」の前編と後編で書きました。

Ver.3「まもる」の記述 当社の仕事 当社の考え方
大径木等を中心とした樹木診断(p.14) 樹木診断(ツリーリスクアセスメント)、外観診断と、レジ(Resi PD)・ピカス・アーボソニック3Dによる機器診断 GREEN MANAGEMENT ② 科学的な知見(アーボリカルチャー)と現場経験の融合
ナラ枯れ対策、除伐や補植による樹林の更新(p.14) 被害木の診断と処置、更新の計画づくり 残す樹木と更新する樹木を分ける材料をそろえる
ツリーバンクの移植判断で「樹木医等の専門家の意見を聴取」(p.14) 移植適性度診断、保存の可否の判断(当社には代表を含め樹木医が3名在籍〈2026年8月時点〉) 1本ずつ診て、移植や保存の可否を判断する
樹林地(屋敷林等)を守る(p.13〜14) 寺社の年間の手入れ、御神木・名木・古木の診断 GREEN MANAGEMENT ① 自社で一貫した管理

出典: 東京都「東京都の緑の取組 Ver.3」(令和7年1月)p.13〜14 と、当社のサービスの内容をもとに当社作成

 

100年という時間軸と、樹木を診るということ

東京グリーンビズの定義文で、私が特に目を留めたのは「100年先を見据えた」という部分です。自治体の計画の多くは5年や10年の単位で組まれますが、樹木の時間はそれより長い。植えた時がスタートで、樹冠が街を覆うまでに何十年もかかり、大径木と呼ばれる姿になるのは、植えた人がもういない頃です。100年という時間軸は、樹木が大径木に育っていく時間と重なる尺度で、私たちが剪定や診断の判断をするときに、いつも頭の中に置いている時間です。

では、その時間軸の中で「診る」とは何をすることなのか。都の資料は「安全確保」と「健全な樹林地の育成」の両方を樹木診断の目的に挙げています。私もこの順番で考えます。倒れてはいけない場所に立つ樹木の安全は、何よりも先に確保する。ただし、診断は伐るための手続きではなく、残すための根拠づくりです。外観診断は「ふるい」で、怪しい箇所のある木を拾い上げる段階にすぎません。幹の中がどうなっているかは、レジ(Resi PD)やピカス、アーボソニック3Dといった機器で測り、数字と画像にします。腐朽の割合が小さければ残せますし、片側に偏っていれば、その方向の枝を軽くして風の負担を減らす、という処置が選べます。「危ないから伐る」の一歩手前で、残せる木を残す材料を示すことが、樹木医の仕事の中心です。

2026年春に都が行った都有施設80万本の樹木の一斉点検では、約14,000本(速報。5月15日の確報では約13,900本、約2%)に枯損・枝折れなどの異状が確認されました。そのとき私は、「異状あり」には、伐採の対象だけでなく、剪定や注意喚起で済むものも含まれると書きました。異状のある木を1本ずつ診て、処置で残せる木と、更新するほかない木を分けていく。東京グリーンビズが「大径木等を中心とした樹木診断」を「まもる」の柱に書いたことは、この分ける仕事が、緑を守ることの一部だと都が認めたことだと私は読んでいます。

 

当社の現場での「まもる」──寿昌院「臥竜の松」の年間の手入れと、支柱の改修

原則だけでは一般論になるので、当社の現場を一つ引きます。江戸川区松本の寿昌院の境内にある「臥竜の松」は、推定樹齢500年のクロマツで、江戸川区の登録天然記念物です。当社は年末の手入れで毎年、古い葉を取り除く「古葉の揉み上げ」を行い(記録)、2022年5月には春の新芽の緑摘みと、マツ枯れを防ぐ薬剤の散布も行いました(記録)。地面を這うように伸びた太い枝を支える支柱は、2020年に池の中の支柱を丸太一本の頬杖から丸太二本の仕様に替え(記録)、2023年には丸太の横木を減らして頬杖支柱で補強する改修を行いました(記録)。

臥竜の松 池の中の支柱 交換 頬杖支柱 丸太二本 クロマツ 寿昌院 イラスト

臥竜の松の池の中の支柱の交換の前(上)と後(下)。模式図で、支柱の本数・位置は実際と異なる(記事 3449 と同じ絵)

この松で私たちがしていることは、都の資料の言葉を借りれば「樹林地(屋敷林等)を守る」に当たります。ただ、現場の感覚はもう少し具体的です。名木を守るとは、毎年同じ時期に同じ人が木を見に行き、小さな変化を記録し、支柱のような構造物を木の成長に合わせて直し続けることです。現場での経験から言えば、年に1度の手入れを何十年も続けることが、木の状態を保つ土台になると感じています。寿昌院の歴史と地名の話は別の記事で書きましたが、この松が200年以上前の地誌に載る松と推定されていることを思うと、100年先という都の時間軸が、名木の現場ではごく当たり前の尺度であることが分かります。

 

行動宣言① この連載が当社の「取組ページ」です

コラボレーションパートナーの登録要件には、「自社のウェブサイト等に、取組の内容の詳細を掲載していること」があります。この連載は、その取組ページとして書いています。第1回から第3回までで、都の3本柱と当社の仕事の対応を全部示します。

東京グリーンビズのロゴマークは、都の「取扱要領」(令和5年10月6日付、令和7年4月1日改正)に基づいて使うものです。要領では、コラボレーションパートナーの登録申込みがロゴ使用の利用申請とみなされ、登録の通知が完了した時点で利用の許諾が与えられること、使用する際には事前に都に協議することが定められています。当社は登録の通知を受けてから、要領と、色や形の使い方を定めた VI マニュアルに従い、都に協議したうえで公式サイトなどに掲出します。診断や管理のサービスについて、都により品質や安全性が保障されていると誤解させる表記は要領で禁じられていますので、見積書やチラシには載せません。

もう一つ、第3回で詳しく書きますが、当社は東京都環境局の第3回「Tokyo-NbSアクションアワード」に応募します。応募する取組は、樹木診断と育成管理による都市樹木(樹冠)の保全です。

次回の第2回は「育てる」です。都内の街路樹約100万本について、都が「計画的な剪定により樹冠を拡大する」と書いたことを、現場で樹木を育てる側から読みます。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. 東京グリーンビズとは何ですか?

A. 東京都が2023年7月に始めた、100年先を見据えた緑のプロジェクトです。「自然と調和した持続可能な都市」を目指し、都民や企業など様々な人とともに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進めるもので、コンセプトは「みどりと生きるまちづくり」、基本資料は「東京都の緑の取組 Ver.3」(2025年1月公表)です。

Q2. 東京グリーンビズの3本柱「まもる」「育てる」「活かす」は何を指しますか?

A. 「まもる」は農地・樹林地・保全地域・森林など今ある緑を守ること、「育てる」は公園や街路樹の充実と、都民が緑に親しみ育むこと、「活かす」はグリーンインフラの導入など緑の多様な機能を活用することです。初版(2023年10月)では「まもる」「増やし・つなぐ」「活かす」で、2024年1月の Ver.2 から今の表記になりました。

Q3. 東京グリーンビズと樹木診断はどう関係しますか?

A. 「東京都の緑の取組 Ver.3」の「まもる」の柱に、公園の樹林地で「大径木等を中心とした樹木診断や、ナラ枯れ対策、除伐や補植など、計画的な樹林の管理により、樹林地の若返り(更新)を促進します」と書かれています。移植を検討するツリーバンクの流れにも「必要に応じ、樹木医等の専門家の意見を聴取」とあります。

Q4. 樹木診断は、木を伐るために行うものですか?

A. 伐るための手続きではなく、残すための根拠づくりです。外観診断で怪しい箇所のある木を拾い上げ、機器診断で幹の中の腐朽の割合や位置を数字と画像にします。腐朽が小さければ残せますし、偏りがあれば枝を軽くして風の負担を減らす処置が選べます。安全の確保と、残す努力の両方を行います。

Q5. コラボレーションパートナーとは何ですか?

A. 東京都とともに東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進め、その取組を相互に発信する企業・団体を都が登録する制度です。令和8年9月現在64社が登録されています。要件は、登録規程への同意、3本柱の取組を行っていること、都内に事業場があること、自社のウェブサイト等に取組の詳細を掲載していることの4つです。

Q6. 東京グリーンビズのロゴマークは誰でも使えますか?

A. 都の「取扱要領」に基づいて使います。要領では、コラボレーションパートナーの登録申込みがロゴ使用の申請とみなされ、登録の通知が完了した時点で利用が許諾されること、使用の際は事前に都に協議することが定められています。利用者の物品やサービスについて、都により品質や安全性が保障されていると誤認させる表記は禁止されています。

 

出典・参考情報

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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

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