2026年9月2日、台湾・台中の造園会社「上森景観(Upon Forest)」の皆様が来日され、東京・杉並の熊野神社の境内で、当社の樹木医 髙尾がレジ・ピカス・アーボソニック3Dによる機器診断を実演しました。台湾では同じ年の4月、樹木保護の専門人材を国が3つの等級で認証する制度が始まったばかりです。
この記事では、当日の様子と、上森景観という会社のこと、そして台湾で動き始めた樹木保護の制度を、日本の樹木医の制度と並べてまとめます。研修の調整には、東邦レオ株式会社 台湾支社の鈴木幸男様に、最初のご相談から当日まで間に入っていただきました。
杉並の神社の境内で──台湾から来た造園の専門家と
会場は、杉並区堀ノ内の熊野神社の境内です。上森景観の皆様は約15名、当社からは樹木医の髙尾聡司と、スタッフ2名が伺いました。私は別の現場があって伺えませんでしたので、この記事は髙尾たちの記録と写真をもとに書いています。

境内の一角に集まり、髙尾の説明を聞く上森景観の皆様
境内には、社殿の脇に幹が縦に開いた木や、根元の張った大きな木が立っています。実演には、こうした境内の木を使わせていただきました。
上森景観とはどんな会社か──設計・施工・維持管理を一貫して
上森景観(上森景觀設計工程股份有限公司、UPON FOREST LANDSCAPE ARCHITECTURE)は、2019年に設立された台湾の造園会社です。1980年に創立された老圃造園のグループの一社で、台中と高雄に約160名がいます。景観の設計・施工管理・維持管理(養護)を一貫して手がけ、半導体工場の敷地の景観や生態系に配慮した緑地づくり、大規模な樹木の移植を数多く手がけてきました(同社の公式サイトによる)。
公式サイトで紹介されている仕事の中で、私が目を留めたのは、2015年に中部科学園区の旧弾薬庫の跡地で、台積電(TSMC)の工場の建設に合わせて行われた高木の移植です。環境影響の調査で記録された5,000本余りの高木と相思樹の林を、6か月のうちに園区の公園・緑地や周辺の小中学校へすべて移し、生存率は92%と公表されています。指定された大径の相思樹23本は工場の周りへ移し、生存率は95%でした。
同社の技術のページには、根回しのあと根を養う期間として「45日から90日以上」を取ること、運ぶ距離を車で30〜40分以内に抑えることも書かれています。当社の移植の現場での経験から、移植がうまくいくかどうかは、掘る前の根回しと、運ぶ日の段取りで大半が決まると感じています。数千本を半年で動かした記録は、その段取りの厚みを物語っていると思います。
もう一つ、上森景観は養護の仕事で、蝶やトンボ、ホタルがすめる環境を取り戻すことを大切にしていると書いています。剪定や灌水だけでなく、そこに生きる生きものまでを管理の対象に入れる考え方です。
レジ・ピカス・アーボソニック3Dを、実際の木で
当日は、当社が樹木診断で使っている3つの機器を、境内の木で順に実演しました。3つの機器は、どれも幹の中の腐朽や空洞を調べるものですが、測るしくみと、木に与える傷の大きさが違います。
| 項目 | レジ(Resi PD) | ピカス | アーボソニック3D |
|---|---|---|---|
| 東京都のマニュアルでの名前 | 貫入抵抗測定器 | 弾性波樹木診断装置 | 多点式応力波速度測定器 |
| 測るしくみ | 細いキリを回しながら差し込み、抵抗の高低から腐朽・空洞をみる | 幹の周りに12〜30個のセンサーを付け、センサーの間を通る弾性波を測る | 幹の外周に複数のセンサーを付け、センサーの間を伝わる応力波の到達時間を測る |
| 出てくる結果 | 深さと抵抗値の波形(1本の線の上) | 幹の断面の画像(色の分布) | 幹の断面の画像(多断面で上下の広がりも推定できる) |
| 木に与える傷 | 樹皮・形成層・木部がわずかに傷付く(キリの軸径1.5mm) | 樹皮・形成層がわずかに傷付く(釘を12〜30本) | 樹皮・形成層がわずかに傷付く(専用の釘を6〜32本) |
(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.51〜53 表Ⅲ-3・1、参考資料 p.108・p.111 から当社で作成)
レジ(Resi PD)──1本の線の上で、硬さの変化を読む
最初はレジ(Resi PD)です。幹に縦に長く開いた空洞のある木の前で、髙尾がレジを構えて説明しました。

幹の開いた木の前で、レジ(Resi PD)を構えて説明する樹木医 髙尾
上森景観の方にも機器を持っていただき、髙尾が横から支えて構え方を確かめました。現場での経験から、レジは幹に対してまっすぐに構えることが、きれいな波形を取るための一歩目です。

上森景観の方がレジを持ち、髙尾が横から支えて構え方を確かめる
レジの結果は、深さと抵抗値の波形として出ます。機器のそばで説明する髙尾の話を、参加者の皆様はスマートフォンで撮りながら聞いていました。

レジのそばで説明する髙尾と、撮影しながら聞く参加者の皆様
ピカス──音の速さから、断面の画像をつくる
次はピカスです。幹の周りに番号の付いたセンサーを並べて付け、本体を幹に固定します。写真は、髙尾が根元に近いセンサーの位置を確かめているところです。

ピカスの本体を幹に付け、根元のセンサーの位置を確かめる髙尾
測り終えると、パソコンに幹の断面の画像が出ます。当社のスタッフが、その画面を見せながら説明しました。

ピカスの断面の画像をパソコンで見せながら説明する当社のスタッフ
センサーを付けた木を前に、皆様で説明を聞く時間もありました。

センサーを付けた木の前で話を聞く上森景観の皆様
アーボソニック3D──センサーを叩いて、応力波の速さを測る
3つ目はアーボソニック3Dです。幹の周りにセンサーを付け、メジャーを回して位置を測り、当社のスタッフが記録を取りながら準備を進めました。

アーボソニック3Dのセンサーを付ける当社のスタッフと、記録を取りながら見る参加者の皆様
アーボソニック3Dは、センサーを一つずつハンマーで叩き、その振動が他のセンサーに届くまでの時間を測ります。この叩く作業も、参加者の方に実際にやっていただきました。

上森景観の方が、アーボソニック3Dのセンサーをハンマーで叩く
台湾で始まった樹木保護の制度──2015年の森林法改正から、2026年の3段階の認証へ
上森景観の皆様が来日された2026年は、台湾の樹木の仕事にとって節目の年です。順を追って書きます。
2015年、森林法に「樹木保護」の章ができた
台湾では、2015年7月1日に公布された森林法の改正で、第五章之一「樹木保護」が新しく設けられました。地方の主管機関が管内の樹木を調べ(普査)、守るべき木を「受保護樹木」として認定・公告し、樹冠の自然な成長を保ち、定期的に健康を検査して養護することが定められています。
受保護樹木の基準は、2016年の「森林以外之樹木普查方法及受保護樹木認定標準」で決められました。樹齢100年以上、胸高直径が広葉樹で1.5m以上・針葉樹で0.75m以上、樹冠の投影面積が400㎡以上などで、このうち一つに当たれば認定されます。
2026年4月、樹木保護の専門人材を3つの等級で認証
そして2026年4月20日、農業部(日本の農林水産省にあたる)は「樹木保護專業人員考選培訓及分級認證辦法」を発布・施行しました。樹木保護の専門人材を、初級・中級・高級の3つの等級で国が認証する制度です。中央通訊社の報道によると、自治体は受保護樹木の移植・復育を許可するとき、事業者に高級の認証を受けた人を雇って施工するよう求めることができます。
中級・高級の第1期の研修は、台湾大学・中興大学・嘉義大学・屏東科技大学の4校が受け持ち、2026年8月24日から9月6日まで申込を受け付けました(各校で中級・高級を1クラスずつ、定員は1クラス40人)。上森景観の皆様が杉並の境内で機器に触れていた9月2日は、ちょうどその申込の期間のさなかでした。

台湾の樹木保護の制度の歩み(全國法規資料庫・農業部林業及自然保育署・中央通訊社の公表をもとに当社作図)
ISA の認定と、日本の樹木医の資格を持つ台湾の人
国の制度とは別に、台湾には ISA(国際樹芸学会)のアーボリストの認定もあります。社團法人台灣都市林健康美化協會(TWAS)が ISA から認可を受け、台湾で認定アーボリスト(樹藝師)と認定ツリークライマー(攀樹師)の研修と認定を行っていて、取得した人は合わせて約300人と同協会の声明に書かれています。上森景観も、社内の有資格者に ISA 樹藝師を挙げています。
同じ声明には、日本の樹木医の資格を持つ人は台湾の国内に2人だけ、とも書かれています。
台湾の研究機関も、応力波で幹の中を調べている
台湾の林業試験所は2015年に、老樹や街路樹の幹を応力波で調べる3D検査を紹介しています。機器で幹の中を調べる技術は、台湾でも研究機関の中ではすでに使われています。これから認証を受けた人たちが現場で受保護樹木の健康検査に入るとき、機器を扱える人がどれだけいるかが問われるのだろうと思います。
日本の樹木医の制度と並べると
日本の樹木医の制度は1991年度に始まり、2001年度からは一般財団法人日本緑化センターが認定しています。登録している樹木医は全国で3,244名(2025年12月1日時点、広島県の公表による)です。2025年2月14日には、国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」に、公園施設(樹木)の点検・診断の資格として登録されました。樹木医の資格を取ってから3年以上たった人が受けられる「街路樹・都市樹木診断士」(一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会。2025年10月31日に今の名前になった)もあります。
行政の側では、国土交通省が2017年9月に「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」をまとめ、2026年3月30日に改訂しました。日本と台湾を並べると、次のようになります。
| 項目 | 日本 | 台湾 |
|---|---|---|
| 樹木の専門家の資格 | 樹木医(1991年度に開始、2001年度から日本緑化センターが認定) | 樹木保護專業人員(2026年4月20日に開始、国が初級・中級・高級で認証) |
| 人数 | 登録者 3,244名(2025年12月1日時点) | 中級・高級の第1期の研修の申込が2026年9月に締め切られた段階 |
| 守るべき木の制度 | 国・都道府県・区市町村の天然記念物、保存樹など(自治体ごと) | 森林法の受保護樹木(2015年から、地方が普査して公告) |
| 点検・診断の決まり | 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(2017年、2026年改訂) | 森林法で、受保護樹木の定期的な健康検査と養護を定める |
(出典は記事末尾の「出典・参考情報」。日本の登録者数は広島県「樹木医制度について」による)
日本の樹木医の制度には30年余りの積み重ねがあります。台湾は国の認証を始めたばかりですが、受保護樹木の移植の許可で、高級の認証を受けた人の施工を求められる仕組みまで用意しています。どちらが進んでいるという話ではなく、同じ「人の暮らしのそばにある大きな木を、どう調べて残すか」という問いに、違う順番で取り組んでいるのだと感じます。
機器は、目で見る診断のあとに使う
当社が機器診断で大切にしているのは、機器は、目で見る外観診断で異常が見つかった木に、必要な所だけ使うということです。東京都の街路樹診断等マニュアルも、まず外観診断を行い、必要な木に機器を使う順番を示しています。
3つの機器には、それぞれ得意な腐朽・空洞の形があり、形によっては実際より大きく、または小さく出ることがあります。1本の線の上を細かく見るレジと、断面全体を画像にするピカス・アーボソニック3Dを、木の状態に合わせて組み合わせます。くわしくは「樹木の精密診断(機器診断)とは」に書いています。
機器の扱い方は、一日の実演で伝えることができます。けれども、どの木に、どの機器を、幹のどこに当てるかを決める判断は、外観を見る目と一緒に、現場の数を重ねて育つものです。上森景観の皆様が、台中の現場でその目を育てていかれることを、私たちも楽しみにしています。
おわりに──上森景観の皆様、東邦レオの鈴木様へ

研修を終えて、社殿の前で。当社の髙尾(左)とスタッフ、上森景観の方々
研修のあと、鈴木様から「台湾の方々も非常に勉強になったと喜んでおられました」とご連絡をいただきました。遠く台中からお越しいただいた上森景観の皆様、研修の調整に力を尽くしてくださった東邦レオ株式会社 台湾支社の鈴木幸男様、そして境内を使わせていただいた熊野神社様に、心より御礼申し上げます。
当社は2024年に、台中公園で開かれた台湾のツリークライミング大会にも参加しています(「台湾ツリークライミング大会 台中公園」)。台中とのご縁が、今度は樹木診断の技術でつながりました。これからも、国や言葉の違いを越えて、樹木を残すための技術を伝え合っていきたいと思います。
株式会社トシ・ランドスケープ
代表取締役 樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. 台湾に樹木医の制度はありますか?
A. 日本の「樹木医」と同じ名前の資格はありませんが、2026年4月20日に「樹木保護專業人員考選培訓及分級認證辦法」が施行され、樹木保護の専門人材を国が初級・中級・高級の3つの等級で認証する制度が始まりました。中級・高級の第1期の研修は、台湾大学など4つの大学が受け持っています。
Q2. 台湾の受保護樹木とは何ですか?
A. 2015年の森林法の改正でできた「樹木保護」の章にもとづき、地方の主管機関が調べて認定・公告する、守るべき樹木のことです。樹齢100年以上、胸高直径が広葉樹で1.5m以上・針葉樹で0.75m以上、樹冠の投影面積が400㎡以上などが基準で、このうち一つに当たれば認定されます。
Q3. レジ・ピカス・アーボソニック3Dは何が違いますか?
A. レジは細いキリを差し込み、1本の線の上で抵抗の変化を波形として見ます。ピカスとアーボソニック3Dは、幹の周りに付けた複数のセンサーの間を伝わる音や振動の速さを測り、幹の断面の画像をつくります。どれも幹の中の腐朽や空洞を調べる機器で、外観診断で異常が見つかった木に、必要な所だけ使います。
Q4. 上森景観とはどんな会社ですか?
A. 台湾の台中と高雄に拠点を置き、景観の設計・施工管理・維持管理を一貫して手がける造園会社です。老圃造園のグループの一社として、2019年に設立されました。2015年に中部科学園区の旧弾薬庫で行われた、5,000本余りの高木の移植(生存率92%)などを公式サイトで紹介しています。
Q5. 日本の樹木医は何人いますか?
A. 広島県の公表によると、登録している樹木医は全国で3,244名(2025年12月1日時点)です。樹木医の制度は1991年度に始まり、2001年度からは一般財団法人日本緑化センターが認定しています。
出典・参考情報
・上森景觀 UPON FOREST「公司介紹」「喬木移植-中科彈藥庫」
・全國法規資料庫「森林法 第五章之一 樹木保護」「森林法 沿革」「森林以外之樹木普查方法及受保護樹木認定標準」
・農業部林業及自然保育署「樹木保護專業人員認證正式上路 首波中、高級培訓8月24日起開放報名」
・中央通訊社「樹木保護專業人員認證上路 提升專業擴大市場需求」(2026年4月20日)
・農業部林業試驗所「林木樹幹照妖鏡-老樹與行道樹樹幹應力波3D檢測」
・社團法人台灣都市林健康美化協會「針對端傳媒專題文章之澄清說明」
・一般財団法人日本緑化センター「樹木医・樹木医補」
・広島県「樹木医制度について」
・一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会「公式サイト」
・国土交通省「樹木の点検・診断に関する指針(案)について」「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格の登録」(2025年2月14日)
・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」
・東邦レオ株式会社「事業所一覧」
関連記事
・台湾ツリークライミング大会 台中公園
・韓国樹木医協会 日韓樹木医交流
・ISA・TCIA・英国AAとは──海外のアーボリスト団体と日本の樹木医制度
・樹木の精密診断(機器診断)とは
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。
※ 「ツリークライミング」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、ロープとハーネスで樹木に登って作業する技術を指す言葉として使っています。

































