建物の建設に伴う道路の自費工事などで、既存の街路樹を移植したり撤去したりするときには、樹木医の診断が必要となる場合があります。
移植可否診断(移植適性度診断)は、その木を掘り取って別の場所へ植え替えたときに、根付いて育ち続けられるかを、工事の前に見極める診断です。今回は東京都内の街路樹で、この診断を行いました。
移植適性度診断で見る6つの項目
・現状の樹木の状態(外観診断)
・植栽環境
・移植時期
・根回しの有無
・根鉢寸法の確保
・移植先の環境
上記の現場情報をもとに、移植が可能かの判断を樹木医が総合的に行います。
木の状態がよくても、工事の条件で移植の可否が変わることがあります。掘削する範囲と深さ、根元の近くを通る水道管などの埋設物、移植先の植え桝の広さなども、判断の材料になります。

都内の街路樹で移植を難しくする条件(電線への接触、ガードレール・支柱の飲み込み、根鉢が取れない狭い植桝)
都内の街路樹で移植が難しくなる理由
都内の街路樹では、上部の枝が電線に触れていたり、根元の植え桝が狭くて移植に適した根鉢の寸法が取れなかったりして、移植が難しい場面が多くあります。
根鉢が取れない
根鉢とは、掘り取るときに根と土をひとかたまりにして持ち上げる部分のことです。水を吸う細い根(細根)は根の先の方に多く分布していて、国土技術政策総合研究所の「街路樹再生の手引き」は、根回しを、掘り取りで失われる細根に対処するための作業として説明しています。根鉢を小さくしか取れないと、その細根の多くを切り離すことになります。
植え桝や植樹帯が狭い場所では、根が桝の外の舗装の下まで伸びていることが少なくありません(掘削工事の立会いでの経験から)。桝の内側だけでは、十分な根鉢が取れないことがあります。

電線にかかる枝
樹冠の中を電線が通っている木は、掘り取りや運搬のために枝を大きく切り詰めなければならないことがあります。同じ手引きは、掘り取り時の切詰め剪定による大幅な樹冠縮小は活着に影響するとしています。強く切り詰めたうえに根鉢も小さいと、移植したあとに木が弱りやすくなります。

枝を強く切り詰め、根鉢も小さくしか取れないまま移植すると、移植後に葉が減り、枝先から枯れることがある
今回の診断で確かめたこと

木槌で幹を叩き、音の違いから内部の腐朽や空洞の疑いを確かめる
幹を木槌で叩き、音の違いから内部の腐朽や空洞の疑いを確かめました。移植は木にとって大きな負担になるので、もともと弱っている木は移植に耐えられません。

植樹帯の低木をかき分けて、根元の状態を確かめる
この木の根元は植樹帯の低木に覆われていて、外からは見えません。低木をかき分けて、根元の状態を確かめました。

植樹帯の幅を巻尺で測る
植樹帯の幅を巻尺で測りました。舗装を壊さずに取れる根鉢の大きさは、この幅が目安になります。

診断の結果を、その場で記録する
根回しと移植の時期
根回しは、移植の前に根の一部をあらかじめ切って養生し、根元の近くに細根を出させておく作業です。「街路樹再生の手引き」では、根回しは移植を成功させるために可能な限り実施することが望ましいとされ、養生の期間は樹種や木の大きさによって異なりますが、半年から1年ほどかかるとされています。掘り取りのときには、根巻きや幹巻きを行います。
移植の時期について、同じ手引きは、落葉樹は休眠期から萌芽前まで(厳冬期を除く)、常緑樹は春芽が動きはじめる直前と梅雨期、針葉樹は休眠期の2月上旬から萌芽前までと、休眠期に入った時期が適しているとしています。
手引きが示す移植の時期を、樹木の種類ごとに表にまとめます。
| 樹木の種類 | 移植に適した時期 |
|---|---|
| 広葉樹のうち落葉樹 | 樹木の成長が止まる休眠期から萌芽前まで(厳冬期を除く) |
| 広葉樹のうち常緑樹 | 春芽が動きはじめる直前と梅雨期 |
| 針葉樹 | 休眠期の2月上旬から萌芽前までと、休眠期に入った時期 |
| 根回し(必要な場合) | 移植の半年から1年ほど前に行うと効果的 |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」(国総研資料 第885号、平成28年3月)1-114「植栽位置の変更 ②実施時期」
一方で、工期を道路工事に合わせるため、適期に作業ができないことがあるとも書かれています。根回しの期間と移植の適期を工事の日程に組み込めるかどうかも、移植の可否を左右します。診断は、工事の計画がまだ動かせる早い段階で行うほど、選べる方法が増えます。

移植が難しいと判断したとき
移植が難しいと判断した場合も、理由を診断書にまとめ、適切な移植の方法や、移植が困難な場合の代わりの措置をご提案します。樹種の性質や樹齢によっても移植の難しさは変わるので、1本ずつの状態と工事の条件を合わせて判断します。
若手職人と一緒に
今回は、樹木医を目指す若手職人の勉強のために、診断道具と診断方法を説明しながら対応しました。

木槌による打診。内部に腐朽や空洞があると、叩いたときの音が変わる
日々の植栽管理作業をする上での提案や気づきに繋がればと思います。
よくある質問
Q1. 街路樹の移植に適した時期はいつですか?
国土技術政策総合研究所の「街路樹再生の手引き」では、落葉樹は休眠期から萌芽前まで(厳冬期を除く)、常緑樹は春芽が動きはじめる直前と梅雨期、針葉樹は休眠期の2月上旬から萌芽前までと、休眠期に入った時期が適しているとされています。
Q2. 根回しとは何ですか?
移植の前に根の一部をあらかじめ切って養生し、根元の近くに細根を出させておく作業です。養生の期間は樹種や木の大きさによって異なり、半年から1年ほどかかるとされています。
Q3. 移植適性度診断にはどのくらいの期間がかかりますか?
当社では、現地での樹木診断は1日間です。診断書は、現地での診断後、最短1日間で作成できます。
出典・参考情報
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」(国総研資料 第885号、平成28年3月)第1編 第3章 3.5 の「植栽位置の変更」(1-114ページ)、3.4.3 の表-3.26・表-3.27(1-67〜1-68ページ)
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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