樹木が弱る原因が足元の土にあるとき、地上には葉が小さくなる、枝先から枯れるといった変化が現れます。連載「土壌調査と土壌改良」の第2回では、東京都のマニュアルが挙げる土の4つの原因と、舗装・盛土・根元の工事が根に与える影響を、行政の手引きと事例をもとに樹木医が解説します。
第1回では、植栽基盤に求められる広がり・深さ・物理性・化学性の4つの条件を取り上げました。今回は、その条件が欠けたときに樹木に何が起こるのかを書きます。当社の土壌調査のページでは、「土が合わないと、樹木に何が起こるのか」と「樹木の衰退原因」の図にあたる部分です。
樹木が弱る原因は、土だけではありません。腐朽菌、病害虫、剪定、日当たりや風など、さまざまです。樹勢の見方と土以外の原因は「樹木の生育不良とその原因について」にまとめていますので、この回では土に絞って書きます。
土が原因のとき、地上に現れる変化
根が十分に働けなくなると、その影響はまず枝の先に出てきます。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、深植えや盛土で根が呼吸しにくくなった樹木では、幹や枝の先端部が衰弱したり枯れたりすることがあると説明しています。国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹再生の手引き」に載っている東京都江戸川区のクスノキ並木の事例でも、樹木医の調査で確かめられたのは、葉が小さく、枝先に枯れが見られるという状態でした。
以前、都内の公園で、雨の後も植桝の水がまったく地面にしみ込まない場所を見たことがあります(樹木の生育不良とその原因について)。現場での経験から言うと、こうした場所の樹木は、上の梢の先から枯れていくことが多いです。根が十分に働かなければ、水分も養分も枝先まで届きません。
ただ、葉が小さい、枝先が枯れるという変化だけでは、原因が土なのか、根の腐朽なのか、病害虫なのかは分かりません。地上の変化は「何かが起きている」という合図で、その中身を確かめるために土を調べます。

樹木の生育を左右する条件(イラスト)。地下では、土の硬さ、水はけ、通気性、乾燥が根の働きに関わる
東京都のマニュアルが挙げる、土の4つの原因
東京都建設局のマニュアルは、腐朽菌のほかに樹勢不良となる原因として、締め固めによる根の発達不良、透水性の不良による根腐れ、pHや塩類濃度の異常による養分・水分の吸収阻害、植栽基盤の狭さによる土の水分不足(乾燥害)を挙げています。そのうえで、原因ごとに合った改良の方法を選ぶため、必要に応じて土壌調査を行うとしています。4つを順に見ていきます。
締め固め──根が伸びられず、水も空気も入らない
土が締め固められる理由は、大きく2つあります。建物や道路をつくるときの工事と、人や車が根元を踏むことです。
工事による締め固めは、植える前から始まっていることがあります。建物にとって良い地盤は、固く締まって建物を支える地盤です。マンションや施設の植栽地では、造成のときに重機で締め固められた土が、そのまま植栽に使われていることが少なくありません(植栽基盤調査とは?)。
植えた後に、人が歩くことで固まっていく場合もあります。国総研の「巨樹・老樹の保全対策事例集」には、鹿児島市の小学校の校庭の真ん中に立つアキニレが載っています。校庭のため踏圧を受けて土壌硬度が高く、根群の成長が阻害されていた、という診断です。江戸川区のクスノキ並木でも、植樹桝の中の土が固結していることが試験掘削で確かめられ、踏圧による固結が根の伸長や水の浸透を妨げていると考えられました。

踏み固められた根元(イラスト)。人が歩く所は表層の土が固まり、根はその下へ伸びにくくなる
締め固められた土では、土の粒のすき間が減り、根が入り込めなくなるだけでなく、雨水がしみ込みにくくなり、空気も通りにくくなります(第1回の「物理性」)。東京都のマニュアルは踏圧を防ぐ方法として、樹木保護盤、植樹保護柵、透水性合材、地被類や低木の植栽などを挙げ、それぞれの長所と短所を表にしています。
透水性の不良──水が抜けず、根が傷む
水が抜けない土では、土のすき間が水でふさがり、根が必要とする空気が足りなくなります。東京都のマニュアルは、透水性の不良による根腐れを原因の1つに挙げ、過湿な植栽地では、暗渠の設置、不透水層の破壊・除去、余分な水が流れ込むのを防ぐ処置が有効としています。
水が抜けない理由は、土そのものの性質だけではありません。江戸川区のクスノキ並木では、土を入れ替えた後の経過調査(平成10年)で、地下1m前後に水を通さない層(不透水層)があることが分かり、その層に孔をあけて酸素管を入れる対策が取られました。当社の調査でも、土を調べている途中で水が湧いてきたことがあります(植栽基盤調査のご紹介)。表面の土が良さそうに見えても、その下で水が止まっていることがあります。
pHや塩類濃度の異常──土の中に水と養分があっても吸えない
東京都のマニュアルは、pHや塩類濃度の異常によって、養分や水分の吸収が妨げられるとしています。土の中に水や養分があっても、根がそれを吸えない状態です。
都市の植栽地では、アルカリ性に傾いた土に気をつけています。国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、周りの路盤材に再生コンクリート砕石が使われていると、土がアルカリ性を示す可能性があるとしています。当社の調査でも、建設ガラがたくさん出てきたり、pHが極端なアルカリ性を示したりしたことがありました(植栽基盤調査のご紹介)。同じ手引きは、海水を含む地域の浚渫土のように塩類を多く含む土は、土の入れ替えを含めた大がかりな改良が必要になることがある、としています。
塩類の濃さは、電気伝導度(EC)で確かめます。肥料のやりすぎでもECは上がるため、良かれと思って続けた施肥が原因になることもあります。pHとECの測り方は、第6回で取り上げます。
植栽基盤の狭さ──土が少なく、水が足りなくなる
根が伸びられる土の量が少なければ、蓄えておける水の量も少なくなります。東京都のマニュアルは、植栽基盤が狭いことによる土の水分不足(乾燥害)を原因の1つとし、乾燥が著しい場合は、保水材を混ぜて水もちを良くする方法や、堆肥などで土の表面を覆って水分の蒸発を抑える方法が有効としています。
江戸川区のクスノキ並木では、最初の診断(平成7年)で、土壌の容量が少なく、水が不足していることが分かりました。翌年に、1本ずつの植樹桝のまわりまで土を広げ、土を入れ替える対策が取られています。
過湿と乾燥は、同じ道路の中でも起こる
水が多すぎる土と、少なすぎる土。正反対に見えるこの2つが、1本の道路の中で同時に起きていた例があります。国総研の「街路樹再生の手引き」に載っている、愛知県蒲郡市の市道のタブノキです。
枯れが出たタブノキを調べたところ、路線の西側は盛土で砂質の土のため水もちが足りず、乾燥害を受けやすい区間でした。反対に東側は、土の下層に不透水層があり、地形的にも水がたまりやすく、梅雨の時期に過湿害を受けやすい区間でした。同じ樹種を同じように植えても、足元の土によって、弱る理由が逆になっていたということです。

過湿と乾燥(イラスト)。下に水を通さない層があると水がたまって根が傷み(左)、砂質の盛土では水がすぐに抜けて乾く(右)
この例は、見た目だけで手当てを決めることの難しさを示していると思います。葉が少なく弱った樹木に水やりを増やせば、西側では効くかもしれませんが、東側では過湿をさらに進めてしまいます。どちらなのかは、土を調べなければ分かりません。
根元の土の変化が引き金になる──舗装、盛土、掘削、転圧
当社のサービスページの「樹木の衰退原因」の図では、土壌の変化として、根元周辺での掘削工事、舗装工事、盛土や転圧を挙げています。何十年も同じ場所に立ってきた樹木が弱り始めたとき、根元のまわりの工事や土の変化が関わっていることがあります。御神木や名木は、根元の舗装や周辺の工事、人が歩くことによる踏み固めなどで、根のまわりの環境が少しずつ変わっていきます(植栽基盤調査・樹勢回復 無料モニター募集)。
国総研の「巨樹・老樹の保全対策事例集」は、人間の活動によって樹木の生育環境や植栽基盤が悪くなる「人為的障害」を整理しています。地下部では、土の踏圧・転圧による通気性や透水性の悪化、地下工事などによる根の切断、植栽基盤の狭さ、過度な舗装や盛土による通気性や透水性の不良、土の流亡と根の露出が挙げられています。
舗装──雨水と空気が土に届かない
根元のまわりを舗装で覆うと、雨水は舗装の上を流れて側溝へ行き、土にしみ込みにくくなります。空気の出入りも減ります。国総研の「街路樹再生の手引き」に載っている仙台市の定禅寺通のケヤキ並木では、土壌の課題として、舗装による水分と酸素の不足、地下埋設物による根の発達の阻害が挙げられています。江戸川区のクスノキ並木では、植樹桝のまわりの平板を水を通す平板に取り替えて、雨水が土にしみ込むようにしました。

舗装に覆われた根元(イラスト)。雨水は舗装の上を流れて側溝へ行き、根のある土にはしみ込みにくい
盛土──根が呼吸しにくくなる
根元に土を盛ると、根のある土の層が、元より深い所に埋まります。東京都のマニュアルは、根元の張り出し(ルートカラー)が見えない場合は深植えや盛土の影響が考えられ、根の呼吸が難しくなって、幹や枝の先端部の衰弱や枯死が起きることがあるとしています。「巨樹・老樹の保全対策事例集」に載っている仙台の臥竜梅では、移植先で根元に40〜50cmの盛土をしたことで根の発達が不良になり、盛土を取り除いて土を入れ替える処置が取られました。

盛土で根元が埋まる(イラスト)。元の地面の上に土を盛ると根元の張り出しが見えなくなり、梢の先から枯れることがある
掘削──根が切られる
根元の近くを掘る工事では、根が切られることがあります。「巨樹・老樹の保全対策事例集」は、地下工事などによる根の切断の影響として、養分や水分の吸収の低下、切り口からの腐朽菌の侵入、樹木を支える力の低下を挙げています。東京都のマニュアルも、電線共同溝の工事などで歩道を改修する機会が増え、誤って根が切られたり傷つけられたりするおそれがあるとして、根の保護のガイドラインを設けています。

掘削工事の立会い(イラスト)。幹に近い太い根は残し、細い根は溝の壁できれいに切る
転圧──工事の後に土が固まる
舗装や外構の工事では、地面を平らに固める転圧が行われます。根のある範囲まで転圧が及べば、先に書いた締め固めと同じことが起こります。国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」も、植栽の施工では、埋め戻しを重機で基盤造成のように締め固めないよう求めています。
樹木が弱り始めた原因を探るときは、根元のまわりで行われた工事の履歴も手がかりになります。
原因は1つとは限らない
江戸川区のクスノキ並木の事例を、時間の順に並べると次のようになります。
- 平成7年: 樹木医の診断で、土の容量が少なく水が不足していることが分かる
- 平成8年: 1本ずつの植樹桝のまわりまで土を広げ、土を入れ替え、酸素管を設置
- 平成10年: 経過調査で、地下1m前後に不透水層があることが分かる
- 平成11〜12年: 不透水層に孔をあけて酸素管を設置。灌水、液肥の散布、植樹桝まわりの平板を水を通すものに交換、踏圧を防ぐ花壇の設置
- 平成24年: 再び樹勢が悪化。土壌調査と試験掘削で、植樹桝の中の土の固結が分かり、根を誘導する基盤を整備
(国総研「街路樹再生の手引き」p.2-26〜2-28 から)
土の量の不足、不透水層、締め固め。土の原因が3つ重なり、1つを手当てすると次の原因が見えてくる、という経過です。手引きは、樹勢が衰えた原因として、土壌環境の悪化や踏圧のほかに、日照条件や、隣の公園のケヤキによる被圧も挙げています。原因が重なっているときに、1つの手当てだけで樹勢が戻らないのは、自然なことだと思います。だからこそ、調べて、手当てをして、また見て確かめる、という順番を繰り返すことになります。
原因を確かめてから手当てをする
土が原因で樹木が弱っているとき、水やりや肥料は、効かないだけでなく逆に働くことがあります。水はけの悪い土に水やりを重ねれば過湿が進み、肥料分の濃い土に肥料を足せば濃度はさらに上がります(植栽基盤調査とは?)。
当社では、土の硬さ・水はけ・土の層・pHとECを測る土壌調査に加えて、植えられたときの状況、管理の頻度や内容、周りの環境、灌水装置の設定、土のにおいや感触も合わせて考えます(マンション 植栽基盤(土壌)調査 神奈川県川崎市)。いつ、根元のまわりでどんな工事があったのか、という履歴も、原因を絞り込む手がかりになります。
次回から第6回までは、その調査の方法を1つずつ取り上げます。第3回は、長谷川式土壌貫入計で土の硬さを測る硬度調査です。
土が原因かもしれないと感じたら
株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、樹木医と植栽基盤診断士が、樹木の状態と足元の土を合わせて調べ、原因に合った改良の方法をご提案しています。「葉が小さくなった」「枝先が枯れてきた」「近くで工事があってから元気がない」といったご相談がありましたら、土壌調査のサービスページをご覧のうえ、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(土が原因で樹木が弱るとき)
Q1. 土が原因で樹木が弱るのは、どんなときですか?
A. 東京都建設局の街路樹診断等マニュアルは、締め固めによる根の発達不良、透水性の不良による根腐れ、pHや塩類濃度の異常による養分・水分の吸収阻害、植栽基盤の狭さによる乾燥害の4つを挙げています。原因ごとに合う改良の方法が違うため、必要に応じて土壌調査を行うとしています。
Q2. 土が原因のとき、樹木にはどんな変化が出ますか?
A. 葉が小さくなる、枝の先から枯れるといった変化が出ることがあります。東京都のマニュアルは、深植えや盛土で根が呼吸しにくくなった樹木では、幹や枝の先端部が衰弱したり枯れたりすることがあるとしています。ただし同じ変化は根の腐朽や病害虫でも起こるため、原因は調べて確かめます。
Q3. 根元に土を盛ると、なぜ樹木に良くないのですか?
A. 根のある土の層が深く埋まり、根が呼吸しにくくなるためです。東京都のマニュアルは、根元の張り出し(ルートカラー)が見えないときは深植えや盛土の影響が考えられるとしています。国総研の事例集には、移植先で根元に40〜50cm盛土した臥竜梅の根の発達が不良になった例が載っています。
Q4. 根元を舗装すると、樹木はどうなりますか?
A. 雨水が舗装の上を流れて土にしみ込みにくくなり、空気の出入りも減ります。国総研の「街路樹再生の手引き」には、舗装による水分と酸素の不足が課題とされた仙台市の定禅寺通のケヤキ並木や、植樹桝のまわりを水を通す平板に替えた江戸川区のクスノキ並木の例が載っています。
Q5. 弱った樹木に水や肥料をあげれば元気になりますか?
A. 原因によっては逆効果になります。水はけの悪い土に水やりを重ねれば過湿が進み、肥料分の濃い土に肥料を足せば濃度はさらに上がります。同じ道路でも、乾燥害の区間と過湿害の区間が分かれていた例があり、どちらなのかは土を調べなければ分かりません。
Q6. 原因は1つに決まりますか?
A. 重なっていることがあります。江戸川区のクスノキ並木では、土の量の不足、不透水層、踏圧による固結が、年をまたいで順に見つかりました。調べて、手当てをして、経過を見て確かめる、という順番を繰り返すことになります。
出典・参考情報
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」令和3年度(p.39、79、81、82、96)
- 国土技術政策総合研究所「巨樹・老樹の保全対策事例集」国総研資料第566号、2010年1月(p.13、24、182)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」国総研資料第885号、平成28年3月(p.2-20、2-26〜2-28、2-97〜2-98)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料第1059号、2019年2月(p.1-32、1-58、1-65)































