樹木を管理する上での気づき──剪定の切り口が塞がる木、塞がらない木

剪定 切り口 巻き込み スタブカット フラッシュカット 図解

我々人間は木々(植物)に囲まれて生きています。都会に住んでいる我々にとって、植物が無い生活は考えられない位ではないでしょうか。日本語の文章も勉強中の加藤バンジャマンです。

よく、「緑っていいね!」とか「緑ってやっぱり癒されるね!」などと言いますが、実は僕も今まで何回も口にしたセリフです。街にある緑は人間による管理が行われているからこそ綺麗に保たれているわけです。しかし、人間による管理があるからこそ様々な点に気をつけないといけません。

今回お話したいのは、樹木医がいるトシ・ランドスケープという造園会社で植栽管理(メンテナンス)の仕事を始めてから気が付くようになったことの一つです。

 

先に答え

  • 剪定で枝を切ると、切り口という傷跡が残ります。適切な位置で切った切り口は、何年かかけて周りの樹皮が覆う「巻き込み」で塞がっていきます。
  • 枝を途中で残して切る「スタブカット(切り残し)」は、巻き込みで覆えず、残った部分から腐朽が幹へ進むことがあります。
  • 切る位置は、枝の付け根の下側の膨らみ(ブランチカラー)を残した、その直前です。幹ぎりぎりで切る「フラッシュカット」も避けます。
  • フランスの言い回し「Il faut souffrir pour être belle(美しくなるには、苦しまなければならない)」を手がかりに、木への負担を小さな気遣いで減らすことを考えた記事です。

 

フランスで生まれ育ち、日本で樹木の仕事に就いて

僕は、日本人の父の影響で子どもの頃から日本の文化に触れながら、フランスで生まれ育ちました。庭仕事とクライミングが、僕の原点です。日本古来の造園の美的な考え方と哲学に、樹木についての欧米の技術と知識を柔軟に融合していることに、未来に向けたビジョンを感じたのが、2019年にトシ・ランドスケープへ入社したきっかけです(社員インタビュー)。

日本語を覚え始めたのは19歳のときでした。「木漏れ日」という言葉を初めて知ったとき、言葉を知ることは、自分の世界観と価値観を豊かにすることなのだと感動したのを覚えています(木漏れ日 日本語とフランス語 言葉としての表現について)。植栽管理の仕事を始めてからは、言葉だけでなく、街の木の見え方も少しずつ変わってきました。

 

剪定は、木に傷跡を残す仕事でもある

樹木の管理と言えば主に思い浮かぶのは「剪定」という言葉ではないでしょうか。木に登って剪定鋏や鋸(ノコギリ)で不要な枝や枯れ枝などを落とすという作業ですね。つまり、木を切るという行為なので、当然木にダメージを与えることになります。

街や公園を散歩している時に気付いている方もいるかもしれませんが、枝を切ったら切り口という傷跡が残ります。同じ月にフランスの方に向けて書いた記事(Elagage et taille « à la naturelle »)でも、剪定は傷跡をつくり、そこから細菌や菌類が入ることがある、と書きました。

何年か経てば樹皮が再生し、切り口がこのように完全に塞がるはずです。

幹 剪定の跡 切り口 樹皮 巻き込み 塞がった

樹皮で完全に塞がった、枝を切った跡

こちらは樹皮がまだ完全に塞がれていない状態の写真です。

幹 剪定の切り口 巻き込み 樹皮 塞がりかけ

周りから盛り上がった樹皮が、切り口を覆いつつある

見ての通りですが、樹皮が少しずつ切り口を覆っていくプロセスが分かりますよね。

切り口を覆う「巻き込み」の仕組み

写真のように、切り口の外側から盛り上がって覆っていく組織を、巻き込みと呼びます。国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き」は、この組織を傷口材(癒合組織)と説明しています。傷を受けて死んだ細胞の周りの細胞が、形の定まらない柔らかい細胞の塊をつくり、それが傷を覆って周囲とつながった形成層を取り戻すと、ふつうの木部をつくるようになっていく、というものです。活力のよい木では、傷の周りの木部づくりが周りより活発になり、そこだけ厚く盛り上がるとされています。

東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」でも、「剪定後の巻き込み」は、樹勢(木の元気さ)を5段階で見る視点の一つです。巻き込みが早く良好か、剪定の断面が残っているか、断面が腐朽しているか。切り口は、その木の状態を読む手がかりにもなります。

 

何年経っても塞がらない切り口──枝の切り残し(スタブカット)

しかし、次のような切り口を見たことがありませんか。

スタブカット 切り残し 枝 幹 剪定 切り口

枝を残して切った跡(スタブカット)。残った枝の切り口は塞がっていない

このような状態だと、何年経っても切り口が塞がらず、残った枝の部分が腐ってしまい菌などが樹木に侵入しやすくなります。つまり、その木の命にかかわる問題です。

枝を付け根から離れたところで切り、一部を残してしまった跡を、スタブカット(切り残し)と呼びます。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルは、幹から出た枝を10数cm程度残して切る剪定が見られるとしたうえで、切り残しがあると樹皮の巻き込みができないばかりか、やがて切り残しに生じる腐朽が幹にまで達して大きな腐朽になるとしています。「剪定による枯れを見越して」わざと切り残す剪定方法もあるが、これは誤りである、とまで書いています。

スタブカット 切り残し 剪定 切る位置 図解

スタブカット(破線の位置)。付け根から離れた枝の途中で切ると、切り残しがやがて枯れ、樹皮の巻き込みで覆えなくなります

切り残しは、木の中だけの問題ではありません。東京都の街路樹診断では、スタブカットは外観診断で有無を確かめる項目の一つで、直径3cm以上か長さ20cm以上のものは、落ちたときの影響が大きいとして「著しい被害」と判定します。国土技術政策総合研究所の手引きも、途中で切った枝は数年後に枯れて落ちる危険が高いとしています。

東京都の街路樹診断等マニュアルの判定基準を表にすると、次のとおりです。

スタブカットの状態 判定 処置
なし 健全か健全に近い なし
あり、被害は軽微 注意すべき被害 可能な場合は切除を要する
あり、被害は大きく進行している(直径3cm以上か長さ20cm以上のものを含む) 著しい被害 切除を要する

出典: 東京都建設局「令和三年度 街路樹診断等マニュアル」p.27 表Ⅲ-2・7 スタブカットの判定基準と本文(直径3cm以上や長さ20cm以上は著しい被害として判定)

 

本来はどこで切るのか──ブランチカラーとバークリッジ

本来であれば、次のように枝を切っておけば切り口が今現在完全に塞がれているでしょう。

剪定 切る位置 枝の付け根 スタブカット 幹

同じ切り口に、本来の切る位置をオレンジの線で示した

東京都建設局の「街路樹維持管理計画書」は、枝の付け根の下側にある膨らみをブランチカラーと呼び、ここを残してその直前で切り落とすとしています。ブランチカラーには腐朽をくい止める働きをする防御帯ができ、ここを切り落とすと防御帯の形成が妨げられて、腐朽が生じる場合があるからです。同じ計画書は、ブランチカラーの先に枝を残さないこと、付け根の上側にある樹皮のしわ(バークリッジ)を傷つけないことも求めています。

ブランチカラー バークリッジ 剪定 切る位置 図解

適切な切る位置(破線)。股の上側の樹皮のしわ(バークリッジ)と、枝の付け根の膨らみ(ブランチカラー)を残し、その直前で切ります

東京都の街路樹診断等マニュアルは、切り残しを作らず望ましい位置で切ると、巻き込みも早く、幹への腐朽をくい止める生理的な働きが付け根の近くに生じ、幹の腐朽を防ぐことができるとされている、と書いています。

太い枝を切るときは、切るところの樹皮がはがれないように、手順にも気を配ります。東京都の「街路樹等維持標準仕様書」は、切る予定の位置の数10cm上で先に切って枝先を軽くしてから、切り返して切るよう定めています。

仕様書の手順を順に並べると、次のとおりです。

  1. 切る予定の位置より数10cm上で先に切り、枝先を軽くする
  2. 切り返して、予定の位置(ブランチカラーの直前)で切る
  3. 切り口は水がたまらないように滑らかにし、太い枝の切断面には必要に応じて防腐の処理をする

出典: 東京都建設局「街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編」(平成25年4月)2-2-2 剪定(3)p.8

幹ぎりぎりで切るのも誤り──フラッシュカット

切り残しがいけないからといって、幹に沿ってぎりぎりで切ればよいわけではありません。国土技術政策総合研究所の手引きは、不必要な長さで枝を残すこと(スタブカット)と並べて、幹に並行に切り落とすこと(フラッシュカット)をしないよう求めています。東京都の街路樹診断等マニュアルの事例集は、ブランチカラーやブランチバークリッジまで含めて切ると幹の一部を切り取ることになり、幹の腐朽が進むおそれがあるとして、剪定の跡から空洞になった木の写真を載せています。

フラッシュカット 剪定 幹ぎりぎり 切る位置 図解

フラッシュカット(破線の位置)。幹ぎりぎりで切ると、バークリッジとブランチカラーまで切り落とし、幹の組織を傷つけます

数年後、切り口はこう変わる

剪定 切り口 数年後 スタブカット フラッシュカット 比較

切る位置による数年後の違い(イメージ)。左: 切り残しが枯れ、巻き込みで覆えない。中央: ブランチカラーの直前で切った切り口は、まわりから輪のように巻き込んでいく。右: 幹ぎりぎりで切った切り口は縦に大きく残る

この記事の写真では、2枚目の切り口が中央のように周りから巻き込んでいく途中で、3枚目は左の切り残しにあたります。枝の付け根のつくりや、切る位置による違いを研究や国・自治体の基準から詳しく説明した記事は、「剪定の切る位置はブランチカラー フラッシュカットとスタブカットを避ける、樹木にやさしい剪定」にまとめています。

 

「Il faut souffrir pour être belle」──美しさと、木への負担

結論として、我々の周りにある木の殆どが可哀想ではありませんか。フランスでは、「痛いからこそ美しくなるんだ」という女性に対する皮肉な表現がありますがまさにその通りです。

原語は「Il faut souffrir pour être belle(美しくなるには、苦しまなければならない)」です。フランスの辞書ラルースの仏英辞典にも、ユーモアを込めた言い方として載っています。

しかし、その木への負担をちょっとした気遣いで減らしてあげれば、もっと立派な木も育てられるし街もより一層美しくなるはずではないでしょうか。

美しさの感じ方は、育った環境や経験によって人それぞれ違うと思います。のちに書いた「日本の植木職人を支える伝統の履物「足袋」の魅力」では、日本の庭の剪定は、西洋の輪郭を重視する刈り込みとは違い、枝ぶりや葉の濃淡、枝と枝の間の空白のバランス、光と風の通り道に意識を向けると書きました。フランスとスペインの街路樹を見て書いた「ヨーロッパの街路樹管理から考える──フランス・スペイン、そして東京へ」でも、樹木の知識や管理・診断の技術が進んだ今だからこそ、安全を大切にしながら、人の都合を優先する管理から一歩進み、樹木が本来持っている自然で美しい姿を引き出す管理へ目を向けることが大切だと書いています。

見たことのない風景の前に立っても、僕たちはつい、自分の文化や慣れ親しんだ環境との間に「架け橋」を見出そうとします(プーケットで出会った熱帯の植物と松に似た樹木のこと)。フランスの言い回しを剪定の切り口に重ねたのも、この「架け橋」を探す心の動きだったのかもしれません。

僕も、そういった細かい所に気を配ることで一人の職人としてだけでなく、一人の人間として成長し、街の緑の美しさに貢献していきたいと思います。植物や樹木と触れ合える街の環境づくりは、これからますます大切なテーマになっていくと思います。未来の世代が目にする美しい風景の手助けを、これからも続けていきたいです。

株式会社トシ・ランドスケープ
加藤バンジャマン正拓

※ この記事は2019年7月に公開したものです。2026年10月に、見出しを整え、剪定の切り口についての説明と出典、関連する記事を加えました。

 

よくある質問

Q1. 剪定した枝の切り口は、自然に塞がりますか。

A. 適切な位置で切った切り口は、何年かかけて周りの樹皮が盛り上がるように覆い、塞がっていきます。この組織を傷口材(癒合組織)と呼び、国土技術政策総合研究所の手引きは、活力のよい木では傷の周りの木部づくりが活発になると説明しています。東京都の街路樹診断でも、剪定後の巻き込みは樹勢を見る視点の一つです。

Q2. スタブカット(切り残し)とは何ですか。

A. 枝を付け根から離れた位置で切り、一部を残してしまった跡のことです。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルは、切り残しがあると樹皮の巻き込みができないばかりか、やがて切り残しに生じる腐朽が幹にまで達して大きな腐朽になるとしています。街路樹診断では、直径3cm以上か長さ20cm以上のものを著しい被害と判定します。

Q3. 剪定で枝を切る正しい位置はどこですか。

A. 枝の付け根の下側にある膨らみ(ブランチカラー)を残し、その直前で切ります。東京都建設局の街路樹維持管理計画書は、ブランチカラーには腐朽をくい止める働きをする防御帯ができるため、ここを残して切るとしています。付け根の上側にある樹皮のしわ(バークリッジ)も傷つけないようにします。

Q4. 幹ぎりぎりで切るフラッシュカットは、なぜ避けるのですか。

A. ブランチカラーやバークリッジまで切り取ると、枝ではなく幹の一部を切ることになるためです。東京都の街路樹診断等マニュアルの事例集は、幹の腐朽が進むおそれがあるとして、剪定の跡から空洞になった事例を載せています。国土技術政策総合研究所の手引きも、スタブカットとフラッシュカットをしないよう求めています。

Q5. 「Il faut souffrir pour être belle」とは、どういう意味ですか。

A. 「美しくなるには、苦しまなければならない」という意味のフランスの言い回しです。フランスの辞書ラルースの仏英辞典には、ユーモアを込めた言い方として載っています。この記事では、見た目のための剪定が木に負担をかけていることと重ね、ちょっとした気遣いで負担を減らせるのではないかと考えました。

 

出典・参考情報

・街路樹維持管理計画書 令和3年12月(東京都建設局公園緑地部) 「2.街路樹剪定時の留意点」(1)正しい位置での剪定(ブランチカラーの保全)、(2)切り残しの切除(スタブカットの防止)(4ページ)
・令和三年度 街路樹診断等マニュアル(東京都建設局) 活力診断の樹勢の視点(18ページ)と樹勢・樹形の活力度診断基準表の「剪定後の巻き込み」(19ページ)、スタブカットの判定(27ページ)、正しい剪定位置(71ページ)、スタブカット(72ページ)
・令和三年度 街路樹診断等マニュアル 第Ⅶ章 参考資料(東京都建設局) 事例集「不適切な剪定」フラッシュカット・スタブカット(130ページ)
・街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編 平成25年4月(東京都建設局) 2-2-2 剪定(3)太枝の剪定(8ページ)
・街路樹の倒伏対策の手引き 第2版(国土技術政策総合研究所資料 第1059号、2019年2月) 「3)剪定する位置」図-3.3(Ⅱ 1-84〜1-85ページ)、情報コラム「傷口材「癒合組織」」(Ⅲ 街路樹の点検・診断 1-40ページ)
・Larousse 仏英辞典「souffrir」(用例 « il faut souffrir pour être belle ! »。ユーモアを込めた用法の表示つき)

 

関連記事

・剪定の切る位置はブランチカラー フラッシュカットとスタブカットを避ける、樹木にやさしい剪定(このテーマのまとめ)
・植木鋏と剪定鋏の使い分け──2つの鋏の形と役割、切り口を守る刃の向き
・枝抜き剪定とは──枝を付け根から抜く、庭師の基本の切り方
・ヨーロッパの街路樹管理から考える──フランス・スペイン、そして東京へ
・将来を見据えた樹木の管理

人気の記事
最新の記事
おすすめ記事
  1. 登録されている記事はございません。
  1. 社殿 屋根 新緑 枝 鎮守の森 樹木の時間 樹木医 随想

    熊楠が守ろうとした森 樹木の時間 第7回

  2. アーボソニック3D ArborSonic 3D 音響トモグラフ センサー アンプボックス 樹木診断 樹木医

    アーボソニック3D(ArborSonic 3D)の仕組みと得られる結果──センサーの数、測れる太さ、断面画像と安全率の読み方を樹木医が解説

  3. AI 樹木診断 車載レーザー 街路樹 台帳 樹木医

    AI樹木診断は海外でどこまで進んでいるか──シンガポール・英国・米国の事例と論文を樹木医が一次情報で読み解く

  4. アーボソニック3D 風荷重 樹冠 写真 撮り方 樹高 離れて撮る 樹木医

    アーボソニック3Dの風荷重解析 強風で幹は折れないか、安全率の出し方と読み方を樹木医が解説

  5. クレーン 伐採 ブーム 建物 高木 特殊伐採 樹木医

    クレーンと高所作業車を使う伐採──ロープワークとの分担、運転と玉掛けの資格、建物越しの作業を樹木医が解説|高木・特殊伐採とケーブリング 第4回

  6. ファコップ Fakopp アーボソニック3D 樹木診断機器 メーカー ハンガリー ショプロン 樹木医

    ファコップ社とは──アーボソニック3Dをつくるハンガリー・ショプロンの樹木診断機器メーカーと、製品の全体像を樹木医が解説

  7. マンション 植栽 コンサルティング 流れ 管理組合 理事会 樹木医 中庭 ケヤキ

    マンションの植栽コンサルティングは、どう進むのか──管理組合と樹木医が歩く8つの段階と、3つの入口

  8. 巨木 御神木 大径木 樹木診断 樹木医

    日本人は子どものころから御神木に特別な思いを持っているのか 御神木・霊木と日本人の関係、歴史、文化を樹木医がたどる

  9. ハーネス 各部の名前 ウエストベルト レッグループ アタッチメントブリッジ リング サイドD環 ギアループ アーボリスト イラスト

    ハーネス ― 各部の名前と役割|アーボリストの基礎 第4回

  10. 3級造園技能士 実技試験 竹垣 縁石 敷石 植栽 模式図

    3級造園技能士の試験 竹垣・縁石・敷石の実技と樹種判定60種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  1. 登録されている記事はございません。

関連記事