樹木医がイギリスの樹木診断に学ぶ ― 都市の樹木を守るための対話と発見

集合写真 アーボリスト 樹木医 公園 樹木診断

2025年9月、株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、イギリスから来日されたアーボリストのデイビッド氏を迎え、樹木医および若手スタッフを中心に意見交換の機会を設けました。
イギリスでは、個人邸宅のシンボルツリーや地域に根づく古木を対象に、ピカス(PiCUS、音響トモグラフ)やレジ(Resi PD)などの機器を用いた診断が一般的に行われています。

日本では街路樹を中心にレジによる診断が主流ですが、デイビッド氏は「イギリスではピカスを主軸にしながら、必要に応じてレジを併用する」という方法をとっており、その柔軟な診断スタイルが印象的でした。
また、伐採判断の基準や樹木保護の考え方には、国や環境の違いによる明確な差が見られました。

先に答え

  • イギリスの樹木のリスク管理は、木がもたらす便益とリスクの釣り合いで考えるのが国の手引きの基本です。2011年の National Tree Safety Group(NTSG)の手引きは、倒れた木や枝で亡くなる危険を、1年に約1,000万人に1人と見積もっています。
  • 東京都の街路樹診断等マニュアルは、t/R率0.3未満(腐朽空洞率およそ50%以上)で倒木の可能性が高くなるとしています。意見交換で聞いたイギリスの伐採の判断(空洞率80〜90%)とは開きがありますが、日本でも数値は外観診断と合わせた総合判定の材料の一つです。
  • イギリスには、自治体が木を指定し、伐る・枝を切るなどの作業に同意を求める樹木保全命令(TPO)があります。2012年から改訂を重ねてきたイングランドの国の計画方針(NPPF。最新版は2026年8月)は、以前の版から、古木・老木を失う開発を、ごく例外的な理由と代償の策がある場合を除いて認めないとしています。
  • 日本との大きな違いは、木の状態に加えて「木の下がどれだけ使われるか」から点検の優先順位を決める考え方を、国の手引きがはっきり書いていることです。日本でも、国土交通省の2026年のガイドラインが通学路などの街路樹を優先していて、方向は近づいています。

意見交換で見えた日英の違いを、本文の内容で並べました。

観点 日本(東京都のマニュアルと当社の現場) イギリス(デイビッド氏の話)
主な対象と機器 街路樹が中心で、レジ(Resi PD)による診断が主流 個人邸宅のシンボルツリーや地域の古木、ピカスを主軸に、必要に応じてレジを併用
伐採を考える空洞の大きさ t/R率0.3未満(腐朽空洞率およそ50%以上)で倒木が発生する可能性が高くなる(マニュアル p.58) 空洞率が80〜90%に達した段階で伐採を判断するケースが多い
数値の扱い 測定結果は、外観診断の結果と併せて総合判定を行うための判断材料の一つ(マニュアル p.56) どれだけ腐朽しているかより、どれだけ健全な部分が残っているかを重視、数値に依存しすぎない

出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.56・p.58、2025年9月の当社での意見交換


腐朽空洞率の違いと安全基準の背景

デイビッド氏によれば、イギリスでは幹の空洞率が80〜90%に達した段階で伐採を判断するケースが多いそうです。日本では、東京都建設局の『令和3年度 街路樹診断等マニュアル』が、t/R率が0.3未満になると倒木が発生する可能性が高くなり、これを面積に換算すると腐朽空洞率がおよそ50%以上になる、としています(p.58)。現場の感覚では、この50%前後が伐採を検討する一つの目安として扱われることが多いと感じます。ただし、マニュアルでは測定結果は「外観診断結果と併せて総合判定を行うための判断材料の一つ」(p.56)とされていて、空洞率だけで伐採を決めるものではありません。
デイビッド氏は、日本の基準の厳しさに驚かれていました。

腐朽空洞率 50% 80% 90% t/R率 健全な材の厚さ 断面 日本 イギリス 比較 模式図

図: 腐朽空洞率50%と80〜90%で、残る健全な材の厚さ(空洞を中心の円とした計算。出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.56・p.58、80〜90%は当社の意見交換での聞き取り。当社作成)

この背景には、日本特有の強風・台風・多湿環境、そしてコフキサルノコシカケやベッコウタケといった木材腐朽菌の存在が影響していると考えられます。
一方イギリスでは、スルメタケに似た背着性のキノコが深刻な被害を与えることもあり、環境の違いが樹木管理の判断基準に大きく反映されていることがわかります。

さらに、デイビッド氏は「どれだけ腐朽しているかではなく、どれだけ健全な部分が残っているかを重視する」と語っており、この前向きな発想が印象的でした。
保存樹木の診断では、文献を調べながら一件ごとに4時間以上かけてカルテを作成することもあるそうで、一本の樹木と丁寧に向き合う姿勢に感銘を受けました。

「50%」という目安の出どころ──マテック博士の調査と、イギリスで出た英語の本

日本の50%という目安は、ドイツのクラウス・マテック博士の調査にさかのぼります。国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(2019年2月)は、腐朽・空洞の半径が幹の半径の0.7倍を超えると、立っている木より折れた木のほうが多くなるというマテック博士の実態調査を、腐朽割合50%の根拠として紹介しています(別冊 p.1-61)。0.7倍を面積に直すと約49%で、t/R率でいえば0.3です。

マテック博士が、木の外観の形から内部の弱点を読む考え方をまとめた本『The Body Language of Trees』の英語版は、1994年にイギリスの政府刊行物の出版局(HMSO)から出ています。マテック博士の考え方は、日本でも『マテック博士のフィールドガイド 最新 樹木の危険度診断入門』(堀大才・三戸久美子訳、街路樹診断協会、2008年)で紹介され、国総研の手引きもこの本を参考文献に挙げています。


t/R率と風環境の考え方

日本では街路樹診断においてt/R率(幹の半径に対して残っている健全材の厚さの割合)を重要な指標としていますが、デイビッド氏は「幹の外周部は風でしなやかに動く一方で、中心部はほとんど動かないため、数値に依存しすぎるのは意味が薄い」と指摘しました。
数値だけでは表せない、幹のしなやかさや環境への適応を重く見る考え方です。

腐朽空洞率 t/R率 健全材の厚さ 断面 計算 機器診断

腐朽空洞率(面積の割合)と t/R率(壁の厚さの割合)の見方。下の段は、同じ50%でも空洞の位置で壁の厚さが変わる例(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.58)


外側の材が曲げを受け持つ──「残っている部分」を計算で見る

デイビッド氏の「外周部は風で動き、中心部はほとんど動かない」という話は、幹を曲げる力の受け持ち方と重なります。幹を丸い棒と考えると、風で曲げられたとき、力は幹の外側ほど大きくかかり、中心に近い材ほど受け持つ分が小さくなります。そこで当社で、幹を丸い断面、空洞を中心の円と単純にして、曲げに対する断面の強さ(断面係数)がどれだけ残るかを計算しました。中空の円の断面係数は、空洞の無い円の「1−(空洞の直径÷幹の直径)の4乗」倍になります。

腐朽空洞率(面積) t/R率 曲げに対する断面の強さの残り(計算) どこの話か
50% 約0.29 約75% 東京都のマニュアルの目安(t/R率0.3未満でおよそ50%以上)
80% 約0.11 約36% 意見交換で聞いたイギリスの伐採の判断の下限
90% 約0.05 約19% 同じく上限

出典: 当社の計算(幹を円、空洞を中心の円とした単純な模型。中空の円の断面係数 1−(r/R)^4 による計算で、判定に使うものではない)。t/R率0.3の目安は実際に折れた木の調査から導かれたもの(国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-61)。50%の目安は東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.58、80〜90%は2025年9月の当社での意見交換での聞き取り

面積で半分が空洞でも、計算の上では曲げに対する強さの約4分の3が残ります。外側の材が力の多くを受け持つからです。空洞率80%では約36%、90%では約19%まで下がり、健全な材の厚さも幹の半径の1割ほどから5%ほどになります。この数字は、材料力学でいう中空の円の断面係数(空洞の無い円の「1−(r/R)の4乗」倍。r は空洞の半径、R は幹の半径)による単純な計算で、判定に使うものではありません。実際の木は空洞が偏り、開口し、樹皮に傷もあり、材の強さも一様ではありません。日本の t/R率0.3の目安は、こうした計算ではなく、実際に折れた木と立っている木を調べた調査から導かれたものです(国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-61)。同じ計算の考え方は「都市樹木のリスク評価の研修を、国交省・国総研の資料と読み合わせて 樹木診断のこれからを樹木医が考える」でも書いています。


イギリスの樹木リスク管理──国の手引き「Common sense risk management of trees」

意見交換のあと、デイビッド氏の話の背景にあるイギリスの考え方を、公的な資料で確かめました。拠り所の一つが、National Tree Safety Group(NTSG)がまとめ、英国の森林委員会(Forestry Commission)が2011年12月に発行した手引き「Common sense risk management of trees」です。NTSG は、英国 Arboricultural Association や英国規格協会(BSI)の樹木の委員会などが加わった、樹木の安全管理の手引きをつくるための団体の集まりです。

手引きは、樹木の安全管理の土台に「便益とリスクの釣り合い」を置き、それを支える5つの原則を挙げています(p.11)。

  • 木は社会にさまざまな便益をもたらす
  • 木は生き物で、枝を落とし、倒れることも自然に起こる
  • 人の安全に対する全体の危険はきわめて小さい
  • 木の所有者には法的な注意義務がある
  • 所有者は、釣り合いのとれた、度を越さない対応をとる

倒木で亡くなる危険は「1年に約1,000万人に1人」

手引きのためにミドルセックス大学が行った調査では、1999年1月からの10年間に、倒れた木や枝による死亡は英国で64人でした。人口を約6,000万人として、1年に約1,000万人に1人の危険と見積もっています(p.20・22)。手引きの注によると、死亡は平均で年に6.4人で、1999年2月〜2008年10月の死亡の68%は道路で起きていました(p.76)。英国の安全衛生庁(HSE)が、危険が十分に小さいとみなす境目の目安にしている「1年に100万人に1人」と比べても、さらに1桁小さい数字です(p.22)。

ただし、だから何もしなくてよい、という手引きではありません。人がよく通る場所の木には、点検と記録が求められています。

法的な注意義務と、使われ方による区分け(ゾーニング)

手引きによると、倒れた木や枝で人がけがをしたとき、木の所有者は過失(注意義務の違反)や生活妨害(ニューサンス)の責任を問われることがあり、その土地にいた人に対しては占有者責任法(Occupiers’ Liability Act 1957・1984)も関わります。道路の木については、道路法(Highways Act 1980)第41条1項により、道路管理者が責任を負う可能性があります。求められる注意の水準は「分別のある慎重な土地の所有者」のもので、木が安全であると保証することまでは求められていません(p.31)。

そのうえで手引きは、土地を使われ方で区分けする「ゾーニング」を勧めています。毎日多くの人が通る道路・鉄道・駐車場・子どもの遊び場などを「よく使われる区域」とし、点検の手間をそこに集める考え方です。多くの場合、よく使われる区域とあまり使われない区域の2つで足りる、としています(p.46)。HSE の監督官向けの指針の引用として、人がよく訪れる区域の木は、木とその欠陥について実務の知識がある人が、不安定な兆しが無いかを目で手早く確かめる定期の点検がふさわしく、その人は必ずしも樹木の専門家でなくてよい、とも書かれています(p.33〜34)。

日本でも、国土交通省が2026年3月に出した「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」は、過去5年に事故のあった同じ路線・同じ樹種の街路樹、緊急輸送道路(第1次〜第3次)、通学路の街路樹を区分Aとし、おおむね年1回の定期巡回を基本としています(p.6)。道路の使われ方から優先順位を決める点は、イギリスの手引きと共通しています。責任の決まりも、日本では民法第717条2項が、竹木の栽植・支持に瑕疵があるときの占有者・所有者の責任を定めています。敷地の木の管理者の責任と点検の進め方は「マンション・施設の倒木対策──管理者の責任、倒れる原因、点検と診断の進め方を樹木医が解説」に書きました。

木の下の使われ方から数える──QTRA と VALID

イギリスでは、木のリスクを評価する手法もいくつか使われています。QTRA(Quantified Tree Risk Assessment)は英国の会社が運営する手法で、木の下の土地の使われ方・折れる部分の大きさ・折れる確率の3つを組み合わせ、危険を数値で表します。運営元は、危険の大きさの目安として、1,000分の1を超える危険は通常は許容しない、1,000分の1から1万分の1のあいだは、他人に負わせる危険としては許容しないが、さらされる人が受け入れる場合や木に特別な価値がある場合は許容されうる、1万分の1から100万分の1のあいだは合理的にできる範囲で下げてあれば許容できる、100万分の1より小さければ広く受け入れられる、という区切りを示しています。そのうえで、木の便益とリスク、管理の費用の釣り合いをとる手法だと説明しています。VALID は、木のリスクと便益を併せて評価する仕組みで、非営利の団体が運営しています。

どちらも、先に木の下の使われ方を見て、そこから木の状態を見る順番です。国際アーボリカルチャー協会(ISA)の樹木リスク評価の資格 TRAQ や、英国 Arboricultural Association の会社の認定、英国規格の BS 3998(樹木の作業)・BS 5837(樹木と建設)については、「ISA・TCIA・英国AAとは──海外のアーボリスト団体と日本の樹木医制度を、樹木医が比べる」で団体ごとに整理しています。


イギリスの都市樹木管理と景観設計

街路樹の枝を払う高さ(建築限界)の考え方にも、国ごとの違いがあります。
意見交換で聞いた範囲では、イギリスでは道路側5m・歩道側3mが目安とされています(自治体によって違いがあり、例えばサフォーク州は車道の上5.2m・歩道の上2.6m)。日本では、道路構造令第12条の建築限界で、車道は4.5m(普通道路)、歩道は2.5mの高さが定められています(国土交通省の解説)。
どちらも安全性と景観の両立を目指した工夫がなされており、限られた都市空間の中で樹木と人が共存する仕組みが築かれています。

道路の上の枝の高さ(建築限界)を、資料ごとに並べました。

国 資料 車道の上 歩道の上
日本 道路構造令 第12条 4.5m(重要物流道路は4.8m、小型道路は3m) 2.5m
日本 国土交通省「道路構造令の解説」 設計車両の高さ3.8mに余裕を見て4.5m 自転車に乗った人の高さ2.25mに0.25mの余裕を見て2.5m
イギリス 道路法(Highways Act 1980)第154条 高さの数値は無い(通行を危うくする・妨げる枝などは、管理者が所有者に切り詰めを求められる) 同じく数値は無い
イギリス サフォーク州(2020年) 5.2m以上(横に500mm) 2.6m以上
イギリス エセックス州の道路管理 5.1m 2.4m

出典: 道路構造令 第12条(e-Gov 法令検索)、国土交通省 道路局「道路構造令の解説」Ⅲ-3 建築限界 p.69・p.73、Highways Act 1980 s.154(legislation.gov.uk)、Suffolk County Council「Vegetation and Trees Overhanging the Highway – Guidance」(2020年9月)p.1、Essex Highways「Highway trees」

建築限界 車道側 歩道側 枝 越境 剪定 道路

車道側と歩道側の建築限界(点線)を越えた枝(点線の円)

また、舗装と根の関係にも特徴が見られました。
イギリスの都市部では一部でゴムチップなどの弾性素材を舗装に使用しており、根の成長に合わせて自然に広がる柔軟な構造が採用されています。
英国の森林委員会(Forestry Commission)の手引き「Highway tree management」(2019年)でも、根の成長で舗装が変形した箇所に、しなやかなゴムチップ舗装を使う方法が紹介されています。私の感覚では、硬い舗装に比べて根への負担を減らせる工夫だと思います。


樹木保護を優先する都市づくり

イギリスでは、保護対象となる樹木が建築よりも優先されるケースもあります。
建物のデザインやアプローチが樹木に合わせて変更されることも珍しくなく、「樹木を中心とした街づくり」という思想が深く根づいていると感じました。
これは「都市の景観に付加価値を」という、私たち株式会社トシ・ランドスケープの理念にも通じます。

樹木保全命令(TPO)と保全地区──伐る前に同意や届け出が要る木

イギリス(イングランド)で木を守る代表的な仕組みが、樹木保全命令(Tree Preservation Order、TPO)です。英国政府の手引き「Tree Preservation Orders and trees in conservation areas」(2014年3月公開)によると、TPO は、地域の景観や快適さ(アメニティ)のために、自治体の計画部局が特定の木・木の集まり・林を指定するもので、都市農村計画法(Town and Country Planning Act 1990)の第8部と、2012年の規則に基づいています。指定された木を伐る、頂部を詰める、枝を切る、根こそぎにする、故意に傷つけたり枯らしたりするには、自治体の同意が要ります。根を切ることにも同意が要る、というのが政府の見解です。

TPO の無い木でも、歴史的な街並みなどを守る保全地区(Conservation Area)の中では、作業の6週間前までに自治体へ届け出る決まりがあります(同法第211条)。TPO の木が枯れて伐るときも、原則として5営業日前までに書面で知らせます。命令に反して木を伐った場合は、所有者に植え替えの義務がかかります。

日本にも「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」(1962年)があり、市町村長が保存樹・保存樹林を指定できます。法律の条文は、所有者が枯損の防止などの保存に努めることと、滅失・枯死したときの届け出を定めています(第2条・第5条・第6条)。伐る前に同意が要るイギリスの TPO に比べると、所有者の努力に重きを置いた仕組みです。区の条例による保存樹木・保護樹木の制度や、伐採の届け出の違いは「保存樹木・保護樹木とは──東京の区の制度の違い、所有者の管理と伐採の届け出、樹木医の診断を解説」にまとめています。

工事より先に木を考える──BS 5837 と国の計画方針

建物のデザインが樹木に合わせて変わるというイギリスの話にも、拠り所になる決まりがあります。英国規格 BS 5837:2012(樹木と、設計・解体・建設の関係)は、残す木の根を守る範囲(Root Protection Area。幹の直径の12倍をもとに決める範囲)と、工事を入れない区域の考え方を示しています。BS 5837 は改訂の途中で、2026年10月16日の時点では2012年版が現行です。

2012年から改訂を重ねてきたイングランドの国の計画方針(National Planning Policy Framework、NPPF)は、最新版が2026年8月17日に出ています。以前の版から、古い林(ancient woodland)や古木・老木(ancient or veteran trees)を取り替えのきかない生息地として扱い、それらを失ったり傷めたりする開発の提案は、ごく例外的な理由と適切な代償の策が無い限り認めないとしていて、最新版では方針 N6 に書かれています。最新版は、新しい街路は、特別な理由がない限り並木のある通りにすることも求めています(方針 N3)。木を残すかどうかが、設計の早い段階で決まる仕組みです。

日本では、東京都の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」が、街路樹のそばの工事で根を守る「工事配慮エリア」と配慮事項を示しています。くわしくは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか 東京都の街路樹診断等マニュアル「工事配慮エリア」と10の配慮事項を樹木医が解説」に書きました。


日本とイギリスの樹木診断・リスク管理の比較

ここまでを、日本とイギリスで並べると次のとおりです。

項目 日本 イギリス
国の考え方の拠り所 国土交通省「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(2026年3月)、「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(2026年3月改訂) NTSG「Common sense risk management of trees」(2011年)、便益とリスクの釣り合いと5つの原則
所有者・管理者の責任 民法第717条2項(竹木の栽植・支持の瑕疵)、道路など公の営造物の管理の瑕疵は国家賠償法第2条 過失・生活妨害の責任、占有者責任法(1957年・1984年)、道路は道路法(1980年)第41条
点検の優先順位 過去5年に事故のあった同じ路線・同じ樹種の街路樹、緊急輸送道路、通学路の街路樹(区分A)に、おおむね年1回の定期巡回 使われ方で区分け(ゾーニング)し、よく使われる区域に点検を集める
診断・評価の数値 東京都のマニュアルでt/R率0.3未満(腐朽空洞率およそ50%以上)で倒木の可能性が高い、総合判定の材料の一つ 意見交換では空洞率80〜90%で伐採の判断が多い、QTRA は危険の大きさを確率の数値で表す
木を守る仕組み 樹木保存法(1962年)の保存樹・保存樹林、区市町村の条例の保存樹木・保護樹木 樹木保全命令(TPO)、保全地区の6週間前の届け出
工事と樹木 東京都のマニュアルの工事配慮エリア BS 5837:2012 の根を守る範囲(幹の直径の12倍がもと)、国の計画方針 N6
診断する人 樹木医、街路樹・都市樹木診断士など、人の資格を仕様で求める 英国 AA の会社の認定(ARB Approved Contractor)など、会社や評価手法の仕組みも使う

出典: 国土交通省 道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(2026年3月)p.6、国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(2026年3月30日改訂)、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.58、e-Gov 法令検索(民法・国家賠償法・都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律)、NTSG「Common sense risk management of trees」(2011年)p.11・31・46、GOV.UK「Tree Preservation Orders and trees in conservation areas」、National Planning Policy Framework 第19章(2026年)、Arboricultural Association・BSI の資料(「ISA・TCIA・英国AAとは」の出典による)、2025年9月の当社での意見交換

比べてみて違いが大きいのは、イギリスの国の手引きが、木の下の使われ方から点検の優先順位を決める考え方をはっきり書いていること、そして TPO や国の計画方針のように、木を守る側の仕組みが、伐るかどうかの判断と並んで置かれていることです。この記事の終わりに書いた「機器の数値だけに頼らず、外観や環境要因を総合的に読み取る」という考え方は、イギリスの国の手引きの考え方とも重なります。

当社の海外との交流──この記事とつながる記録

当社では、海外の樹木の専門家との交流や、海外の基準・資料の読み込みを続けています。この記事とつながる記録を、地域ごとに並べます。


今後への展望 ― 一本の樹木から都市の未来へ

今回の国際交流を通じて改めて感じたのは、機器の数値だけに頼らず、外観や環境要因、樹木が発するシグナルを総合的に読み取る重要性です。
私たちはこれからも、「都市の景観に付加価値を」という理念のもと、定期的な外観診断や機器診断、保全剪定、支持補強、土壌改善などの技術を複合的に活用し、一本の樹を安全に、美しく残していきたいと考えています。

今後も海外の事例を参考にしながら、都市の樹木管理のあり方を探求し、持続可能な都市景観の未来を切り拓いてまいります。


補足:キャンカー・ステイン(Canker Stain)とは

プラタナス属(Platanus spp.)に発生する深刻な病気で、病原菌 Ceratocystis platani によって引き起こされます。
ヨーロッパやアメリカでは都市の並木に甚大な被害を与え、枯死を招くこともあります。
EPPO(欧州地中海植物防疫機関)の分布情報には、日本での発生の記録は無く、英国も「発生の記録なし」とされています(2026年9月確認)。

よくある質問(Q&A)

Q1. イギリスの樹木診断では、どんな機器が使われていますか?

A. 意見交換でデイビッド氏から聞いた話では、イギリスでは個人邸宅のシンボルツリーや地域の古木を対象に、ピカス(音響トモグラフ)を主軸にし、必要に応じてレジ(Resi PD)を併用する方法がとられています。日本では街路樹を中心にレジによる診断が主流です。デイビッド氏は、数値に依存しすぎない考え方でした。

Q2. イギリスでは、腐朽空洞率がどのくらいで伐採を判断しますか?

A. デイビッド氏によれば、イギリスでは幹の空洞率が80〜90%に達した段階で伐採を判断するケースが多いそうです。日本の東京都のマニュアルは、t/R率0.3未満(腐朽空洞率およそ50%以上)で倒木の可能性が高くなるとしています。ただし日本でも、測定結果は外観診断と合わせて総合判定を行うための材料の一つです。

Q3. 腐朽空洞率50%という目安の根拠は何ですか?

A. 国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、腐朽・空洞の半径が幹の半径の0.7倍を超えると、立っている木より折れた木のほうが多くなるという、ドイツのマテック博士の実態調査を根拠に挙げています。0.7倍を面積に直すと約49%で、t/R率では0.3にあたります。

Q4. 空洞率50%の木は、曲げに対する強さがどのくらい残りますか?

A. 幹を円、空洞を中心の円と単純にした当社の計算では、腐朽空洞率50%でも、曲げに対する断面の強さは約75%残ります。80%では約36%、90%では約19%です。中空の円の断面係数による単純な計算で、判定に使うものではありません。日本の t/R率0.3の目安は、実際に折れた木の調査から導かれたものです。

Q5. イギリスの樹木リスク管理の基本的な考え方は何ですか?

A. National Tree Safety Group が2011年に出した手引き「Common sense risk management of trees」は、木の便益とリスクの釣り合いで考えることを基本にしています。木は便益をもたらす、枝を落とし倒れることも自然に起こる、全体の危険はきわめて小さい、所有者には注意義務がある、釣り合いのとれた対応をとる、の5つの原則を挙げています。

Q6. イギリスで倒木によって亡くなる危険はどのくらいですか?

A. NTSG の手引きのための調査では、1999年1月からの10年間に、英国で倒れた木や枝による死亡は64人で、1年に約1,000万人に1人の危険と見積もられています。1999年2月〜2008年10月の死亡の68%は道路で起きていました。そのうえで手引きは、人がよく通る区域の木に定期の点検と記録を求めています。

Q7. イギリスの樹木保全命令(TPO)とは何ですか?

A. 自治体の計画部局が、地域の景観や快適さのために特定の木・木の集まり・林を指定する仕組みで、都市農村計画法(1990年)の第8部などに基づきます。指定された木を伐る、枝を切る、根こそぎにするなどの作業には自治体の同意が要ります。TPO の無い木でも、保全地区の中では作業の6週間前までの届け出が要ります。

Q8. 日本とイギリスの樹木リスク管理の大きな違いは何ですか?

A. イギリスの国の手引きは、土地を使われ方で区分けし(ゾーニング)、人がよく通る区域に点検を集める考え方をはっきり書いています。日本でも国土交通省の2026年のガイドラインが通学路などの街路樹を優先していて、方向は近づいています。木を守る側では、イギリスには伐る前に自治体の同意が要る TPO があります。

出典・参考情報

・National Tree Safety Group「Common sense risk management of trees」 Forestry Commission(2011年12月)p.11・20・22・31・33〜34・46・76

・Quantified Tree Risk Assessment「About QTRA」、VALID「Tree Risk-Benefit Management & Assessment」

・GOV.UK「Tree Preservation Orders and trees in conservation areas」(2014年3月6日公開)、Town and Country Planning Act 1990 Part VIII(legislation.gov.uk)

・Ministry of Housing, Communities and Local Government「National Planning Policy Framework」第19章(2026年8月17日公開)

・国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料第1059号(2019年2月)別冊 p.1-61

・C. Mattheck, H. Breloer「The Body Language of Trees」HMSO(1994年)、クラウス・マテック『マテック博士のフィールドガイド 最新 樹木の危険度診断入門』堀大才・三戸久美子訳、街路樹診断協会(2008年6月。書名は国総研 資料第1059号の参考文献の一覧による)

・e-Gov 法令検索「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」「民法」第717条、「国家賠償法」第2条

・国土交通省 道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(2026年3月)p.6、BS 3998・BS 5837・Arboricultural Association・ISA の TRAQ は「ISA・TCIA・英国AAとは」の出典による(2026年10月16日に確認)


株式会社トシ・ランドスケープ
ツリーリスクアセスメント部
— 樹木とともに都市景観の未来を切り拓く —

樹木医 中村雅俊

英語版(English Version)

Note: The Japanese version above has been expanded with background on tree risk management in the UK and Japan, together with its sources. This English version covers the original exchange.

Learning from British Arborists — Insights for the Future of Urban Tree Care

International Exchange on Tree Risk Assessment

In September 2025, the Tree Risk Assessment Department of Toshi Landscape Inc. welcomed British arborist Mr. David for an on-site technical exchange.
Together with our certified tree doctors and young arborists, we discussed the methods and philosophies behind tree diagnostics in Japan and the UK.

In the UK, instruments such as the PiCUS Sonic Tomograph and the resistance drill are commonly used to assess the internal condition of privately owned or symbolic trees.
While Japan primarily uses the resistance drill for street tree diagnosis, Mr. David shared his approach of using the PiCUS as the main tool, complemented by the resistance drill when deeper verification is needed.
This balance between technology and field observation was particularly inspiring.

Different Standards, Different Environments

One striking difference lies in the evaluation of decay and cavity ratios.
According to Mr. David, in the UK a tree is often considered for removal when 80–90% of its cross-section is decayed, while in Japan, the Tokyo Metropolitan Government’s street tree diagnosis manual (2021) states that the risk of failure rises when the t/R ratio falls below 0.3, roughly equivalent to 50% or more of the cross-section being decayed, and treats the measurement as one input to an overall judgment together with the visual assessment.
This gap reflects not only differing safety standards but also environmental conditions — Japan faces frequent typhoons, heavy rains, and decay fungi such as Perenniporia fraxinea (bekko-take) and Ganoderma applanatum (kofuki-sarunokoshikake).

Conversely, in the UK, root decay fungi similar to Japan’s “Surumetake” have been causing severe damage to heritage trees.
Despite the contrasting climates, both nations share similar challenges in protecting their urban forests from large-scale decline.

Mr. David also emphasized a subtle yet meaningful shift in perspective:

“It’s not about how much of the tree is decayed — it’s about how much of it remains healthy.”
This mindset resonated strongly with our own philosophy of tree preservation.

Interpreting Numbers Beyond Data

In Japan, arborists often refer to the T/R ratio (Thickness of sound wood / Radius) as an indicator of structural stability.
However, Mr. David pointed out that the outer wood flexes under wind movement while the inner core remains relatively still — suggesting that numbers alone cannot fully represent a tree’s strength.
His insight reminded us of the importance of combining mechanical data with a deeper biological and environmental understanding.

Urban Tree Management in the UK

Another fascinating topic was the building clearance standard around street trees.
From what we heard in the exchange, the guideline in the UK is about 5 meters on the road side and 3 meters on the pedestrian side (it varies by local authority; Suffolk, for example, uses 5.2 m over the carriageway and 2.6 m over the footway). In Japan, Article 12 of the Road Structure Ordinance sets the clearance at 4.5 meters over the carriageway (ordinary roads) and 2.5 meters over sidewalks.
Both countries strive to balance urban safety with aesthetic and ecological value within limited city spaces.

Equally notable was the UK’s approach to pavement and root interaction.
While Japan often uses concrete or asphalt around tree bases, certain British cities use rubberized or flexible materials, which prevent compaction, allow moisture infiltration, and reduce stress on roots as they expand.
The Forestry Commission’s guidance on highway tree management (2019) also describes using flexible rubber crumb where paving has been deformed by root growth.

When Architecture Adapts to Trees

Perhaps the most symbolic difference lies in the UK’s policy of prioritizing tree preservation over new construction.
Architectural designs are sometimes modified to accommodate existing trees — an approach we found close to our own way of thinking.
This approach exemplifies how cities can grow sustainably while respecting their natural heritage.

Looking Ahead — From One Tree to an Entire City

This international dialogue reaffirmed an essential truth:
Tree assessment must never rely solely on instruments or numerical results.
It requires an integrated understanding of the tree’s appearance, surrounding environment, and physiological signals.

We will continue to apply these lessons at Toshi Landscape Inc.
Through a combination of regular visual inspections, advanced diagnostics, pruning, cabling, and soil rehabilitation, we strive to ensure that every tree continues to grow safely and beautifully within the urban landscape.

We will continue to learn from global practices and expand our expertise — one tree at a time, shaping the future of greener cities.

Supplement: What is Canker Stain?

Canker stain, caused by the fungus Ceratocystis platani, is a serious disease affecting the Platanus genus, including London plane.
It has devastated urban tree populations in Europe and the United States, leading to widespread decline and tree loss.
According to the EPPO Global Database (checked September 2026), there are no records of this disease in Japan, and it is listed as absent from the UK.

Toshi Landscape Inc.
Tree Risk Assessment Department
— Pioneering the future of urban landscapes, together with trees.

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