ドイツ・バイエルン州フライジングで、樹木ケア会社Arbocareとアーボリスト専門商社Freeworkerを視察しました。ヨーロッパ共通の資格や技術基準ZTV-Baumpflege、そしてcobra・boa・treeSave・GEFAという4系統の樹冠固定(ケーブリング)資材について、樹木医の目で見てきたことをまとめます。
この記事でお伝えするのは、大きく三つです。ひとつは、ドイツで樹木の点検と記録が「仕事」として根づいている背景。ふたつめは、日本ではcobra以外の情報がまだ少ないケーブリング4系統の仕組みと使い分け。みっつめは、専門店がアーボリスト業界を支えているという、道具の側から見た層の厚さです。
フライジングで一日、車で連れて行っていただいて
ドイツ・バイエルン州のフライジングという街に、Ingo von Wurmbさんという方がいます。今回ドイツを訪れるにあたり、ご縁があって声をかけていただき、丸一日、車で各地の現場や施設へ連れて行っていただきました。お忙しい中、本当にありがとうございます。
Ingoさんは長くBMWでエンジニアとして働かれたのち、いまはArbocareという樹木ケアの会社をサポートされています。会社のオーナーのMoritz von Wurmbさんと、皆さんご一緒に写真を撮らせていただきました。

Arbocareは、Baumpflege(樹木の手入れ)、Baumkontrolle(樹木の点検)、Baumgutachten(診断・鑑定)、そしてBaumkataster(樹木台帳の作成)までを手がける専門会社です。
フライジングはミュンヘンの北にある街で、ミュンヘン工科大学のヴァイエンシュテファン(Weihenstephan)キャンパスを擁し、林学や造園の教育・研究の拠点でもあります。Arbocareの案内にも、チームがヴァイエンシュテファンで林学を修めたと書かれていて、地の利を感じました。
資格と基準が整っている ―― ドイツの樹木管理の背景
日本と大きく違うと感じたのは、資格と基準がきちんと整っていることです。
ヨーロッパには、欧州樹芸協議会(EAC: European Arboricultural Council)が運用するEuropean Tree Worker(ETW)、European Tree Technician(ETT)という共通資格があります。ドイツにはさらに、造園・緑化の技術基準をつくるFLL(景観開発・景観造成研究協会)が認定するBaumkontrolleur(樹木点検士)や、Fachagrarwirt Baumpflege(樹木ケアの専門農業技術者)という国内資格もあります。
Arbocareもこれらの資格とISA(国際樹芸協会)ドイツ支部の会員であることを掲げ、ZTV-Baumpflegeという樹木管理の技術基準に沿って仕事をしています。ZTV-Baumpflegeは、FLLが発行している「樹木ケアのための追加技術契約条件および指針」で、最新版は2017年版です。
その背景には、土地の所有者が樹木の安全を保つ義務(Verkehrssicherungspflicht=交通安全確保義務)を負うという、連邦通常裁判所(BGH)の判例で確立された考え方があります。だからこそ、点検と記録が仕事として根づいている。樹木を「守るべき都市の資本」として扱う文化を、初日から強く感じ、とても刺激のある一日でした。
アーボリスト専門店Freeworkerのショップへ
Ingoさんに連れて行っていただいたのが、Freeworkerのショップです。アーボリスト向けの専門店で、ツリークライミング用のロープやハーネス、切創防止ウェア、そして樹木を支えるケーブリング資材まで揃います。私も日本から何度か注文させていただいてきた、日頃からお世話になっているお店です。
Freeworkerは、1999年にミュンヘン近郊グレーベンツェルで始まった会社です。いまではギルヒングに拠点を構え、従業員約50名(同社公表)、樹木ケアとロープクライミング技術の分野でヨーロッパ最大級の専門商社のひとつに数えられます。ただ道具を売るだけでなく、専門的な相談に乗り、講習会や競技会にも関わっていらっしゃるそうです。
訪れたときはちょうど店内が改装中で、しかも別のイベントに出展している最中とのことで、商品も店員さんも少なめでした。それでも社員の方のお話をたくさん伺うことができました。
- freeworker ドイツ アーボリスト ショップ 樹木医
樹冠固定(ケーブリング)とは ―― 動的固定と静的固定
ここからは、お店で扱う樹冠固定(ドイツ語でKronensicherung。日本ではケーブリングと呼ばれることが多い)についてご紹介します。裂けそうな枝や二又の幹を、ロープで互いに結んで支える技術です。
ドイツでは、枝が裂けそうなときは揺れを残す動的固定(dynamic)、すでに割れている枝を落とさないための静的固定(static)、と使い分ける考え方が明確です。ZTV-Baumpflegeでは動的固定が原則で、樹木が補償成長(Kompensationswachstum)によって自らを強くできるよう、あえて動きを残します。静的固定は、V字の裂けなどですでに損傷がある場合に限る、という整理です。
この考え方を前提に、Freeworkerのショップでは大きく分けて四つの系統を扱っています。cobra、boa、treeSave、そしてGEFAです。日本ではcobraはよく知られていますが、あとの三つは日本語の情報がまだ少ないかと思います。
- freeworker ドイツ アーボリスト ショップ 樹木医
cobra ―― 1993年から使われ続ける定番の動的システム
cobraは、1993年に販売が始まって以来、世界中で使われている定番です。ポリプロピレンの中空ロープ(Hohltau)に、ゴム製のショックアブソーバー(Ruckdämpfer)を差し込む構造で、風で樹木が揺れる動きを残しながら支える動的なシステムです。
このゴムダンパーが、枝が動いて止まる瞬間の衝撃(Fangstoß)をメーカー公表値で約20%やわらげます。わずか10kgほどの弱い力から伸び始め、およそ20cmの「低荷重時の揺れ幅」を確保してくれるのがメーカーの説明です。そよ風程度の揺れを許すことで、樹木自身が反応材(Reaktionsholz)をつくり、自らを補強できるのが利点です。
金具を使わず、ロープを編み込む「クイックスプライス」だけで結束できます。開発したのは樹木静力学の研究者Lothar Wessolly博士とHans Vetter氏(EU特許EP0623277)で、動的挙動の試験データが技術的な裏づけになっています。ゴムダンパーを外せば、割れてしまった枝を動かさずに支える静的な補強にも転用でき、より伸びの少ないDyneema製の「ultrastatic」という選択肢もあります。
私たちも東京都目黒区の高木で、cobraによるケーブリング施工を行っています。日本で扱えるのは主にこのcobraなので、以下の三つは特に新鮮でした。

boa ―― 同じ開発者による2005年の後継システム
boaは、cobraを開発した本人(Wessolly博士)が2005年に発展させた後継システムです。
最大の売りは「同一部品コンセプト(Gleichteilekonzept)」で、ショックアブソーバー・スプライス補助バンド・擦れ防止スリーブ・年度識別ディスクといった部品が、2t・4t・8tすべての太さで共通して使えます。太さごとに部品を揃える必要がなく、在庫も運搬も驚くほどシンプルになります。
ダンパーを入れれば動的、外せば静的と、バーナーも工具も使わずに切り替えられる点もcobraからの進化です。ロールから引き出したときにロープがねじれにくい「クセ取り済み」の巻き方が採用されているのも、現場では地味にありがたい工夫かと思いました。
treeSave ―― 幅広ベルトと「過負荷インジケーター」
treeSaveは、DRAYER社が開発したシステムです。保持ループに幅50mm・75mmといった幅広ベルト(Gurtband)を使い、樹皮と形成層(Kambium)への面圧を広く分散するのが基本思想です。
いちばん面白かったのは「過負荷インジケーター(Überlastanzeige)」でした。システムに75%を超える力がかかると縫い目(Sollbruchstelle)が裂けて、隠れていた赤い標識が飛び出す仕組みです。地上からの目視で「点検が必要」と一目で分かり、しかも標識が出た後もシステムの保持機能はそのまま保たれます。強度は20/40/80/120kNの各システムがあり、寿命は8年だそうです。
樹木の点検が仕事として根づいている国だからこそ、地上から判断できる仕掛けが商品になっている。ここは制度と道具がつながっている例だと思いました。
GEFA ―― 大径木・重量枝まで対応する幅広い強度
GEFAは、若木のアンカーや根系管理、灌水製品を長く手がけてきたメーカー(GEFA Fabritz)の製品です。中空ロープ(Hohlseil)を軸にした構成で、素材はポリエステルと、より伸びるポリアミドが選べ、静的用途にはDyneemaロープも用意されています。
強度は2t・4t・7t・8t・10t、さらにDyneemaで12t・20tまであり、大径木や重量枝にも対応できるのが強みです。ロープには破断インジケーター糸が織り込まれ、最大破断力のおよそ80%で切れて点検の目安を教えてくれます。幅50/75/100mmの帯で樹皮への面圧を分散する考え方はtreeSaveと共通で、単一部品としても多部品システムとしても組めます。
日本でもここまで製品と考え方が体系化されているのは、素直に学ぶべき点だと感じました。
倉庫・配送拠点で見た「物流の背骨」
ショップに続いて、同社の倉庫・配送拠点にも連れて行っていただきました。ここでは運営責任者(Betriebsleiter)のHolger Finkさんが、わざわざ倉庫の中を案内してくださいました。お忙しい中ありがとうございました。


freeworker ドイツ アーボリスト ショップ 樹木医
棚に整然と並んだロープやカラビナ、ヘルメット、ケーブリング資材。ヨーロッパ中のアーボリストへ、ここから道具が届いていくのだと思うと、物流の背骨を見せてもらったようでした。残念ながら倉庫内は撮影禁止でしたので、写真はショップのみのご紹介になります。
こうした「専門店がアーボリスト業界を支える」構造がしっかりあるのは、ドイツの層の厚さだと感じます。道具が身近に、しかも専門家の助言つきで手に入る環境は、そのまま現場の安全と技術の底上げにつながります。樹上での作業は、道具ひとつが命綱です。良い道具を選べること自体がプロの仕事の質を決める。当たり前のようでいて、日本ではまだこれから伸びていく部分だと、改めて感じました。
- freeworker ドイツ アーボリスト ショップ 樹木医
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視察を終えて ―― 日本の現場にどう持ち帰るか
今回の視察で確かめたかったのは、ドイツの樹木管理が「制度・人・道具」の三つでつながっているということでした。所有者の安全確保義務があり、点検を担う有資格者がいて、技術基準に沿った道具を専門店が支えている。この三つが揃っているから、樹木を残しながら安全を保つ判断が日常の仕事として回っています。
私たちのツリーリスクアセスメント(樹木診断)でも、レジ(Resi PD)やアーボソニック3D、ピカス(音響トモグラフ)による機器診断と、目視での外観診断を合わせて、樹木を残せるかどうかを判断しています。ケーブリングは、その判断のあとに「残す」を実現するための技術です。動的固定で樹木自身の補償成長を促すのか、静的固定で損傷部を静止させるのか。今回学んだ4系統の考え方を、東京の現場での判断にも活かしていきます。
Ingoさん、Moritzさん、Arbocareの皆さん、そしてFreeworkerの皆さん、貴重な機会をありがとうございました。Freeworker様には撮影の許可をいただいております。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

参考情報
・Freeworker GmbH 会社概要 https://www.freeworker.de/en/company/
・cobra(pbs Baumsicherungsprodukte GmbH) https://www.cobranet.de/ / EU特許EP0623277 Google Patents
・boa(arboa tree safety) https://arboa.com/de/boa.html
・treeSave(DRAYER) https://drayer.de/eigenmarken/treesave/
・GEFA Fabritz 樹冠固定システム https://www.gefafabritz.de/produkte/kronensicherung.html
・FLL(ZTV-Baumpflege 2017、FLL認定Baumkontrolleur) https://www.fll.de/
・European Arboricultural Council(ETW/ETT) https://www.eac-arboriculture.com/
・Arbocare https://www.arbocare.de/
・Brudi & Partner TreeConsult「Dynamische Eigenschaften von Kronensicherungen」 PDF
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