特殊伐採とは、大きな木を根元から一度に倒さず、上から少しずつ切って降ろしていく伐採のことです。連載「高木・特殊伐採とケーブリング」の第2回では、住宅地で木を倒せない理由を、労働安全衛生規則の「木の高さの2倍」の決まりと、方法を決めるときに現地で見ることから解説します。
高さ15mの木を根元から倒そうとすると、木を中心に半径30mの円の中には、倒す人以外の作業者を立ち入らせてはいけない決まりがあります。半径30mの円の広さは、およそ2,800㎡です。住宅地でこの円を描くと、隣の家も向かいの家も、その前の道路も、円の中に入ってしまいます。
前回の第1回では、都市の高木がなぜ手入れできなくなるのかを書きました。第2回は、当社の高木・特殊伐採&ケーブリングのページの「特殊伐採」と「伐採の方法」の項目から、そもそも特殊伐採とは何か、なぜ住宅地では木を倒せないのかを掘り下げます。

建物と庭に囲まれた木を、樹上から少しずつ切っていく。真下には住宅の設備や駐車場がある
伐倒と特殊伐採──「倒す」と「降ろす」
伐倒は、根元から一度に倒す伐り方
木を根元の近くで切り、一度に倒す伐り方を伐倒(ばっとう)といいます。労働安全衛生規則は、胸高直径(胸の高さで測った幹の直径)が20cm以上の木を伐倒するときは、伐根直径の4分の1以上の深さの「受け口」と、反対側に適当な深さの「追い口」を作り、その間には適当な幅の「切り残し」を残すよう定めています(第477条第1項)。
受け口は、倒したい側にくさび形に切り込む切り口です。厚生労働省のガイドラインは、受け口の向きによって倒す方向が決まること、そして受け口と追い口の間の切り残し(現場では「つる」と呼びます)を正しく残すことを求めています。林業の現場では、つるは蝶番(ちょうつがい)にたとえられ、木が倒れていく間、幹と切り株をつないで倒れる向きを導く部分だと教わります。

伐倒の切り口の仕組み(イラスト)。倒す側の受け口と反対側の追い口の間に、切り残し(つる)を残す。厚生労働省のガイドラインの図をもとに描いた
ここでは仕組みだけを書き、切り方の手順は書きません。チェーンソーで木を伐る作業は、仕事として行う人には特別教育を受けることが義務づけられている作業です(労働安全衛生規則 第36条第8号)。大きな木の伐倒は、教育と経験のある人が行うものだと考えています。
特殊伐採は、上から少しずつ切って降ろす伐り方
一方、当社でいう特殊伐採は、木の上から枝や幹を少しずつ切り、ロープやクレーンで吊り降ろしていく伐り方です。サービスページでは、「通常の方法では困難な状況で行われる伐採を指し、危険木の除去や狭い都市部、傾斜地での作業が含まれます」と書きました。まず枝を払い、次に幹を上から短い輪切りにしていくので、木は最後まで立ったまま、少しずつ低くなっていきます。

伐倒と特殊伐採の比べ(イラスト)。広い場所では根元から倒す(左)。住宅地では、木を立てたまま上から少しずつ切って降ろす(右)

ビルの脇で、枝を払った幹を上から短く切り、クレーンで吊って降ろしていく
「木の高さの2倍」の決まり──労働安全衛生規則 第481条第2項
伐倒について、労働安全衛生規則 第481条第2項は次のように定めています(要約)。
- 伐木の作業を行うときは、伐倒木などが激突する危険を防ぐため、伐倒しようとする立木を中心として、その立木の高さの2倍に相当する距離を半径とする円の内側に、ほかの作業従事者が立ち入ることを禁止しなければならない
厚生労働省のガイドラインは、さらに、隣り合って伐倒の作業をするときは、それぞれの木の高さの2.5倍を半径とする円の内側に、伐倒する人以外の労働者を立ち入らせないこととしています。

伐倒の立入禁止の範囲(図)。高さ15mの木なら半径30m。住宅地の区画(説明のための例)に重ねると、向かいの家や道路まで円の中に入る
倒れた木の先は、木の高さの分だけ先まで届きます。高さ15mの木なら15m先です。決まりの円は、その2倍の30mを半径にとっています。倒れた木が地面で跳ねたり、枝が折れて飛んだり、思った方向から外れたりすることまで含めた広さだと、私は受け止めています。
条文が立ち入りを禁止しているのは、ほかの作業従事者です。ただ、倒れる木の危険が及ぶ範囲という意味では、近くに住む方や道路を通る方、隣の建物や電線にも同じことが言えると考えています。現場での経験から言えば、都内の住宅地やマンションの敷地では、多くの現場で、この円の広さを確保できません。サービスページに書いたとおり、「伐倒に必要な広さを確保できない」ことが、特殊伐採を選ぶいちばん多い理由です。
都市の大きな木は、思った方向に倒れにくい
広さのほかにも、都市の木を伐倒しにくい理由があります。厚生労働省のガイドラインは、伐倒の前に、立木の樹種、重心、つるや枝のからみ、頭上に落ちてきそうな枯れ枝を確かめるよう求めています。そのうえで、次のような木を挙げています。
- 偏心(重心が幹の中心から外れていること)の程度が著しい木や、裂けやすい木
- 胸高直径40cm以上の木や広葉樹など、裂けや芯抜けで伐倒方向が変わりやすい木
- 空洞木や腐朽木(突然倒れたり、切っている途中で割れたりする原因になる)
都市で伐採のご相談を受ける木には、この条件に当てはまるものが多くあります。日当たりを求めて建物や道路の側へ枝を伸ばした木は、樹冠の重さが片側に偏っています。現場での経験から言えば、伐採を考えるほど弱った木は、幹や根元が腐朽していることが少なくありません。当社が伐採した木でも、大田区のマンションのケヤキは中がほぼ空洞で(マンション ケヤキ 伐採工事 東京都大田区)、世田谷区の個人邸のスダジイは幹の内部の空洞化が進んでいました(世田谷区個人邸 老木スダジイの伐採)。台東区の神社のキリは、根元の腐れが確認されていました(銀杏岡八幡神社様 樹木伐採 東京都台東区)。

伐採した幹の断面。中が大きく空洞になっていた。こうした木を根元から倒すと、思わぬ向きに倒れたり、途中で割れたりするおそれがある
現場での経験から言えば、中が腐った木では、倒れる向きを導くはずの切り残しに頼れません。広さがあったとしても、腐朽した大きな木を住宅地で根元から倒すことは、私たちは選びません。
上から少しずつ切ると、何が変わるのか
特殊伐採では、一度に動かすのは、切り離した枝や幹の短い一部分だけです。切る前に、その一部分をロープやクレーンで受ける段取りをしてから切ります。木全体を倒すときのように、高さ15mの木の重さが一度に地面へ向かうことはありません。
もちろん、特殊伐採にも危険はあります。樹上で切る人の真下や、吊り降ろした枝や幹を受ける場所には、作業のたびに立入禁止の範囲を決めます。ナラ枯れで枯れて数年たった木を伐採したときは、上部の枝まで腐れが進んでいて、目的の枝を切り落とした衝撃でほかの枯れた枝が落ちるおそれがあったため、枝を降ろす作業をいっそう慎重に進めました(ナラ枯れ樹木 特殊伐採 東京都大田区)。枯れた木ほど、樹上での作業そのものが難しくなります。
武蔵野市の個人邸のクスノキ(高さ12m前後)は、枝葉が電線に絡み、重機が入らず、隣との境界ぎりぎりに植えられていました。この木を、ロープワークで上から少しずつ降ろし、1日で伐採しました(武蔵野市・個人邸 クスノキ伐採作業)。山の中の木を特殊伐採で伐ることもあります。埼玉県秩父市の森の中の支障木は、ロープワークで伐採しました(埼玉県秩父市 特殊伐採)。
伐採の方法を決めるときに、現地で見ること
方法は、現地で木と周りを見て決めます。サービスページには「木の高さや傾き、電線や建物との距離、車両を置ける場所、道路の状況を見て決めます」と書きました。ガイドラインが伐倒の前に確かめるよう求めている項目とあわせて、私たちが現地で見ていることを並べます。

伐採の方法を決めるときに現地で見ること(イラスト)。木の高さと傾き、枝の偏り、枯れ枝、電線、隣の建物、道路と車両の置き場
木の高さ・傾き・枝の偏り
高さは、立入禁止の範囲と、吊り降ろす枝や幹の重さに関わります。傾きと枝の偏りは、切ったときに枝や幹がどちらへ動くかに関わります。
腐朽と枯れ枝
幹や根元に腐朽があるか、樹冠に枯れ枝が残っていないかを確かめます。腐朽が疑われる木や、残せる可能性がある木は、樹木医が診断します。伐る前の診断については、この連載の第5回で書きます。
電線と建物との距離
電線や屋根の上に枝が張り出していると、切った枝を落とせる場所が限られます。電線の近くでは、感電を防ぐことも考えなければなりません。
車両を置ける場所と道路の状況
クレーン車や高所作業車を木のそばに置けるかどうかで、取れる方法が変わります。道路に車両を止める場合は、道路使用許可も要ります。手続きについては、この連載の第9回で書きます。
当社では、住宅地やマンション、学校、社寺の大きな木は、ほとんどの場合、上から少しずつ切って降ろす方法をとっています。そのうえで、ロープワークだけで降ろすか、クレーンと組み合わせるか、高所作業車を使うかを、ここに挙げた条件から決めます。伐採の現地調査とお見積りは無料で、個人のお客様・法人のお客様とも承っています。
次回(第3回)は、クレーンも高所作業車も入らない場所で、木に登って枝や幹をロープで吊り降ろす方法を取り上げます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(特殊伐採について)
Q1. 特殊伐採とは何ですか?
A. 大きな木を根元から一度に倒さず、木の上から枝や幹を少しずつ切り、ロープやクレーンで吊り降ろしていく伐採のことです。建物や電線、道路が近く、木を倒す広さを取れない住宅地やマンションの敷地、学校、社寺などで行います。
Q2. 庭の大きな木を、根元から倒して伐採できないのはなぜですか?
A. 伐倒には広さが要るからです。労働安全衛生規則は、伐倒する木を中心に、木の高さの2倍を半径とする円の内側に、ほかの作業者を立ち入らせないよう定めています。高さ15mの木なら半径30mです。住宅地では、この円の中に隣の家や道路が入ってしまうことがほとんどです。
Q3. 伐採の「木の高さの2倍」とは、何の決まりですか?
A. 労働安全衛生規則 第481条第2項の決まりです。伐木の作業では、伐倒しようとする立木を中心に、その高さの2倍に相当する距離を半径とする円の内側に、ほかの作業従事者が立ち入ることを禁止しなければなりません。厚生労働省のガイドラインは、隣り合って伐倒するときは2.5倍としています。
Q4. 腐った木や傾いた木は、根元から倒すのが難しいのですか?
A. 難しくなります。厚生労働省のガイドラインは、偏心の著しい木や裂けやすい木、太い木や広葉樹は伐倒方向が変わりやすいこと、空洞木や腐朽木は突然倒れたり割れたりする原因になることを挙げています。住宅地の腐朽した大きな木は、上から少しずつ切って降ろします。
Q5. 伐採の方法は、どうやって決めるのですか?
A. 現地で、木の高さと傾き、枝の偏り、腐朽や枯れ枝の有無、電線や建物との距離、車両を置ける場所、道路の状況を見て決めます。そのうえで、ロープワークで吊り降ろすか、クレーンと組み合わせるか、高所作業車を使うかを選びます。伐採の現地調査とお見積りは無料です。
Q6. 庭の木を自分で伐ってもよいですか?
A. 高い木や太い木は、ご自身で伐らないでください。チェーンソーで木を伐る作業は、仕事として行う人には特別教育が義務づけられている、危険の大きい作業です。倒れる向きが外れると、建物や電線、通る人を傷つけるおそれがあります。お問い合わせページかメールでご相談ください。
出典・参考情報
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第36条第8号・第477条・第478条・第479条・第481条(e-Gov 法令検索。2026年10月9日に原文を確認)
- 厚生労働省「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」基発1207第3号 平成27年12月7日、改正 基発0131第1号 令和2年1月31日(別添 7(1)〜(4)、別添2 参考1)































