クビアカツヤカミキリの被害が、ウメ・モモ・スモモの産地で広がっています。国の地域ブロック説明会の資料と和歌山県の緊急対策の報道から最新の動きを整理し、果樹と街のサクラで防除の目的・使える薬・時期がどう違うかを、各地の手引きをもとに樹木医が解説します。
クビアカツヤカミキリの週1回のニュースの第5回です。第4回(10月20日)では、被害を受けたサクラを残すか伐るかを、被害の5段階から読みました。10月下旬には、国の説明会の資料が公開され、和歌山県がウメの産地を守る緊急対策を打ち出しました。そこで今回は、サクラから視野を広げ、果樹の産地を取り上げます。
今週の要点
- 農林水産省は10月27日、地域ブロック説明会の資料を公開しました。説明会は10月23日の九州・沖縄で7か所を終えています。発生を確認した都府県は22のままです。
- 資料は、都道府県に11月末までを目途にした緊急調査を働きかけるとしています。新しい被害木が見つかったら、成虫が出る時期までに伐採やネットで覆う措置を徹底するとしています。
- 報道によると、和歌山県の被害は9月末時点で19市町・1万3,168本(うち農地1万1,395本)です。県は10月23日、総事業費約1億1,805万円の緊急対策を発表しました。
- 果樹とサクラでは、使える農薬が作物ごとに違います。果樹には収穫の何日前まで使えるかの決まりがあり、手引きの表で樹幹注入の剤が載っているのはサクラだけです。
- 今は、まだ被害の無い木に産卵を防ぐネットを巻く時期(10月〜翌年5月)に入っています。冬はフラスの残りで被害を確かめます。
最新情報──国の説明会資料と、和歌山県の緊急対策
国の説明会の資料が公開されました
農林水産省の対策本部のページに10月27日、地域ブロック説明会の資料「クビアカツヤカミキリ対策についての対応状況」(令和8年10月、32ページ)が載りました。説明会は10月6日の東海から23日の九州・沖縄まで、7ブロックで開かれました。資料では、発生を確認した都府県は2026年8月末時点で22都府県のままで、防除戦略の概要には「22都府県・300を超える市町村に被害が拡大」と書かれています。
資料の4ページは、被害がさらに広がった場合の懸念として、奈良のサクラ、和歌山のウメ、福島や山梨、岡山のモモなどの名前を挙げ、うめ・もも・すももの産出額の上位5県を表にしています。表を、クビアカツヤカミキリが確認されているかどうかで色分けして図にしました。

うめは、1位の和歌山県(146億円)から5位の長野県まで、上位5県のすべてで、すでにクビアカツヤカミキリが確認されています。全国のうめの産出額258億円のうち、和歌山県だけで半分を超えます。ももは1位の山梨県(227億円)と3位の長野県、4位の岡山県で確認され、2位の福島県と5位の山形県ではまだ確認されていません。
資料の21ページには、農林水産省の当面の取組が並んでいます。説明会では、都道府県に総合防除計画の策定と、発生状況の緊急調査の実施(11月末までを目途)を働きかけるとしています。調査で新しい被害木(フラス)が見つかったら、成虫が脱出する時期までに、伐採やネットで覆うなどの措置を徹底するとしています。各都府県の幼虫の活動時期の目安も載っています。
| 都府県 | 幼虫の活動時期(終わりの目安) |
|---|---|
| 栃木県 | 10月末 |
| 東京都 | 11月中旬 |
| 埼玉県 | 11月末 |
| 大阪府 | 11月末 |
出典: 農林水産省「クビアカツヤカミキリ対策についての対応状況」(令和8年10月)p.21
果樹の植え替えの支援も示されました。令和9年度の概算要求にある果樹の生産を支える事業では、被害を受けた木を他の品目(クビアカツヤカミキリが加害しない植物)に植え替える場合、苗木が育つまでの管理の経費の支援を10aあたり25万円とする例が書かれています(通常は4年分で10aあたり22万円)。概算要求の段階なので、決まった額ではありません。
和歌山県の緊急対策
和歌山県は10月23日、国の交付金を使った緊急対策を発表しました。わかやま新報(10月23日)によると、県内の被害は2019年度にかつらぎ町で初めて確認されてから19市町に広がり、9月末時点の被害本数は1万3,168本(農地1万1,395本、農地以外1,773本)です。9月下旬には、うめの主な産地であるみなべ町でも被害が見つかりました。
総事業費は1億1,804万6千円で、国に申請中です。0.3mm角の産卵防止ネットを木に付ける取り組みへの支援(事業費の4分の3)と、被害調査への支援(同2分の1)を新しく設け、被害木の伐採や成虫の飛散を防ぐネットへの支援も広げます。県の施設の木は、県が直接防除するとしています。0.3mm角のネットの効果は、県の果樹試験場を中心とする研究で確かめられたと報じられています。県の発表資料と研究の原典は、まだ確かめられていません。確かめられたら、この連載でお伝えします。
NHK(10月26日)は、田辺市などの協議会が、フラスを見つけて通報した人に懸賞金を出すことになったと伝えています。
そのほかの動き
共同通信(10月24日配信、東京新聞ほか)は、国立環境研究所などのチームが、対策が進まなければ2050年には本州と四国のほぼ全域に分布が広がるとする試算をまとめたと報じました。研究所の発表と論文は、まだ確かめられていません。
最新の防除の知見──果樹と街のサクラで、防除はどう違うか
10月27日の時点で、新しく公表された研究成果や、農薬登録の変更は見当たりませんでした。ここでは、国の防除戦略(2026年9月)と、2026年に改訂された各地の手引きから、果樹と街のサクラで防除の考え方がどう違うかを整理します。
守りたいものが違う
国の防除戦略は、施設ごとの対策を分けて書いています。果樹園では、被害は「果実の生産量の減少や品質の低下を招き、生産者の経営に深刻な影響を及ぼす」として、生産者が日々の栽培管理と一体で見回り、早く見つけて早く防除することを求めています。道路・河川・都市公園や学校では、景観と、衰えた木の落枝や倒木による人身被害を防ぐことが中心になります。
被害を受けやすさにも差があります。大阪府の手引書(2026年4月 改訂第6版)は、被害を受けやすい木の特徴として、幹が太いこと、樹皮が粗いこと、葉の量が少ないことに加えて、「サクラ類よりも果樹類(特にモモ、スモモ)」を挙げています。産地の園地と、その周りの木は、別々ではなくつながっています。和歌山県農作物病害虫防除所の注意報(令和4年)は、果樹の生産者に向けて「サクラも本種の発生源となるので、サクラの被害にも注意する」と書いています。防除戦略も、農地と農地以外での一体的な対策が重要だとし、防除がされない私有地は新しい発生源になるおそれがあるとしています。

見回るときの目の置き所も、樹形で変わります。ウメやモモは幹が短く、低い位置で太い枝に分かれます。大阪府の手引書は、フラスの調査は幹、特に根元を中心に見るとしたうえで、「果樹類では亜主枝まで調査します」としています。

使える薬が違う
もっとも大きな違いは、農薬です。東京都の手引(2026年3月)は、農薬取締法により、使う作物(樹種)ごとに、対象の害虫として本種またはカミキリムシ類が登録されている農薬しか使えないとしています。同じ剤でも、さくら・うめ・もも・すももで使える時期と回数が違い、果樹には収穫の何日前まで使えるかの決まりがあります。大阪府の手引書の表から、1つの剤を例に挙げます。
| 作物 | 使用時期 | 使用回数 |
|---|---|---|
| さくら | 成虫発生初期 | 5回以内 |
| うめ | 収穫前日まで | 3回以内 |
| すもも | 収穫3日前まで | 3回以内 |
| もも | 収穫7日前まで | 3回以内 |
出典: 大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第6版)」p.19 の、ダントツ水溶剤(クロチアニジン、2000倍、散布)の行(2026年3月現在)。使う前に、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで確かめる必要があります

幹に穴をあけて薬を入れる樹幹注入の剤は、大阪府・東京都・群馬県・埼玉県の手引きの表では、どれも作物が「さくら」で、大阪府の手引書は「樹幹注入(サクラのみ)」と書いています。群馬県の手引きの表には、樹木類の登録は食用や飼料用に使われないものに限るという注記があり、サクラなどに使える剤を、そのまま果樹に使うことはできません。一方、フラスの出ている孔に差し込んで噴射するエアゾール剤には、樹木類のほか、もも・うめ・すもも・おうとうに登録のあるものがあり、果樹では収穫前日まで、5回以内とされています(大阪府の手引書 p.21、2026年3月現在)。製品ごとの一覧は、クビアカツヤカミキリの薬剤防除の記事にまとめています。

散布の時期も違います。和歌山県の注意報は、果樹では成虫が多く出る6月中下旬〜8月上旬に、10〜14日の間隔を目安に散布し、収穫の後も防除を続けるとしています。栃木県農業試験場の研究成果は、もも園で、収穫が盛んになる7月以降は使える薬剤が限られ、防除が手薄になりやすいと指摘しています。
今から春までにできること
成虫が飛ばない今は、来年に備える時期です。手引きにある作業の時期を表にしました。
| 作業 | 時期の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 産卵を防ぐネットを、まだ被害の無い木に巻く | 10月〜翌年5月(成虫が出る前まで) | 大阪府 p.10 |
| フラスの見回り(冬は前に出たフラスの残りで確かめる) | 1年中 | 大阪府 p.6 |
| 被害が激しい木の伐採 | 9月〜翌年4月 | 和歌山県の注意報、大阪府 p.17、群馬県 p.12 |
| 脱出予定孔をふさぐ | 1月〜5月 | 大阪府 p.16 |
| 植え替え | 厳寒期を除く落葉期(12月〜3月ごろ) | 大阪府 p.23 |
出典: 大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第6版)」(2026年4月)、群馬県「クビアカツヤカミキリ 対策の手引き」(令和8年2月改訂)、和歌山県農作物病害虫防除所「令和4年度病害虫発生予察注意報(第2号)」
産卵を防ぐネットについて、大阪府の手引書は、目合い4mm以下のネットを、高さ1.5〜2mほどまで、幹との間に少なくとも親指ほどの隙間をあけてスカートのように巻き、下の端はペグで地面に留めて、成虫が入る隙間を無くすとしています。幹に密着させると、網目から産卵管を差し込まれてしまうためです。幹の短いウメでは、地際から枝の分かれ目の上までを覆います。

冬の見回りでは、幼虫が動かずフラスが新しく出ないため、前に出たフラスの残りで被害を確かめます。国が11月末までを目途に求める緊急調査は、幼虫がまだ動き、フラスの出ている時期にあたります。脱出予定孔をふさぐ方法は、第2回で森林総合研究所の研究とあわせて紹介しました。大阪府の手引書は、粘土状の資材で6割くらいの脱出が防げるとしています。

樹木医から見たこと
国の資料に並んだ産出額の表を見て、同じ虫を相手にしていても、守ろうとしているものは場所によって違うのだと、あらためて考えさせられました。街のサクラでは、景色と、枝の下を歩く人の安全を守ります。果樹の園地では、そこに暮らしを立てている生産者の経営を守ります。
違いがはっきり出るのは薬の使い方です。街のサクラで使っている方法が、実を食べる果樹では使えないことがあります。逆に、果樹の園地のすぐ隣に、薬を使いにくい学校や住宅地のサクラがあることも少なくありません。現場での経験から、果樹の産地の近くで木を管理するときは、園地の生産者がいつ何を散布しているかを知っておくと、見回りや伐るか残すかの相談が進めやすくなると感じています。
和歌山県の被害のうち1,773本が農地の外にあるという報道は、果樹の産地でも、街の木の管理が防除の一部であることを示しています。手入れされなくなった園地、庭のウメ、川沿いのサクラ。どれも持ち主や管理する人が違い、誰かが見ていないところから虫は増えます。農地と農地の外を一体で見ることは、生産者だけでも、木の専門家だけでもできません。私たちの仕事は、その地図の空白を少しでも埋める材料をそろえることだと考えています。
来週は、緊急調査の結果や、和歌山県の発表資料、2050年の試算の原典を追います。
よくある質問
Q1. ウメやモモの木に、サクラ用の薬を使ってもよいですか。
使えません。農薬取締法により、農薬は、使う作物ごとに対象の害虫が登録されているものしか使えません。同じ有効成分でも、うめ・もも・すももでは使える時期と回数が違い、果樹には収穫の何日前まで使えるかの決まりがあります。使う前に、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで確かめる必要があります。
Q2. 果樹とサクラでは、どちらが被害を受けやすいですか。
大阪府の手引書(2026年4月)は、被害を受けやすい木として「サクラ類よりも果樹類(特にモモ、スモモ)」を挙げています。ほかに、幹が太い、樹皮が粗い、葉の量が少ない(樹勢が落ちている)木も被害を受けやすいとしています。
Q3. 和歌山県では、どのくらい被害が出ていますか。
わかやま新報(10月23日)によると、2026年9月末時点で19市町に広がり、被害本数は1万3,168本(農地1万1,395本、農地以外1,773本)です。9月下旬には、うめの主な産地のみなべ町でも被害が見つかりました。県は10月23日に緊急対策を発表しています。
Q4. 秋から冬に、ウメやサクラにできる予防はありますか。
まだ被害の無い木には、産卵を防ぐネットを巻く方法があります。大阪府の手引書は、作業の時期を10月〜翌年5月(成虫が出る前まで)とし、目合い4mm以下のネットを、幹との間に隙間をあけて巻くとしています。冬はフラスの残りで被害を確かめ、被害の激しい木は9月〜翌年4月に伐ります。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・農林水産省「クビアカツヤカミキリ対策についての対応状況」(令和8年10月。地域ブロック説明会の資料)、「クビアカツヤカミキリ対策本部」、「クビアカツヤカミキリに関する情報」
・クビアカツヤカミキリ対策本部「クビアカツヤカミキリ防除戦略」(令和8年9月11日)
・大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第6版)」(2026年4月)
・東京都環境局「クビアカツヤカミキリ防除の手引」(2026年3月)
・群馬県「クビアカツヤカミキリ 対策の手引き」(令和8年2月改訂)
・埼玉県環境科学国際センター「サクラの外来害虫“クビアカツヤカミキリ”被害防止の手引」(令和8年2月 第8版)
・和歌山県農作物病害虫防除所「令和4年度病害虫発生予察注意報(第2号)」(令和4年6月24日)
・栃木県農業試験場「現地もも園におけるクビアカツヤカミキリ成虫の発生時期の解明と薬剤防除効果の検証」(研究成果集 第41号)
・長野県「クビアカツヤカミキリについて」(2026年10月16日更新)
・環境省「令和8年度特定外来生物防除等対策事業(交付金)の追加公募について」(2026年10月6日)
・わかやま新報「クビアカツヤカミキリ 県が緊急対策実施へ」(2026年10月23日)
・NHK(2026年10月26日、田辺市などの協議会の懸賞金)、共同通信(2026年10月24日配信、東京新聞「2050年の分布の試算」)
・農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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