植栽管理の年間契約をいただいたマンションで、過去の大型台風で高木が数本倒れた経緯を受けて、樹木医が外観診断とレジ(Resi PD500)による機器診断で危険木調査を行いました。2020年4月に公開した調査の記録に、樹木医が見ているところと、マンションの植栽が抱える課題を書き加えました。
※ この記事は、2020年4月10日に公開した調査の記録に、2026年10月、見出しと写真の並びを整え、樹木医の診断の考え方、マンションの植栽の課題、よくある質問を書き加えたものです。調査の内容と写真は公開当時のものです。
先に答え
- マンションの危険木調査は、樹木医が木を一本ずつ外から確かめる「外観診断」から始め、外から判断しきれない木だけを、機器で幹の中まで調べる「機器診断」へ進めます。
- 今回の調査では、木槌での打診、根元の開口空洞の確認、幹周の計測などの外観診断のあと、レジ(Resi PD500)で幹の内部の腐朽や空洞を調べました。
- 調査のねらいは、危険な樹木、経過観察が必要な樹木、健全な樹木を分け、伐るかどうかを決める前に、残せる木を残すための判断の材料をそろえることです。
- 民法第717条第2項は、工作物の占有者・所有者の責任の規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。点検と診断の記録は、管理組合が判断した根拠にもなります。
マンションの植栽で、いま起きていること
最近ではマンション植栽管理、樹木診断のコンサルティングのご依頼を多く頂いております。特に築年数が15〜40年ほどになったマンションの植栽は、次のような様々な問題を抱えている事が多く、多岐にわたるご相談を頂きます。
- 不適切な管理、土壌(植栽基盤)による樹木の異常(枯れ、腐れによるキノコの発生など)
- マンションが建つ前からあった高木樹木(保護樹木)の、徐々に進む樹勢(木の元気さ)の衰え
- 台風での倒木、倒伏被害や枝折れ、落枝
国土交通省の統計では、築40年以上の分譲マンションは2025年末で約158.8万戸あり、2035年末には313.1万戸になると推計されています。建物と同じだけ年数を重ねた樹木が、敷地の中でも増えていきます(「マンション植栽の老朽化は、まず現状評価から」)。

植えたときより大きく育つ──成長と空間のミスマッチ
国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、植栽から長い期間がたった街路樹に大径木化や衰弱化が見られるものが増え、限られた空間で大きく育った木を小さくするための強剪定などで衰弱する、という問題を挙げています(概要・はじめに)。
現場での経験から言えば、同じことはマンションの敷地でも起きています。竣工のときには十分な広さだった植栽地も、数十年たつと、枝が建物の壁や窓、通路、駐輪場とぶつかるようになります。

成長と空間のミスマッチ(当社の説明用イラスト)。植えたときの想定より大きく育ち、標識を隠す、通行を妨げる、自転車や車に枝がかかる
「危ないかもしれない」で伐る・ぶつ切りにする、その前に
危険があるかもしれないから……という事で、マンションの顔にもなりえる高木樹木を伐採してしまったり、植栽をブツ切りの強剪定で無残な姿にしてしまったりするのでは、今後のマンションの資産価値を著しく低下させてしまう事に繋がります。
国総研の手引きは、強剪定によって不定枝・徒長枝・胴吹きが多く出て折れやすい枝が増えること、定期的な強剪定で樹勢が衰え、腐朽菌の侵入や根の衰えの要因になることを挙げています(p.1-79)。強剪定を繰り返した高木に何が起きるかは、「都市の高木は、なぜ手入れできなくなるのか」で書きました。

強剪定(当社の説明用イラスト)。強く切り詰めると切り口から勢いの強い枝が多く出て、数年で元より大きくなる
国土交通省の「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」も、安全性の確保と樹木の健全な育成との両立を求め、異常が認められた樹木をみだりに伐採せず、再生する可能性を念頭に措置を検討することが望ましいとしています(p.4)。公園の樹木のための指針ですが、マンションの敷地の木にも同じ考え方で向き合っています。
敷地の樹木と、管理組合の責任
民法第717条第1項は、土地の工作物の設置や保存に瑕疵があって他人に損害が生じたとき、その占有者・所有者が責任を負うと定め、第2項で、この規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。国交省の指針(案)は、この規定が公園の樹木にも裁判で適用されていること、明らかな危険性は事故の予見が可能なもので、見逃さずに回避することが重要であることを説明しています(p.4〜5)。
マンションの敷地の樹木が明らかに危険な状態にあったと判断されれば、管理組合が責任を問われる可能性があります。個別の事案の法的な判断は弁護士などの専門家の領域ですが、樹木医としては、いつ、誰が、どの木を見て、どう判断したかを記録に残しておくことをお勧めしています。管理者の責任と倒木の原因は「マンション・施設の倒木対策」にまとめています。
木はどこから倒れるのか
国土交通省の全国調査では、令和3年4月から令和6年11月までに、倒木・落枝などの事故が都市公園で931件、道路で801件ありました。都市公園の原因で最も多いのは「腐朽・病害」の298件(32%)です(「国土交通省の全国倒木調査を樹木医が読み解く」)。東京都の都有施設約80万本の一斉点検でも、約13,900本に異状が見つかっています(2026年5月15日の確報。「都有施設80万本の樹木一斉点検」)。

東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、根元は風を受けたときに最も力が加わる場所で、倒木の被害のほとんどは根元からの幹折れや根返りによるものだとしています(p.20)。外観診断で根元を時間をかけて見るのは、このためです。

倒れ方の2つの形(当社の説明用イラスト)。根ごと倒れる根返り(左)と、幹の途中で折れる幹折れ(右)
今回の調査のきっかけ──台風で高木が倒れた経緯のあるマンション
そのような中で今回は、今年度(2020年度)より植栽管理の年間契約を頂いたマンション管理組合様から、危険木の抽出と今後の植栽管理の方針についてのご相談を頂きましたので、一部ご紹介いたします。
過去に大型台風通過時に高木が数本倒木している経緯があり、管理組合様も不安視されていらっしゃいました。その為、次の流れで樹木医による診断を行いました。
①外観の目視や打診等による診断
②機械診断(精密診断)
また弊社では樹木の状態、規模により複数名の樹木医が診断を行い、①、②と合わせて総合的に判断する事で、樹木の現状を正確に把握する事が出来ます。
※ 「精密診断」は2020年当時の呼び方です。東京都の令和3年度のマニュアルで「機器診断」に名称が変わりました(下の「機器診断の役割」)。
樹木医の専門性──何を見て、どう判断しているのか
樹木医という資格
樹木医は、一般財団法人日本緑化センターが平成3年度(1991年度)から認定している資格です。同センターは樹木医を、樹木の調査・研究、診断・治療、公園緑地の計画・設計・設計監理などを通して、樹木の保護・育成・管理や、落枝や倒木などによる人的・物損被害の抑制、後継樹の育成、樹木に関する知識の普及・指導などを行う専門家、と説明しています。
樹木に関する5年以上の業務経験(樹木医補は認定後1年以上)を経て、選抜試験・研修・資格審査に合格した人が登録されます。2025年2月14日には、国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」(公園施設の樹木の点検・診断)にも登録されました。資格の仕組みは「樹木医とは」で説明しています。当社には樹木医が3名在籍しています(2026年10月現在)。
外観診断で見ているところ
東京都のマニュアルは、外観診断には高い専門知識と経験に基づく技術が求められる、と書いています。木全体の樹勢と樹形から活力を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝の状態を見る「部位診断」で組み立て、その結果から外観診断の判定を出します(p.15)。用具には、木槌、鋼棒、シャベル、双眼鏡、巻き尺などが挙げられています(p.15〜16)。

外観診断で見る主な箇所(当社の説明用イラスト)。枝先の枯れ、大枝や根元のキノコ、幹や分岐部の亀裂、虫穴、開口空洞、根元の腐朽などを、上から下まで確かめる
木槌で叩いた音は、明らかに健全な箇所の音と聞き比べて、内部の空洞や腐朽の範囲を推し量ります(p.32)。樹冠の上のほうは、離れた位置から双眼鏡で確かめます。

双眼鏡で樹冠を見る(当社の説明用イラスト)。枝先の枯れや、枝の付け根の裂け・折れを地上から確かめる
同じマニュアルは、判断の正確さを高めるため、また測定と記録を分担し、作業する人と歩行者の安全を確保するため、外観診断はできるだけ複数人で行うことが望ましいとしています(p.15)。外観診断の進め方は「公園の桜を樹木医が外観診断」に、当日の写真とあわせて書いています。
機器診断の役割
機器診断は、外観診断で機器診断が必要とされた樹木に対して行う診断です(p.50)。以前は「精密診断」と呼ばれていましたが、外観診断をより「精密に」行う診断だという誤解を正すため、令和3年度のマニュアルで機器診断に名称が変わりました(p.3)。
東京都の街路樹診断の機器診断は、貫入抵抗測定器(商品名:レジ)によるものを基本としています(p.51)。当社では、細い針で幹の中を線で調べるレジのほか、音の伝わり方で幹の断面を調べるピカスとアーボソニック3Dを、木の状態に合わせて使い分けています。
機器の数値は、それだけで答えになるものではありません。マニュアルも、測定結果は外観診断の結果と併せて総合判定を行うための判断材料の一つとしています(p.45・56)。
| 項目 | 外観診断 | 機器診断 |
|---|---|---|
| 対象 | 診断する全ての木 | 外観診断で機器診断が必要とされた木 |
| 方法 | 目視、木槌の打診、鋼棒、双眼鏡、計測 | レジ、ピカス、アーボソニック3Dなどの機器 |
| 分かること | 樹勢と樹形、根元・幹・大枝の傷みの位置と大きさ | 幹や根株の中の腐朽・空洞の広がり |
| 東京都のマニュアル | p.14〜 | p.50〜 |
東京都のマニュアルの流れに沿って、外観診断の項目と機器診断の数字の読み方を「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)」「同(後編)」で解説しています。
危険木調査の流れ
当社では、マンションの危険木調査を次の順で進めています。
- ご相談と現地の確認: 気になる木、過去の倒木や枝折れの経緯、木の周りの使われ方(通路・駐輪場・駐車場など)をうかがい、現地を確かめてお見積りします
- 外観診断: 樹木医が一本ずつ、目で見て、木槌で叩き、根元や空洞を確かめ、幹周などを測って記録します
- 機器診断: 外観から判断しきれない木だけ、機器で幹や根株の中を調べます
- 総合的な判断: 外観診断と機器診断の結果を合わせて、危険な樹木、経過観察が必要な樹木、健全な樹木に分けます
- ご報告と管理の方針: 診断カルテと報告書で結果をお伝えし、剪定・経過観察・伐採などの管理の方針をご提案します

今回の外観診断
今回の外観診断の様子です。写真のとおり、複数人で進めています。

木槌で幹を叩き、音の違いで内部の空洞や腐朽の手がかりを探す

幹に手を当てて確かめる。根元のまわりの様子もあわせて見る

根元の開口空洞に器具を差し入れ、空洞の中の様子を確かめる

幹周を巻尺で測る。外観診断は複数人で進める
今回の機器診断──レジ(Resi PD500)
機械診断の診断器具には様々なものがありますが、今回はレジ(Resi PD500)を使用しました。
レジは、ドイツのIML社の穿孔抵抗測定器です。東京都のマニュアルは、この種類の機器(貫入抵抗測定器)を、軸径1.5mm、先端幅3.0mmの細いキリを回転させながら貫入させ、そのときにかかる抵抗の高低から材の腐朽や空洞の状態を把握する機器と説明しています(p.51)。抵抗が大きければ材は健全で、抵抗が弱い、あるいはほとんど無い場合は、腐朽や空洞のおそれがあります。

レジ(Resi PD500)を幹に当てて測定する

ベルトで本体を幹に固定して測る

幹に当てたレジの先端。ここから細い針が幹の中へ進む
レジで分かるのは針が通った一直線の上の情報なので、東京都のマニュアルでは、おおむね十字方向の4か所から測定するとしています(p.51)。

レジ(Resi PD500)の画面。針が進んだ深さと抵抗の大きさが波形で表示される

植栽帯の縁に置いたレジの本体
波形の読み方や、t/R率・腐朽空洞率という数字の意味は「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
診断のあとに──結果の伝え方と、その後の管理
樹木医が診断を行う事で、危険な樹木、注意が必要で経過観察を行う樹木、健全な樹木を明らかにして、今後のリスク判断が可能になります。
危ないから伐る、の前に、残せる木は残す判断の材料をそろえるのが診断の役割だと考えています。判定のあとの選択肢には、危険な枝を除く剪定、数年かけて樹冠を小さくする剪定、枝どうしをロープでつなぐケーブリング、経過観察などがあります。人の近くで腐朽が進んだ木は、安全のために伐採を選ぶこともあります。ほかのマンションの例は「高木の樹勢確認とケーブリング支柱点検」「マンション内のイチョウ 樹木医診断(機器診断)」に書いています。
敷地全体の樹木を、残す・更新する・植えるに分ける考え方は「植栽の現状評価と再生方針」、年間の管理は「マンションの植栽管理とは」、植え込みの作り直しは「マンションの植栽リニューアルの進め方」に書いています。
ご相談の前に──気づいておきたいサインと、写真の送り方
幹や根元のキノコ、開口空洞、樹皮の欠け、大枝の腐朽、根元の周りの工事、過去の台風で同じ敷地の木が倒れた・大枝が折れた、といったことは、樹木医に相談する目安になります。ただしキノコは季節によって見えなくなるので、サインが見えないことが安全の証明にはなりません(「マンション・施設の倒木対策」)。
ご相談のときに、木の全体・根元・周りの様子の写真を添えていただくと、話が早く進みます。撮り方は「樹木の写真の撮り方」にまとめています。

ご相談のときの写真は、木の全体と周りの建物が入るように撮る(当社の説明用イラスト)
植栽の管理・診断に豊富な経験と知見がございます。マンションのみならず、神社仏閣の御神木、保護樹木、天然記念物樹木の樹木医診断も多数実績が御座います。植栽についてのご相談をお待ちしています。
よくある質問
Q1. マンションの危険木調査では、何を調べますか?
樹木医が敷地の木を一本ずつ外から確かめる外観診断で、樹勢と樹形、根元・幹・大枝の傷みを調べ、外から判断しきれない木だけを機器診断で幹や根株の中まで調べます。今回の調査では、木槌での打診、根元の開口空洞の確認、幹周の計測のあと、レジ(Resi PD500)で幹の内部を測りました。
Q2. 外観診断と機器診断は、何が違いますか?
外観診断は、目視と木槌・鋼棒・双眼鏡などの用具で、樹木の外観を総合的に診断するものです。機器診断は、外観診断で必要とされた木に対して、レジなどの機器で幹や根株の中の腐朽や空洞を調べます。東京都の令和3年度のマニュアルで、それまでの精密診断は機器診断に名称が変わりました。
Q3. マンションの敷地の木が倒れたら、管理組合の責任になりますか?
民法第717条第2項は、工作物の占有者・所有者の責任の規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。敷地の樹木が明らかに危険な状態にあったと判断されれば、管理組合が責任を問われる可能性があります。点検と診断の記録を残しておくことをお勧めしています。
Q4. 危険と判定された木は、伐るしかないのですか?
伐るしかないとは限りません。危険な枝を除く剪定、数年かけて樹冠を小さくする剪定、枝どうしをロープでつなぐケーブリング、経過観察など、木の状態と周りの使われ方に合わせて選びます。人の近くで腐朽が進んだ木は、安全のために伐採を選ぶこともあります。
Q5. 危険木調査を相談するときは、何を用意すればよいですか?
気になる木の全体・根元・周りの様子の写真があると、話が早く進みます。過去に倒れた木や折れた枝の経緯、木の周りの使われ方(通路・駐輪場・駐車場など)も教えていただけると、調査の範囲を決めやすくなります。
「樹木診断」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 一般財団法人日本緑化センター「樹木医制度」(樹木医の定義、平成3年度からの資格認定事業)、同「樹木医・樹木医補」(研修の受講資格、国土交通省の登録資格。2026年10月10日に閲覧)
- 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.3(精密診断から機器診断への名称変更)、p.14〜16(外観診断の概要・用具・複数人での実施)、p.20(根元の留意事項)、p.32(木槌打診)、p.45(総合判定)、p.50〜51(機器診断、貫入抵抗測定器の特性と4方向の測定)、p.56(測定結果の扱い)
- 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年9月、令和8年3月30日改訂) p.4〜5(基本的考え方、通常有すべき安全性の確保)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料 第1059号、2019年2月) 概要、はじめに(p.i)、p.1-79(強剪定による倒伏・落枝の要因)
- 国土交通省「公園・道路における倒木等事故の全国調査」(令和3年4月1日〜令和6年11月7日の調査) p.1。原因別の件数の読み方は記事 10573
- 東京都「都有施設における樹木の一斉点検の結果について(確報)」(2026年5月15日)
- 国土交通省「分譲マンションストック数の推移」「築40年以上の分譲マンション数の推移」
- 民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) e-Gov法令検索
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
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