ダイナツリー(DynaTree)の仕組みと考え方──自然の風で根元の傾きと幹の伸び縮みを測り、根返りと幹折れの安全率を見積もる方法を樹木医が解説

ダイナツリー DynaTree 風 根元の傾き 幹の伸び縮み 安全率 樹木医

ダイナツリー(DynaTree)は、自然の風の中で根元の傾きと幹のわずかな伸び縮みを数時間記録し、近くで測った風速と統計で合わせて、根返りと幹折れの安全率を見積もるファコップ社の機器です。仕組みと測る条件、静的負荷試験(引張り試験)との違いを、樹木医が解説します。

ハンガリーのファコップ社の樹木診断機器をひとつずつ取り上げる連載の第7回です。第6回では、ロープで樹木を静かに引いて安全率を見積もる静的負荷試験(引張り試験)を紹介しました。今回のダイナツリーは、そのロープの代わりに本物の風を荷重にする機器です。メーカーは「ケーブルの代わりに実際の風を使う、動的な引張り試験」と説明しています。この回も、メーカーの取扱説明書と公開資料、研究論文をもとに紹介します。

先に答え

  • ダイナツリーは、根元に付けた傾き計で根鉢(根と土がひとかたまりになった部分)の傾きを、幹に付けた2台の伸び計で幹の伸び縮みを、近くに立てた風速計で風速を、同時に数時間記録する機器です。
  • 風に揺れる樹木は、瞬間ごとには風速と傾きが対応しません。そこで数分ごとの統計の値どうしを比べ、風圧と傾きの関係の曲線から、根返りが起きる「限界の風圧」を見積もります。
  • 限界の風圧を、その土地で想定する最大風速の風圧と比べたものが安全率です。1.5を超えれば危険は低い、1.0未満は根返りや折れの危険が高い、という読み方は、引張り試験とほぼ同じです。
  • 最大瞬間風速25km/h以上の風が要り、取扱説明書は35km/h以上の突風が見込める日に、3時間以上記録するよう求めています。強い風が来なければ測れないことが、大きな制約です。
  • 幹の安全率は、伸び計を付けた高さの断面についての値です。結果の有効期間は1年とされ、根の近くの工事や強風のあとは、1年以内でも測り直しが要ることがあるとされています。
ダイナツリー DynaTree 風 根元の傾き計 幹の伸び計 エラストメーター 風速計 マスト 安全率 図解

ダイナツリーの考え方。根元の傾き計、幹の伸び計、近くの風速計で、自然の風の中の反応を同時に記録する(イラストは当社作成)

 

ダイナツリーとは──ロープの代わりに、風で引く

引張り試験は、ケーブルを幹の中ほどに掛けて控えめな力で引き、根元の傾きを0.25°未満に抑えて測ります。取扱説明書はこれを確立した方法としつつ、弱みも挙げています。揺さぶる風の荷重を静かな荷重で近似していること、重い機材を運ぶ手間と体力が要ること、風速25km/hを超える日には向かないことです。そこでダイナツリーは、荷重をかける役を風に任せます。製品ページは、実際の風の中で測るので、周りの環境、樹冠、土の状態がすべて結果に含まれる、と説明しています。

なお、同じ仕組みで傾き計と風速計だけを使い、根の支えだけを見るものがダイナルート(DynaRoot)です。ダイナツリーはそれに幹の伸び計(エラストメーター)を足し、根と幹の両方の安全率を出します。ダイナルートは第8回で取り上げます。

なぜ統計で読むのか──風と揺れは、瞬間では対応しない

風で測れば簡単に思えますが、取扱説明書は2つの難しさを挙げています。ひとつは、樹木が幹、大枝、小枝、夏には葉までの複雑な網でできていて、いくつもの振り子がつながったように、予測しにくい揺れ方をすることです。もうひとつは、その結果として、ある瞬間の風速と、その瞬間の幹の傾きのあいだに、直接の相関が無いことです。

ただし説明書は、数分という長めの区間で見た平均などの統計の値どうしには、はっきりした関係がある、としています。そこで記録を数分ずつの区間(既定は5分)に分け、区間ごとの統計の値を並べて、風と傾きの関係を読みます。

ダイナツリー 風速 傾き 時系列 瞬間 統計 5分 相関 模式図

瞬間ごとの風速と傾きはほとんど対応しないが、5分ごとの統計の値にすると関係が見えてくる(値は説明のための例。当社作成)

構成と仕様

取扱説明書(2026年6月版)によると、ダイナツリーは次の4つでできています。

  • 2軸の傾き計: 根元に付け、直交する2方向の傾きを1秒に10回記録します。GPS と記録用の SD カードを内蔵し、外部の12V の電池で動きます。
  • 伸び計(エラストメーター)2台: 幹に縦に付け、幹の表面のごくわずかな伸び縮みを測ります。
  • 風速計: 持ち運べる高さ10mのマストの先に付け、1秒に1回風速を記録します。
  • 解析ソフト: Windows 用のソフトです。風速、伸び、傾きのデータを時刻で自動的に合わせ、図、限界の風圧、相関係数、安全率を出します。
ダイナツリー 傾き計 インクリノメーター 2軸 根元 台板 ボールヘッド 図解

2軸の傾き計。根元にねじ1本で留めた台板に差し込み、根鉢の傾きを2方向で記録する(イラストは当社作成)

部品 取扱説明書(2026年6月版)の仕様
傾き計 測る範囲 ±5°、分解能 0.001°、温度補正あり、1秒に10回、GPS内蔵、SDカード16GB、全天候型(IP65)
伸び計 誘導式(INDEL)、閉じた状態で35×60×270mm、測る長さ(スパン)244mm、1秒に10回、分解能 0.1μm
風速計 測る範囲 0〜150km/h、精度 0.2km/h、1秒に1回、GPS内蔵、SDカード16GB、全天候型
解析ソフト データの自動の結合、風圧と傾きの図、限界の風圧、相関係数、安全率、Windows

出典: Fakopp Kft.「Manual for the DynaRoot and DynaTree evaluation system」(2026年6月11日)p.12〜13

仕様は資料によって違います。2016年のチラシと今の製品ページは、傾き計の範囲を ±2°とし、伸び計も製品ページは差動トランス式(LVDT)でスパン250mm、分解能0.3μm としています。ここでは最新の取扱説明書の値を主にしました。

風速計には2つの型があります。ボール型は、風で回る椀(カップ)で風速を、風見で風向を測ります。超音波型は、向かい合うセンサーのあいだを超音波が届くまでの時間を測ります。風に乗れば早く、風に逆らえば遅く届くので、直交する2組のセンサーの時間の差から風速と風向が分かり、動く部品が無いぶん壊れにくいとされます(Divós ほか 2021、p.82〜83)。製品ページの値は、超音波型が0〜140km/h・保護等級 IP63、ボール型が0〜110km/h・IP65で、どちらも1秒に1回記録します。上の表の0〜150km/h がどちらの型の値かは、取扱説明書には書かれていません。2016年のチラシでは超音波型の値として載っていますが、今の超音波型の製品ページは0〜140km/hで、資料によって値が違います。

ダイナツリー 伸び計 エラストメーター INDEL 幹 伸び縮み ひずみ 図解

伸び計(エラストメーター)。上下2本のねじで幹に留め、そのあいだの幹の表面のわずかな伸び縮みを測る(イラストは当社作成)

ダイナツリー 風速計 超音波 マスト 高さ10m 控えロープ 図解

風速計は、建物などに乱されない開けた所に、高さ10mのマストで立てる(イラストは当社作成)

測り方の流れ

取扱説明書の手順の要点です。

  1. 風の日を選ぶ: 最大瞬間風速が25km/h(秒速約6.9m)以上の日に使います。
  2. 風速計を立てる: マストを組み、先端に風速計を付けて立てます。できれば樹木から1.5km以内に置きます。
  3. 傾き計を付ける: 台板を根元のできるだけ地面に近い所にねじで留め、ボールヘッドと2本の水準管で水平に合わせ、本体を差し込んでボルトで留めます。電池につなぎ、付属の磁石の棒で側面のボタンを押して記録を始めます。
  4. 伸び計を付ける: 2台を、幹の中心(髄)から見て互いに90°の位置に、幹の向きと平行に付けます。上下のねじで留めたあと、あごを開いて、幹のしなりに合わせて中の柱が自由に動けるようにします。
  5. 待つ: 3時間以上記録します。付けたあとは、見張っている必要はありません。
  6. 止めて、データを移す: 記録を止め、SD カードを抜くか Wi-Fi でデータを移します。伸び計は、留めねじを外す前に必ずあごを閉じます。中の部品を傷めないためです。
  7. 解析する: ソフトで、その地域で想定する最大風速(基準の風速)を指定し、風と傾きの大きい時間帯を選んで、安全率を出します。
ダイナツリー 伸び計 エラストメーター 位置 髄 90度 幹と平行 模式図

伸び計2台は、幹の中心(髄)から見て互いに90°の位置に、幹の向きと平行に付ける(取扱説明書 p.14・p.16 をもとに当社作成)

安全率の出し方

ソフトは、区間ごとの風速を風圧(空気の密度×風速の2乗÷2)に換え、傾きとの点を図に打って曲線を当てはめます。取扱説明書によれば、風圧と傾きのあいだには正接(タンジェント)を含む形の関係があり、その曲線から、根返りが起きる限界の風圧を求めます。同社の引張り試験でも根返りの曲線に正接を含む式を使い、Buza 氏と Divós 氏の総説(2016年)は、根返り試験の力と傾きの関係に正接の関数がよく合うとしています。

実際の画面では、曲線のうち、ほぼ直線に見えるごく一部しか測れないことが多いと説明書は書いています。限界の風圧は、その一部を伸ばして求める値です。そのためソフトは、限界の風圧に誤差の幅を添え、点が曲線にどれだけ合っているかを相関係数(1が完全)で示します。

ダイナツリー 風圧 傾き 曲線 外挿 限界の風圧 基準の風圧 安全率 模式図

風圧と傾きの関係。測った範囲の曲線を伸ばして、根返りが起きる限界の風圧を見積もる(値は説明のための例。当社作成)

安全率は、限界の風圧を、基準の風速での風圧で割った値です。読み方は引張り試験とほぼ同じで、1.5を超えれば危険は低い、1.0〜1.5は中程度、1.0未満は根返りや折れの危険が高い、とされます。ここで、説明書は2つの注意を枠で囲んで書いています。

  • 安全率は、指定した最大風速しだいで変わります。危険が低いと出た樹木でも、指定より強い風が吹けば、倒れたり折れたりすることがあります。
  • 幹の安全率は、伸び計を付けた断面の安全率です。ほかの高さの安全率は、幹の状態によって違うことがあります。

幹の安全率について、ダイナツリーの説明書は「計算は引張り試験とほぼ同じで、力の代わりに風圧を使う」とだけ書いています。ファコップ社の引張り試験の説明書では、幹がしなっても元に戻る範囲の限界(線形の弾性限界。樹種ごとの値)まで、測った伸び縮みの直線を伸ばして、幹が傷み始める荷重を求めます。説明書が断っているとおり、ほかの高さの幹の状態はこの値に表れないので、幹の上の方の欠陥は別の方法で診ることになります。

ダイナツリー 安全率 基準の風速 最大風速 1.5 1.0 判定 計算図

同じ樹木でも、想定する最大風速を上げれば安全率は下がる。安全率は、指定した風速に対する値として読む(計算の例。当社作成)

測る条件と、結果を読むときの注意

風の強さと記録の長さ

取扱説明書は、風が強いほど測定は正確になるとしています。必要な風速は箇所によって書き方が違い、操作の手引きと製品ページは「最大瞬間風速25km/h以上」、条件の章は「最低35km/h」です。ソフトは、最大瞬間風速が25〜35km/hのとき、突風が弱いという警告を出します。

条件 取扱説明書の目安
最大瞬間風速 25km/h以上(秒速約6.9m)、35km/h以上(秒速約9.7m)の突風が見込める日に測る
平均風速 12.5km/h以上
記録の長さ 3時間以上、長いほど良い
統計の区間 5分(既定)、風速計が近ければ2分も可、300m以上離れるなら10分
風速計の高さ 地上10m
風速計との距離 樹木からなるべく近く、1.5km以内
風速計の周り 交通の多い道路から30m、風上の高い物からはその高さの10倍以上

出典: 同取扱説明書 p.7〜11、p.14

風速計の置き方で、結果が変わる

風速計は、樹木に当たる風を代表していなければなりません。説明書は、建物のすき間の風の通り道や渦の生じる所に置くことを、誤りに挙げています。樹木が高い建物の陰にあれば、開けた所より安全率は高く出て、その値は風を直接受けたときの判断には使えません。根が片寄った樹木でも、風向で安全率が変わるので、風向の違うデータはまとめずに解析する決まりです。

ダイナツリー 風速計 置き方 高さ10m 建物の陰 風の通り道 道路から30m 1.5km 配置図

風速計の置き方。開けた所に高さ10mで立て、建物の陰やすき間の風の通り道を避ける(取扱説明書 p.7・p.9〜11 をもとに当社作成)

ファコップ社が公開している事例資料(2021年)には、同じ樹木で風速計の高さを10m・5m・4mに変えた測定があります。根元に付けた5台の傾き計の安全率は、高さ10mのとき0.76〜0.84、5mで0.57〜0.60、4mで0.35〜0.38でした。高さごとの測定は別々に行われ、最大瞬間風速も50・31・25km/hと違うため、差のすべてが高さによるとは言えませんが、高さの決まりが結果を大きく左右しうることは読み取れます。

傾き計の位置と、目で見る兆し

傾き計は、根と一緒に動く所に付けなければ意味がありません。説明書は、板根の上、根元の腐朽した所、割れのある根元、幹の高すぎる所を避け、株立ちや入り皮のある二又では幹ごとに傾き計を付けるよう求めています。心材のできていない若い樹木(広葉樹で胸高直径30cm未満、針葉樹で40cm未満)も対象外です。

ダイナツリー 傾き計 付ける位置 根元 地際 板根 腐朽 割れ 避ける所 図解

傾き計は、地際に近い健全な根元に付ける。板根の上、腐朽や割れのある所、幹の高い所では、根と一緒に動かない(取扱説明書 p.8 をもとに当社作成)

さらに説明書は、根返りの兆しが目に見えるときは、安全率を当てはめず、別の解釈や別の試験が要るとしています。挙げられているのは、根鉢のずれ、急な土壌水分の変化や冠水、樹木から放射状に走る土の割れ、根鉢を囲む土の割れ、風上側の土の盛り上がり、風下側の土のくぼみ、最近傾いた樹木です。どれも外観診断で根元の周りを見る項目と重なり、まず目で見ることが前提です。

結果の有効期間

結果の有効期間は1年です。測るのは今の安定と、伸び計を付けた所の幹の強さで、樹木の健康や活力、寿命は評価しない、と説明書は断っています。1年以内でも、次のような出来事があれば測り直しが要ることがある、としています。

測り直しが要る例 中身(取扱説明書の挙げ方)
根の損傷 根の切断・破断・溝掘り、主な支持根や根鉢の傷み
菌の感染 根の強い感染、二次的な病原の定着
周りの変化 建物の新築や撤去、近くの樹木の伐採
根元での穿孔試験 腐朽を閉じ込める区画化の層を開き、菌の入口になるおそれ
土の変化 土壌水分の大きな増加(飽和)、局所的な浸食・耕起・締め固め
強い風 最大瞬間風速100km/h超

出典: 同取扱説明書 p.6

メーカーは、結果の見直しで安全率の計算に99.5%の信頼性を示した、と説明書に書いています。ただし、その見直しの本数や方法は説明書には書かれていません。

静的負荷試験(引張り試験)との違い

取扱説明書は、2つの方法を表で比べています。その内容に、ここまでの説明を加えて整理しました。

項目 静的負荷試験(引張り試験) ダイナツリー
荷重 ロープとウインチで引く静かな荷重 自然の風の揺さぶる荷重
機材の重さ ケーブル・スリング・ウインチ・ロードセル・はしご・傾き計で約50kg 風速計・傾き計・伸び計で約20kg
かかる時間 1本につき1〜3時間 何本かまとめて3時間以上
安全率の計算に要るもの 樹冠の面積、空気抵抗の係数、限界の風速 限界の風速だけ
天気 風速25km/h未満 風速25km/h超
結果が出る時期 試験をしたその日 十分な風が吹いたあと

出典: 同取扱説明書 p.2・p.11(表1と本文)をもとに当社作成

2つは、風の弱い日と強い日で使い分ける関係です。ダイナツリーが樹冠の面積や空気抵抗の係数を見積もらずに済むのは、樹冠の大きさも形も、測った反応そのものに含まれているからです。

IML社のツリーキネティックで行う引張り試験は、IML連載の第7回で紹介しました。根元の傾きを自然の風の中で測る機器には、IML社のツリーモーションもあります。

研究から見えること

季節と天気で、安全率は変わる(2020年)

Fathi 氏、Bejó 氏、Divós 氏は、ハンガリーのショプロン大学の植物園で、セイヨウトチノキ、ケヤキ、ジャイアントセコイア、ダグラスファーの4本を、季節と天気を変えて3回ずつ測りました。使ったのは傾き計と風速計の構成(ダイナルート)で、1回の記録は10〜24時間です。著者の Divós 氏はファコップ社の代表で、機材も同社が提供しています。

樹種 測った条件と安全率
セイヨウトチノキ 春・乾 9.6、秋・乾 14.12、秋・雨 6.69
ケヤキ 春・乾 3.58、秋・乾 5.19、冬・雪 4.92
ジャイアントセコイア 春・乾 6.08、秋・乾 6.5、秋・雨 8.56
ダグラスファー 早春・乾 2.92、冬・乾 3.84、冬・雪 2.99

出典: Fathi, Bejo & Divos (2020) 表1・表2。基準の風速は33m/s(約119km/h)。原文の天気の欄の Dry を「乾」、Rainy を「雨」、Snowy・Snow を「雪」とした

4本とも安全率は1.5を超えていましたが、値は条件で大きく動きました。広葉樹の2本は、葉の落ちた秋の乾いた日に、春より4割あまり(セイヨウトチノキ47%、ケヤキ45%)高く出ています。葉があると同じ風でも根元にかかる力が増えるため、と著者らは説明しています。根の浅いセイヨウトチノキは雨の日に大きく下がり、ジャイアントセコイアは逆に上がりました。4本だけの研究で、著者ら自身も結論は限られると書いていますが、同じ樹木でも、いつ測ったかで安全率が変わりうることは覚えておきたい点です。

独立した検証は、まだ見つけられていない

今回調べた範囲では、メーカーから独立した研究者が、ダイナツリーやダイナルートの安全率を、同じ樹木の引張り試験の結果と比べた論文は見つけられませんでした。上の研究も、メーカーの代表が加わった研究です。引張り試験と風の中の測定を同じ樹木で行い、それぞれから安全率を見積もった研究は、メーカー以外にもイタリアと英国の大学の研究者らが2本の樹木で行った例(Marsiglia ほか、2023年)がありますが、本文を読めず、使った機器は確かめられませんでした。強風の中で根元の傾きを測り、根の支えを読む考え方そのものは、ドイツの Göcke 氏らが都市の樹木204本を3年間測った研究(2018年)など、別の機器を使った研究も重ねられています。ダイナツリーの数字の確からしさは、これから報告が積み上がるのを見ていきたいと考えています。

当社の考え方

当社は、幹の内部をアーボソニック3Dやピカス、レジ(Resi PD)で診て、根元や根張り、根元の周りの土の割れや盛り上がりを外観診断で診ています。断面の画像から分かるのは、測った高さの幹の中の様子です。樹木が風にどう耐えるかは、断面の画像からは直接には分かりません。

ダイナツリーは、その「風にどう耐えるか」を、本物の風で測ろうとする機器です。取扱説明書を読んで印象に残ったのは、安全率を当てはめてはいけない場面を、具体的に数多く書いていることでした。どれも、数字の前に現場をよく見ることを求めています。

私の見方では、こうした機器の数字は、外観診断で何を見たかと組み合わせてはじめて意味を持ちます。安全率は、指定した風速、測った季節、伸び計を付けた高さという前提の上の値です。当社では、どの方法の数字も、その前提と一緒に読み、樹木を残す判断と安全の確保の両方に役立てたいと考えています。

株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、樹木医が外観診断から機器診断、報告書の作成、その後の管理計画までを一貫して担当しています。ご依頼は、マンション管理組合様、学校施設、寺社の御神木など様々です。倒木が心配な樹木がありましたら、樹木診断のサービスページをご覧のうえ、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。

次回は、同じ仕組みで傾き計と風速計だけを使い、根の支えを診る機器、ダイナルート(DynaRoot)を取り上げます。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくあるご質問(ダイナツリー DynaTree について)

Q1. ダイナツリーでは何を測りますか?

A. 自然の風の中で、根元の傾き(傾き計)、幹の表面の伸び縮み(伸び計2台)、風速(風速計)を、同時に数時間記録します。そのデータを統計で合わせ、根返りと幹折れの安全率を見積もります。

Q2. 静的負荷試験(引張り試験)とは何が違いますか?

A. 引張り試験はロープとウインチの静かな荷重で、風の弱い日に1本ずつ行い、その日に結果が出ます。ダイナツリーは風の揺さぶる荷重を使い、風の強い日に何本かをまとめて測れます。樹冠の面積や空気抵抗の係数を見積もらずに済む一方、十分な風が吹くまで結果は出ません。

Q3. どれくらいの風が要りますか?

A. 取扱説明書は、最大瞬間風速25km/h(秒速約6.9m)以上を下限とし、35km/h(秒速約9.7m)以上の突風が見込める日に、3時間以上記録するよう求めています。風が強いほど結果は正確になるとされます。

Q4. 風速計は樹木のすぐ横に必要ですか?

A. 近いほど良いとされますが、1.5km以内なら使えるとされています。高さ10mの開けた所に立て、建物の陰やすき間の風の通り道を避けます。300m以上離れるときは、記録を長くし、統計の区間を10分にするよう勧められています。

Q5. 安全率はどう読めばよいですか?

A. 1.5を超えれば危険は低い、1.0〜1.5は中程度、1.0未満は根返りや折れの危険が高い、と読みます。ただし、安全率は指定した最大風速に対する値で、それより強い風では倒れることもあります。幹の安全率は、伸び計を付けた高さの値です。

Q6. 一度測れば、ずっと有効ですか?

A. 取扱説明書は、結果の有効期間を1年としています。根の近くの工事や根の切断、根の菌の感染、周りの建物や樹木の変化、土の飽和や締め固め、100km/hを超える強風などがあれば、1年以内でも測り直しが要ることがあるとしています。季節や天気によって安全率が変わったという研究もあります。

Q7. ピカスなどの機器診断の代わりになりますか?

A. 代わりにはなりません。ダイナツリーが示すのは、根の支えと、伸び計を付けた高さの幹の安全率で、幹の中の腐朽の広がりや場所は分かりません。また、取扱説明書は、樹木の健康や活力は評価しないとしています。外観診断や断面の機器診断と組み合わせて読む情報です。

 

出典・参考情報

メーカーの資料(いずれも2026年10月に確認)

・Fakopp Kft.「Manual for the DynaRoot and DynaTree evaluation system」(PDF・英語、2026年6月11日) 引張り試験との比較(p.2・p.11)、統計で読む理由(p.3〜4)、構成(p.4〜5・p.12〜13)、測る条件と使い方の誤り(p.6〜11)、操作と解析(p.14〜24)
・Fakopp Kft.「DynaTree」製品ページ(英語) 概要、手順、同梱品、仕様
・Fakopp「DynaRoot Dynamic root evaluation system」チラシ(PDF・英語、2016年)
・Fakopp「Inclinometer position and anemometer height test」事例資料(PDF・英語、2021年)
・Fakopp Kft.「Pulling Test Manual」(PDF・英語、2026年3月25日) 根返りと幹の安全率の考え方(p.8〜13)
・Fakopp Kft.「UltraSonic Anemometer」製品ページ(英語)・「Ball Anemometer」製品ページ(英語) 風速計の仕様

研究

・Fathi, S., Bejo, L. & Divos, F. (2020) Investigating the Effect of Weather and Seasonal Factors on Root Stability Using Dynamic Measurements. Open Journal of Forestry 10: 124–134 季節と天気による安全率の違い、風圧と安全率の式(式1・2)
・Buza, Á.K. & Divós, F. (2016) Root Stability Evaluation with Non-Destructive Techniques. Acta Silvatica et Lignaria Hungarica 12(2): 125–134
・Göcke, L., Rust, S. & Ruhl, F. (2018) Assessing the anchorage and critical wind speed of urban trees using root-plate inclination in high winds. Arboriculture & Urban Forestry 44(1): 1–11
・Marsiglia, A., Galli, A., Marrazzo, G., Castellanza, R. & Ciantia, M.O. (2023) Uprooting Safety Factor of Trees from Static Pulling Tests and Dynamic Monitoring. Geotechnical Engineering in the Digital and Technological Innovation Era: 218–225 書誌と要旨だけを確認
・Divós, F., Buza, Á.K., Bejó, L., Kolařík, J. ほか (2021) Advanced tree assessment – manual for professionals: Instrumental tree assessment(Erasmus+ Tree Assessor 事業の教材。PDF・英語) 風速計の2つの型(p.82〜83)

 

樹木診断機器(ピカス・レジ・アーボソニック3D)の記事

機器の解説・導入・研修

・ファコップ(Fakopp)の静的負荷試験(引張り試験)──根元の傾きと幹の伸び縮みから根返りと幹折れの安全率を見積もる方法と、動的な試験との違いを樹木医が解説
・マイクロセコンドタイマー(Microsecond Timer)の仕組みと使いどころ──幹の2点間を音が伝わる時間を測るファコップ社の機器と、ツリーソニックタイマー・ウルトラソニックタイマーを樹木医が解説
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・レジ(Resi PD)の根株診断カルテの読み方 俯角40度・補正直径・未測定部分を、実際のカルテで樹木医が解説
・レジ(Resi PD)の診断カルテの読み方 実際のカルテで、9つの欄を樹木医が1つずつ解説
・樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編) 機器診断のt/R率と腐朽空洞率、総合判定、処置、フォローアップ診断
・樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編) 東京都の街路樹診断等マニュアルの流れで、樹木点検と外観診断の18項目を解説
・アーボソニック3Dの使い方を、道具から断面画像の色の見方まで──取扱説明書と現場の写真で樹木医が解説
・アーボソニック3Dとは何か 音で幹の断面を樹木診断する診断機器を、樹木医が一般の方向けに解説します
・レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か。樹木医がレジ(Resi PD)で幹の中を「針」で診る機器診断を、一般の方向けに解説します
・ピカス(PiCUS)とは何か。音波と電気抵抗で幹の断面を診る樹木診断機器を、樹木医が解説します
・樹木診断機器Resi PD500の「Overload feed motor」エラー 原因は針でも設定でもなく、テレスコープ内のサポーターの曲がりでした
・音で、樹木の中を視る 非破壊樹木診断機器「ドクターウッズ」
・樹木診断 無料モニター募集
・PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 樹木診断(機器診断) 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・樹木診断機器 IML社製 レジ(Resi PD)について
・樹木模擬診断研修会を終えて 人の眼 × 機械の眼が拓く、新しい都市樹木管理のかたち
・東京都「街路樹診断等マニュアル」の要点と、国土交通省の点検・診断の指針(案)──大型化・老木化する街路樹・公園樹木の管理を樹木医が解説
・樹木医がイギリスの樹木診断に学ぶ ― 都市の樹木を守るための対話と発見

機器診断の記録

・山梨県都留市・西涼寺様 樹木医による霊木ケヤキの樹木診断 ピカス・ツリートロニック・レジとドローンで診た結果と、残すための3つの対策
・埼玉県内の伝統校 樹木医によるクスノキ2本の機器診断 ピカスで幹の内部を診る
・樹木医が街路樹エンジュの樹木診断と伐採後の腐朽具合の答え合わせ
・山形県での出張樹木診断 樹木医によるピカス、レジでの診断検証
・診断した木を、その日のうちに伐る──ピカス・アーボソニック3D・レジを同一木のサクラで比べた「樹木診断機器比較研修会」千葉県習志野市
・都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本(速報)の「異状あり」を、樹木医はどう読むか
・港区三田 薬王寺様の境内 樹木診断 地上と樹上、樹木医がふたつの視点で木の内側を読む
・砧公園で4回目の倒木 樹木医として思うこと
・【ツリーケア最前線】樹木医が語るレジ(Resi PD)診断とロープワークの統合 相模原市での樹木診断レポート
・樹木医による都内の学校施設でのサクラの樹木診断 豊島区
・学校施設 ケヤキなど樹木医診断 東京都
・公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断(レジ) 東京都
・マンション内のイチョウ(銀杏) 樹木医診断(機器診断) 東京都大田区
・公園のサクラ(桜)を樹木医が樹木診断(機器診断)しました
・樹木医 保存樹木サクラ等 樹木診断 東京都杉並区
・学校施設内 桜(サクラ)樹木医診断 東京都
・銀杏岡八幡神社 台東区浅草橋 樹木医診断
・樹木医 サクラ樹木診断(機器診断・レジ)
・樹木医がマンション植栽の危険木調査を行いました

サービス

・樹木診断(ツリーリスクアセスメント部門)
・GREEN MANAGEMENT

 

※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は Frank Rinn 氏(ドイツ)の登録商標(製品は RINNTECH 社)で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

※ この記事の製品名(DynaTree、DynaRoot、UltraSonic Anemometer、Ball Anemometer、ArborSonic 3D、PiCUS TreeQinetic、PiCUS TreeMotion など)は、各社の商標または登録商標です。

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