外から見ただけでは、幹の中がどれだけ腐っているかはわかりません。レジストグラフ(Resi PD)は、先端幅約3mmの細い針を幹に差し込み、木材の硬さを数値で記録する樹木診断機器です。樹木医が、仕組み・わかること・判定の目安・限界を一般の方向けに解説します。
マンションの管理組合や神社の総代さんから、「この木、外から見る限り元気そうなのに、本当に倒れる心配があるのですか」と聞かれることがあります。逆に、「業者に伐採を勧められたけれど、根拠を示してもらえなかった」という相談も少なくありません。どちらの場合も、幹の中の状態を数字で示せれば、話は前に進みます。そのための道具のひとつが、私たちが「レジ」と呼んでいるレジストグラフです。
- 樹木医 樹木診断 機器診断 アーボソニック3D ピカス レジ
- 樹木診断 樹木医 外観診断 機器診断 レジ レジストグラフ 街路樹 サクラ ケヤキ
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レジストグラフとは──細い針で幹の「硬さ」を記録する機器
レジストグラフは、ドイツのIML社が製造する穿孔抵抗測定器です。正式な製品名はIML-RESI PDシリーズで、当社ではPD500という機種を使っています。仕組みは単純で、電動モーターで細い針を一定の速さで回転させながら幹に差し込み、針が進むときにかかる抵抗を連続的に記録します。健全で硬い材では抵抗が高く、腐って柔らかくなった材では抵抗が下がり、空洞では抵抗がほぼゼロになります。
針の寸法は、軸の太さが1.5mm、先端の刃の幅が3.0mmです。IML社の説明でも、東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」でも、この数字で一致しています。「直径1.5mmの穴」と紹介されることがありますが、正確には先端が3mmで穴を切り、そのあとを1.5mmの軸が通っていく、という構造です。測定できる深さは機種によって20cmから100cmまであり、PD500なら幹の中心まで50cmまで届きます。
IML社の現行機種(PDシリーズ)には、もうひとつ特徴があります。針を回す力(回転抵抗)だけでなく、針を押し込む力(送り抵抗)も別のモーターで同時に記録することです。針が深く進むほど削りくずが軸にまとわりつき、回す力の記録は右肩上がりになりがちですが、押し込む力はその影響を受けにくい。腐朽が始まったばかりの、わずかな軟化を見つけるときに、この2本目の曲線が役に立ちます。

結果はグラフで出る──健全・腐朽・空洞の波形の違い
測定が終わると、横軸に針が進んだ深さ(cm)、縦軸に抵抗の大きさ(%)をとった折れ線グラフが本体の画面に表示されます。私たちはこれを「波形」と呼んでいます。健全な材では波形が高い位置で安定し、樹種によっては年輪の山谷まで読み取れます。腐朽した部分に入ると波形が落ち込み、空洞では底に張りつきます。腐朽の境目に、樹木が菌の侵入を食い止めようとして作った硬い層(防御層)が、小さな山として現れることもあります。
ここで大事なのは、レジストグラフが教えてくれるのは「針が通った一直線の上」の情報だけだ、ということです。幹の断面全体を映し出すわけではありません。だからこそ、東京都のマニュアルでは、原則として十字方向の4か所から測定し、根株を診るときは地際から斜め下に向けて針を入れる、と決められています。1本の針の記録を、4方向分あわせて初めて、幹の中のおおよその姿が見えてきます。
何がわかるのか──t/R率と腐朽空洞率という2つの数字
波形から読み取る数字は、大きく2つです。
ひとつはt/R率。針を入れた方向で、外側に残っている健全な材の厚さ(t)を、幹の半径(R)で割った値です。たとえば半径30cmの幹で、健全な材が外側に12cm残っていれば、t/R率は0.4になります。もうひとつは腐朽空洞率で、4方向の測定結果から、幹の断面のうち腐朽や空洞が占める割合を面積に換算した参考値です。
東京都建設局のマニュアルは、t/R率が0.3を下回ると倒木の可能性が高くなり、これを面積に直すと腐朽空洞率がおおむね50%以上にあたる、と説明しています。t/R率0.3未満は「折損の危険性が高い場合があるため、注意を要する」要素として、総合判定で考慮することになっています。
この0.3という数字は、ドイツの研究者マテック(Claus Mattheck)らが多数の倒木・立木を調べ、腐朽部の半径が幹の半径の7割を超えると折れた樹木が立っている樹木を上回った、という調査に由来します。国土交通省国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き」(初版、2012年)も、同じ調査を根拠に、t/R率0.3未満と腐朽空洞率50%以上を危険な区分に置いています。
ただし、ここは正直に書いておきます。腐朽空洞率は幹の断面を円と仮定した計算値で、腐朽が片側に偏っている場合は実態とずれます。マニュアル自身も「機器診断の結果だけで総合判定を出してはならない」と明記しています。数字はあくまで判断の材料で、最後は外観の所見、キノコの有無、立地(風当たり、人や建物との位置関係)を重ねて、樹木医が判断します。

どんな樹木に必要なのか──外観診断の「ふるい」を通ったあとの検査
レジストグラフは、すべての樹木に使うものではありません。まず外観診断で、幹の傷、開口した空洞、キノコの発生、木槌で叩いたときの音、根元の揺れなどを調べます。そこで「中を確かめる必要がある」と判断した樹木にだけ、機器を当てます。東京都のマニュアルも、外観診断でB2(腐朽が進んでいる可能性が高い)と判定された街路樹のほとんどは機器診断が必要、という立てつけになっています。
具体的には、次のような樹木が対象になります。根元にベッコウタケやコフキタケなどの子実体(キノコ)が出ている。打診の音が鈍い範囲が広い。樹皮が枯れた部分や開口空洞が幹周りの3分の1を超えているなどの樹木です。
最後の例は、私たちが最も多く相談を受けるところです。「危険だから伐る」で終わらせず、「どこまで健全な材が残っているか」を測ってから決める。残せる樹木は残し、残せない樹木は根拠を示して更新する。レジストグラフの数字は、その両方の判断を支えてくれます。
- 根株診断 レジ レジストグラフ ベッコウタケ キノコ 倒木
- 根株診断 レジ レジストグラフ ベッコウタケ キノコ 倒木
穴を開けて樹木は大丈夫なのか──研究が示す限界と、私たちの使い方
一般の方から必ず聞かれる質問です。針の穴は先端で3mm、軸で1.5mmですから、樹木全体から見ればごく小さな傷です。IML社も、穿孔による損傷は最小限に抑えられると説明しています。そのうえで針を入れるのは、外観診断で本当に必要と判断した樹木だけ。方向と本数は必要最小限にする。針は測定ごとに消毒する。そして、同じ樹木に毎年のように針を入れることはしません。東京都のマニュアルも、かつてB2判定の樹木に毎年機器診断を課していた運用を「樹体への悪影響が懸念されていた」として改め、外観中心のフォローアップ診断に切り替えています。
ピカス・アーボソニック3Dとの違い──「線」で測るか、「面」で見るか
当社はレジストグラフのほかに、ピカスとアーボソニック3Dも使っています。どちらも幹のまわりに小さな釘を浅く打ち、音波が幹の中を伝わる速さから断面の画像をつくる機器です。
使い分けは、こう考えています。ピカスやアーボソニック3Dは幹の断面全体を「面」で映し、腐朽がどのあたりにどう広がっているかをつかむのに向いています。レジストグラフは「線」で測り、残っている健全な材の厚さをmm単位で数字にするのに向いています。音波の画像は、亀裂や湿った材があると腐朽を大きめに、あるいは小さめに映すことがあるため、怪しい箇所にレジストグラフの針を入れて確かめる、という順番が理想です。当社では2026年に千葉県習志野市で、同じサクラを3つの機器で診断したあと伐倒して断面と照らし合わせる研修会を行いました。
診断の流れと、そのあとに起こること
当社の機器診断は、外観診断から始まります。現地で樹木の全体を見て、必要な樹木を選び、レジストグラフなら4方向から測定します。測定そのものは1方向あたり1~2分前後、樹木1本で20〜30分が目安ですが、高所作業車が必要な場合や本数が多い場合は別に工程を組みます。費用は外観診断とあわせて1本あたり数万円からで、樹木の大きさ、本数、高所作業の有無、カルテの作成範囲によって変わります。
結果は、波形グラフと写真、t/R率、腐朽空洞率、総合判定を1枚にまとめた診断カルテとしてお渡しします。東京都のマニュアルに準拠した様式ですので、管理組合の理事会や役所への説明資料としてそのまま使えます。
幹の中は、開けてみるまで誰にもわかりません。だからこそ、樹木診断は樹木を残す努力と、人の安全を守る責任の両方に応える方法だと、私は思っています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
レジストグラフについてよくある質問
Q1. レジストグラフとは何ですか。
ドイツのIML社が製造する樹木診断機器で、細い針を回転させながら幹に差し込み、針にかかる抵抗を連続記録して木材の硬さを調べる装置です。正式名称はIML-RESI PDシリーズで、日本では「レジ」「貫入抵抗測定器」とも呼ばれます。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルは、機器診断の標準機としてこの貫入抵抗測定器を指定しています。
Q2. レジストグラフで何がわかりますか。
針を入れた方向の、幹の内部の腐朽と空洞の位置、および外側に残っている健全な材の厚さがわかります。4方向の測定から、健全材の厚さを半径で割ったt/R率と、断面に占める腐朽空洞率を算出します。東京都のマニュアルでは、t/R率0.3未満・腐朽空洞率50%以上が倒木の可能性が高くなる目安とされています。
Q3. 針で穴を開けて、樹木に悪い影響はありませんか。
針は先端幅3.0mm・軸径1.5mmと細く、損傷は小さく抑えられます。ただし、すでに腐朽菌が入っている樹木では、削りくずが穴に残って腐朽の広がりを助けることがあると2005年の研究で報告されています。そのため、外観診断で必要と判断した樹木だけに、必要最小限の方向・本数で実施し、針は測定ごとに消毒します。
Q4. どんな樹木にレジストグラフの診断が必要ですか。
根元にベッコウタケなどのキノコが出ている、打診で鈍い音が広い範囲に出る、開口空洞が幹周りの3分の1を超える、といった所見のある樹木です。過去に倒木の多い樹種の大径木や、伐採か保存かで意見が分かれている樹木も対象になります。すべての樹木に使うのではなく、外観診断で絞り込んだ樹木に行います。
Q5. 診断にはどのくらい時間がかかりますか。
測定は1方向あたり1~2分前後で、標準の4方向を測ると樹木1本あたり20〜30分が目安です。高所の幹を診る場合は高所作業車の手配が必要になり、別途工程を組みます。カルテの作成は現場作業とは別に行います。
Q6. 費用はどのくらいですか。
外観診断とあわせて、樹木1本あたり数万円からが目安です。樹木の大きさ、本数、高所作業の有無、報告書の作成範囲によって変わりますので、現地確認のうえでお見積りします。
Q7. ピカスやアーボソニック3Dとは何が違いますか。
ピカスとアーボソニック3Dは音波で幹の断面全体を画像化する「面」の診断で、樹体への負担が小さい反面、腐朽の厚さをmm単位で示すことはできません。レジストグラフは針を通した「線」の上で健全材の厚さを数字にできます。全体像は音波で、境界の厚さはレジストグラフで確かめる併用が理想です。
Q8. 診断の結果はどんな形で受け取れますか。
波形グラフ、写真、測定位置、t/R率、腐朽空洞率、総合判定を1枚にまとめた診断カルテでお渡しします。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルに準じた様式で、管理組合の理事会や行政への説明資料に使えます。
Q9. 診断のあとはどうなりますか。
東京都のマニュアルを基準にすると、A・B1判定は通常管理を続けて5〜10年後に再診断、B2判定は風圧を減らす剪定や支柱などの処置を行って1〜3年後にフォローアップ診断、C判定は更新(撤去・植え替え)を検討します。数字だけで決めず、外観所見や立地とあわせて樹木医が総合的に判断します。
Q10. 樹木診断は何年ごとに受ければよいですか。
同じ樹木に毎年レジストグラフの針を入れることは避け、樹木の状態により1~5年内で定期的な外観診断で変化を追い、必要なときにだけ機器診断を行うのが基本です。
出典・参考情報
・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」本編(PDF)・参考資料(PDF)
・国土交通省国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き」(国総研資料第669号、2012年)(PDF)
・IML社「Drilling resistance and feed force measurement」(IML-RESI PDシリーズの測定原理)(PDF)
・IML社「Drilling resistance measuring device for the professional inspection of trees and wood」(ページ)
・Kersten, W. & Schwarze, F.W.M.R. (2005) Development of decay in the sapwood of trees wounded by the use of decay detecting devices. Arboricultural Journal 28(3): 165–181(要旨)
・Johnstone, D. et al. (2010) The Measurement of Wood Decay in Landscape Trees. Arboriculture & Urban Forestry 36(3): 121–127(ページ)
・エフティーエス株式会社「倒木の原因とは?見えない内部腐朽と樹木診断の重要性」(ページ)
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