音で、樹木の中を視る 非破壊樹木診断機器「ドクターウッズ」

先日、日本樹木医会神奈川県支部の技術実習に参加いたしました。樹木内部診断装置「ドクターウッズ」を用いて木の内部を観察する見学会で、講師は後藤樹木医です。木を伐ることなく、幹の内部に生じた空洞や腐朽を把握する。その非破壊診断の実際を学ぶ、貴重な機会となりました。本稿では、当日学んだ内容を、診断の原理に沿って整理してご報告いたします。

ドクターウッズ 樹木医 樹木診断

ドクターウッズ 樹木医 樹木診断

伐らずに樹木内部を診る装置「ドクターウッズ」

ドクターウッズは、弊社が日頃の業務で使用しているレジストグラフ(RESI PD)やピカス(PiCUS)、アーボソニック3Dと同様に、樹木の内部を傷つけずに調べる非破壊診断のための装置です。かつて木の内部を確認するには、伐採して断面を観察するほかありませんでした。しかし街路樹や公園の名木、寺社の御神木を、診断のためだけに伐ることはできません。そうした事情を背景に、木を損なうことなく内部の状態を把握する技術が発展してきました。

ドクターウッズ 樹木医 樹木診断

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診断機器は海外製が大半を占めますが、ドクターウッズは数少ない国産のシステムです。開発・製品化したのは、JFEグループの総合建設会社であるJFEシビル株式会社です。同社が地盤調査や鋼材の亀裂診断のために培ってきた「音響トモグラフィ」という非破壊探査技術を、樹木の内部診断に応用したものです。実際の診断業務は、グループのJFEコンフォーム株式会社をはじめ、樹木医が在籍する事業者が担っています。鉄やコンクリートの調査で蓄積された技術が、生きた樹木の診断へと展開されている点は、この分野における技術応用の一例として注目しています。

音響トモグラフィの原理──音波で内部を捉える

診断の手順は次のとおりです。まず、幹の周囲に細い針状のセンサーを等間隔で取り付けます。本数は通常16本程度です。針が貫入するのは樹皮のすぐ内側、樹皮下およそ2〜3mmにとどまります。樹皮は音をほとんど通さないため、その内側まで音を伝えることが目的であり、深く挿し込むわけではありません。樹木への負担はごく僅かです。ここで留意すべきは、16本すべてが音を発するのではないという点です。1本のセンサーが発振し、残りのセンサーが受信します。発振の役割を順に切り替えながら、幹のあらゆる方向へ音を通していきます。

用いられるのは「音」は、発振の周波数とエネルギーを精密に制御した、高周波(おおむね十数〜数十kHzの帯域)の「疑似ランダム波」と呼ばれる連続音です。同じ波形を複数回重ねて発振し、これを合成することで信号を増幅します。木槌による従来の打診が一点ごとの感触に頼る方法であるのに対し、ドクターウッズは制御された高周波によって断面全体を画像として再現します。得られる情報の精度は、両者で大きく異なります。

音は、密度の高い健全な材ほど速く伝わり、空洞や腐朽がある部分ではそこを迂回するため、到達が遅れます。装置は、発振した音と受信した音の相関から到達時間を算出し、断面を細かなメッシュに分割して、一区画ごとに音速を求めます。音が通過しなかった区画については統計的手法で補い、一枚の断面画像として描き出します。これは医療のCTと同じ、トモグラフィ(断層撮影)の原理です。直径20cm程度の細い木から3mに迫る大径木まで対応できる点も、この方式の利点といえます。

断面図「コンター」の見方

こうして描かれる断面図を「コンター」と呼びます。天気図や地形図の等高線を思い浮かべていただくと、近いかもしれません。音が速く伝わった部分と遅かった部分が、色の濃淡で表現されます。とりわけ音速の遅い部分、すなわち空洞や腐朽が疑われる箇所は、一目で判別できます。

後藤先生は、この仕組みを潜水艦のソナーになぞらえて説明してくださいました。これは単なる比喩ではありません。ドクターウッズの基盤となる音響トモグラフィは、もともと地盤や構造物の内部を音波で把握するために、ソナー技術を応用して開発された探査技術です。海中と樹木内部という対象は大きく異なりますが、その診断は同じ原理に支えられています。技術の来歴を知ることで、その応用の確かさをあらためて理解することができました。

ドクターウッズ 樹木医 樹木診断

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コンターは「結論」ではなく「判断材料」である

もっとも、樹木診断において最も重要な点は、ここから先にあります。コンターはあくまで「音がどのように伝わったか」を表した図であり、空洞や腐朽そのものを撮影した写真ではありません。たとえば腐朽が始まったばかりで密度の低下がわずかな段階では、図に明確に現れないことがあります。反対に、乾燥した亀裂が存在する場合には、実際以上に空洞が広く描かれることもあります。

したがって、外観の目視診断と照合することが不可欠です。樹形、根張り、過去の傷、子実体(きのこ)の有無といった現場の所見と、コンターが示す結果との間に齟齬があれば、別の手法によって改めて確認いたします。機器が出力した一枚の図を無条件に信頼しないこと。これは、診断にあたる者が常に守るべき基本姿勢であると考えています。

確認の手法としてのレジストグラフ

その確認のための手法として用いるのが、レジストグラフです。直径1.5mm程度の細い針を回転させながら幹に挿入し、その貫入抵抗を計測することで、材の健全度を判定します。健全な材では針の回転と前進の双方に相応の抵抗が生じ、空洞や腐朽がある部分では抵抗が著しく低下します。弊社が使用するRESI PDは、回転抵抗に加えて前進(feed)抵抗も計測できるため、材の状態をより精緻に把握することができます。

音響トモグラフィが断面全体を「面」として捉える手法であるのに対し、レジストグラフは特定の一点を「線」として深く把握する手法です。まず全体を俯瞰し、疑わしい箇所に針を入れて確認する。両者は競合するものではなく、互いを補完する関係にあります。

機器の先にある、樹木医の姿勢

この日、最も印象に残ったのは、機器そのものよりも、参加された樹木医の方々の姿勢でした。コンターを覗き込み、結果を読み解こうとする真剣な表情からは、樹木への深い関心と探究心が伝わってまいりました。診断機器がいかに進歩しても、最終的に樹木と向き合い、判断を下すのは人です。その当然の事実を、参加者の姿があらためて示してくれたように思います。

後藤直樹先生、ならびにご参加の皆様に、心より御礼申し上げます。本実習で得た知見を、今後の診断業務に確かに生かしてまいります。

 

出典・参考リンク

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

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