先日、サクラを枯らす特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」の被害が出ているというサクラの診断と処置をさせていただきました。
1本のサクラに、成虫と幼虫を合わせて8匹ほど。関東でも被害は加速していて、防除の現場に立つほど、この虫が都市でなかなか止まらない理由がはっきり見えてきます。22都府県(2026年8月現在)に広がる被害の最新状況と、私が現場で行った防除の中身、そして「一度薬をまいて終わり」では被害が止まらない構造的な理由を、樹木医の視点で掘り下げます。
先に答え
- クビアカツヤカミキリは、中国、韓国など東アジア原産の外来のカミキリムシで、2018年1月に特定外来生物へ指定されました。サクラ、ウメ、モモ、スモモなどのバラ科の木の内部を、幼虫が食べ進みます。
- 農林水産省によると、2026年8月現在、発生が確認されているのは22都府県です。
- 成虫の時期の散布だけでは止まりません。木の内部に残った幼虫が、来年・再来年の発生源の「在庫」になるためです。
- 成虫への散布と幼虫への食入孔注入を組み合わせ、翌年以降もフラスが出ないかを見続ける、継続した管理が前提になります。
クビアカツヤカミキリとは——サクラやウメを内部から枯らす特定外来生物
クビアカツヤカミキリ(Aromia bungii)は、中国や朝鮮半島などに自然分布する外来のカミキリムシです。体長は2.5〜4cmほど、全体につやのある黒色で、名前のとおり首に見える胸の部分だけが赤い、見分けのつきやすい甲虫です。

クビアカツヤカミキリの成虫。首に見える胸の部分だけが赤い

サクラの幹に残る樹液と食害の跡
やっかいなのは幼虫のほうです。サクラ、ウメ、モモ、スモモといったバラ科の木に産みつけられた卵からかえった幼虫が、木の内部を1〜3年かけて食べ進みます。外からは元気そうに見えても、幹の中は坑道だらけになっていて、やがて木は衰弱し、枝が落ち、枯れていきます。1,000個を超える卵を産むメスもしばしばいて、多くの幼虫に加害された木は、1年から数年で枯れてしまうことがあります(森林総合研究所の防除マニュアルによる)。日本では2012年に愛知県で初めて確認され、2018年1月に特定外来生物へ指定されました。これにより、生きたままの運搬や保管、野外へ放すことなどが法律で禁じられています。
被害は22都府県に拡大——関東と東京都心の最新状況
この虫のこわさは、広がる速さにあります。2012年の愛知県のあと、2013年に埼玉県、2015年に群馬県・東京都・大阪府・徳島県、2016年に栃木県、2017年に和歌山県(成虫の捕獲)、2019年に奈良・三重・茨城、2021年に神奈川県、2022年に兵庫県、2024年に京都府・千葉県、2025年に滋賀県、そして2026年2月には岐阜県で新たに確認されました。このほか福井県・山梨県・長野県・岡山県・香川県でも確認されており、農林水産省によると、2026年8月現在、発生が確認されているのは22都府県です。
初めて確認された年ごとに色を分けた地図と、都府県ごとの年数を図にしました。


関東の数字を見ると、進み方の速さがよくわかります。群馬県では令和7年度の調査で27市町村・13,927本もの被害が確認され、埼玉県でも被害箇所数が平成30年度の128か所から令和7年度は1,391か所(56市町村、成虫のみの確認を含む)へと増えました。東京都でも、これまでに複数の区や市で被害が確認されています。港区では令和6(2024)年に初めて成虫・幼虫が確認され、墨田区でも隅田公園のソメイヨシノで被害が見つかり防除が行われています。郊外の話ではなく、都心の公園や緑地、街路樹のサクラにも、着実に入り込んできています。


2026年の最新ニュース——国の緊急対策から都心の発生まで
ここ数か月だけでも、動きが相次いでいます。2026年7月17日には、自由民主党が被害拡大を受けてプロジェクトチームを緊急に設置しました。今後さらに被害が広がれば、各地の生態系に加えて、観光資源である桜並木や、モモ・ウメといった農産物の産地にも大きな打撃になる、という危機感が背景にあります。国レベルでも、農林水産省が令和6年度に有識者や関係省庁、都道府県による広域の検討体制を立ち上げ、令和8年度予算でも重要病害虫への特別防除を支援するなど、対策の枠組みが動いています。
都内では、2026年6月に環境省が新宿御苑でのクビアカツヤカミキリ対策を発表しました。研究や自治体の現場でも工夫が進んでいて、栃木県では2026年4月、木の幹を蛍光イエローで塗ると産卵を10分の1ほどに抑えられるという研究成果が報じられました。群馬県は被害情報を共有する電子地図の運用を2026年度から前倒しし、埼玉県越生町や茨城県では、住民に発見を呼びかける「つかまえ隊」「みっけ隊」といった取り組みも始まっています。早く見つけて早く手を打つ——各地の対策は、そこに向かって動いています。裏を返せば、社会全体がこの虫に本腰を入れ始めた今は、手当てを始めるのに遅すぎないぎりぎりの時期でもあります。
なぜ都市で被害が止まらないのか——管理現場に空いている「幼虫対策」の穴
被害の現場を見ていて感じるのは、対策が「成虫の時期の散布」で止まってしまいがちだ、ということです。成虫が飛ぶ初夏に薬をまく。それ自体は正しいのですが、そのときすでに木の中にいる幼虫への手当てが足りていないことが少なくありません。
ここに、この虫が止まらない構造があります。幼虫は木の中で1〜3年を過ごし、毎年あたらしい成虫になって外へ出て、周りのサクラやウメへ飛んでいきます。つまり、木の内部に残った幼虫は、来年・再来年の発生源の「在庫」となっています。表面の成虫だけをたたいても、この在庫が残っている限り、翌年もまた成虫は羽化してきます。今年の発生数だけを見て安心できないのは、このためです。

薬の届く範囲にも、はっきりした限界があります。樹幹への散布で効くのは、樹皮にいる成虫と、これから寄ってくる成虫まで。食入孔への注入で届くのは、フラスの出ている孔からたどれる範囲の幼虫まで。そして、幹の芯の奥深くまで進んだ幼虫には、散布でも注入でも薬が届きにくいところが残ります。だからこの虫は、一度の作業で片づく相手ではなく、成虫への散布と幼虫への注入を組み合わせ、翌年以降もフラスが出ないかを見続けて、出れば手を入れ直すという継続した管理を前提に考えるべき対象といえます。
私たちは、木を「その年に発生したコスト」ではなく、何十年も付き合っていく街の木として捉えています。単発の駆除で終わらせるのではなく、診断から防除、そして経過観察までをひとつながりで続けていく。地味に聞こえますが、都市でこの虫を抑えていくには、結局この積み重ねに勝る近道はないと考えています。
- 幹にたまったフラス
- 樹皮の下から出たフラス
樹木医が行う防除と、残すか伐るかの判断——散布・食入孔注入・機器診断
冒頭の桜で、実際に行ったことをお話しします。この虫は、成虫が木の外側にいて、幼虫は木の内部にいます。いる場所が違うので、薬の使い方も分けます。
- サクラの幹への散布
- 食入孔への薬剤の注入
まず、木の表面にいる成虫と、これから寄ってくる成虫への備えとして、ダントツ水溶剤(成分はクロチアニジン)を幹から枝にしっかり散布しました。成虫が活動するこの時期に樹皮へ薬を残しておくことで、木にとまりにくくし、産卵を抑えることをねらいます。現場での経験から、サクラの葉は薬剤で傷むことがあるので、狙いはあくまで幹と枝です。内部の幼虫には散布では薬が届かないので、フラスの出ている食入孔をひとつずつ探し、マツグリーン液剤2(成分はアセタミプリド)を50倍に薄めて注入し、あわせてカミキリムシ用のスプレー剤も孔に差し込んで注入しました。孔の奥の坑道まで薬を届かせ、中の幼虫に直接効かせる、地道なやり方です。この日、確認できた成虫と、食入孔から薬を入れた幼虫は、実際に駆除することができました。
この日に使った薬剤と、さくらのクビアカツヤカミキリへの登録の内容を表にしました。
| ねらう相手(いる場所) | 使った薬剤(有効成分) | 使い方 | 登録の内容(さくら) |
|---|---|---|---|
| 樹皮にいる成虫、これから寄ってくる成虫 | ダントツ水溶剤(クロチアニジン) | 幹から枝にしっかり散布 | 2000倍で散布、成虫発生初期、5回以内 |
| 木の中の幼虫(フラスの出ている食入孔からたどれる範囲) | マツグリーン液剤2(アセタミプリド) | 50倍に薄めて食入孔に注入 | 50倍で食入孔に注入、発生初期、5回以内 |
出典: 農林水産省「農薬登録情報提供システム」(2026年10月11日に確認)。使うときは、最新のラベルと登録情報で倍数・時期・回数を確かめてください。
そのうえで、多くの現場で問われるのが「この木は残せるのか、伐ったほうがよいのか」という判断です。被害が進んだ木を無理に残せば、周りへの発生源になり続け、腐朽が進めば落枝や倒木の危険も出てきます。かといって、掘り取って幼虫を追えばよいというものでもありません。幹を広く傷つければ腐朽菌が入り、水の通り道を壊して、かえって木の寿命を縮めてしまうからです。その木を残して手当てを続けられるのか、周囲を守るために伐採して焼却・チップ化すべきなのかを判断します。判断の物差しとして、群馬県の手引き(2026年2月改訂)は、フラスの出る位置と量、脱出孔、枝の枯れから被害を5段階に分け、段階ごとに対策の効き目を示しています。伐採する場合も、中の幼虫ごと確実に処分し、周りの木への広がりまで合わせて見ておく必要があります。ここは樹木医・街路樹・都市樹木診断士の領域であり、同時に、所有者や管理者の意向、行政の手続き、費用や合意形成といった現実とも向き合う仕事です。だからこそ、正しい判断材料をそろえてお示しすることを、私たちは大切にしています。
クビアカツヤカミキリに、樹木医としてできること——3つの局面
都市での被害拡大が避けにくくなっているなかで、樹木医に何ができるのか。私は、大きく3つの局面があると考えています。
1つ目は、早期発見のための体制づくりです。被害は初期ほど見つけにくく、気づいたときには数年が経っていることも少なくありません。だからこそ、敷地内のどこにサクラやウメ・モモが植わっているかを整理し、フラスや脱出孔を見分ける目を、所有者や管理者、地域の方々と一緒に養っておくことが、早く見つけるための土台になります。第一発見者は、たいてい専門家ではなく、その木のそばで暮らす方です。私たちは、見つかったものの確認や、見る目を養うお手伝い、通報から共有までの流れづくりを支える役割を担えると考えています。大規模な樹木の点検については、以前都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本の「異状あり」を、樹木医はどう読むかでも書きました。
2つ目は、被害木への速やかで適切な対応です。被害が見つかった木には、残して手当てをするのか、伐採して処分するのかという判断(トリアージ)が要ります。ここは樹木医だけで決められるものではなく、所有者や管理者の意向、行政の手続き、費用や合意形成が絡みます。だからこそ、樹木医として適切な作業と経過観察につなげる情報提供が、私たちの仕事になります。
3つ目は、防除技術の更新と普及です。先ほどの蛍光イエローやネット巻き(目合い0.4〜4mm程度の防風ネットを、幹との間に隙間をあけて巻き、脱出した成虫の拡散と、まだ被害の無い木への産卵を防ぐ方法。大阪府立環境農林水産総合研究所の手引書による)のように、対策は年々あたらしくなっています。試験機関やメーカー、日本樹木医会などから、うまくいっている事例や最新の知見を集め、すでにたくさんある手引きの中から現場に合うものを選び取り、地域や管理の現場へ届けていく。研鑽を重ねて、更新した情報を実際の現場で使えるようにすることも、樹木医の役割だと考えています。
今後の被害をどう見るか——桜並木・果樹産地・文化財への想定
正直に申し上げて、当面は楽観できる状況ではないと見ています。分布は10年あまりで1県から22都府県へ広がり、関東では被害本数が1万本を超える県も出てきました。しかも、いまサクラの内部にいる幼虫は、来年・再来年に羽化してくる成虫です。今年の発生を抑えても、木の中の「在庫」が残る限り、数年先まで発生は続く前提で構えておく必要があります。
心配なのは、被害が及ぶ先の広さです。国の対策チームも指摘するとおり、各地の桜並木は観光資源そのものであり、モモやウメ・スモモの産地にとっては農作物の被害に直結します。さらに、天然記念物や重要文化財、史跡名勝に指定されたサクラも各地にあり、そうした木が失われれば取り返しがつきません。都市に目を向ければ、公園や街路樹のサクラ並木は、街の景観や日々の暮らしの一部です。そこで被害が広がれば、見慣れたサクラ並木そのものが失われることにもなりかねません。だからこそ、被害が本格化する前の、いまの一手が効いてきます。木を長い年月をかけて残していくという発想が、これからのサクラの管理では、いっそう大切になっていくはずです。
サクラやウメの異変にお気づきのときは——見つけ方と、樹木医への相談
ご家庭やお庭、管理されている敷地にサクラ・ウメ・モモがある方は、5月から9月ごろ、木の根元をときどき見てみるのが早道です。あらびきのひき肉のような、木くずとフンの混じったフラスが落ちていたら、内部に幼虫がいるサインです。幹には、成虫が出たあとの縦長の脱出孔が見つかることもあります。
もしクビアカツヤカミキリの成虫を見つけたら、逃がさずにその場で処理するのが確実です。特定外来生物のため、生きたまま持ち帰ることは法律で禁じられています。そのうえで、お住まいの自治体の担当窓口や、都道府県の病害虫防除所への連絡が第一です。東京都はクビアカツヤカミキリの防除の手引や被害の見つけ方を公開しており、環境省や森林総合研究所の防除マニュアルも参考になります。
見つけたときの流れを、順に並べました。
- フラスを盛んに出す5〜9月ごろ、サクラ・ウメ・モモの根元のフラスと、幹の縦長の脱出孔を見る
- 成虫はその場で処理する(特定外来生物のため、生きたまま持ち帰らない)
- お住まいの自治体の担当窓口か、都道府県の病害虫防除所へ連絡する
- 被害の程度を確かめたいとき、残せるか迷うとき、継続した管理を組みたいときは、樹木医に相談する
そのうえで、次のようなときには、樹木医にご相談いただくことをおすすめします。フラスや脱出孔が見つかって被害の程度を確かめたいとき、その木を残せるかどうかの判断に迷うとき、そして、マンション管理組合や寺社、公園・自治体として、単発の駆除ではなく、診断から防除・経過観察までの継続した管理を組みたいとき。私たち株式会社トシ・ランドスケープは、樹木医・街路樹・都市樹木診断士として、診断から、薬剤防除、その後の管理や経過観察までを一貫してお引き受けし、マンション管理組合や寺社、公園、行政の植栽で手がけています。
一度の診断で切り取れるのは、その時点の姿だけです。だからこそ、早く気づいて、早く動き、そして見続ける。この虫との付き合いは、その積み重ねに尽きると、現場に立つたびに感じています。近くにサクラやウメのある方が、根元にときどき目を落としてくださることが、早い発見につながります。
よくある質問
Q1. クビアカツヤカミキリとは、どんな虫ですか。
中国、韓国など東アジア原産の外来のカミキリムシです。体長は2.5〜4cmほどで、全体がつやのある黒色、首に見える胸の部分だけが赤い姿をしています。2018年1月に特定外来生物へ指定され、原則として生きたままの移動や飼育等が禁止されています。
Q2. クビアカツヤカミキリで、なぜサクラが枯れるのですか。
サクラ、ウメ、モモ、スモモなどバラ科の木に産みつけられた卵からかえった幼虫が、木の内部を食べ進むためです。外からは元気そうに見えても幹の中は坑道だらけになり、やがて木は衰弱して枝が落ち、枯れていきます。
Q3. なぜ都市で被害が止まらないのですか。
対策が成虫の時期の散布で止まりがちで、すでに木の中にいる幼虫への手当てが足りないためです。幼虫は木の内部で育ち、成虫になると周りのサクラやウメへ飛びます。内部に残った幼虫が、来年・再来年の発生源の「在庫」になります。
Q4. 木の内部の幼虫には、薬は届きますか。
樹幹への散布で効くのは、樹皮にいる成虫とこれから寄ってくる成虫までです。フラスの出ている食入孔から注入すれば、その孔からたどれる範囲の幼虫に届きますが、幹の芯の奥深くまで進んだ幼虫には届きにくいところが残ります。
Q5. 被害には、どうやって気づけますか。
5月から9月ごろに木の根元を見て、あらびきのひき肉のような木くずとフンの混じったフラスが落ちていれば、内部に幼虫がいるサインです。成虫が出たあとの縦長の脱出孔が幹に見つかることもあります。診断から経過観察まで、ご相談をお待ちしています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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当社は、年間の植栽管理、樹木診断、高木の剪定・特殊伐採を承っています。管理の進め方や診断の流れは、資料ダウンロードのページでご覧いただけます。ご相談はお問い合わせフォームからお待ちしています。
出典・参考情報
東京都環境局「クビアカツヤカミキリの被害が発生・拡大しています!」
環境省「クビアカツヤカミキリの関連情報のリンク集」
農林水産省「クビアカツヤカミキリに関する情報」
埼玉県環境科学国際センター「サクラの外来害虫“クビアカツヤカミキリ”情報」(埼玉県環境科学国際センターのページ)
大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策」
港区「特定外来生物『クビアカツヤカミキリ』について」
墨田区「クビアカツヤカミキリ」
新宿御苑(環境省・国民公園協会)「新宿御苑におけるクビアカツヤカミキリ対策について」
自由民主党「脅威!クビアカツヤカミキリ被害拡大でPTを緊急設置」(2026年7月17日)
日本農業新聞「[特集]クビアカツヤカミキリ」
大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第4版)」(2022年6月、環境省のサイトに掲載)
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