ハンディ型3Dレーザースキャナー「SLAM200」で、樹木・植栽の調査をしました。手に持って歩くだけで、周囲360度の樹木や地形が点群データとして記録されていきます。樹木医の立場から、こういった調査が植栽管理と樹木診断の将来に何をもたらすのかを考えてみました。
ハンディ型3Dレーザースキャナー「SLAM200」という機器
SLAM200は、Feima Robotics社のハンディSLAMシリーズの3代目にあたる機器です。従来のSLAM100・SLAM2000の機能を引き継ぎつつ、内蔵処理チップをはじめ各部が更新されています。手持ちのほか、バックパック、三脚での据置、車載での運用ができ、計測可能距離が300mまで伸びたことでドローンへの搭載も新たに対応しました(SLAM200 商品紹介|ブルーインパクト株式会社)。
- ハンディ型3Dレーザースキャナー 点群
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数字を並べると、レーザーの波長は905nm、レーザー等級はクラス1。計測範囲は0.5〜300m、視野は360°×270°、データ取得速度は毎秒64万点。
後処理を行った場合の相対精度は60mで5mm以内、100mで1cm以内とされています。リアルタイム処理でも相対精度2cm(100m)、絶対精度3cmです。本体は1.4kg、バッテリーとハンドル、ベースを含めて1.9kg。バッテリー1本あたりの稼働時間は70分、記録先は内蔵の512GB SSDです。
GNSSユニットが内蔵されていて、GPS・GLONASS・Galileo・BeiDou・QZSSに対応しています。位置情報ごと残せる点は、機器の説明を聞いていていちばん魅力的に感じたところでした。60m先で5mm以内という精度も、団地の植栽やひと連なりの並木であれば、ちょうどその範囲におさまります。
1本ずつ測ってきた作業が、歩いた範囲まるごとの記録になる
樹高や枝張りは、これまで目測かレーザー距離計で1本ずつ測るのが基本でした。本数が増えれば単純に時間がかかりますし、梢端をどこで見るか、枝張りの端をどこで取るかで、測る人によって数値が動きます。同じ木を翌年また測ったとき、変わったのが木なのか測り方なのか、判然としないこともありました。
それが、歩いた範囲がまるごと立体の記録になります。数値を現場で「測る」のではなく、残した記録から後で「読み出す」形に変わります。この違いは、思っているより大きいのではないかと感じています。
樹木管理は毎年継続的に実施して、良好な樹木の状態と景観を維持していく仕事です。その年その年の樹木の姿を数値ごと保存しておけるというのは、樹木の診断と管理のあり方を少し変えるかもしれません。
- ハンディ型3Dレーザースキャナー 点群
植栽台帳と管理計画の基礎データとして
2026年3月30日、国土交通省が「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」を公表しました。背景にあるのは、平成30年から令和4年の間に年間平均で約5,200本の倒木が確認され、令和3年4月から令和6年11月までに801件(うち人身事故33件)の事故が起きているという数字です。徒歩による近接目視の「定期巡回」については、57%の道路管理者が未実施でした。
このガイドラインの「点検の記録」の項に、整備が想定される項目が並んでいます。必須とされているのは、路線名称や所在地(緯度経度を含む)といった位置情報、樹種名と個別番号、そして植栽年。そこに段階的に追加していく項目として、樹高・幹周・枝張りといった樹木の形状寸法が挙げられ、その活用例は「リスク予測、対策内容の検討」と書かれています。
位置情報と、形状寸法を、SLAM200が歩きながら一度に押さえることができます。ガイドラインが対象としているのは道路の高木ですが、記録すべき項目の考え方は公園やマンションの植栽台帳でもほとんど変わりません。位置・樹高・枝張りを面でおさえておけば、剪定や更新の計画は立てやすくなります。
同じ場所を、同じ物差しで測り続ける
同じ場所を定期的に計測すれば、成長や剪定後の変化を同じ物差しで比べられます。強く詰めた翌年に樹冠がどう戻ったか、更新した若木が何年でどこまで伸びたか。台風や周辺での掘削工事の前後の記録にもなるはずです。
管理組合の理事会などで植栽の現状をご説明する場面でも、平面図より立体のデータのほうが伝わることは多いように思います。「この木がここまで張り出しています」と口で申し上げるより、その場で視点を回して見ていただくほうが早い。
将来的に樹木のリスク評価でも、幹の傾きや建物との位置関係を数値で示せるようになれば、判断の裏付けになると考えています。先ほどのガイドラインでも、新技術の例として「樹木の傾きをモニタリングする技術」が挙げられていました。
3Dレーザースキャナーと樹木管理のこれから
レーザー計測そのものは、林業の分野で先に実務へ入っています。林野庁は、広大な森林を効率的に調べるために航空レーザ・UAVレーザ・地上レーザによる森林情報のデジタル化を推進していて、樹種・樹高・材積などの森林資源情報や地形情報はG空間情報センターでの公開も始まっています。
もっと身近なところでは、森林総合研究所と株式会社マプリィが共同開発した「ForestScanner」があります。3Dレーザースキャナを備えたiPhoneやiPadを木にかざすだけで幹の直径を測れる無料アプリで、実際の森での検証では、一連の測定にかかる人手と時間が従来の約4分の1に、直径の測定誤差は平均±2cm程度に収まったと報告されています(森林総合研究所プレスリリース)。
都市の樹木でも、同じ流れが来ると見ています。まず、植栽台帳が「図面と表」から「点群と属性」の組み合わせに移っていく。点群から樹高・枝張り・胸高直径・樹冠投影面積を自動で拾う解析は林業側で研究が進んでいますから、それが都市の樹木にも降りてくると、台帳をつくる作業そのものの位置づけが変わります。
樹冠投影面積が面で取れるようになれば、樹冠被覆率(Urban Tree Canopy)の議論や、i-Treeのような都市樹木の生態系サービスを定量評価する仕組みにも接続できます。「この団地の緑がどれだけの働きをしているか」を数字でお示しする場面が、これから増えていくはずです。
経年の点群を重ねられる点も大きいと思っています。成長量、剪定で落とした量、樹冠の欠損の進行。いまは写真と所見で追っているものが、数値の推移として並ぶ。SLAM200が対応する3DGS(3Dガウシアンスプラッティング)のような表現技術も、合意形成の場面では効いてくるかもしれません。
なお、国交省のガイドラインが新技術の例として挙げているのは、全方位画像の撮影、AIを含む画像による点検・記録、傾きのモニタリング、引張による安定性の把握、電磁波による地下埋設物の探査の5つで、点群計測は現時点では例示に入っていません。裏を返せば、都市の樹木でどう使うかは、これから現場で積み上げていくところだということです。
- ハンディ型3Dレーザースキャナー 点群
点群に写らないもの
点群はあくまで樹木の外形の記録であって、幹の内部は写りません。腐朽や空洞の把握は、ピカスやアーボソニック3D、Resi PDといった機器診断の領域です。ガイドラインの健全度調査でも、専用機器による調査として放射線透過量や貫入抵抗値を用いた腐朽・空洞割合の測定が挙げられています。3Dレーザースキャナーはこれに置き換わるものではなく、外形と位置の側を受け持つもの、という考え方になります。
数値の扱いも慎重にしたいところで、国土地理院は、航空レーザ測量による樹高データについて、個々の樹木の実測値とはあまり合わず、30m四方程度で平均を取ると相関が良くなる、と示しています。上空から広範囲を測る航空レーザと、対象のすぐそばを歩く手持ち型では条件がまるで違いますが、点群から出した数値をそのまま実測値として扱う前に、自分たちで実測と突き合わせる工程は要ると考えています。
季節による差も見ておかなければなりません。葉が茂った時期に、内側の枝の点群がどこまで拾えるのか。同じ木を落葉期と着葉期の両方で測ってみないと、これは分からないと思っています。
こうした計測を植栽管理やコンサルティングにどう組み込んでいくか、少しずつ試しながら見極めていくつもりです。
ブルーインパクト株式会社 佐藤様、暑い中調査にご協力いただきありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- SLAM200 商品紹介|ブルーインパクト株式会社(機器仕様・精度・運用形態)
- 街路樹点検の実施促進のためのガイドライン(令和8年3月)|国土交通省 道路局
- 報道発表:街路樹点検の実施促進に向けた新たなガイドラインを策定(令和8年3月30日)|国土交通省
- 森林情報のデジタル化/オープンデータ化|林野庁
- 高精度な森林資源情報等の公開について(令和5年10月4日)|林野庁
- 誰でも簡単、スマホで樹木測定 ―木の直径を測るアプリがリリースされました―|森林総合研究所
- 航空レーザ測量データを用いた樹高等のデータ作成|国土地理院
- What is i-Tree?|USDA Forest Service
弊社ウェブサイト内にも樹木医診断や過去の事例について詳しく情報を公開しています。
樹木医診断・治療 施工実績一例をご紹介いたします。
・ナラ枯れの枯死木はなぜ突然倒れるのか オオミコブタケと倒木リスクを樹木医が考察しました
・クビアカツヤカミキリの被害と対策——都市で被害が止まらない理由を、樹木医はどう読むか
・音で、樹木の中を視る 非破壊樹木診断機器「ドクターウッズ」
・樹木医が製作した樹木模型を使用した剪定の練習
・港区赤坂 豊川稲荷・東京別院様 ケヤキなどの高木剪定
・ジュエリーブランドのテラス植栽メンテナンス 港区麻布台
・上野寛永寺・輪王寺 樹木医によるクスノキ剪定
・都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本の「異状あり」を、樹木医はどう読むか
・港区三田 薬王寺様の境内 樹木診断 地上と樹上、樹木医がふたつの視点で木の内側を読む
・砧公園・千鳥ヶ淵のサクラ倒木 樹木医としてフジテレビ「newsイット!」様の取材を受けて
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・千鳥ヶ淵の桜が倒木。砧公園でも再び倒木。樹木医が考える、東京の老齢サクラに起きていること
・TBSテレビ「THE TIME,」 砧公園での倒木事故について樹木医として取材をいただきました
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・東京都世田谷区砧公園のサクラ倒木(根返りを伴う倒伏)について 樹木医の考察
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・恵比寿どろんこ山プレーパークで始まった「森の入口」プロジェクト 恵比寿南一公園
・植栽管理で失敗しない考え方 冬季落葉樹剪定と管理組合様との中長期計画 神奈川県
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・都市部の街路樹・公園樹における老齢化と樹木医による樹木診断の重要性
・歩道の切り下げ工事に伴う樹木移植適性度診断(移植可否診断) 東京都
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・日本の植木職人を支える伝統の履物「足袋」の魅力
・南アフリカの薬用多肉と都市の未来:ハオルシア由来
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・植栽管理に関するコンサルティング業務
・マンションにおける中長期の植栽管理提案・コンサルティング マスタープラン策定 神奈川県横浜市
・学校施設 ケヤキなど樹木医診断 東京都
・公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断(レジストグラフ) 東京都
・街路樹の移植可否診断(移植適性度診断) 東京都
・マンションの雑草管理(ケミカルコントロール)について 神奈川県横須賀市
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